今回は情報収集回みたいなもので戦闘はありません。
実は書いてみるまで戦闘の方が書くの難しそうだなと思っていたのですが、情報収集場面の方が難しく感じました。誰かに説明するという事の難しさを改めて実感した3話でした。
情報収集ではありますが、今回も今回で訳のわからない単語が登場したり、独自の解釈があったりしますが優しい目で見守ってもらえると嬉しいです。大事な単語に関しては後で回収しますし、オリジナルの要素は設定を公開した時にでも一緒に記載します。
昨日、家に帰った俺を待っていたのは泣いて顔をぐじゃぐじゃにした妹の熱い
余談だが超人兵士にこの手の心理的作用は効果を持たない。というのも、感情でレネゲイドを制御する超人兵士にとって、この手の作用は物によっては体内のレネゲイドの暴走の危険性を孕んでいるため、ありとあらゆる物事に対し、自らの感情を最優先するという別種の心理的プロテクトがかけられているためだ。もっとも、そのせいで自分たちが裏切られる危険性を考えなかった連中も愚かだが。
新たな知識を得て改めてアカデミアの嫌な部分が浮き彫りになりはしたが、それでもいい出会い(篤木さんにとっては散々であったろうが)もあり、俺たち兄妹にとってのアカデミアでの初日は幕を閉じた。
「兄ぃ、起きてよ〜」
妹の呼び声で目が覚める。時間は朝の6時半。決して早い時間ではないが、学校はまだ始まらないためこんな時間に起きる必要も無い。
「どうした〜。ゴキ〇リでも出たか〜」
「そうじゃなくて、お客さんが来てるの〜。」
なっちゃん……。もうすぐ学校始まるし用件を聞くくらいは出来るようになって欲しいと願わずにはいられない兄だった。
「こんな時間から客だぁ?どこの非常識野郎だよ。」
とりあえずどんなやつでも間違いでないのなら出るだけ出てみよう。眠たい目を擦りながら玄関を開ける。そこに居たのはまだ春休みであるにも関わらず制服を着用した、長めの綺麗なブロンドヘアが目立つ中等部の子だろうか、小柄な少女がいた。
「あ、あのっ!こちら城崎さんのお宅で間違いないでしょうか!?」
プルプル震えながらの問いかけ、まるでマンガで見た初めて友達の家を訪ねるも緊張してなかなか入れない子供のよう……いやどっからどう見ても子供だが。
「あぁ、あってるよ。こんな時間にどうした?」
「あのっ!え、ええっと……そう!お礼、お礼がしたくて!」
「は?」
素っ頓狂な声が出る。お礼、お礼ってなんだ?何かしたか?ここに来てからまだ24時間たってないぞ。そもそも、俺は誰かにお礼をされるほど出来た人間ではない。
疑問が頭を渦巻いてるが、目の前の少女は緊張からか口を閉ざし真っ赤になってしまっている。うーん、困った。
「えー、まぁなんだ。あれだ、礼を言われるようなことをした気はしないし、きっとなんかの勘違いだって。俺達引っ越してきたばかりだし。多分他の城崎さんだよ。」
「い、いえ、そんなはずは……。」
ガサゴソとポケットから地図を取りだし住所を確認している。「間違ってません!」と言っているあたり本当にうちのようだ。……あれぇ?
「そ、そのですね、お礼なんですけど……」
まて、ちょっと待ってくれ。お礼などと言うのであればもう少し頭の回る時間に来て欲しかった。これじゃあどうすればいいかわからない。一体何がどうなっている?
