二年と少しの時が過ぎて、俺にとっては大きく事態が動いた。
師匠が死んだ。それも鬼に襲われて。
師匠を殺した鬼は、死なない鬼だった。何度斬っても甦り、首を落としても堪えない。それどころか斬る度に数を増やしていく。師匠も斬るほどに増えていく相手に押され、やがて死んだ。死んだ師匠はその場で喰われ、死体の欠片程度しか残っていなかった。
師匠を殺した鬼の目には文字が入っていた。これが話に聞いた十二鬼月というやつだということはわかった。つまり、鬼である以上殺せないわけがない。鬼の始祖ですら太陽光を浴びれば死ぬのだから、それより下であることがはっきりしているこれが死なないのには何らかの理屈があるはずだ。
例えば、攻撃は当たっているように見えるが当たっていない。
例えば、攻撃を加えているのは幻覚を被せただけの人形である。
例えば、そもそもこの鬼は本体でない。
例えば、今こうして戦っているのも全てまやかしで、夢の世界でそれらしく動いているだけだとか。
ただ、寝た覚えはないし、それまでの流れもちゃんと記憶にある。夢の中で戦っているだけということは多分ない。攻撃も斬った感触からして草木や岩石などではない。あくまで個人的に知っている限りではあるが、あそこまで弾力性を持ちながら非常に頑丈な鉱石は知らない。まず間違いなく鬼を斬った感触だった。
要するに……何らかの方法で形を与えられただけのハリボテの可能性がとても高い。これが師匠の言っていた血鬼術というやつなんだろう。
とりあえず敵を切り刻む。細切れになるまで切り刻む。そして周囲の気配を探る。気配を探る間も何度も襲いかかってくるハリボテが五月蝿いが、全てを切り刻み続けているとふと気付く事があった。
一体、あるいは一つ。俺の方を見ているのに全く近づいてこない奴がいる。それどころかそれは戦闘の場から離れようとしている。つまり、そいつは斬られること、死ぬことに怯えている。
これがおそらく本体だろうとあたりをつけて、刀を納める。そして逃げ続ける鬼に接近し、その首を一息に斬り落とした。
ようやく周囲のハリボテが崩れ落ちる。血鬼術を使う鬼ってのはどいつもこんなに面倒なのかと思うとため息が出てしまう。まあ殺せたから良しとしよう。
しかし困った。師匠は死んでしまったし、こうなったら師匠を埋葬したら最終選別に行ってしまおうか。場所はわからないが、一年中藤の花が咲き乱れている山なんて一つしかないだろうから走り回っていればいずれ見つかるはずだ。少なくともこの世界の人間には空間を扱う術とか結界などの術を扱う技術は無いようだから隠されていることもないだろうし。
ただ……手紙くらいは残しておこう。それが読まれるのがいつになるかはわからないが、ここであったことを伝えるならそれくらいしか方法が無い。何より俺はまだ師匠の名前も兄弟子の名前も覚えてないからな。ついでに俺の名前も。
それでも手紙は書き終えた。封をして、見つけやすい場所に置いておく。俺がここから持って行くものは、師匠が使っていた折れた日輪刀と何度も繕われ継ぎ足されて継ぎ接ぎになった服だけ。これだけあれば多分十分だろう。
片付けるべきものを片付けて、持っていくべき物を持った俺は既に用の無くなったこの場所に別れを告げる。藤襲山については何も知らないが、きっと何とかなる。それに本当にそんな場所があるならその場所は間違いなく鬼殺隊の所有物のはず。時期が合わないなら何があったのかを話せば……年齢の事で止められるかもしれないがいずれ最終選別を受けることはできるはずだ。それが駄目だったとしても時期さえ合っていれば勝手に受けてしまえばいい。
多分だが、日輪刀もその場所には落ちているだろう。毎回かなり多くの見習いが最終選別を突破できないで死んでいると聞いた。鬼がいる最終選別に送り出す以上は間違いなく日輪刀を持たせて送り出しているはずだし、何も持たせず送り出されて生き残れと言われるのならあまりに理不尽すぎるからな。
……まあ、とにかく、ここに居てもどうにもならない。行こう。
次回作
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魔王城でおやすみ
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鋼の錬金術師
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なんか適当に止まってるの
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なんか適当にハマってるの