バルベルデ村の入り口付近、ステファンはサッカーボールでリフティングの練習をしていた。
以前、この村の地下に隠されていた聖遺物『マヤの遺産』を狙ったブリル協会による紛争以降、大きな紛争も起きていない。
それから、村の復旧作業の合間に、夢であるサッカー選手になる為、こうして練習をしているのだ。
「村にはクンチュウが現れてるけど、特に害はないみたいで良かったな…。
まあ、あんな風に体当たりしてくるとは思わなかったけど…。」
リフティングをしながら呟いた時だった。
…クワァ〜…!
「…ん?」
鳥の様な鳴き声が耳に入り、空を見上げる。
その瞬間ー
『クゥワワワワ…クワァアッ!』
ーバサッバサッバサッバサッ!ー
「っ!?」
ステファンの目の前に巨大な鳥ー“怪鳥”イャンクックが舞い降りて来た。
地上に降りたイャンクックは、クンチュウを探して周囲を見回していたが、ステファンに気が付くと、ピタッと動きを止めた。
「な…な…!?」
『…。』
驚きのあまり、腰を抜かすステファンと、それをジッと凝視するイャンクック。
その時、運悪くステファンの後ろにクンチュウが姿を現してしまった。
『ッ!クワァアアッ!!』
クンチュウに気付いた瞬間、イャンクックは大きな鳴き声を上げながら、ステファンの背後にいるクンチュウに向かって走り出す。
「う、うわぁあああっ!!」
イャンクックに踏み潰されそうになり、ステファンは悲鳴をあげた。
「危ないっ!!」
ードフォオンッ!ー
『クワッ!?』
その瞬間、ステファンとイャンクックの間に巨大な棍棒の様な物が割り込み、イャンクックの顔面に直撃した。
突然の攻撃に、イャンクックは体のバランスを崩し、倒れてしまう。
「ギリギリだったね。大丈夫!?」
「やっぱりここに来てたか、イャンクック!」
駆けつけたのは、狩猟笛をブルンと回しながら肩に乗せるスィーヨと、二丁の銃を構えたクリスだった。
「あ、ああ!なんとか大丈夫だ。」
「それなら、村の人達に“怪鳥が現れたから避難して”と伝えてくれないかな?」
「わかった!でも、2人は…?」
「あたしらは、コイツをなんとかする。
絶対にコイツを村には入れないからな!」
「そうだ!このポーチも一緒に持っていってくれないかな?
戦いの時に少し邪魔になるんだ。
ポーチの中身は、怪我人が出た時に飲ませて!」
「わかった!2人共、気を付けてくれ!」
スィーヨから回復薬が入ったポーチを受け取り、ステファンは村へと走って行った。
その時、イャンクックが立ち上がった。
扇状の耳を広げて、攻撃態勢に入っている。
「さて、あたしらはコイツをなんとかしなきゃな!」
「イャンクックは、ランポスやマッカォと同じ鳥竜種ではあるけど、その戦法は今までとは別物だから気を付けて!」
「コイツと戦う時の注意点はなんだ?」
「イャンクックは、口から発火性の液体を吐き出して、遠距離攻撃をしてくるよ!
火球を吐き散らしながら突進攻撃もしてくるし、低空飛行で一気に距離を詰めて来る事もあるから、出来る限り移動しながら攻撃して!」
「離れていても、攻撃が届くって事だな。
肝に銘じておく!」
「ぼくがイャンクックに接近して攻撃をするから、クリスさんは遠距離から援護をお願い!