「うわぁ、兄が玄関先で女の子を紅潮させている……。さいてー。朝からこんな小さな子に何吹き込んでんの?」
「てめぇが用事も聞かねぇで起こしに来るからこんな事になってんだろが!」
キレたぜおい。妹だろうとなんだろうと俺をロリコン扱いするやつは許さん。俺はバインバインのたゆんたゆんが好きなのであって妹のような絶壁を求めている訳では無いし、少女は愛を向ける対象ではなく庇護対象だともう100回くらいは言ってるだろ。……寝不足か思考回路がおかしい。
こんな事で怒るなんてくだらない。冷静になれ、Be Coolだ。
「あ、あの私に出来ることなら何でもします!!」
目の前の少女が爆弾を投下した。
「すみません!すみません!」
あのままでは他の住民に聞かれてしまう恐れがあったため、なし崩し的に家の中に少女を招き入れてしまった。そこを見られていたら俺は社会的に死んでしまうだろうがあそこに置いて話を続けても死んでいた。背に腹はかえられなかった。
先程から少女は真っ赤になって謝りっぱなしだ。自分の言ったことの意味を妹がそっと教えたせいだ。今この部屋には見た目ヤンキーな俺と、そんな俺を心底軽蔑したた目で見るなっちゃん、そして謝り続ける少女……なんだこれ。
「いや、もういいから」
疲れきった声が出てしまう。
すったもんだあったが、彼女を何とか落ち着かせる事に成功し、妹の機嫌をとっていたら1時間経過していた午前7時30分の城崎家のリビング、飲み物を出してようやくまともに会話出来る場を作ることができた。
「それで、えー……」
「あ、名乗るのが遅れてしまい申し訳ありません。私は篠宮ステラと申します。」
ハーフかクォータか、外人さんみたいな顔立ちの割には日本語が上手いと思っていたがそういう事か。
「篠宮さんね。ええっと話をだいぶ前まで戻すけど、俺らは篠宮さんにお礼してもらうようなことは何一つしていないと思うんだが?」
「で、でも住所はここだと会長が仰ってて……。」
「会長?会長って誰だ?生徒会長のことか?」
「そうです。高等部生徒会会長の雲雀宏一さんです。」
えぇ……。先程よりもまともに会話ができているのに疑問点ばかり増えていくのは何故だ。
「つかぬ事を聞くけど、中等部だよな?」
「ええ、そうです。中等部、M3-B所属で飼育委員です。」
オーヴァードアカデミアでは学部、学年、クラスというように略して表されることが多いというのはパンフレットの情報にあった……3年!?いやまて、確かに目の前の少女は小さい、どのくらい小さいかと言うと身長は140cmに届いてないってくらいには小さい。さらに言えばコロコロ表情が変わり焦っている時には汗のエフェクトが見えてきそうなくらい感情の表現が豊かで最初は中1、ないしは小6と思ったレベルだ。それが中3ときた。成長期がまだ来てないんだろうか。……いや、この思考はさすがに失礼だろう。
「なるほど、いや、そうだよな。それじゃあ話を戻そうか。ええっと、……来年は高校生って、マジ?」
「いや全然話し戻せてないし聞き方がなんかキモイよ兄」
「なんか今日は随分スラスラ罵倒が飛んでくるじゃないか妹よ。」
これは俺が悪い。だが、よく言うじゃないか。外人に比べて日本人は童顔だと。それは逆に考えれば日本人から見た外人は歳に対して大人っぽいってことで彼女もその血を受け継いでいるんだろうが両方受け継いじゃったのが悪かったのか大人っぽさの欠けらも無い。……ヤバいな、今日はダメかもしれない。
ごほんとわざとらしく咳払いする。
「気になることがあるんだが、中等部の3年生がなんで高等部の生徒会長と知り合いなんだ?一方的に認知してるならともかく、うちを教えてもらうくらいには会話するんだろ?」
「は、はい。私はゲソ太郎の飼育をしていて、毎年行われている歓迎オリエンテーションのメインイベントを任されているので、高等部の生徒会長さん達とは結構面識があるんです。雲雀会長も私とゲソ太郎に一任すると言ってくださったのですが、昨日はあんな事態になってしまって申し訳ないです。」
