リプレイ:レプリカ   作:はるまき95

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初めまして!はるまきと申します。

初めて書いたものですのでグダったり読みづらかったりという部分が多々あると思いますが、そんな時は読みづらいんじゃハゲと罵っていただけると次の日には僕がハゲてると思います。




第1話 入学前編 アカデミアへ

息を切らせて夜の闇の中を駆ける。背負った熱さが、11月の寒さに次第に奪われていくのがわかる。

「みっちゃん!しっかりしてくれ!もう少し、もう少しなんだ!」

背中からの応答はない。焦る。だが、焦るほど頭の中は透き通っていき、自分の置かれた現状とそれに対する解決策が浮かんでくるのがわかる。

この山さえ降りてしまえば街まではそう遠くない。人に紛れれば逃げることが難しくないのは、能力を使っているとはいえ1人背負った13歳の子供に追いつけていないことから明らかだ。それに、意識が朦朧としてはいるが治療さえ出来れば電子機器の海となっている市街地でみっちゃんを出し抜くことは不可能だと知っている。

……なら問題は時間。みっちゃんが死んでしまう前に、山を降りること。

危険だが能力のギアをあげる。右手のタトゥーが熱くなる。

「クソッタレが!なんでだ!俺たちはただ、……ただ生きていたいだけなのに!」

夜の闇に怒鳴り声が響く。その怒りを聞くものはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッと目が覚める。

「随分と久しぶりに夢なんてみちまった。そんだけ気が抜けてるってことか……」

「ホントにね。同居人がいるのにね。魘されながらみっちゃんみっちゃんうるさいんだよ。おかげでこんな時間なのに目が覚めちゃったんだけど。」

魔改造されたアパートの一室、大量のPCとモニターに囲まれたリクライニングチェアから眠そうな声が聞こえてくる。

「ごめん、でもどうせまた寝るんだろ。ならちょっとくらい魘されてる兄の心配をしてはくれない?」

「今は心配するよりも私の睡眠が邪魔された事に腹がたってるんだけどね。でも、髪の一本分くらいの心配はしたよ?」

髪の毛一本分の愛しかないらしい。お兄ちゃんは悲しい。

くだらない会話で時間が過ぎていく。あの夢を見た後だと、こんなしょうもない会話が嬉しく感じる。

しかし、しょうもない会話は妹からの報せで終わる。

「そういえば夜中に霧谷雄吾(リヴァイアサン)から連絡来てたね。起きてからでいいから折り返してくれって。」

はいよっと返事して頭を切り替えていく。

UGN日本支部支部長様からの連絡。彼は本来戸籍のなかった俺たち、実験体NO.141及び173に『城崎 信一(キサキ シンイチ)』『城崎 七海(キサキ ナナミ)』と名前をくれて居場所を用意してくれた人物だ。それだけでなく、人間とは違う俺たちの体、レネゲイドウイルスに感染し、異能の力を振るうオーヴァードの力の危険性と制御方法を教えてくれた人物でもある。

彼は力の使い方と俺たち兄妹が安心して暮らせる環境を提供し、俺は力を使い彼の手助けをする。あの日、命の灯火が消えかけていた妹を救うためそういう契約を交わしたのだ。

そんな彼からの連絡、ロクなことはないだろうなと溜息をつきながらスマホを操作する。

 

「どうも、リヴァイアサン。また面倒事か。」

「おはようございます。面倒事と言われれば面倒事ですがいつもの仕事ではありません。少々問題が発生しまして、あなた方にはできるだけ遠くへ行ってもらわなければならなくなりました。」

「なるほどな。あんまり焦ってない辺り、この近辺に支部が出来るか、それとも査察かなんかがあるって所か。」

契約もあるし、自分でこんなことを考えるのも傲慢だが、そこらのエージェントよりは遥かに戦える俺たち兄妹にこの事を緊急で伝えてこないあたりそういう事なのだろう。バレてしまえば霧谷雄吾はUGN日本支部支部長の座から引き摺り降ろされるだろうし、俺たちの身柄の拘束は免れない。

「ご名答です。近々中枢評議員の1人がこちらにやって来ることになりました。あなた方を追いかけている過激派の1人です。」

「お偉いさんも暇なもんだな。俺らを追いかけるよりもやる事があるだろうに……。」

「それはそうですが、実際彼らの立場ならこの行動も理にかなってはいますから。日本に来るのはテレーズ議員ばかりでしたし、複数の視点からと言われればこちらもNOとは言えませんでした。」