さあ、狩りを始めよう!!」
そう叫び、スィーヨは狩猟笛を構えてイャンクックに突撃する。
『クゥヮワワワ…クワァアーーッ!!』
イャンクックも咆哮を上げると、突撃して来たスィーヨに飛び掛かり、クチバシでつつこうとする。
スィーヨの使用武器である狩猟笛は、テインの使用するハンマーとほぼ同じ重量がある。
それ故にどうしても機動力が落ちてしまう為、普通であればこの攻撃を避けるのは難しい。
だか、それはあくまで1人だったらの話だ。
「させるかよっ!!」
ーズダダダダダダダダッ!!ー
『クヮッ!?』
スィーヨをつつこうとした瞬間、弾丸の嵐がイャンクックの足元に放たれた。
突然の攻撃に、イャンクックはビクッとして動きを止める。
その隙を、スィーヨは見逃さない。
「隙あり、だよっ!!」
ーブァオンッ!ー
『クワァッ!?』
狩猟笛を振り上げ、イャンクックに思い切り叩きつける。
さらに追撃を仕掛けようとする…が。
『クワァッ!』
ーボゥワアッ!ー
「う、うわーっ!?」
その瞬間、口から火球を吐き出して来た。
吐き出された火球は、スィーヨに直撃する。
それを見て、クリスは目を見開いた。
「お、おい!?大丈夫か!?」
「大丈夫じゃないよーっ!?あっつ!アチアチッ!!」
毛皮面積が広いマフモフ装備は、当然ながら火が付きやすい。
防具についた火を消そうと、スィーヨは大慌てで転げ回る。
『クワァーッ!!』
その隙に、イャンクックは遠距離から攻撃していたクリスに向かって走り出した。
「そうやって近付く事もあるのかよ!?」
銃弾を放ちながら叫ぶクリス。
銃弾は明らかに命中している筈だが、甲殻が防弾チョッキの様な効果を発揮しているのか、あまり効いていないようだった。
『クワァッ!!』
ーガッガッガッガッ!ー
「うわっと!?」
ある程度まで近付いた瞬間、クリスに飛び掛かってつっつきをしてくる。
しかし、その場で転がって回避すると、そのまま背後に回り込む。
「後ろがガラ空きになっているぞ!」
そう叫びながら引き金を引こうとする。
しかし、丁度燃えていた炎を鎮火したスィーヨは、顔を青ざめさせて叫んだ。
「ッ!?
だめ、クリスさん避けて!!」
「は?」
その瞬間ー
『クヮアオーッ!』
ーブオンッ バシィッ!ー
「ぐはっ!?」
イャンクックが急に体を回転させて、尻尾を振り回した。
狙撃をする為に視界が狭くなっていたクリスはそれをモロに喰らい、吹っ飛ばされてしまう。
「がっ、ぐうっ!」
「大丈夫!?」
「ああ、なんとかな…。」
「背後に回ったからと言って、油断はしないで。
イャンクック…いや、イャンクックに限った事じゃないね。
多くの大型モンスターは、背後に回り込んでも今みたいに尻尾を振り回したりして反撃をしてくるんだ。」
「対抗策はないのか?」
「一部の大型モンスターは、尻尾を部位破壊…つまり切断する事によって、その威力とリーチを狭める事が出来るんだけど…。」
「けど、なんだ!?」
「ぼく達の手元にある武器では、破壊する事は難しいし、そもそもイャンクックは尻尾を部位破壊出来ないモンスターだから、どうにも出来ないよ…。
ぼくから言える事と言ったら、クリスさんみたいなガンナーは、出来るだけ距離を取る事を常に意識して近付かない様にする事、接近戦になっても、出来るだけ正面に回り込むようにする事…くらいかな。」
「それを聞ければ充分だ!」
「…というか、クリスさんってミサイルを使えるんだよね?