そう言って篠宮は小さくなってしまう。ゲソ太郎と意思疎通が出来るオーヴァードとはこの子のことだったのか。確かにあの件については思う事がある。意思疎通を行うものがしっかりしてればと思わなかった訳では無い。しかし、目の前でタダでさえ小さいのにさらに縮こまってしまっているこの子を責めるのは間違っている気がする。
「いや、結果として多少のけが人は出たが大事には至らなかったんだ。他の人がどう思ってるかは知らんが、見た目1番重症だった俺が気にしなくていいと思ってるんだから過剰に意識する必要は無いさ。」
「ありがとうございます。でも、腕が大変な事になったとお聞きしましたけど……。」
「俺は一応オーヴァードだし、あのくらいどうってことは無い。それより聞きたいことがあるんだが、聞いたところによるとゲソ太郎の出現位置だったり行動だったりが打ち合わせと違ったと聞いた。どういう事だ?」
「それは……あの日のゲソ太郎は少し様子がおかしかったんです。海の中に何かいると、そう言っていました。だから、みんなやゲソ太郎の安全を考えたらやめた方がいいかなってそう思ったんです。でも、私はあのオリエンテーションのおかげで、人生で初めて友達が出来ました。その事もゲソ太郎に話していたんです。だから、ゲソ太郎はやるって聞かなくて……。優しい子だから、きっと今年の新入生にとっても友達を作るチャンスだってそう考えていたんだと思います。私もあんなにやる気なゲソ太郎は初めてで、それなら2人で頑張ろうってそう思ってたんですけど……。結果はお二人の知る通りです。」
「張り切りすぎたって事か?それにしては……」
オリエンテーションと言う事を事前に知っていたゲソ太郎、その知能指数がどれほどのものかは俺には分からないが、篠宮の言葉を信じるのであれば船を怖そうとしてまで立ち塞がるとは考えにくい。あそこまでの事態になった原因は他にあるはずだ。彼女が話してくれたゲソ太郎の感じていた違和感であったり、船への連絡員が急に倒れてしまったりしたこともそうだ。
事故と言われれば事故、しかし、作為的なものを感じずには居られない。
「なっちゃんはどう思う?あの時、何かに気づかなかったか?」
「う〜ん、人ならともかくナマモノはちょっとなぁ……。強いて言うなら、動物が強く殺意を抱くことがあるとするならば、護るものがある場合か、自分の生命の危機かの2択じゃないかな。」
「……もしかしなくても俺のせいだったりする?」
「半分はそうかもだけどもう半分は別の理由だと思うよ。確かに兄の最初の一撃で危機を感じとったのか、二撃目は一撃目よりも重かった。でも最初からあんな感じだったから何かあったんじゃないかなって。」
「そりゃあ一安心だ。でも原因か……オーヴァードであれば暴走の危険性は誰しもが持つものだし、暴走したって話なら納得は出来るが。」
「生徒会、並びに運営機関であるカウンシルはその線で話を纏めようとしているみたいです。」
「なるほどねぇ。タイミングもタイミングだしあんま事をでかくしたくねえって感じか。」
結果として犠牲者はゼロだったわけだし、話が纏まりつつあるなら余計な口は出さない方がいいだろう。
「そ、それでですね……。あの〜お礼なんですけど……。」
「あー……。」
忘れてたわ。いやでも困ったな。あの時、怒り自体はあったがそれはゲソ太郎に向けてのものではなかった。それを八つ当たりのようにぶつけてしまったのはこっちの方でバツが悪い。そもそも、家に上がった際に菓子折を頂いてしまってるため、お礼も糞もない気がするのたが……
「お礼なぁ……。」
「はい!お礼です!お陰様でけが人こそいれど、亡くなった方は1人もいませんでした。ゲソ太郎が人殺しの怪物にならずに済んだのはお二人の活躍のお陰ですから。」
「私なんもしてなくない?」
「ですので、わたしに出来ることでしたら何でもさせていただきます!」
「無視?無視されてんの?」
さぁ!となっちゃんをスルーしてグイグイくる篠宮。興奮すると周りが見えなくなるのだろう。仰け反りながらどうすれば彼女が納得してくれるかを模索する。何かが欲しい訳では無いがそれでは納得しないだろうし、あまりにアレなことを言えばなっちゃんに家を追い出されるだろう。何か……。