「決まっちまったもんはしょうがねぇな。そんで、俺らはどこにいればいい?そもそも査察はどのくらいの期間やるつもりなんだよ。」

「査察自体は数日といったところでしょうが、あなた方が脱走した情報が伝わってる以上、付き人を連絡役として残していく危険性があります。ですので、少なくとも年単位で離れてもらう必要があります。もちろん次の居場所はすでに用意しています。」

なるほど、確かに可能性はあるし、危険性も理解できる。しかし、年単位か……。

「まぁ余程辺鄙な場所じゃなきゃいいさ。どこに行けばいい?」

「オーヴァードアカデミアと呼ばれる太平洋上の孤島です。人口数万人、オーヴァードと人の共生の可能性を探るべく作られた実験場、その存在を知るものは一部のUGNメンバーといくつかの企業のトップです。」

「そんな場所があんのかよ……。まぁいいがひとつ聞かせろ。そんな場所があるとしたら少なくとも外に出る情報はかなり制限されているはずだ。なにせ、ある種の人体実験なんだからな。ここの情報を閲覧出来る権限をあいつらは持ってやがんのか?」

「ランカスター財団や神城グループが関わってはいますが、少なくともランカスター議員から情報が流れることは無いでしょうし、仮に流れたとしてもそれは彼らの不手際を晒すことになります。秘密裏に動くことは否定しきれませんが、大々的に組織だって追っ手を差し向けることは不可能なはずです。」

はず。この言葉に微妙な不安を覚える。が、少なくともここに居続けるよりはましだろう。一般人もいる、少なくとも名前から大人より学生の方が多いのだろうし、そんなところでそこの生徒を殺すなどという事はあまり大っぴらには出来ないだろう。バレればオーヴァードと人間の共生など夢のまた夢、という事になり少なくともこのプロジェクトを動かしているもの達の意に反することになりかねない。

ただ、そんな不安要素よりも気になることがある。見てみたい景色がある。何せ本当にそれが実現しているのであれば、なっちゃんの傷は癒えるだろう。心に負った深い傷も、人の輪の中に入ることが本当に出来たのならば。それは、実験体となる前からの俺の夢。

「いいぜ。オーヴァードアカデミアって所に行ってやんよ。俺らに勉強は不要だが、人とオーヴァードが共存してるってのは気になるしな。こんな化け物を怖がらねぇ人間がいるなら、俺らの人生はそこからもう一度始められるかもしれねぇ。」

「では、決まりです。時期も時期ですから怪しまれることは無いでしょう。あなたは高校1年、七海さんは中学3年のクラスに在籍することにしています。新学期が始まるのは1週間後から、引っ越しはこちらで手配するのでそうですね……、3日後の船に乗ってもらいます。部屋の方は共同じゃないといけないという事を先方に説明しておきます。」

「おう、頼んだ。向こうに行ったらあんたからの連絡も減るだろうしな。願ったり叶ったりだぜ。」

そうですね、それは残念ですと笑っているのがわかる。しかし、ですが、と真面目なトーンに戻り続ける。

「そこで問題が起きた場合、おそらく私は協力することが出来ないでしょう。そうなった時、どう行動するかはあなた方次第です。くれぐれも無茶だけはしないようにお願いします。目立ちすぎるとこちらでも庇いきれなくなる可能性がある事をお忘れなきように。」

「あぁ分かってるよ。……これまで世話になったな。」

いい様に使われてきたのは事実だが、彼がいなければ俺たちがどうなっていたかはよく分かっている。連絡が取れなくなるなら、感謝の一言くらいはと思ったのだが気恥しい。沈黙が痛い。早く笑い飛ばして欲しい。あなたには似合わないと。

「……随分と似合わないことをしますね。」

「うるせぇな!!分かってんだよ!んなこと!その言葉引っ張り出すのにじかんかけてんじゃねぇよ!じゃあな!!!」

通話を切る。他人に礼を言ったのはいつ以来だろうか。そもそも、生まれてから1度でもあっただろうか。こんな小っ恥ずかしい思いをするなら言わなければよかった。

「とりあえずなっちゃんに伝えて準備するか。」

恥ずかしさを誤魔化すように声を出して、二度寝を始めているだろう妹を起こしに行く。

 

