外道魔術師の一目惚れ   作:シークレット/K

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第十一話

学院への道中で襲ってきた小男を無力化したグレンは、学院の結界前で立ち往生していた。

 

「……どうするか」

 

非常勤とはいえ、講師であれば素通り出来るはずの学院の結界はグレンを拒んだ。

幸い、小男が持っていた札で中に入ることは可能だろうが、相手は天の智慧研究会。

今回襲撃してきた人数が分からない以上、たった一人で入るのは危険すぎる。

 

かといって、帝国宮廷魔導師団が来るのを待っていたら手遅れになる。

何より既に、【ライトニング・ピアス】の雷閃が校舎を突き抜けたばかりだ。

 

「ちくしょう、シュバルゴは居るはずだよな……?」

 

寝坊したグレンより一足先にルミア達と共にアルフォネア邸を出たシュバルゴの行方が気になる。

既に戦闘中ならば合流して共闘、隠密行動中ならば別行動して場をかき回す行動に移せるが……。

 

一番最悪なのは、何らかの理由でルミアたちと途中で別れてシュバルゴが学院内にいない場合だ。

通信魔導器は万が一の時用のセリカにつながるものしか持ってきていないため、確認を取る手段もない。

セリカに対して呼び出しをかけるも応答はなし。

 

「くそ、どうする?……いや、迷うことでもねぇか」

 

半ば強引に勤めることになり、なまじ生徒に顔見知りがいるおかげでサボることもできない職場だが、それでも……生徒たちとの関係は、セラとの死別以降荒み切っていたグレンの心を幾分か癒してくれた。

要するにグレンは、担当することになった2年2組という新たな居場所を壊されたくないのだ。

 

自分の生徒たちを救い出すために、突入することを選んだグレンの目に、黒魔【フラッシュ・ライト】の光が飛び込んでくる。

続けて窓から投げ出される見覚えのない男の姿。

 

「は、居るんじゃねえか」

 

シュバルゴはすでに戦っている。

今自分がすべきことは何か――――決まっている。

 

「窓から投げ出した男を追わず、教室内あるいは廊下側に留まっている。つまり、シュバルゴの狙いは敵戦力の分断だった可能性が高い。であれば、俺がすべきは……分断させた敵の合流阻止!」

 

道中襲ってきた男から奪った札を用いて学院内に侵入したグレンは、懐に忍ばせた『愚者』のタロットカードを確認して走る。

見えてくる敵の男の全貌、特に隠密の魔術をかけているわけでもないグレンに早々に気づいたらしい。

 

「止まれよ、オイ。お前、グレン=レーダスだな?キャレルの野郎、しくじりやがったのかよ」

「お前も同じ目に合わせてやんよ!」

 

間合いに入ったことを確認し、グレンは固有魔術【愚者の世界】を起動。

流れるように帝国軍式格闘術で接近するグレンに対し、男……ジンは左手の指を差し向ける。

 

「《ズドドドドン》!――――何!?」

 

【ライトニング・ピアス】の四連射……決まればグレンでもただじゃすまなかっただろうが、当然魔術起動の封殺が成されているこの場においては魔術式が完成したところで起動せずに溶けて消えるのみ。

『特務分室』を脱退した後も、定期的にシュバルゴに付き合って格闘戦をやらされたグレンの拳は現役時代のものと遜色はなく。

 

まともに拳を食らったジンは何をすることもできず地に倒れた。

 

 

一方、レイクと戦闘を行うシュバルゴは、五本の浮遊剣に対して決定打を与えられず苦戦していた。

浮遊剣の構成は、三本の自動剣と二本の手動剣。

達人の技量で機械的に迫る三本と、こちらの行動の隙を狙ってくる二本……計五本の浮遊剣とレイクの放つ魔術に、シュバルゴは抑え込まれていた。

 

いや、それだけであればシュバルゴの実家……モータナスの剣技を解禁すれば武器破壊も可能だっただろう。

剣技を使うには未だ未熟であり、実戦で使うことは封印しているが、ルミアを守るために四の五の言ってられない。

だが、それができない理由があった。

 

「ち、極めつけは……」

 

ボーン・ゴーレム。

竜の牙を素材に錬金術で錬成されたゴーレムを、召喚【コール・ファミリア】によって使い魔として連続召喚された骸骨たち。

竜由来の素材で作られたソレらは、驚異的な膂力・運動能力・頑強さ・三属性耐性を持つ。

並の戦士・魔術師では対処ができない危険な相手がぱっと見て数えきれないほどに存在していた。

 

繰り出すのに一拍の時間が必要な剣術でレイクを相手しながら、この数を片手間に対処することなど不可能である。

出来るとしたら、それこそセリカぐらいだろう。

むしろ、シュバルゴが得意とする暗殺戦法が使えない中で、レイクの魔術、浮遊剣、ボーン・ゴーレムのすべてをさばいて時間を稼げていることに自分でも驚くぐらいだ。

 