ふと部屋の隅に置いた道具類が目に入る。体の部品を修理するための工具が入った工具箱やオイルの缶が収納されたケースや油で汚さないためのシート類などなど。……天啓を得たり。
「わかった!わかったから少し離れてくれないか!?」
篠宮の顔が近くにあり焦る。こいつ誰にでもこれやってんのか?だとしたら悪魔だ……。落ち着いたのか話を聞く姿勢になる篠宮。
「さっき腕がどうのって話しただろ?さっきは誤魔化しちまったけど、俺の腕は機械なんだよ。」
「機械ですか……?」
ピンと来てないという顔の篠宮。言葉の意味を理解出来ても実感できていないという表情だ。
「あぁ、ちょっと待っててくれ……ほら。」
ガチャガチャと肘部分の人工皮膚の被っていないパーツを押し込み、神経の接続を切ってから右腕を外す。
「あぁなるほど〜。そういう事なんですね。一部を機械化してるのではなく、腕全てを機械化してらっしゃるんですね。」
「そういう事。だからゲソ太郎の攻撃でも腕がダメになる所までいかなかったって訳。」
へぇーと興味深そうに眺めている。興味津々の所悪いが本題に入ろう、見世物ではないし。
「これメンテしてんのは俺だったりなっちゃんだったりするんだが、どっか壊れた時パーツがないと困るんだが、それを作れそうな人に心当たりがあれば紹介してくれないか?こいつがないと不便で困る。出来ればモルフェウスのオーヴァードだと嬉しい。」
「そういうことでしたらお任せ下さい!私、友人は少ないですが心当たりがありますので!」
サラリと闇を暴露するのはやめて欲しいが当てがあるのは助かる。
「もし良ければだが、合わせてくれないか?向こうの都合もあるから無理なら今日は諦めるが……。」
「全然大丈夫だと思いますよ。お店を持ってるので。今日は10時からみたいですし、時間になったら案内しますね。」
店を持ってるのか。目の前でスマホを操作し、連絡を済ませる篠宮、その顔は嬉しそうで、どんな相手が出てくるのか少し楽しみではあった。
件の店はBlackSmithというらしい。この名前で鍛冶屋じゃなかったらどうしようと思い聞いたら金物屋兼鍛冶屋みたいな感じです!って返って来たので少し安心した。このご時世、既製品が安価で手に入るのにわざわざ修理しようという層はどの程度いるかは不明だが篠宮は週3回行ってるらしい。なんでも包丁がすぐ壊れちゃうのだとか。……どんなふうに使ってるのか気になるだろうが。
開店まで時間があるということで市街地を案内してもらいながら時間を潰す。なっちゃんは眠いからパスと言っていたので置いてきた。適当に会話しながら、というのを妹以外としたことが無いが篠宮は放っておけば延々と話してくれる。気を使ってくれてるのか、それとも単におしゃべりなだけなのかはわからないが、そこまで苦にならず時間を潰せている。その割に友達が少ないらしいがきっと100人もいませんから〜とか言うに決まってるから余計な事を聞かない。
今は適当な店で買ったコーヒー片手に公園をブラブラしていた。篠宮はココアだ、苦いのは苦手だと聞いた。チビチビ飲みながらふと聞いてくる。
「そういえばあんまり気にしてなかったんですけど、妹さんと二人で暮らされてるなんて珍しいですね。ここの生徒は基本的に寮生活なんで同居人がいらっしゃること自体は珍しくはないのですが。」
「やっぱりそうだよなぁ。あんまり良くないんだろうけど俺の体の事もあるし、なっちゃんもなっちゃんで生活能力ないしなぁ。」
「先輩は妹さんに甘いんですね。でも、私も長女なのでよく分かります。」
とくすくす笑ってる。街中で話してる時に高等部だと話したからか先程から先輩と呼ばれる。こう、微妙にくすぐったいものがある。篠宮が長女というのはなんとなくわかる。身長はともかく、話し方は丁寧だし気の回し方は上手いなと一緒に散策して思った。
「まぁな。このままだとなっちゃんは俺がいないと生活していけなくなる、それが良くないのは分かってるんだよ。でも、俺はいつまで一緒にいれるかわかんないし、兄として一緒ににいる間は面倒みようって決めてるんだ。」