 

 

 

 

 

「世話になった、ですか……。」

UGN日本支部支部長霧谷雄吾は通話の切れた電話の画面をぼんやりと眺めていた。

彼らを救ったのは本当に偶然、日本支部から離れ、地方都市にある支部での仕事を終え、少し頭をリフレッシュさせようと思い、徒歩で宿泊先へ向かう途中、人の気配を感じちらと見た路地で、ボロ布を纏って血を流し、息を切らしながらもこちらを睨みつけてくる少年と、その少年より重傷であろう血の気のない青ざめた少女。

手を差し伸べてみれば少年は私の前に立ち塞がり、妹を傷つけるなら殺すなどと脅してきた。自分だって今にも死んでしまいそうなのに。

その時のあの子の目をよく覚えている。憎しみに染まり、世界全てを壊しても止まらないという強い意志を秘めながら、どうしていいか分からず、今にも泣き崩れそうな子供のようでもある不思議な瞳。

そんな瞳をした彼がぶっきらぼうでありながらも礼を述べた、2年という月日なのか、それとも普通の生活を過ごす中でそうなったのか、どちらにせよ彼の成長を感じずにはいられなかった。

「感傷に浸るなど、歳をとりましたかね。」

誰もいない部屋で独りごちる。手元には彼らの入学手続きに必要な書類。

「願わくば、あそこが彼らにとっての楽園でありますように。」

そう呟いて書類をしまった。子供が親元を離れた時の親というのはきっとこういうものなのだろうと、少し、ほんの少しだけ寂しくなった。

 

 

 

 

 

 

"リヴァイアサン"霧谷雄吾の連絡から慌ただしく時間が流れ、今日は引っ越しの日。片付けの出来ないなっちゃんを無理やり食べ物や新発売のPC部品なんかで釣り、何とか支度を終わらせた俺たちはアカデミア行きの大型フェリーに乗り込んでいた。

船は初めてななっちゃんは当然浮かれ、デッキに出てみたり船の中にある売店で必要のないお土産を買ったりするなどはしゃいでいた。俺も船は初めてだがあれを見ると冷静になってしまう。同じようにはしゃいでいるのは小学生のような子たちばかりだと言うのに……。しかし、少し嬉しくもある。なっちゃんはノイマン、詰まるところ天才であり、部屋にあったPCから世間の情報を仕入れ、それを処理することで知識を蓄えている。あの子にとってはあのアパートで世界が完結していた。見つかれば捕まるリスクがあったとはいえ、その状態が続くのは良くないと常々思っていたことだ。それが子供のようにはしゃぎ、百聞は一見にしかずなどと言っているのを見ると安心出来る。きっと毎日のようにグダグダ文句は言うのだろうが、学校には通ってくれそうだ。

「ねぇねぇ兄!向こうでイルカ飛んでるのが見えるって!行こうよ行こうよ!」

「分かったから少し落ち着いたらどうだ、そのうちコケるぞ?」

大丈夫、大丈夫〜転んだって死なないから〜と走りさっていく。

不安要素はある。でも来る決心をしてよかったと感じながらはしゃぐ妹の背を追いかける。

「ねぇ兄。」

先を行くなっちゃんが足を止め振り返る。

「どうした、船酔いでもしたか?」

えらく神妙な面持ちでこちらを見てくるものだから、つい茶化してしまう。

「そうじゃなくてさ。私たち、上手くやれるかな。」

なるほど、騒いでいたのは不安を紛らわすためでもあったのか。

俺たちの境遇は特殊だ。親には虐待の果てに捨てられ、研究者には体を弄り回され、半分化け物の体になってしまっている。

確かにオーヴァードアカデミアには俺たちのような力を持つオーヴァードがいて、そしてそれを認識しながら彼らと共に生きる人間がいる。

しかし、俺たちはどちらでもない。人としても、オーヴァードしても欠陥品。更には俺もなっちゃんも感情の奴隷だ。半端に覚醒してしまったせいか、ある衝動・感情を抱いた時にしか能力を使えず、しかも上手く制御しきれない。そのせいでなっちゃんは人を傷つけてしまったことがあり、トラウマになっている。

だが、それはあの研究所にいた頃の話。この2年、"リヴァイアサン"から力と感情の制御についてのノウハウを得たし、訓練だってした。確かにそれで大丈夫だといえるほど、単純なものでは無い。でも、それでも

