外道魔術師の一目惚れ   作:シークレット/K

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第一話

アルザーノ帝国、帝都オルランド。

魔術犯罪集団である天の智慧研究会において、第二団(アデプタス)()地位(オーダー)】として活動する外道魔術師、シュバルゴ=モータナスはその日、どうしても外せない私用で最も警備が厳しい帝都へやって来ていた。

 

「……何故、オレがわざわざ出向いてまで貴様に会いに来なきゃならんのだ。警備を躱すのも簡単では無いんだぞ」

「まあまあ、そう言わないでくださいって師匠。この埋め合わせは後でちゃんとするっすから」

「そうでなければ俺はここにはいない。要件を早く言え、特務分室が嗅ぎつけて来たらどうする」

 

警備は完璧に躱したが、それでも今いるのは帝都だ。

帝国宮廷魔導師団の本部は当然ここにあり、定期的に魔術による見廻りも行われている。

外道魔術師としての悪名が知れ渡っている以上、長居は危険だ。

 

「分かってますって。……少し、王室が騒がしいんっすよ。詳細が分からないから困ってんすよね」

「王室だと?」

 

王室。

つまり、女王とその家族、そして大臣に王室親衛隊。

関係者としてはこの辺りだろうが、このタイミングでの騒ぎは確かに不可解ではある。

 

シュバルゴが所属する天の智慧研究会が何かしらの作戦を決行したという話は少なくとも自身の耳には届いてはいないし、上司である第三団(ヘヴンス)()天位(オーダー)】からも音沙汰は無い。

 

その他のテロリストやらが関係している場合でも、何かしらの情報は表に出ているはずで、それを弟子である彼が逃すはずもない。

性格についてはあまり好まないが、情報収集の手腕はむしろシュバルゴよりも上である事を認めているのだ。

そんな彼が"詳細が分からない"と言ったとなれば、疑問も浮かぶ。

 

「貴様が匙を投げるとは、珍しいな。要件はその調査か?」

「流石師匠、話が早い。俺のコネクションで王城に忍び込めるのは師匠しかいないっすから。達成したら埋め合わせにプラスしてさらにサービスするんで!」

「……その言葉、忘れるなよ」

 

相変わらず言葉が軽い弟子に念押しをして、行動を起こす準備をしに足を進めようとして────背にかけられる弟子の言葉で足を止める。

 

「ほんと、意外っすよね、師匠。外道魔術師で所属してるのはあの天の智慧研究会なのに、世帯を持ちたがってるだなんて」

「……おい、貴様。それはオレを馬鹿にしていると解釈していいのか?大体、結婚願望の何が悪い!!外道魔術師は結婚してはいけないのか!」

「いや、世間的から見れば外道魔術師に嫁ぐ人なんていないっしょ。結婚したいならなんで師匠は外道魔術師になったんすか……」

 

正論で返されて言葉が続かない。

師匠と弟子のマウントがいつの間にかひっくり返っている。

 

まあ、他人の意見などどうでもいいのだが。

そんなことよりもシュバルゴにとって重要なのは、調査を終えた後の弟子がセッティングしてくれる合コンである。

チャラい口調の弟子は口調だけでなく外見も性格もチャラい。

その手のことはお手の物なのである。

 

「疑問に思うのは二の次にして、貴様はオレのために首尾を整えておけばいいんだ!!さっさと行け!」

「今回()失敗して終わることにならなければいいっすね!」

「貴様ァ!」

 

シュバルゴ=モータナス29歳、彼女いない歴=年齢の童貞である──。

 

#

 

様々な気配を遮断する魔術を重ね、念には念を入れて魔術的付与を自身に更に重ねたシュバルゴは、王城内に侵入していた。

 

(────確かに妙だな)

 

それは、言われなければ気付かない程に些細な違い。

以前に侵入した事があるシュバルゴですら、注視しなければ違いが分からないくらい、王城内の主要人物達は気取られまいと警戒をしつつ、その警戒心をも表に出さない徹底ぶり。

弟子はよく気づいたものだと感心する。

 

「────るなんて……」

 

複数の足音と共に話し込む声が聞こえて、咄嗟に天井に張り付いて聞き耳を立てる。

声の主は2人の女中のようだ。

 

「まだ、年若かったのに……ままならないですよね……」

()()()()()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

(なん……だと……?)

 

エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ。

アルザーノ帝国における第二王女であり、天の智慧研究会にとって重要な人物であるとシュバルゴが考察する人物。

 

というのも、何かとシュバルゴの上司である第三団(ヘヴンス)()天位(オーダー)】の一人が気にかけており、定期的に様子を報告するように命令されているのだ。

以前来たことがあるのはこれが原因だったりする。

警備が厳重で姿は見ていないが、ある程度近づいて魔術を用いて聞き耳を立てて様子を伺ったりしていた。

 

そんな人物が、流行り病で死んだ?