「《吠えよ炎獅子》!」

「っ、ぐおおおおおおっ!」

 

最後の詠唱済み呪文(ストック・スペル)、【フォース・シールド】を使用して【ブレイズ・バースト】をやり過ごすが、もう後がなくなった。

魔力は残りわずか、疲労もピーク。

いよいよ命運尽きたとも思える状況だが、シュバルゴはまだ諦めていなかった。

 

理由は簡単。

すでに合流していてもおかしくないはずの敵、ジンが未だに来る気配がないこと。

 

シュバルゴはグレンが学院内に来ていることを確信していた。

 

「ここまでか」

「……最期に言い残すことはあるか?」

 

戦う最中で浮遊剣によってレイピアが弾き飛ばされ、壁に身体を縫い付けられたシュバルゴは死まであと一手という状況にまで追い詰められた。

……だが、しかし。

 

――――間に合った。

 

――――吠え狂え》!!」

「何……!?」

 

レイクの背後、意識の外から迫る炎の獅子。

とっさに二本の手動剣が操作されてレイクの背後で交差するが、如何に剣に黒魔【トライ・レジスト】が付与(エンチャント)されていようと、隙間から漏れた炎は防げない。

 

「ぐぅっ……!貴様は、魔術講師か!」

「は、《俺に・気を・取られてて・いいのかよ》?」

 

手動剣をグレンに向けて射出するが、グレンは来る前に付与しておいた黒魔【ウェポン・エンチャント】で強化された拳で捌く。

それに並行して、相手をあおりながらの即興改変。

四節詠唱による【ライトニング・ピアス】がグレンの指先から放出され、雷閃は真っ直ぐレイクに……向かうことなくあらぬ方向へと曲がっていく。

 

その先にあるのは先に弾き飛ばされたシュバルゴのレイピア。

雷閃によってはじけ飛んだレイピアの向かう先には、拘束から抜け出して自動剣を捌きつつゴーレムを避けながら走るシュバルゴの姿が。

 

「モータナス流剣術……【破壊(デストロイ)】」

 

レイピアを掴んだシュバルゴが、初めて実戦において剣技を披露した。

様々な用途に合わせて剣技を使い分けるモータナス家の剣術、その中でも最も威力が高く多用される、モノを破壊することに特化した一閃。

モータナス家においては一番最初に習得する、単純であるがゆえに習得までに最も時間がかかるが、目に見えて稽古の効果が実感できる基礎の剣技。

 

その破壊力は三本あった自動剣のすべてを武器破壊してのけるほどのものだった。

 

「く、《目覚めよ刃――――》」

「させるかよ」

 

予備の剣を起動させようとするレイクだが、その前にグレンが【愚者の世界】を起動し不発、魔術は使用不可。

その間にもシュバルゴはレイクに迫っており、手動剣はグレンから離せない。

これだけ近づかれれば、ボーン・ゴーレムによる攻撃は自分をも巻き込み、そうなればシュバルゴが攻撃を避けるだけでレイクは自滅する。

 

圧倒的に勝っていたはずの戦況が一転し、万策が尽きたといわざるを得なくなるほどにまで敗色濃厚となってしまった。

 

「……俺の、負けか」

 

何ができることもなく、レイクはそのままシュバルゴのレイピアに貫かれる。

 

「ならば、最期、に……時間……かせぎ、を……」

 

死にゆく直前、レイクから僅かな魔力が放出された。

瞬間、動きが止まっていたボーン・ゴーレムの全てが動き出す。

 

ゴーレム達のターゲットは当然シュバルゴとグレンの二人。

無数にいるゴーレムに対して、満身創痍のシュバルゴと【愚者の世界】の効果が切れるまでではあるが魔術を使えないグレンでは苦戦は必至。

 

長期戦を覚悟する二人だったが、そこで思わぬ援軍が現れた。

 

「《大いなる風よ》!」

 

【愚者の世界】の範囲の外、教室から放たれる黒魔【ゲイル・ブロウ】の風が重いゴーレムを吹き飛ばす。

軍用魔術を教えられていない生徒が使える最も威力の高い汎用魔術であり、使用者は――――

 

「手伝います、先生!シュバルゴさん!」

 

システィーナ=フィーベル。

グレンが担任を務める二年二組の中でもトップレベルに優秀な生徒であり、シュバルゴとも少なからず関係のある少女。

 

本来(正史)では人の死を克服するのに長い時間(原作終盤辺り)を必要としていたはずだが、今回はルミアの誘拐事件に一緒に巻き込まれていることから、嫌悪感は抱くものの割り切ることができるぐらいには精神が成長して(イカれて)いた。

幼いころに事件に巻き込まれ、シュバルゴたちの配慮によって彼女らの前では人殺しは行われなかったものの、救ってくれた人たちが人殺しであることはグレンがニートになった際にある程度は聞いていた。

 

もちろん、最初は信じられないという気持ちと恐怖がないまぜになり、しばらくアルフォネア邸に顔を見せない期間もあったが、今ではこうしてルミアほどまでとはいかないが精神的に強くなった。