「そう思えてるなら俺らはまだ大丈夫だ、だから安心しな。」

衝動に飲まれたら最後、そんな気遣いは絶対に出来ないし、しないだろう。だから俺たちは大丈夫だ。

「……うん。」

「俺はそれよりもなっちゃんが朝起きられるかが心配だな。」

重くなった空気を払うべく、再び茶化す。

「起きられなくてもいいもーん。兄と同じ部屋なんだし起こしてくれるからいいもーん。」

こいつ……。俺のことをよく分かってらっしゃる。

どんな言い方をされたとしても、絶対になっちゃんの不利益になることはしないし出来ない。そう、それが例え寝坊だとしても。段じて甘やかしてるわけじゃない。遅刻してクラスの仲間や先生に笑われたり怒られたりしてみろ、そんな事になったらまたなっちゃんが引きこもってしまうかもしれない。それはなっちゃんの精神的にも肉体的にも良くない、だから必ず起こしてみせる。決して甘やかしてるわけでは無いのだ。

はぁ、とため息をつくと島が見えるとアナウンスが入る。周りにいた人々はみな船のデッキへ出ていった。これからそこで生活するのだ、見てみたくなるのは当然だろう。

「兄、私たちも行こう。」

そうだなと返事をして妹について行く。

 

 

人でごった返したデッキからは確かに港と隣接するのであろう市街地らしきものが見えた。このまま行けばあと20分程度だろうか。思ったよりも近づいていた。身長が低めななっちゃんは見えないと精一杯背伸びしてるので持ち上げてあげた。

するとはぇ〜と気の抜けた声を出す。

「着いちゃうんだね。」

「あぁ、そうだな。あそこでしばらくは暮らすことになるんだろうさ。」

「思ってたよりもちゃんと都市っぽいんだね。」

「そりゃあ娯楽がなきゃやってらんないだろ。新学期までは時間もあるし、荷解きが終わったら少し散策してみるか。」

「え、いいの?」

「大丈夫だろ。本土とは違うんだ、場所も場所だしな。そう簡単にバレて御用にはならんだろ。」

わーいわーいとはしゃぐなっちゃん。

そう、本土とは違うのだ。今までは最低限の外出しかしなかったのだから、こういう場所に来た時くらい羽を伸ばしてもいいだろう。

ピタリとはしゃいでいたなっちゃんの動きが止まる。

「兄、敵意を感じる。」

まさか、とは思ったものの思考を切り替える。しかし、こんな人の多いところでは敵意の持ち主を特定できない。すると、

「違うよ兄。多分これは、人じゃない。どっちかと言えば野生に近い。多分下からだと思う。」

下……まさか。

 

 

 

その時、海が割れた。

 

 

 

そこから飛び出してきたのはゲームでよく見る巨大なイカのようなタコのような化け物。大型フェリーより巨大で、ダイオウイカなんて名前はこいつにつけるべきだろうと呼ぶべき巨体。その体にふさわしい触腕をうねらせこちらを睨みつける海の魔物が船と島の間に文字通り立ち塞がったのだ。

当然デッキはたちまちパニックに陥る。多くの人が怪物に背を向け船に逃げ込む。

「クソが!なんだこいつ!?こんな生物がいていいのか!?」

「兄ヤバいよあれ。あの触手が振り下ろされたらこの船真っ二つどころか木っ端微塵になるよ!」

サイズから衝撃を計算してしまったのだろう、なっちゃんは見るだけでそれが分かる。しかし、そんな計算などしなくとも分かってしまうほどの巨体。どうする。

乗組員も慌てているようだ。早過ぎるだの、連絡にないだの喚いている。

……こいつが出てくること自体は想定してたのか?ただ、連絡にないということは向こうとしても想定外。そして、おそらくそれを連絡するのはアカデミア。海上保安庁がこんな化け物の存在をほおって置くはずは無いからそちらでは無い。つまり……。

「随分な歓迎じゃないか!こいつを倒さなきゃ通る価値無しみてぇな話か!?関係者とはいえ非オーヴァードだって乗ってんだぞ!!」

そう怒りのままに口に出したところで気づく。これがオリエンテーションなのは正解だ。そしてその目的はオーヴァードがこいつを倒し、非オーヴァードを守ることでオーヴァードとはただ異能の力を振るうだけでなく、その力を正しく使うことで人を守ることが出来ると認識させること。……なるほど、考えられているとは思う。だが、しかし、今デッキに残っているのはほんの数名で非オーヴァードやビビったオーヴァードは逃げ出している。