 

有り得ない、と言える。

そもそもこれだけの警戒態勢を築いている中で、口が軽い女中が知っている事が事実とは到底思えなかった。

というか、王女誕生からしばらくして表に姿を晒さなくなったのは何故なのかを考えると、何かがあるとしか思えない。

 

であれば、向かうべきなのは。

 

(女王は今、どこにいるのか……)

 

真相を突き止めるべく、シュバルゴは女王陛下を監視する為に動こうとして。

探知魔術に自身が引っかかったことを知らせる魔術が反応した。

 

(ッ、バレたか!?)

 

どれだけ警戒して隠蔽を重ねても、王城はトップクラスの魔術師や魔道士が常駐している為に、本気で探知魔術を使われては自身の存在が露呈することは避けられない。

だからこそ何かしらの魔術にかかってしまった時にそれを一回のみ知らせる魔術────固有魔術(オリジナル)、【魔術知覚】(そのまんま)を使用していたのだが、それが役に立ったらしい。

この魔術のデメリットとして、自分で自身に魔術付与をした場合でも反応してしまう為に、魔術付与をし終えてから使用しないと意味が無くなってしまうことから、使い所は限られるのだが。

 

「チッ、居場所が割れてしまったのならなりふり構っていられないな……!」

 

索敵の魔術を使用し、通路の全てが塞がれたことを確認したシュバルゴは、【ブレイズ・バースト】で城壁を爆破し、【グラヴィティ・コントロール】で自身の重力を軽くし、飛び降りる。

このまま帝都を出てしまいたいが、そうは問屋が卸さないらしい。

 

「……貴方は、外道魔術師シュバルゴ=モータナスね。天の智慧研究会、第二団【地位】が、王城になんの用だったのかしら?」

「フン、答えると思うか?特務分室、【魔術師】のイヴ=イグナイト」

 

考えうる限りでの最悪の展開だ。

ここでイヴと戦闘した時の勝算は無いに等しい。

それでも、ここで捕まり、死ぬわけにもいかない。

何故ならば、

 

まだ、結婚していないからだ!!

 

幸せな生活に飢えているシュバルゴは、こんなところで時間を取られる訳には行かないのだ。

……こうなってくると、本当に何故外道魔術師になり天の智慧研究会に所属しているのか、自身でも疑問に思えてくるが……。

 

「なってしまったものは仕方ない」

「はぁ?」

「気にするな、こちらの話だ」

 

とはいえ、ここからどうするか。

そもそも、見つかってから城外へと飛び出し、着地した先には【魔術師】が居た、というのはあまりにも出来すぎている。

 

探知魔術に引っかかってからの対応であれば確実に【魔術師】はここにはいない。

かといって所属する天の智慧研究会や、不肖の弟子が情報を流したとも考えづらい。

 

であれば、この場には"何か"があると考えるべきだろう。

 

イヴの行動を警戒しつつ、辺りを視線だけで見渡す。

何も見つけられなければ、シュバルゴの人生は終わりだ。

抵抗しても死ぬし、投降しても口封じの為に殺されるだろう。

 

だが────天はシュバルゴに味方した。

 

「貴様らの背後の……馬車、か?何かがあるな?」

「…ッ!!」

 

あからさまな反応。

苦虫を噛み潰したような貌をするイヴに、シュバルゴは何かしらの重要物が存在することを確信した。

普段であれば、イヴはこのような反応を見せるようなミスはしないはずだが、今回に限っては重要度が特別上なのだろう。

 

「重要なものがあるにしては、それを守るのが【魔術師】一人とはな」

「ふん、貴方一人くらい、《私・一人で・十分よ》!!」

「ッ!!」

 

黒魔【ブレイズ・バースト】がシュバルゴを襲うが、着弾するまでの刹那の間に詠唱済み(ストック)してあった【フォース・シールド】を時間差起動(ディレイ・ブート)してやり過ごす。

煙が晴れるまでの時間を使ってイヴに接近し、その頃には動き出していた馬車の影を一瞥する。

それを襲う人物らしき影も一緒に。

 

煙が晴れると同時にイヴの位置を把握した瞬間に【ライトニング・ピアス】を時間差起動。

これで詠唱済みの魔術は使い切ったが、イヴは上手く避けたらしく、かすり傷だ。

 

それでも馬車を再び盗み見るだけの時間は稼げた。

馬車を襲った人物を確認すると、案の定弟子だった。

 

「《吠えよ炎獅子》!!」

「《光の障壁よ》」

 

この場に眷属秘呪(シークレット)【第七園】は設置されていないらしい。

まあ、秘匿護衛任務だったとしても、出発地である王城で襲われるとは思わなかったのだろう。

そもそも【第七園】の構築にはかなりの数の工程が必要になる。

通り過ぎるだけの予定だった城門に設置している筈もなかった。

 

