外道魔術師の一目惚れ   作:シークレット/K

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第十話

グレンが真面目に授業をしている頃、シュバルゴはセリカに呼び出されてアルザーノ帝国魔術学院の学院長室に来ていた。

 

「それで、わざわざオレをここまで呼び出す程の用とはなんだ?」

「まあまあ、学院まで来させたのは悪かったけど、そんな嫌そうな顔するなよ〜。お前にとっても悪い話じゃないからさ」

 

だる絡みしてくるセリカに対して不機嫌な表情を隠そうともしないシュバルゴの態度に心配になる学院長……リックだったが、セリカは気にせず話し始めた。

 

「今、グレンが担任として受け持っているのがルミアも在籍しているクラスなんだが、前任がいきなり失踪したせいで授業が数時間分遅れていてな。近々魔術学会で講師陣の大半が席を外す関係で学院は休みになるが、グレンのクラスだけ補講という形でその日に授業をやることになった」

「ふむ、それで?特に主の小間使いとしてのオレには関係がない話に聞こえるが」

 

シュバルゴは元とはいえ天の智慧研究会だった犯罪者であり、本来はこうして魔術学院に居ることも憚られる人物だ。

担任となったグレンはまだしも、シュバルゴに関係のある話とは思えないが……。

 

「それがだな……人がいなくなる関係上、生徒たちの安全確保のためにも警備を強化しようって話が出てな。まあ、学院には結界が張られてるし、部外者は絶対に入れないから大丈夫だとは思うが、人を増やすことも選択肢の一つとして挙がったんだよ」

「それで、警備人員として元・外道魔術師のオレを採用するということか?それこそ、学院の信用の失墜につながりかねないと思うが」

「いや、まあ、それもそうなんだが、これは建前でな。最近、天の智慧研究会の動きがキナ臭くてな。ルミアが研究会に狙われてるのはお前も知っての通りだろ?グレンは担任だからクラスの生徒全員の面倒を見なきゃいけない関係上、ルミア一人のための護衛を雇おうと思ってな。んで、凄腕で事情を理解している魔術師はお前ぐらいしかいない」

 

セリカが表立ってルミアのために行動すれば、ルミア=エルミアナ王女ということがばれる可能性が出てくる。

グレンは担任という立場上、特定の生徒だけのために行動し続けることはためらわれるし、話題には出していないがホークも3年の担任である。

学院に在籍中の魔術警備員にルミアの事情を漏らすわけにもいかず、シュバルゴに白羽の矢が当たったらしい。

 

「表向きは学院内の見回り業務を行う新人警備員として雇うが、ルミアに危険が及ぶ可能性が出たら好きに動いていい。給料もちゃんと出す。どうだ?」

「……オレは別に構わんが、この話は主が1人で決められることじゃないだろう?」

 

言いながら、シュバルゴはリックに視線を移す。

 

「この学院の長はお前だろう。オレを雇うことに反対はしないのか?」

 

リックはしばらくシュバルゴの目を見返して、大きなため息を吐いた。

 

「まあ、正直セリカ君の提案には度肝抜かれたよ。いくらセリカ君が安全だと言おうと、君は元犯罪者。君を雇うのは不確定要素が多くて危険じゃと、思っていた……()

 

リックは一拍置いて言葉を続けた。

 

「自身を雇うことによって学院の信頼に影響を与えないか心配したり、セリカ君の話を聞いた上で独断で決めることなく儂に意見を求めたり……とても、噂に聞く外道には思えなかった。君ならまあ、大丈夫じゃろ」

 

意外に好印象に捉えられていた事に困惑するシュバルゴだったが、学院長であるリックからの事実上の雇用許可の判断に否と応える訳にもいかず。

 

「……了解した。学院長の許可を得られて、主の命令であるのなら是非もない。ルミア護衛任務、全力で事にあたる」

「ちょっと言葉遣いが尊大なのが玉に瑕じゃな」

「すまんがコレは染み付いた癖だ、そう簡単には直らん。直す気も起きん」

 

リックから漏れる唯一の不満だったが、直そうとも思っていないシュバルゴだった。

 

#

 

そして、魔術学会当日。

家を出る時間になっても起きてこないグレンを叩き起し、家を出る準備に追われるグレンを置いてシュバルゴは先にルミアと共にアルフォネア邸を出た。

 

「今日から私を護衛してくれるんですよね…?」

「ああ、表向きは警備員だから四六時中一緒にいる訳では無いがな。なにか不都合でもあるか?」

「いえ、全然!その、時間が空いたら会いに行っていいですか……?」

 

不安そうな表情で顔色を伺ってくるルミアを見て、シュバルゴは首を縦に振った。

 

「勝手に来い。一々確認などせずとも、オレがお前を拒絶することは絶対に無い」

「……!はい!」

 

