戦姫と狩人   作:暇を持て余す火の玉

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第3話:バルベルデの異変

「うわー…ぼく、飛行機って生まれて初めて乗ったけど、凄いね!」

バルベルデ共和国に向かう飛行機の中で、窓から外の光景を見ながら、スィーヨは目を輝かせていた。

 

「そうなの?」

「コイツのいた世界には、飛行機はないらしいからな。」

「だとしたら、長距離移動はかなり大変なのでしょうね。」

「一応ぼく達のいた世界にも、空を飛ぶ乗り物はあるけどね。

ただ、この世界でいう飛行船に近い感じで、こんなに早く飛ぶ物はないんだ。」

「なんだ、そっちの世界にも空を飛ぶ乗り物はあるのか。

…そうだ。スィーヨ、向こうに着く前に言っておく事がある。」

「ん?」

「バルベルデには、あたしのパパとママがいるけど…2人にはあたしが“雪音クリス”だと言う事は黙っていて欲しいんだ。

こっちの世界では、あたしは本来いない存在だからな。」

「わかった。

じゃあ、向こうに着いたらクリスさんの事は何で呼べば良いのかな?」

「…クリスのままで大丈夫だ。

向こうでは、“立花クリス”って名乗っているからな。」

「あ、そうなの?

それにしても、立花って…?」

「…あんまり深く聞かないでくれ。」

「あ、はい。」

クリスの表情を見て、スィーヨはそれ以上言及しない事にした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

…それから数時間後。

3人は、南米バルベルデ共和国の村にやって来た。

 

「ここが…バルベルデか…。」

「あたしのパパとママは、ここでNGO団体として活動してる。」

「今からその2人の所に向かうわよ。

「スィーヨ、飛行機の中でも言ったが…。」

「わかってる。

“雪音クリス”である事は内緒に、でしょ?」

「ああ、間違えて口を滑らせないでくれ。」

そうして、3人はクリスの両親が滞在している建物へ向かった。

 

「お邪魔するわ。」

「…!

皆さん…お久しぶりです。」

「クリスも、久しぶりです。」

建物の中では、何処かクリスに似た雰囲気の女性と、優しそうな男性が待っていた。

 

「…ああ、久しぶり。」

「日本からこちらの調査にやって来たわ。

まあ、以前と同じ感じだと思ってちょうだい。」

「ありがとうございます。

ところで、そちらの子は…?」

「今回の調査で、護衛兼専門家として来てもらったの。」

「はじめまして。

ぼくは、スィーヨと言います。」

「はじめまして。

私は“雪音雅津”、こちらは妻のソネットです。」

「“ソネット・M・ユキネ”です。

日本からの来訪、心より歓迎します。」

「早速だけど、こちらでは謎の昆虫が大量発生していると聞いたわ。

それについて、詳しく説明してもらえるかしら?」

「分かりました。」

そうして、雅津は話し始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その昆虫が初めて発見されたのは、今から3週間ほど前です。

その日も、私達は紛争により倒壊した建物の修復や、怪我人の手当てなど、復旧作業をしていました。

そんな時、村人の1人が何かを見つけたのです。

その人に案内されて私達が見たのは、今まで見た事が無い巨大な昆虫の様な生き物でした。

最初は、1日に1匹見かけるか見かけないかくらいでしたが、日を追うごとに目撃頻度は増えて行き、気が付いた時には、村の至る所で姿を見かける様になりました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…その生き物は、今もこの村にいるんですか?」

「はい。

見た事が無い生き物なので、どんな危険性があるかもわからないので、こちらも手を出さないでいる状態です。」

「なるほど。」

スィーヨが呟いた時だった。

 

「失礼します!

あれ、見た事ない人がいる?」

建物の中に、黒人の少年が入って来た。

 

「日本から来た調査隊の方ですよ。」

「そうなのか。

俺は“ステファン”だ。よろしくな!」

「よろしくね。」

「それで、何かあったのですか?」

「そうだ!またあの虫が現れたんだ。」

「丁度良いタイミングね。

調べて来たらどうかしら?」

「ああ。案内頼めるか?」

「わかった。着いて来てくれ!」

「フィーネさんは?」

「私はもう少しだけここにいるわ。

少し気になる事もあるし。」

「了解だよ。」

そうして、クリスとスィーヨは、ステファンの案内の元、謎の生物がいる場所へ向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「着いた!