炎攻撃に耐性を持つイャンクックでも、それを使えばあっという間に倒せると思うんだけど?」
「本当ならそうしたいところだ。
でも、ここでは無理なんだよ!」
「ここでは…?…あっ!?」
その言葉の意味を、スィーヨはすぐに理解した。
確かに、大量のミサイル攻撃をすれば、イャンクックを倒す事が出来るかもしれない。
しかし、今自分達が戦っているのは村のすぐ近く。
もしここでそんな事をしたら、爆風や流れ弾で村に被害が出る可能性が高い。
だから、クリスはミサイルによる攻撃が使えないのだ。
「くそっ…それにしても、ちょこまか走り回るから、思うように当てられないな…。
せめて、アイツが動きを止めてくれたら良いんだけど…。」
「…それなら、1つ方法があるよ。」
「本当か?」
「うん。
イャンクックの大きな耳は、集音性に優れているんだけど、それ故に爆音に弱いんだ。」
「つまり、大きな音を立てれば、動きが止まるって事か?」
「その通り。
爆音を聴くと、ショックで暫く動けなくなるんだ。」
「でも、その音源はどうするんだ?」
「ぼくの狩猟笛の旋律で、“高周波の旋律”がある。
それで、イャンクックの動きを止める!
動きが止まったら、クリスさんは一気に畳み掛けて!」
「了解だ!」
頷くと同時に、スィーヨはイャンクックに突撃する。
『クワァッ!!』
「おぉりゃああっ!」
つっつきを仕掛けるイャンクックに、狩猟笛を何度も振り回すスィーヨ。
そしてー
「旋律完成…行くよっ!」
そう言うと同時に、イャンクックから離れて、狩猟笛を縦に構えて吹き鳴らす。
その瞬間ー
ーーーーッ!!!!!!!!!!
『クワァッ!!?…クキュゥゥ…!』
狩猟笛から、高周波の爆音が放たれる。
突然の爆音に驚いたイャンクックは、その場で棒立ちをしたまま固まってしまう。
「クリスさん、今だよ!」
「よしっ!そこから離れなっ!!」
その瞬間、片手に持つ銃口に赤い光を集めた状態で、スィーヨと入れ替わる様に突撃するクリス。
ある程度まで距離を詰めると、引き金を引いて赤い光の矢を数発放った。
ー『QUEEN'S GUST』ー
放たれた光の矢は、硬直しているイャンクックに命中する。
着弾の衝撃で土埃が巻き起こり、イャンクックが見えなくなる。
「…やったか?」
「…出来れば、今のでやられて欲しいけど…。」
「そういえば、お前何でイャンクックの動きを止めるあの方法を最初から使わなかったんだ?」
「…それはね…」
『クワァーッ!』
「「!?」」
突然聞こえて来た鳴き声に、目を丸くしながら視線を向けるスィーヨとクリス。
そこには、耳を畳み口から白い煙を吐きながら、地団駄を踏む様に飛び跳ねているイャンクックの姿があった。
「嘘だろ…アレを食らって生きてるのか!?」
「耳を畳んでいるから、だいぶ弱っているみたいだけど…。
そして、やっぱり怒り状態になってる!」
「…“やっぱり”?どう言う事だ!?」
「イャンクックは、爆音を聴くと一時的に硬直するんだけど、それが解けた後は必ず怒り状態になるんだ!
怒り状態になると攻撃がかなり激しくなるから、出来るだけ使いたくなかったんだよ…。」
そう言った時だった。
『クワァアーーッ!!!』
ーボワァッ!ボワァッ!ボワァッ!ボワァッ!ー
火球を辺りに吐き散らしながら、イャンクックが猛スピードで突進する。
2人はギリギリの所で飛び退き、突進を回避した。
「うわぁっと!?
おい、またあの高周波で動きを止められないのか!?」
「無理だよ!
イャンクックは、怒り状態の間は爆音が効かなくなるんだ!
アレをもう一度使うには、怒り状態が解けるまで待たないと!」
「暫く使えないって事か!…あっ!?」
「どうしたの!?」
「まずい!イャンクックが村の中に!!」
「ええっ!?」
慌てて見てみると、イャンクックが火球を吐き散らしながら村の入り口を通り過ぎてしまっていた。
「あわわ…大変だ…!」
「急いで追うぞ!」
そうして、2人はイャンクックを追って村の中に走って行くのであった。