本当はそれだけじゃない、理由なら他にもある。でも一番の理由はこれだった。追われる身である俺たちはいつ離ればなれになるかわからない。だから一緒にいたい、2人だけの家族だから。
篠宮は難しそう顔をして話を聞いていた。
「まるでどこかに行ってしまわれるみたいな話ですね。卒業まで3年もあるのに……。」
「わからん、保護者側の都合もあるしいつ連れ戻されるか、それともまぁのっぴきならん事情で離れなきゃいけないこともあるだろうし。」
「……そうなってしまうのは残念ですね。だって先輩はあのオリエンテーションで一番頑張って命を護りました。だから、誰がなんと言おうと先輩にはこの島で生活する権利はあの海岸や船にいた誰よりもあるはずなのに。」
「そいつはとんでもない理論だな。頑張った人間にはその権利がある。でも、この世界に頑張ってない人は多分いない。一番頑張った人間が悪党だったら?この島に入れちまってもいいのか?ダメだろう。俺にその権利があると篠宮が認めてくれるのは素直に嬉しい、けど、権利は勝ち取るもので、俺はそれを認めてくれた篠宮以外の人間に挑み続けなきゃいけねぇんだ。」
また難しい顔をしてる篠宮。……カッコつけすぎたわ、ごめん。めっちゃわかりづらいこと言った。でも、俺だって先輩と言ってくれる人間の前でカッコつけたくなるくらいにはまともな感性が残ってんの。……頼むからそんなに深く考えないでくれ。
うーんと唸っている篠宮、そんな彼女に声がかけられた。
「スーじゃない。どったのこんなとこで?」
「あっ!フーちゃん!」
そこに居たのは髪はボサボサ、ツナギの上半分を腰のところで縛り、出世魚と書かれた意味不明なTシャツを着たダウナーな雰囲気を持つ長身の女性。……フーちゃんさん?
2人は楽しそうに(楽しそうに見えるのは篠宮だけだが)会話しているが、頭は寝起きのあの時のように思考が変な方向へ飛んでいく。このガサツそうでクソでかい女のどこがフーちゃんなのか。
篠宮と身長差40cmくらいありそうだが、どういう知り合いなんだ。まさか、このタッパで中等部……。篠宮、お前の身長はこいつに吸われてないか。
ぼーっとしてる俺に篠宮が彼女を紹介してくれる。
「先輩、この子がさっき話してた子です。
「おう。筧……さんか?高等部?」
「どもです。中等部っすね。クラスはスーと同じだ……です。」
めっちゃぎこちないな。確かに見た目からして年上との会話は苦手そうだが……。
「無理に敬語みたく喋らなくてもいいぞ。そういうのを気にする方じゃない。」
「あい。先輩、せっかく会えたんだし、店まで案内するよ。でも、うちはデートで行く場所じゃないよ?」
「デートなわけあるか。こっちに来て1日も経ってねぇのに女作ってるとかどんだけ遊んでんだよ。」
で、デート!?と顔を赤くしてる篠宮。違うよ!と筧に向かっていきポカポカと擬音が出そうな感じで叩いている。しかし、それに動じず筧は
「着いたら義手見せてよ、初めて見るから上手く出来るかわかんないけど。」
「あぁ、頼む。今日はメンテしたばかりだからとりあえず様子を見てくれりゃあいい。壊れても直せそうにないなら悪いが他を当たるがな。」
「大丈夫大丈夫。ウチがダメでも師匠なら直せるから。」
そう言うと足元の篠宮を放置して歩き出してしまう。あっ、待ってよーと篠宮は筧の後ろを着いていく。まだ開店には早いがあの感じなら見てくれるのだろう。俺も2人の後を追った。
BlackSmithは市街区の中心部からはなれ、初等部の方角へ向かい線路に沿って歩いた先にある4階建てのアパートを改築した建物で、縦に長いアパートだったのだろう、ビルとビルの隙間を埋めるように建っていた。しばらく誰も入居者がいなかったから師匠が格安で譲ってもらったと筧は話した。1階部分は店舗スペース、2階から3階部分は作業場、4階部分は休憩所兼居住スペースで師匠とその嫁さんが住んでるらしい。着いた時には案の定まだ開店前の時間だったが、筧は実際飯と寝る時以外は作業してるから開店時間なんてあってないようなものと鍵を開けてさっさと中に入ってしまう。