 

「白猫!?なんで出てきた!こいつらは俺たちだけでも――――」

「ルミアが一体のゴーレムに連れていかれたんです!早く追いかけないと!!」

「何……!?」

 

うかつだった。

このボーン・ゴーレムたちは一体一体がレイクの使い魔であり、命令に沿って動いている。

魔力リソース的にこの数すべてに別々の命令を出すことは不可能でも、一体だけに細かな指示を送り実行させることは可能である。

 

「ち、【愚者】!一気に殲滅は可能か!」

「使えば戦力外に成り下がるのと、準備してる間無防備になるのを考えなければ出来る!」

 

グレンが懐から取り出したのは小さな結晶、魔術触媒『虚量石(ホローツ)』。

この魔術触媒と、長い詠唱時間、そしてグレンが持つ魔力のほぼすべてを消費して放てる大技であれば、この無数に存在するゴーレムを一掃できる。

 

「で、あれば……時間稼ぎが必要か。だが……」

「いや、俺に考えがある。ちょうど、【愚者の世界】の効果も切れたし、白猫……システィーナと合流できれば」

「なら、さっさと行くぞ」

 

二人でゴーレムをなぎ倒しつつ、最短距離で【ゲイル・ブロウ】を放ち続けるシスティーナと合流する。

 

「白猫!この廊下の行き止まりまで下がって【ゲイル・ブロウ】を威力低減、広範囲化、持続時間延長で即興改変しろ!節構成はなるべく三節以内だ。」

「そ、そんな!私にそんなことができるかどうか……」

「大丈夫だ」

 

システィーナの額に人差し指を当てて、グレンは不敵に笑う。

 

「お前は優秀だ。ここ最近で教えたことが頭に入っているならできる。出来なかったら単位没収な」

「そ、そんな理不尽な……。でも、分かりました。やってみます!」

 

決意を固めて走り出したシスティーナを見たグレンは振り返り、説得の間足止めをしていたシュバルゴに合流する。

 

「あとは時間を稼ぐだけだ。この数じゃ、満身創痍のお前ひとりでは足止めできる時間はそう長くないだろうからな」

「その計算は間違っていない。何より、ルミアを取り戻すための力も残しておかなければならないからな」

 

そして、数分の後。

改変完了の声が二人に届く。

瞬間、二人は踵を返して駆け出す。

 

「何節だ!」

「三節です!」

「よくやった、合図に合わせて唱え始めろ!」

 

逃げる二人、追うゴーレム。

ある程度システィーナに近づき、頃合いを見て――――

 

「今だ!!」

「《拒み阻めよ・嵐の壁よ・その下肢に安らぎを》――――ッ!」

 

跳躍する二人、システィーナの傍らを通り過ぎる。

瞬間、呪文が完成。

広範囲かつ爆発的な風の壁が、ゴーレムたちの歩みを止めた。

 

命名するならば、黒魔改【ストーム・ウォール】か。

少しずつ気流に逆らってにじり寄るゴーレムたちを見て完全には足止めできていないことを悔やむシスティーナだったが、グレンにとっては十分すぎる時間が確保できた。

 

「《我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と終を知る者・―――……」

 

『虚量石』を握りこんだ左拳に右掌を、ぱん、と合わせ、ゆっくりと一句一句呪文を紡いでいく。

 

「―――其は摂理の円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離すべし・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ・遥かな虚無の果てに》――――ッ!!」

 

グレンがシスティーナの前へと躍り出た瞬間、呪文は完成した。

 

「ぶっ飛べ、有象無象!黒魔改【イクスティンクション・レイ】――――ッ!」

 

完成した魔法陣から巨大な光の衝撃波が放たれ、廊下のはるか向こうまですべてを呑み込んだ。

やがて光が収まると、後には何も残らなかった。

 

対象を問答無用で根源素(オリジン)にまで分解消滅させる、セリカ=アルフォネアが邪神の眷属を屠るために編み出した神殺しの魔術……それが【イクスティンクション・レイ】である。

 

「は、これで、いいかよ?いささかオーバーキルだが、俺にはこれしかねーからな……ごほっ」

「上出来だ、【愚者】」

「ここでは、そう、呼ぶなよ……。俺はもう、【愚者】じゃねえ……魔術講師の、グレン・レーダスだ……かはっ」

「先生!?」

 

魔力を限界まで使用したことによって、マナ欠乏症を発症したグレンに魔石を放り投げるシュバルゴ。

自身の魔力をためておいた即席の魔力バッテリーだ。

シュバルゴとグレンではあまり魔力の相性は良くないために効率は悪いが、それでも動ける程度までは回復できるだろう。

 

「あとは頼んだぜ?ルミアの護衛さんよ」

「言われるまでもない」

 

システィーナに介抱されながら軽口をたたくグレンに返事をし、シュバルゴはルミアを取り戻すべく動き出した。




時間がたつのが速すぎる……。
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