戦姫と狩人   作:暇を持て余す火の玉

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前回、ゲリョスの討伐に成功した装者と狩人の3人!
…しかし、ゲリョスの事を知る人ならわかるでしょう。
閃光と毒液の他にある、ゲリョスの“得意技”を…。


第14話:濃霧に紛れし乱入者

「や…やったー!」

「っしゃぁああ!討伐完了だぜー!!」

地面に倒れ伏すゲリョスを見て、勝利の歓声をあげるテインと響。

 

「こちら翼です。

ゲリョスの討伐を完了しました。」

[こちらでも対象の沈黙を確認した。

3人共、良くやってくれた。]

「これで、ゲリョスに宝石を盗まれる事も無くなるんだよね?」

確認の為にテインに尋ねる響。

 

「ま、一応な。

こっちの世界にマッカォみてぇなモンスターが現れないとは言い切れねえけど、とりあえず何か盗まれるなんて事は無くなるだろ。」

「良かったー!」

[後は、我々に任せてもらおうか。

ゲリョスが盗んだ盗品類も、我々の方で返却しておこう。

装者2名とテインは、本部の方に戻って来てくれ。]

「わかりました。これより帰投します。

2人共、本部に戻るぞ。」

「了解です!」

「にしても、まさかゲリョスをぶん投げるなんて思わなかったぜ。

どんだけ馬鹿力なんだよお前はよ…あん?」

からかう様な口調で響にそう言った時、ふと首を傾げてその場に立ち止まるテイン。

 

「テインさん?」

「どうした?」

「待てよ…なーんか忘れてる事がある様な…。」

「忘れてる事?」

「ああ。

ゲリョスに関する事で…重大な事があった様な…うーん…?」

「ゲリョスに関する事で重大な事?」

「何だったっけかー?

もうちょいで思い出せそうなんだが…。」

眉間に指を押し当て、うーんうーんと唸りながら呟くテイン。

ーその時だった。

 

『グァアアアーッ!!!!』

倒した筈のゲリョスが起き上がり、滅茶苦茶に暴れた。

 

「なっ、何っ!?」

「えええっ!!?」

「う、うぉおっ!!?」

完全に油断していたテイン達はその大暴れに巻き込まれ、叩き伏せられてしまった。

 

「何で…倒した筈じゃ…!?」

なんとか立ち上がりながら呟く響。

その時、テインがハッとした様に大声を上げた。

 

「そ、そうだ!

コイツ、死んだフリをするって事忘れてたぁあ!!」

「えええっ!?」

「だが先程の様子は、力尽きた様にしか見えなかったぞ!?」

「コイツの死んだフリはハッキリ言って完璧だからな…。

マジで死んだのと見分けるのは滅茶苦茶むずいんだよ!

唯一の見分ける術は、トサカが点滅するか否かなんだが…トサカを先に破壊しちまったから見分けが付かなかった!」

「ね、ねえ…!ゲリョスの様子が…!!」

ゲリョスを指差しながら呟く響。

見ると、ゲリョスが地団駄を踏む様に跳び跳ねていた。

口からは白い煙が噴き出て、目の周りが真っ赤になっている。

 

「や、やべぇ…!怒り状態になってやがる…!!」

そう呟いた瞬間だった。

 

『グアアーッ!!!』

 

ーダスッ!ダスッ!ダスッ!ダスッ!ダスッ!ー

 

「なっ!?あああーっ!!」

先程よりも俊敏な動きで翼に飛び掛かり突っつき攻撃を打ち込んだ。

突然の、その俊敏さに不意を突かれた翼は、そのつっつきをモロに喰らってしまった。

つっつきを喰らった翼は、そのまま弾き飛ばされてしまう。

 

「翼さん!!」

「翼!!」

「私は大丈夫だ。それより気を付けろ!

先程よりも動きが素早くなってい…る…!?」

言葉が途中で途切れると、急に両手を地面についてしまう。

 

「翼さん!?どうしたんですか!?」

「はぁ…はあ…!

なんだ…これは…体に…力が入らない…!」

慌てて駆け寄る響。

見ると、翼の顔色がかなり酷くなっており、呼吸もかなり荒くなっている。

それを見て、テインは翼の身に何が起こっているのかを瞬時に理解した。

 

「不味いぞ…ゲリョスの毒にやられたんだ!」

「ゲリョスの毒!?