2階の工房に通してもらった。筧の仕事は師匠が作ったものの研磨や仕上げなどがメインで、あとはこの店の副業としてやっている小物機械製品の修理などを担当しているとのこと。右側にはいくつもの棚が並び、大小様々な部品と工具が置かれていて、左側には研磨するための装置なのか、素人目にはよく分からない装置がいくつか置かれている区画で分けられていて、ど真ん中に大きめの作業台といったザックりとしたレイアウトになっていた。作業台の上に乗っていた何かの設計図や納品書などを払い落とし、ここに置いといてと言い、右の方へ行き棚を漁っている。
公園で出会い、ここまで少しではあるが会話しながら来た。その時の筧は気だるげで眠そうだった。テンションが低い時のなっちゃんみたいだなと思ったりもした。しかし、この部屋に入ってからの彼女は新しいおもちゃを貰った子供のように見える。こうしてると年相応に見えなくもない、体のデカさを除けば。
などと考えながら右腕から先を外し作業台に置く。少しすると筧が戻って来た。
「へぇ〜面白いね。上に人工皮膚被せてるのはなんか意味あるの?機械としてはすごく珍しい素材だねこれ。今の金属加工技術なら多少の破損は直せるけど、1度バラバラになっちゃえばウチが直すのは無理だね。」
結構喋るじゃないか。しかし、やっぱり直すことは出来てもスペアの作成は無理そうだ。
「部品作りおいたりは出来るか?可能なら同じ素材で頼む。」
「うーん、見てる途中だからなんとも言えないけど……でもこれ、エフェクト使って素材作ってるように見えるんだけど……。この島、基本的にエフェクトの使用は禁止されてるから難しいかなぁ。代替品は用意出来そうだけど。」
「それじゃダメなんだ。俺はブラックドッグのオーヴァードだから、材質が変わると伝導率が変わっちまって思うように能力が使えねぇんだよ。」
「うーん、代替品がダメならもう師匠に相談してみようか。待ってて。」と言うなり壁にかかった内線の受話器に向かっていった。そりゃあった方が困らんが、そのせいで誰かを犯罪者にしたい訳では無い。後で"リヴァイアサン"から口添えしてもらうとしよう。筧は一言二言話すと直ぐにこちらに戻ってくる。
「師匠こっち来てくれるってさ。スーも上にいたみたいでこっち来るって。」
ここに来てから見ないなと思ったら上にいたのか。何をしていたのだろう。筧は外した俺の腕を方向を変えたり部品を弄ったりしながら唸っている。面倒な体にされたもんだなと改めて思わずにはいられなかった。
会話もなく、数分が経った頃、部屋のドアが開き、白髪をオールバックにし、右目に眼帯を巻いた男性が入ってくる。白髪ではあるが、歳を食っている訳ではなく、20代前半だろうか、師匠と呼ばれている割には若く見える。表情も職人というのは無表情なイメージがあったが、にこやかな表情を浮かべていた。
「フー!話はスーから聞いたぜ!水くせぇじゃねぇか、面白そうな話なら俺っちにも噛ませろよ!」
男の後から篠宮も着いて部屋に入ってくる。
「あんたが客か?俺っちは一応ここのオーナーって事になってる
思ったよりテンションが高く、戸惑ってしまう。落ち着きがあるような出で立ちに見えて片方しかない目は少年のようにキラキラと輝いていた。
「お邪魔してる。悪いな、変なもん持ち込んじまって。」
「なぁに、仕事なんだから何にも問題ないさ!もちろん、技術料は適正な価格頂くがな!」
ジョークなのかアッハッハと笑う男性。愉快な人物だ、それが第一印象だった。
「それじゃあ師匠、これを。」
と筧が兵藤さんに俺の義手を渡す。それを受け取る兵藤さん。どうに出来るものなのだろうかと、気になって見物していた時、気付いてしまった。彼の左手の甲にはタトゥーがいれられていた。見覚えのあるものが。スパナとハンマーが交叉し、それを囲むように月桂樹の葉が描かれており、その上には『Re:Me NO.001』の刻印。
この人は