「クソが!失敗してんじゃねぇかよ!」

「兄、来るよ!」

思考の海に沈んでいた俺をなっちゃんの声が呼び戻す。

目の前の怪物は今まさにこの船目掛けてその巨大な触腕を振り下ろそうとしている。

「クソッタレな思惑に乗るのは癪だがなぁ、やってやろうじゃねぇか。」

思考が次第に怒りに染っていく。そもそもなぜこんなことをやろうとしてるのか。こんなものがなければ人とオーヴァードは分かり合えないのか。こっちは金払って手続きしてんのに保護義務を怠る学園ってなんだよ等など目の前の危機から細かいことまでイライラを明確にしていく。腹が立つ。ムカつく。その感情を目覚めさせる。

グローブをした右手が熱い。隠しているタトゥーが疼く。

振り下ろされる触腕に向けて怒りを解放する。

「ふざけてんじゃねぇぞ!!!」

触腕をぶん殴る。本来なら質量差でこちらの腕が砕けるだろう。

しかし、そうはならない。

むしろ吹き飛んでいくのは振り下ろされた触腕。

付け根がちぎれたのだろう、空に舞い上がって船から遠く離れたと

ころに落ちる。身長差は数倍、重量差は数倍できかないかもしれない。しかし、そんなことすら出来てしまうのが俺たち。感情の奴隷、欠陥品のオーヴァード、超人兵士(レプリカント)

触腕を吹き飛ばされた海の魔物は不気味な鳴き声をあげる。痛がっているのだろうか、しかし、まだもう片方が残っている。

魔物が獲物を潰そうと残る触腕を振るう。

「まだこっちは衝撃が残ってんのに追い討ちかけてるくるとは分かってんじゃねぇか!だがなぁ、1回防がれたんだから同じ手が通用するわけねぇだろ!」

再び右手で触腕を殴りつける。ミシリと嫌な音がするが、そんなのは気にしていられない。衝撃を船に逃せば砕けかねない。

「右手の1本くらいはくれてやるよ!!」

再び触腕を弾き飛ばす。しかし、こちらの腕ももう限界だ。手首が変な方向に曲がり、腕からは煙が出ている。

「ってぇなぁおい!でもこれで終わりだろ!」

魔物を睨みつける。すると隣にいるなっちゃんが何かに気づく。

「やばいかも。さっき飛ばした方の腕、なんか再生してってる。」

「マジかよ……。」

言われれば確かに、ちぎれた根元から少しずつ長さが元に戻っていってるような気がする。

いまは場が膠着しているが、このままいけばものの数分で生えてくるだろう。

「左手使えばあと2回。持って10分そこらか。」

「兄、電撃出せる所までいけない?」

「無理だ。正直そこまでイライラしてねぇ。ギアが上がりきらねぇ。体の痛みがある分、さっきより出力はあげられるが、それでも重量差がありすぎてあいつをひっくり返す所まで持ってけねぇ。」

「万事休すだね。周りの人に助けてもらう?」

「俺が蹲ってるせいでそいつらがケガしたらどうすんだよ。そりゃあギアあげることは出来てもどの道こんな場所で放電してみろ、感電して余計な犠牲を増やすだけだし、そんなのは俺が俺を許せねぇ。」

だよねと諦めたように溜息を着くなっちゃん。

「だがなっちゃん。実は勝ち筋は見えてる。」

「どういうこと?」

「冷静になって考えてみろ。アカデミア側からもこいつの巨体は見えてんだろ。そんで、こいつの出現自体は想定されてたことだとするなら、海岸でこの船を待っていた連中がいるはずだ。」

