「…この穴…やはり我々があの世界に来た時の物と同じ…!」
ギャラルホルンのゲート内を見ながら呟くゴロウ。
彼の言った通り、ギャラルホルンのゲート内は、不気味な音を立てながら虹色に輝く穴…自分達があの世界に迷い込んだ時に落ちた穴と同じ物だった。
そして、その奥から白い光が見えて来て、ゴロウはその中に飛び込んだ。
「…ぬおっ!?」
ドサッという音を立てて尻餅をつくゴロウ。
それからゆっくりと立ち上がると、周囲を見回す。
「…ここが、並行世界…みたいであるな。」
後ろを見ながら呟くゴロウ。
ゴロウの背後には、ギャラルホルンが発したあの光と同じ光を放つ穴が出来ていた。
これが、元の世界に戻るためのゲートの様だ。
「…しかし、ここはどういった並行世界なのだ?
翼殿が向かったという並行世界であれば良いのだが…。
…ここに留まっても仕方ない。周囲を調べるか…。」
そう呟き、ゴロウは歩き出した。
暫く歩いていると、商店街に来た。
だが、その街並みは彼が来た時の街並みとは違った姿をしていた。
「…ふむ。
並行世界ともなると街並みも違った姿になるのか…。
…ん?」
その時、人混みの先に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
帽子やサングラスをかけて変装しているので、傍目から見ると分かりにくいが、帽子から少しはみ出ている髪色を見て、判別できた。
「…あれは、翼殿。
やはり、この世界に来ていたのか。
このまま話しかけても良いが…何処かへ向かっている様だな。
後を付けてみるとしよう。」
小さく呟くと、気配を消して翼の後を追った。
暫くすると、翼はとある建物の中に入っていった。
「…ここはなんだ?
元の世界のハンターズギルドに似ているが…。
名前は…リディアン…リディアン音楽院!?」
校門に書かれた名前を読み、ゴロウは驚きの声を上げる。
ついこの前にドスマッカォが現れた際に訪れた校舎と、見た目がだいぶ違っていたからだ。
だが、翼の姿を見失いかけている事に気付き、慌てて追いかけた。
そこから更に少しして、翼は校舎の裏手にあるエレベーターのスイッチを押した。
「…翼殿。」
「っ!?
な…ゴロウ!?」
その時、背後から声をかけられた翼が後ろを振り向くと、そこにゴロウがいたので驚きを露わにする。
「ゴロウ…どうやってこの世界に!?」
「…ギャラルホルンのゲートを通って来た。」
「な!?
どうして…ギャラルホルンのゲートは装者しか通れない筈では…!?」
「…エルフナイン殿が言っていた事を思い出したのだ。
ギャラルホルンが装者だけを通すのは、その並行世界で起こっている異変を解決出来る力を持った存在を選別しているからと思われる、と…。」
「ああ。
確かにそう言っていたな。」
「…我々が翼殿がいた世界に導かれたのは、あの異変を解決する為には我々の力が必要だとギャラルホルンが認識したからだと考えた。
そして、元々ギャラルホルンに導かれた我々が、ゲートを通れないのは少々不自然だ。
そう思い、ダメ元でギャラルホルンに近付いてみた所、案の定ゲートを通る事が出来たという訳だ。」
「なるほど…。」
「…勝手な事をしたのはわかっている。
翼殿の世界に戻ったら、この責任は必ず取る。
だが、我がこの世界に渡れたという事は、この世界でも我々ハンターの力を必要とする異変が起こっているという事だ。
なので、その異変を解決するまでの間は、どうか許して欲しい。」
「…わかった。
元の世界に戻ったら、私も共に叔父様に頭を下げよう。」
「…すまない。感謝する。」
丁度そこにエレベーターが上がって来たので、2人は乗り込んだ。
地下へ降りるエレベーターの中で、ゴロウは翼にこの世界についての質問をした。
街並みやリディアン校舎の姿が違う理由などに翼は答えた。
「…ルナアタック事変…翼殿のいた世界でその様な事が起こっていたとは…。」
「私達の世界の月が欠けているのは、その痕跡なんだ。」
「最初に見た時は流石に驚いたが、その様な理由があったのであれば納得だ。
しかし、フィーネがその櫻井了子に宿っていたとは…。」
「因みに、これから向かう二課…ああ、S.O.N.Gの前身の組織の事だが、そこには櫻井女史もいる。」
「なっ…!?
それは大丈夫なのか…?」
「心配はいらない。
この世界の櫻井女史は、櫻井女史のままだ。
フィーネの意識は宿っていない。」
「…それならば良いが…。」
その時、エレベーターが止まり扉が開いた。
「ついたな。
では、行こう。」
「…わかった。」
それから数分後、2人は二課本部内通路を歩いていた。
「…そういえば、我の事は何と言えば良いのだろうか?」
「それは、私から司令に説明しよう。
ところで、ゴロウ。
ここは室内なので、頭の傘を取った方が良い。」
「む…。
我々のいた世界では、室内でも帽子などは付けたまま過ごしていたので、気にもしなかったが…確かに室内で被り物をする必要は無いな。」
そう言って頭に被っていた傘を外すゴロウ。
「…っ!?」
その髪型を見て、翼は目を丸くした。
なぜなら、ゴロウの髪型はアルニ達に弄られた翼そっくりの髪型のままだったからだ。
「ゴロウ…その髪型は…!」
「…む、ああ。
そういえば、テイン達に弄られた髪をそのままにしていたのだった。」
「ゴロウ…その髪型を今すぐに直してもらえないか?」
「…?何故だ?
戻すのも少々面倒なのだが…。」
「だ、だって…今その姿を奏に見られたら…!」
「?」
聞き慣れない名前と何故か顔を赤くする翼に、首を傾げるゴロウ。
そんな時だった。
「翼!こっちに来ていたのか!
元気に…してた…か…?」
橙色のロングヘアーの少女、“天羽 奏”がやってきた。
翼の姿を見ると、明るい笑顔で声を掛けて来たが、側にいたゴロウの姿を見て言葉が消えて言った。
「…あ…。」
「む?」
突然現れた見知らぬ少女に首を傾げるゴロウと、顔を赤くしたまま硬直する翼。
そんな翼にゆらりとした足取りで近付くと、その両肩に手を置く奏。
その手は微かにプルプルと震えている。
「…。」
「あ…あの…奏…?」
「…翼。」
「な…何…?」
「い…い…」
言葉を紡ぐと同時に手の震えが大きくなって行く奏。
そして、目から大粒の涙を流し、バッと顔を上げながら叫んだ。
「いつのまに子供を作ったんだぁああああ!!!!?」
「ち、違うの奏!?
この人は私の子供じゃなくて…!」
「いや…言い訳は良いさ…。
翼が幸せなら、あたしは嬉しい限りだから…。
運命の相手が見つかって…良かったな…!」
「だからそうじゃないの!?
お願い奏、一回落ち着いて!?」
「…なるほど。
…翼殿が危惧していたのはこういう事か…。」
大粒の涙を流しながら号泣する奏と、それを落ち着かせようと慌てふためく翼。
大混乱状態になったその光景を見て、ゴロウは漸く翼が言いたかった事を理解したのであった。
…その後、泣き喚く奏を落ち着かせ、事情を説明するのに30分程かかったという…。