道中でシスティーナと合流して、三人で学院にまで辿りついた。

門を守っている同僚になるだろう二人と挨拶を交わし、結界を通り過ぎる。

 

ちなみにシュバルゴの名をそのまま使う訳にも行かず、学院ではシュルツ=モルテナスという偽名を使うことになった。

名を呼ばれる機会は同僚や知り合い以外滅多にないだろうが。

 

「それではな。もうしばらくすれば、【愚者】も来るだろう」

「はい。お昼休憩の時に、会いに行きますね?」

「……了解した」

 

昼食を一緒に食べることを約束して、シュバルゴは一人で学院内を見回る。

今日という日が、平和とはかけ離れた……非日常の始まりの日だということも知らずに。

 

 

 

数十分が経ち、未だにグレンが来ないことに困惑する生徒たちの前に現れたのは、二人の男。

一人はニヤニヤとした笑みを貼り付けていて、もう一人は眉間に皺を寄せている。

 

「あ、貴方達、どうやってここに!?門にいた警備員は……」

「あ〜、二人居た門番ねぇ。そいつら、殺したわ」

「ふっ、ふざけないで!戦闘訓練を受けた一流の魔術師である学院の警備員が、そんな簡単にやられる訳──────」

「《ズドン》」

 

瞬間、魔法陣が浮かび上がり、飛び出す雷閃。

黒魔【ショック・ボルト】とは似ても似つかない威力を持った雷の矢は、抗議していたシスティーナの頬を掠めて背後の壁を貫通した。

 

C級軍用魔術【ライトニング・ピアス】。

一撃で人を殺し得る雷閃を放つ魔術を、一節……それもたった三音で発動させた男の技量は、その場の生徒全員に警備員を殺したという言葉を信じさせるには充分すぎた。

 

「これで信じてくれたよな?」

「……おいジン、あまり時間をかけるな。結界の設定を変えたとはいえ、魔導士団の連中に破って入ってこられたら面倒なんだぞ。時間に余裕はあるとはいえ、早く任務を終わらせるに越したことはない」

「あーー、分かってるよ、レイクの兄貴」

 

雷閃を撃った男……ジン=ガニスがルミアの前へと進み。

 

「君がルミア=ティンジェルちゃんか」

「……!」

 

男たちの狙いはルミア。

分かったところで、生徒たちは恐怖で動けない。

 

延ばされた手が、ルミアに触れる――――

 

「……フン。オレが仕事に就いた日にコレか。主の判断は正しかったようだな」

 

直前で、シュバルゴが姿を現した。

 

「誰だ、てめぇは?講師にも警備にも、てめぇの顔はなかったはず」

「……ほう?学院に勤める者の顔写真を見たのか。となれば、学院内に裏切り者がいるな?」

「チッ、ジン、貴様はしゃべるな」

 

シュバルゴと戦って勝利することは容易ではないと感じたのか。

レイク=フォーエンハイムはジンに合図を出し……

 

「《ズドドドドドドドドドドン》ッ!!」

 

【ライトニング・ピアス】の十連射。

生徒に危害を加えさせるわけにはいかないため、詠唱済み(ストック)してあった【フォース・シールド】を全力展開してそのすべてを防ぐ。

 

「……チ、二人同時は無理か」

 

ただでさえ守るべき生徒が多い中、天の智慧研究会の魔術師二人を同時に相手取ることはシュバルゴにも不可能である。

で、あれば。

 

「《光あれ》」

 

黒魔【フラッシュ・ライト】による強烈な閃光が、目をかばったシュバルゴ以外全員の目を灼く。

シュバルゴはその隙をついてジンを窓から外へと放り投げた。

 

「うおああぁぁ!?」

「チ、貴様!!」

 

高所からの落下程度で死ぬとは思えないが、二人を隔離することには成功した。

その事実にレイクが激昂し、浮遊剣が飛び出してくる。

小手調べといわんばかりに迫る一本の剣を懐から抜き放ったレイピアで弾く。

 

「《我・時の頸木より・解放されたし》」

 

黒魔【タイム・アクセラレイト】を使用し、シュバルゴの時間の流れが加速する。

速やかに無力化しようとレイピアで突きを放つが、シュバルゴの速さに反応したレイクは身をひねって避けた。

だが、シュバルゴはレイピアを持っていない左手でレイクの顔面をつかみ、教室の外、廊下へと強引に放り投げて場所を変えた。

 

その時点で【タイム・アクセラレイト】をレジストし、【クイック・イグニッション】でレイクの目をくらまして、デメリットである加速した分減速する間をやり過ごす。

 

「【目覚めよ刃】」

 

時間の流れが戻ったことを確認してレイピアを構えると、レイクの周りには五本の剣が浮かんでいた。

 

「浮遊剣使いか、面倒な」

「何者かは知らんが、計画の邪魔をするならば容赦はせん!」

 

浮遊する五本の剣が、シュバルゴに向けて放たれた。


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