でも、さっき毒液は吐き出していなかったよ!」

「怒り状態だとつっつき攻撃にも毒液が噴き出るんだよ!」

ハンマーを構えながら叫ぶテイン。

怒り状態に突入したゲリョスは、荒々しい鳴き声をあげている。

気を引き締め直したーその時。

突然廃アパート内に霧がたちこめ始めた。

 

「…?なんだこりゃ…。」

「これは…霧?なんで急に?」

首を傾げるテインと響。

ゲリョスも突然の霧に困惑した様子で周囲を見回している。

その間に、霧は瞬く間に濃くなって行き、気付いた時には1メートル先も殆ど見えない程の濃霧になっていた。

 

「んだよこれ!霧が濃過ぎて周りが良く見えねえじゃねえか!!

響!近くにいるよな!?」

「私ならここだよ!」

声と同時に、霧の中から響の手が伸びてくる。

テインはその手を掴むと、そのまま響達の側に座り込んだ。

 

「よし…暫くこのままじっとしてようぜ。

幸い、ゲリョスもオレ達の事を見失ってるみたいだしな。」

「うん。その方が良いと思う。」

「その間に…響、コイツを翼に飲ませろ。」

そう囁きながら、ポーチの中から青緑色の液体が入った小瓶を差し出した。

 

「これは?回復薬に似てるけど、色が違う様な…。」

「“解毒薬”だ。そいつを飲ませれば、毒が治せる。」

「わかった!」

頷くと小瓶の蓋を開けて、中身を翼に飲ませる。

液体が口に注がれ、それが飲み込まれた瞬間、翼の顔色が瞬く間に良くなった。

 

「う…。」

「気分はどうだ?」

「ああ、ありがとう。

それにしても、これは一体…?」

「私にもわからないんです。

突然霧がたちこめ始めて、気付いたらこの状態で…。」

「テインは、何か知らないのか?」

「いや、オレにもサッパリだ。

一体何がどうなってやがるんだ…?」

周囲を見回しながら呟いた時、導蟲の色が“青色”に変化した。

 

「テインさん、導蟲が…!」

「これは…青い光…?」

「コイツは…。」

その時ー

 

『キュララララ…。』

「「「!!」」」

突然、ゲリョスとは別の鳴き声が廃アパート内に響き、何かが廃アパート内に入って来た。

声が聞こえて来た方を見ると、濃霧で視界が非常に悪い為良く見えないが、大きな影が蠢いているのが見える。

その影は、まるでカメレオンの様な独特の動きでゲリョスに向かって行く。

 

『グァアーッ!!』

それに気付いたゲリョスの影は、新たなる侵入者を追い払おうと、突撃を仕掛けようとする…が…。

 

『キュルラッ!!』

 

ービュルッバシイッ!ー

 

突然、影の顔辺りから細長い鞭の様な物が伸び、ゲリョスの影に打ち付けられた。

更に謎の影は、口から液体の様な物を吐き出し、ゲリョスにぶっかける。

対するゲリョスも、毒液を吐きかけようとする。

       ・・・・・・・・・

だが、次の瞬間その影が姿を消した。

濃霧に溶け込む様に、透明になる様に消えてしまった。

突然姿を消した謎の影を探して、ゲリョスの影は周囲を見回している。

そして次の瞬間、謎の影がゲリョスの真後ろに現れ、そのまま体当たりをお見舞いした。

 

『グググ…グァアー…!』

心なしか弱々しくなった鳴き声を上げながら、ゲリョスは謎の影に向かって突撃しようとする。

しかし、その影に向かう途中で、力尽きた様に倒れてしまった。

 

『キュルルル…。』

それを見ると、謎の影は響達の方に顔を向ける。

顔がどんな物なのかはやはりわからないが、ほんのりと白く光る一本の角だけはかろうじてわかった。

謎の影は暫くジッと響達を見つめていたが、再び濃霧の中に溶け込む様に姿を消して行った。

そして、気配が消えると同時に霧が晴れて行き、数分後には完全に消え去った。

 

「今のは…一体…?」

「あ…!?翼さん、あれ…!」

呟きながら指差す響。

その先には、力無く倒れたゲリョスがいた。

 

「あれって…?」

「油断するな、立花。

また死んだフリかもしれないぞ。」

「そうだな。よし、オレが少し確認してくる。」

警戒したままゲリョスの元へ向かうと、ハンマーで叩いたりして確かめる。

 

「…大丈夫だ。

今度は本当にくたばったみたいだぜ。」

「そうか…。

それにしても先程のアレは一体なんだったんだ…?」

「アレが現れた途端、導蟲が青色に光ってましたよね…。」

「…。」

「テインさん?」

黙りこくるテインに声をかける響。

その体は微かに震えていた。

ただし、怒りではなく、興奮を抑えきれない様な震えだった。

 

「…すげえ…!