「なるほどね。ならやる事は」

「あぁ。時間稼ぎだ。」

「武器がないから役にたてないけど、壊れた腕のメンテはしっかりしてあげるから。」

あぁ頼んだ、それだけいって立ち上がる。

妹の前で腕が壊れた程度で蹲ってはいられない。どんな痩せ我慢でも兄は妹が見てる前では絶対負けない。

壊れた右手が痛む。痛覚をカットする。

「俺は化け物にはなりたくねぇ。でもよぉ、こんな時はこの体でよかったってつくづく思うぜ。」

左の拳を握りしめる。

「てめぇめみたいな化け物から妹を守れるんだからなぁ!!!」

先程の会話中に再生しきった触腕が再び振り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

結果的にアカデミア側で待機していたオーヴァード達が駆けつけたのは俺の左腕が壊れきってからだった。魔物を撃退したあと、デッキに座った俺の腕を見て、顔を青くしていた。

生身なら間違いなく複雑骨折、それどころか砕けていてもおかしくない衝撃を片腕につき2回も弾いている。

しかし、俺の腕、いや腕だけじゃない体の至る所は機械化されている。だから大丈夫と衛生班を適当にあしらいなっちゃんの所へ向かう。

「何とかなったね。」

「あぁ。でも報連相が出来てないのは組織として失格だな。」

これは毎年新入生がアカデミアに来た時にやる行事らしく、アカデミア側にとっては学園の自警団組織、番長連の実地訓練を兼ねていたらしい。しかし、船と連絡をとるはずだった生徒が急病に倒れ、病院に搬送されたばかりだったようで、今回のような事態に繋がったという。

しかし、それにしても海の魔物、名前はゲソ太郎というらしいが、そいつとオルクス能力者が打ち合わせした場所と違うポイントに出現した事には謎が残る。何があったのだろうか。というかゲソ太郎なんて名前付けたやつは誰だ。などと考えていると、前から長い黒髪を揺らしたジャージのガサツそうな女がやってくる。

「いやーよくやってくれたな!ゲソ太郎のあの腕を殴った勢いでちぎるなんて私にも出来ないぞ!期待の新入生君!」

テンション高ぇ。あと期待の新入生ってこんな新入生だらけのところで言うのはやめて欲しい。周りからの注目が集まってしまう。

「はぁ。そりゃどうも。……あんたは?」

「私は番長連総番長、無道ささきだ!」

「総番長様が何の用だ。労いはいらねぇぞ。」

「うむ、率直に言おう!番長連に入る気は無いか?実力は見せてもらった!君の腕っ節なら何も問題ない!」

うーん、困った。番長連なる組織が自警目的の組織であることは先程知った。自警組織ではあるが、この島の人口を考えればそれなりの情報網はもっているのだろう。俺たちは追われる身、隠れるにしても行動をするにしても情報が欲しい。そう意味では魅力的な提案だが、この総番長を見ているとどれほどのものか怪しくもあるし、自由に動く時間が制限されるのは痛いし、なっちゃんと一緒の時間が減るのは悩ましい。

……デメリットの方が多い。それに情報に関してはPcなどの電気機器で管理されてるならなっちゃんにハッキングしてもらえばいいか。

「悪いけど遠慮させてもらう。この島でやりたいこともやるべき事も見つかってないからな。もしそれが番長連での活動となった時は改めて挨拶に行くよ。」

「そうか!なら仕方ないな!」

そういうとどこかへ走り去っていく。

いや、なんだったのさ。もう少しこう……ねぇ?

となっちゃんの方を見るとなっちゃんも呆れてた。

「ま、まぁ悪気は無さそうだし、入る気もなかったんだからしょうがないよ。」

「うーん、調子狂うなぁ。」

「まぁまぁまぁまぁ。とりあえず無事に上陸できたって事でいいじゃない。早く部屋に行こうよ。兄の腕直さないといけないし。」

「それもそうだな、行くか。」

 

 

 

こうして、俺たちはオーヴァードアカデミアに上陸した。周りにはこれからの生活に胸を躍らせる新入生達。その表情は、あんな事があったのに、期待に満ちている。それはきっと素晴らしいことなのだと思う。彼らはこの島で何かあっても、人とオーヴァードが手を取って生きていけるとあのイベントでそう信じたのだろう。そして楽しい学園生活をおくれると。

……でも、俺はそうは思えなかった。あんなイベントがなければ、そう信じることすら出来なかったのではないかと感じてしまう。ここは本当に人とオーヴァードが共存する楽園なのだろうか。誰かにそう信じ込まされてるだけで、その認識が崩れる事件がひとつ起きてしまえば、この島の体制まで崩壊しかねない、そんな薄氷の上にいるのではないかと感じずにはいられなかった。

 

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