ここで見かけたんだ。」

そう言ってステファンが立ち止まったのは、村のゴミ捨て場だった。

 

「ここって…ゴミ捨て場か?」

「みたいだね。

でも、肝心のその生き物が見当たらないけど…?」

「多分、ゴミの山の中に隠れているんだと思う。

あの生き物は、ここと、戦死者の墓の辺りで見かける事が多いんだ。」

「そうなのか?

それにしても、何処にいるんだ…ん?あれか!?」

そう言って、クリスはゴミの山の一角を指さす。

そこには、背面全体が金属の様な光沢を放つ黄緑色の甲殻で覆われた昆虫の様な生き物が、ゴミの山を這う様に歩き回っていた。

大きさは約0.5メートル程と、確かに昆虫としては巨大なサイズだ。

 

「間違いない、あの生き物だ!」

「あれが…確かに、虫にしてはデカイな…。」

「ああ…何かと思ったら、“クンチュウ”か。」

その生き物…クンチュウを見て、スィーヨは呟いた。

 

「クンチュウ…?それって、あの虫の事?」

「そうだよ。」

「(…お前が知ってるって事は、あれも…?)」

「(うん。ぼく達がいた世界にいたモンスターだよ。)」

「(やっぱりか…。

でも、どうするんだ?

流石にステファンやママ達にそのまま説明はできないぞ?)」

「(…そこは、こっちでなんとか誤魔化して説明するよ。)」

「(わかった。)」

ステファンに聞こえない様に小声で話し合う。

 

「えっと…2人共どうかしたの?」

「あっ、いや。何でもないよ。」

「ああ。他愛もない話をしていただけだ。」

「そう…?

ところで、あの虫…クンチュウって、どんな生き物なの?」

「えっと、そうだね…。

一言で言うなら、とんでもなく硬い甲殻を持っている虫って所かな。

金属にも匹敵する程の硬い甲殻で、背面全体を覆っているのが特徴なんだ。」

「そんなに硬いのか!?」

「うん。

余りにも硬過ぎて、刃物を突き付けたら逆に刃が欠けてしまったり、ポッキリ折れてしまった、なんて話もあるくらいだよ。

体がここまで巨大になったのは、その圧倒的な防御力による影響だと言われているんだ。

大きな体は物陰に隠れるのに不向きだけど、そもそも隠れる必要がないからね。」

事実と嘘を混ぜながら、スィーヨはステファンに説明する。

クンチュウは、スィーヨのいた世界では“小型モンスター”扱いだが、この世界の人達から見れば、昆虫の中では“大型”に匹敵する大きさだからだ。

 

「隠れる必要がないくらいの防御力…すごいな!」

「万が一、敵に襲われても、クルッと体を丸めて身を守るんだ。

因みに、食性は生物の体表面に付着した老廃物や腐肉、腐葉土等だから、被害が出る事は殆ど無いと思ってくれれば良いよ。」

「いわゆる、スカベンジャーって事か。

でも、良かったな。害は無いってさ。」

「そっか…村の人達は皆不安に思ってる人も多かったから、安心したよ。」

「それは何より。

…あ、こっちに気付いたみたいだね。」

ふと視線を何処かに向けながら呟くスィーヨ。

クリスとステファンも目を向けて見ると、1匹のクンチュウが、上体を起こして威嚇していた。

 

「あれ、こっちを威嚇してるのか?」

「クンチュウは防衛本能が強いからね…。

外敵に対して、ああやって威嚇してくる事があるんだ。」

「それも、防御力が高いからって事なのか…。

…あ、そうだ。」

突然ニシシッと笑うと、ステファンはクンチュウに近寄って行く。

 

「お、おい!

あまり近付くなって!」

「大丈夫!

害は無いんだろ?」

そう返事をした時だった。

 

『キシシシッ…!』

 

ーコロロロロロロロ…ドカッ!ー

 

「グフォッ!?」

突然、丸まった状態で勢いよく転がって来た。

よそ見をしていたステファンは、転がり体当たりを腹に喰らってしまった。

体当たりを喰らったステファンはそのまま地面に倒れる。

 

「あっ…。

言い忘れてたけど、クンチュウは丸まった状態で体当たりをしてくる事があるから、余り刺激しない様にしてね。」

「それ…もっと早く言ってくれよ…。」

チーン…と言う効果音がなりそうなピッタリなポーズでステファンは呟くのであった…。

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