まさか、こんな所で“オオナズチ”に出会えるなんて思わなかったぜ…!」

「…オオナズチ…?」

「何者なのか気になるが…今は本部に戻るぞ。

話はそれからだ。」

そうして、3人は廃アパートを後にし、本部へ向かうのであった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「3人共、今回は良くやってくれた。

これでゲリョスによる盗難被害も収まるだろう。」

「ゲリョスを倒したのはオレ達じゃなくてオオナズチなんだけどな。」

「?どう言う事だ?」

「実は…。」

翼は通信を切った後に起こった出来事について八鉱に説明した。

 

「…そんな事が起こっていたのか。」

「はい。

ゲリョスが起き上がった後に、突然濃霧と共に謎の影が出現しました。

それが消えた後、ゲリョスは息絶えていたんです。」

「テインさんは、それが“オオナズチ”って言うんですけど…。」

「先程から気になっていたが、その“オオナズチ”とは何なんだ?」

「オオナズチってのは、“霞龍”と言う別名を持つ“古龍種”のモンスターだ。」

「古龍種…?」

「古龍種ってのは、まさに伝説の存在でな。

それぞれが自然の力を具現化したかの様な能力を持っているらしいぜ。

オオナズチは、霧を自在に発生させる力を持つって話だ。」

「じゃあ、あの濃霧はそのオオナズチが引き起こした物だったのか。」

「ああ。

古龍ってのは、余りにも規格外過ぎる生態と能力で、色々とわかってねぇ事が多い存在だ。

オレが覚えているオオナズチの特徴はその姿を瞬時に消して、瞬間移動する事が出来るとかだな。」

「でも待って!

そんな力を持った存在がこの世界にいるなら、オオナズチも倒さなきゃならないんじゃないの!?」

響の言う事も尤もだ。

自然の力を具現化した様な強大な存在がいるのならば、それを放置する訳にはいかないだろう。

 

「いや。別に大丈夫だろ。」

それに対するテインの答えはかなり能天気な物だった。

その答えに、八鉱は少し表情を厳しくする。

 

「何故だ?」

「オオナズチ…というか、古龍種って基本的に人間とか他の生物とかには全くと言って良いほど興味を示さないらしいんだよ。

こっちから手を出して奴らを怒らせるよりも、そっとしておくのが最適な判断って事さ。

勿論、害が出て来たらその時はその時だがな。」

「確かに、あの時も私達に気付いていたのに、全く手を出して来なかったですよね…。」

「それに、オオナズチは今どこに居るのかもわからねえ。

オレ達はオレ達で元の世界でやる事もあるから、ここに留まってオオナズチを討伐するのは、ハッキリ言って時間の無駄だ。」

「…わかった。

では、今回は様子見をするとしよう。

しかし、実害が出始めた時は、よろしく頼むぞ。」

「おうっ!

そんじゃ、そろそろオレ達は元の世界に帰るか?」

「そうだな。

今回の事を叔父様にも報告しなければ…。」

「では、この話はここまでとしよう。

改めて、今回はありがとう。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

並行世界間を繋ぐゲート前に、3人は集まっていた。

見送りとして、シャロンと八鉱がいる。

 

「そうだ。シャロンちょっとこっちに来てくれないか?」

「?うん。」

言われるままにテインの元に向かうシャロン。

 

「取り戻したからな、返すぜ。」

首飾りを付けながら言う。

シャロンの首には覚めるような蒼色のマカライト鉱石の首飾りが付けられていた。

 

「わぁ…!ありがとう!」

「この位はどうって事ないさ。

ただ…その…もしまた会ったらよ…オレの事、お兄ちゃんって呼んでくれよな。」

少し恥ずかしそうにしながら言うテインに対し…。

 

「…うん!わかった、テインお兄ちゃん!」

シャロンは笑顔でそう答えたのであった。




シャロン世界編はこれで終わりとなります。
次回、第2章最終並行世界編です!

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