わからない。この島に俺たち兄妹以外のレプリカントがいる理由が。そもそも、あの夜研究所を脱出したのは俺たちともう1人、彼とは顔が違いすぎる。一瞬追っ手かと考えたが、この島で鍛冶屋なぞやりながら、しかも弟子まで作る理由はないし、エフェクトの使えない島に置いておくには惜しい戦力だろう。
「なぁ兵藤さん。」
「ん?……あぁ、そうだな。フー、こいつとちっと話してくるから、店の方は任せたぜ。」
彼も義手の右手に入れられたタトゥーに気づいたのだろう。2階を出て4階の居住スペースに案内された。嫁さんがいるらしいが、姿は見えなかった。
「さて、面白いことになっちまったな」
と、薄い笑みを浮かべながらこちらを見てくる。その目に敵意はなく、どちらかと言えば諦めに近い色。言葉と表情がチグハグなのは超人兵士に良くあること。力を高めるために自らの感情を言葉にすることで強く認識させ、自己暗示をかける。
「単刀直入に聞くがお前さん、追っ手ってわけじゃないんだよな?偶然?」
「あんたもそう思ってたのか。俺も同じ事を聞こうとしてた。」
「……そうか。いや〜良かった良かった!ついにバレちまったかってヒヤヒヤしたぜ。」
兵藤さんは固くなってた表情をへにゃりと崩す。周りに漂っていた敵意も薄れた。
「こっちも同じだ。あんたが倒さなきゃいけない相手なら筧と篠宮にどう説明したもんかと。しかし、あんたどうやってあそこから抜け出したんだ?俺らが脱走したからてっきり警備が強化されてるもんだとばかり……。」
「あん時の警報はお前が逃げたせいだったのか!いやーまさか命の恩人だったとはな!あん時、警備の連中が軒並みどっか行ったおかげで、俺っち達の周りはザルだったんだ。だから何人かで協力して抜け出したって訳だ。」
「そういう事か。あの日はそもそも警備の人数が少なかったらしいしな。あんたのエンブレム、
「おうさ!俺っちは検体番号016、
「そうだ。検体番号141、
「ストライカー?俺っちの頃はなかった区分だな。」
「定義は『膠着した戦況を打破する能力を持つ者』だそうだ。訓練は遊撃系統、適性はオールラウンダーで当時2人しかいなかったからめちゃくちゃに弄り回されてこんな身体になっちまった。」
「そいつはまた、随分めちゃくちゃな内容だな。遊撃系統訓練ってあれだろ?複数人のオーヴァードに囲まれた状態から規定の人数倒して逃げるやつ。あれ合格してるのかよ……とんでもねぇな。」
「半分は運だな。誰が相手役やるかで難易度が変わるし、俺の
「なるほどねぇ……。よし、事情はわかった!客として来てくれたってのに疑って悪かったな。詫びと言っちゃなんだが、義手のパーツ、というかスペアか?そいつは用意させてもらう。一応これでもライセンス持ちなんでな、緊急時に備えてってことならエフェクトは使える。」
「ライセンス?初めて聞いた。」
「知らなかったのか?つっても、そこまで便利じゃねえぞ。そも取得のための勉強が面倒だし、取ったら取ったで月一の報告と、年4回の研修だ。基本的に持ってるのは島の治安に関わってるやつか、医療従事者、あとはインフラの整備に必要なものを作れる人間だな。俺っちは1番最後の枠だ。」
確かにそうだ。
「そういやお前さん新入生だったか。俺っちでよければ暮らし方を教えてやんよ、仕事の片手間で良ければな。」
この申し出はありがたい。篠宮に頼んでも良かったが、部屋に来てもらうと変な噂が立ちかねない。それに、彼なら
「助かる。もしそっちも困ってる事があったら協力させてくれ。俺は戦闘しか能がないが、妹は色々出来る。」
「逆に戦闘能力がある方が助かるってもんよ。家内も
「なら良かった。だが、嫁さんの方は大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫!逃げることに関していえば
「わかった。俺達兄妹はあんた達の拠点であるここを護り、不測の事態には手を貸す。あんたは俺の体のスペアパーツとこの島での生き方を提供してくれる。それで構わないか?」
「お前さん達にリスクを背負わせるようで悪いが、壊れちまってもきっちり直してやるからな。悪いが頼んだぜ。」
話は纏まった。まさかこの島に俺たち兄妹以外にも