そんな彼女の前に現われたのは――
「こそこそ隠れてないで……、出てこい卑怯者!」
ふん、仕方ない。
出てきてやるか。
「卑怯者は、どっちかにゃ?」
そう言ってみくは、猫の姿のままクローゼットの上から飛び降りる。
「ね……ねこが喋った!?」
「今更、驚くことかにゃ? 小日向にゃんも猫になったのに。」
「も……? しまむーも、しぶりんも猫になったの?」
「ちっ 余計なことを言ったにゃ……」
まぁ、もちろんわざと言ったんだけどね。
人質(猫質?)が多いほど交渉は上手くいくし……
「そこで交渉にゃんだけど。」
「!?」
「みくをお前らの代わりにライブに出さぶごほっぇ!?」
おなかと顎に強烈な痛みと衝撃が走る。
未央を見ると、足を上げていた。
蹴られて吹っ飛ばされたんだ。
みくは着地すると、他の猫に紛れた。
ふふふ……
これでどれがみくかは分からにゃい……
「あっちの方に蹴ったから……、あそこらへんだな。」
え?
テーブルを持ち上げてる……?
「ふーーーーーー」
未央は、持ち上げたテーブルの天板を、みくのいる猫の集団にぶつけた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やったか……」
しゃべる猫を蹴ってテーブルを叩き込んだ未央は、念のためテーブルに体重をかけて猫を押さえつける。
「?」
が、逆に押されてゆく。
未央が不思議に思っていると……
「え!? テーブルが消えた!!」
未央の手は、代わりに猫のしっぽを握っていた。
「いきなり蹴るにゃんて……! やっぱり卑怯者にゃ!」
猫耳をつけた少女が猫の集団の中にいた。
「卑怯者はどっちだ!」
つかんだ猫を放し、怒る未央。
「それはあんたらのほうにゃ! みくより後に入った新人が、こんな大きいステージでライブ……、しかも! それを友達のコネで!! 」
「それでどんなヤツか見てみれば……いや、あの二人は思っているよりマシだったにゃ。」
「だけど、あんたは……」
『もうライブなんてどうでも良い!』
『逃げよう!』
「覚悟のないあんたに、ステージに立つ資格はない。」
「そんなの、みくが許さない。」
みくは拳を握り、未央を睨む。
「…………」
「……ネコちゃん! やっちゃって!」
未央の足下から、猫が飛びかかってくる。
「わぁ!」
未央は反射的に手で弾き飛ばす。
キィイイイイイン!!!!
「う……うるさ……」
突然鳴り響いた音に耳を塞ぐ未央。
「そのネコちゃん、元はマイクだったにゃ。」
「みくのスタンド能力は、人や物体をネコちゃんにすることだにゃ。」
「そして、ネコちゃんは元の物体の性質を引き継ぐのにゃ!」
「それってつまり、マイクを殴り飛ばしたようなものってことか……」
「そうにゃ! ネコちゃんをいじめる悪い子にはお仕置きにゃ!」
「逆におとなしくしてれば痛みはないにゃ。」
「そ、それは嫌だ! ここで倒す!!」
すると、みくは突然
「あぁ別にそういうのいいんで。」
「は?」
「だって無駄だよ? ライブの機材の一部はネコちゃんにして逃がしたし。」
「もうライブ、出来ないよ?」
「…………」
「まぁもっと練習しろってことにゃ~。レッスンを見たけど、素人レベルだったし。」
「うるさい……」
未央は小声で震える。
「まぁ仮にプロ級の腕前でもそのメンタルじゃしっ……ぷっ、にゃはは……」
突然みくは笑い出す。
それに未央は、怒りを募らせる。
「……りだよ。」
「え? 聞こえないにゃ。」
「その通りだよ!!」
「私たちアイドルになったばかりの新人だし! 練習期間は短いし! メンタルも弱いよ……」
「でも」
『私……、このライブが終わったら……、責任取ってアイドル辞める……。』
『今なら、まだ間に合うよ、美穂ちゃん』
『明日は、主役を乗っ取るくらいのステージを見せるから。 覚悟して。』
「しまむーや、しぶりんや……みほちー、今日のライブに対する想いを……」
「背負ってステージに立つ『覚悟』は、あるのか!!」
未央はそう言って、みくに殴りかかる。
「む、む~ うるさいにゃ!!」
「とっととあんたを猫にして愛でてやるにゃああああ!!」
みくも拳を未央に向ける。
「……とみせかけて、」
未央は拳を開き、みくの顔に白い粉をかける。
「にゃっ!? こ、これは……」
みくは床に落ちた破れた小さな袋を見た。
「防虫剤!?」
「殴るとみせかけて、逃げるんだよ!」
未央は衣装室を飛び出た。
未央は廊下を走る。
(物体や人を猫に……? でも今のところ私の体が猫になった様子はない。)
(なのにみほちーは猫になった……)
(せめて、何をされたら猫になるのか……、それが分かるまでは!)
(猫に囲まれるのはまずい!)
「今は……闘うために逃げる!!」
「そしてもう、逃げない!!」
「やっぱり卑怯者にゃ。 きっとライブも枕でとったのにゃ」
「あのときは、ひどいステージを見せられたにゃ……」
みくも衣装室を出て未央を追いかける。
「ステージの舞台なら…… 周りに猫になる物体もないし、広いから猫に囲まれにくいはず!」
「あいつは多分私を猫にしてライブを中止に追い込むまで止まらないはずだから、追っかけてくるはずなんだけど……」
(おかしい…… 追いかけたにしては遅すぎる……)
「?」
照明が突然消える。
さらに上から、なにかが落ちてきた。
「! 猫だ!!」
暗闇の中、大量の猫が未央に襲いかかる。
が、すぐに非常灯が点いた。
「暗いけど非常灯のおかげで、一応見える!」
未央は飛んできた猫を弾き飛ばす。
(上から落ちたってことは、まさか元は照明だった猫?)
「ということはまさか!!」
「ネコちゃん達、点灯にゃ!!」
未央の周りにいる猫は一斉に光り出した。
「うわぁ! まぶしいっ!!」
フードを深く被り、目を閉じる。
「ふふふ…… なす術もないって感じだにゃ!」
サングラスをかけたみくが現れる。
彼女のほっぺたから、一本の猫ひげが生え、それを抜き取った。
そしてひげを持って未央に走りだす。
「このひげを刺せばおまえはもうネコちゃんだにゃぁぁぁぁああああ!!!!!!」
しかし、みくのひげは刺さらなかった。
未央は避けた。
(てきとうに避けても無駄にゃ。)
そう思い、何度もひげを刺そうとするが、かわされる。
しかも未央は、舞台の上から階段で降り観客席の出口に向かっていた。
「まぶしくて見えないはずなのに、どうしてにゃあ!?」
「はっ!!」
未央はフードを被ったまま、何かを顔に近づけて持っていた。
「スマホだにゃ!! カメラをフィルターにして見ていたんだにゃ!!」
(確かにスマホで蛍光灯を見ても、まぶしくないにゃ……)
「スマホを奪ってやるにゃ!!」
しかし未央は、もうその場には居なくなっていた。
「間一髪だった……」
(ひげを刺されれば猫になるのか……)
(じゃあ逆に抜けば……?)
ここまで読んでくださり、ありがとうございますにゃ。