そして、馬車が近い為にB級以上の軍用魔術は使えない。

【第七園】が無いイヴには、C級以下の魔術で足止めをする事が精一杯だろう。

弟子ではない男の声を聞いて、シュバルゴは弟子の様子を確認する。

 

「……ほう、馬車の方にも手練が居たか」

「ッ!!ええ、私は貴方一人を止められればそれでいいのよ」

 

銀髪の紳士の放つ風魔術が、弟子の身体を吹き飛ばす。

事前に防護魔術を重ねがけしていたらしい弟子が、大事無いようであるのを確認し、再びイヴを見る。

 

「──の戦槍よ》!!」

「ち。まずい、な……ッ!!」

 

【ライトニング・ピアス】を放たれ、その場を横に跳躍して回避するが、二反響唱(ダブル・キャスト)によってもう一筋の雷閃が、着地直後のシュバルゴの身体を貫く。

 

着地と同時に身体をひねったことや、未だ付与魔術が解けていなかったのが幸いして致命傷には至らなかったが、このままでは数手で詰みだ。

【魔術師】イヴ=イグナイトがこの好機を逃すはずもないため、全力で逃走したくなるが、()()()()()()()()()()()()

諦めるにはまだ早い。

 

「《雷槍よ》──《踊れ(タンズ)》」

「っ!?【七星剣】!?」

 

【ライトニング・ピアス】の同時七連射が、イヴ目掛けて飛んでいく。

一点に収束していくために、【フォース・シールド】や、魔術的付与を重ねた防具をも貫く威力をもつ超絶技巧───だが、雷閃が貫いたハズのイヴの姿が霞へと消える。

そして、背後から首に当てられる暗器。

 

「……幻術か」

「ご名答。秘伝【火幻術】。火の揺らめきで相手に幻術をかける──秘伝の奥の手よ。観念しなさい、シュバルゴ=モータナス」

「それを言えるのは、本当に貴様なのか?」

「何を言って───」

 

シュバルゴの視線の先。

弟子一人で確保しようとしていた、唯一の逃げ道。

銀髪の紳士は地面に膝をつき、弟子は見事に馬車の中身を確保した。

 

「ッ!?まさか、今の【ライトニング・ピアス】は───!」

「気付いたか」

 

先程放った【七星剣】は、ただイヴを狙ったものではなかった。

そもそも【七星剣】でイヴを撃破できるなんてシュバルゴは思っていない。

 

シュバルゴが狙ったのは、イヴの先に居る銀髪の紳士。

イヴの幻術はイヴ自身の姿をシュバルゴに誤認させただけであり、それだけで完結していたために、延長線上にいた紳士を狙った【七星剣】は何にも阻まれることなく直撃した。

 

何かしらの対応をしたのか致命傷を避けているあたり、彼もまた実力者であることが分かるが、もう満足には動けないだろう。

 

「さあ、どうする【魔術師】?」

「くっ───」

 

イヴの脳裏によぎる一瞬の迷い。

それが、隙を生んだ。

 

肘打ちにてイヴの鳩尾を殴打し、緩んだ腕を掴んで背負い投げ。

形成が逆転し、だがここで油断せずに【スリープ・サウンド】で眠らせ、【スペル・シール】で無力化する。

人質とするために武装解除をしたイヴを背負って馬車に近づいたシュバルゴは、状況を確認する。

 

「……誰かと思えば、貴様だったか、レナード=フィーベル」

「天の智慧、研究会……!どうやって、情報を!!」

「偶然に過ぎん。今回の件は、オレも運が悪かったと言える。……そのお陰でこの状況になった訳だが」

 

【魔術師】やレナードとの戦闘に巻き込まれないよう離れた場所に居た騎士や魔術師達は、人質に取られた二人と馬車の存在から近づくことが出来ない。

シュバルゴは馬車の中身を知る為に弟子が確保したものを確認しようと中に入る。

 

「ひっ」

「あ、師匠、お疲れっす。気になる馬車の中身は王女様だったっすよ」

 

流れるような金糸のような髪、空色の瞳、そして恐怖からくる涙。

未だ幼いと言えるあどけなさはさることながら、シュバルゴが侵入した時の恐れる声も可愛い。(語彙力低下)

まさに生死を調査しようとしていた第二王女が、そこにいた。

 

「……エルミアナ王女、か」

「え、師匠?なんか見たことも無い表情してるんすけど。まさか、王女様に一目惚れしたとか?いや、そんな訳な───」

「どうやら、オレは…………ロリコンだったらしい」

「師匠?え、マジで言ってんすか!?」

 

シュバルゴ=モータナス29歳、幼女に一目惚れしたらしい────。

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