外道魔術師の一目惚れ   作:シークレット/K

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ポイッ


第十二話

廊下を歩きながら、ルミアの居場所を考える。

ルミアに持たせていた居場所を知らせる魔道具は道中に落ちており、直接現在地を知ることは不可能だった。

ボーン・ゴーレムを一掃した後にグレンに聞いた話では、学院の結界の設定が変えられており、道中襲ってきた下手人の一人が持っていた使い捨ての魔道具で結界の一部を破り、中に入ることが出来たらしい。

普通に考えれば、中から外へ出るための魔道具も用意してあると見るべきだが。

 

本当にそうだろうか?

確かに、外へ出るためには結界を通らなければならない。

しかし、結界の外にはすでに帝国魔導師団が到着しており、学院を取り囲んでいる。

 

ルミアが王女であることを知っていて、五体満足で連れ去ることが目的であろう天の智慧研究会が、この状況を想定していないはずがない。

どれだけ凄腕の魔術師であろうと、この包囲網から抜け出すのは難しいだろう。

 

さらに言えば、グレンはすでにこの事態をセリカに伝えているはず。

にもかかわらず未だ戻ってきていないということは、学院と魔術学会の会場を繋ぐ転送法陣が使用できない状態にあるということ。

つまり、学院の結界の設定を変更し、学院側の転送法陣をつぶした内通者が、いまだこの学院内にとどまっていることを意味する。

 

「で、あれば。ルミアはその内通者と一緒にいる可能性が高いか」

 

シュバルゴはさらに考える。

ここまで推測することはできた。

問題は、今現在、その内通者とルミアはどこにいるのか?

 

「強固なセキュリティがかけられた学院の結界の設定を変えられる凄腕の空間系魔術師の存在、使用できなくなった転移魔法陣。……【愚者】が教師として働くことになった原因は、なんだったか」

 

担当教師の失踪。

それが失踪ではなく、内通者としてずっと学院に隠れてとどまっていたとしたら。

姿をくらませてから計画実行の今日まで、念入りな下準備をする期間があったことになる。

 

「それだけの期間があれば、転移魔法陣の転移先を変更するための準備をするのにも困らんな」

 

つまり、今、シュバルゴが向かうべきは――――

 

 

 

「どうやら、正解のようだ」

 

 

 

推理の果てにたどり着いた場所は、転送塔。

転送法陣が管理されている塔へと続く並木道に、学院内を守護するためだけに起動するはずのガーディアン・ゴーレムが無数に徘徊しているのを見とめる。

 

「ち、面倒だが、押し通るッ!!」

 

レイピアを抜いたシュバルゴがゴーレムのほうへと突き進む――――。

 

 

「思いの外、手こずったか……」

 

すべてのゴーレムを処理し終え、口端を伝う血を拭いながら塔の階段を上っていく。

ここまでの疲労からゴーレムとの戦闘で判断ミスが生じ、シュバルゴの左足は使い物にならなくなっていた。

 

レイピアを杖代わりにしてどうにか前へと進むが、問題は外傷だけではなかった。

 

「ち、ここにきて、マナ欠乏症か」

 

ここまでの戦闘で体内のマナは酷使されており、限界を迎えていた。

この状態に対処できるように持ってきていた魔力石はグレンに与えてしまったため、魔力を回復することもできない。

 

だが、ここで休息を挟むわけにもいかない。

相手の空間魔術の腕前が如何ほどか分からないため、できるだけ早く救出を急がなければならないからだ。

休息の時間をとって、向かった果てに間に合わなかったら目も当てられない。

 

そんなことになったら一生後悔するだろうから。

 

そして。

ルミアに情けない姿を見せないように、表面上だけでも余裕があるように装いつつ。

 

ようやく、シュバルゴは最上階の大広間――――転送法陣のある部屋へとたどり着いた。

 

 

「ッ、貴方は……?」

「フン、そういえば、オレの存在は想定外だったか。ルミアを返してもらおう」

「シュバルゴさんっ!」

 

シュバルゴの姿を見て困惑する下手人、魔術的な拘束を受けてなお希望に満ちた表情で迎えるルミアを順に見て、ルミアのいる床に存在する転送法陣と下手人のいる床の魔法陣が魔力路でつながっていることを確認したシュバルゴは、魔法陣を解析する。

 

ルミアの下の転送法陣は時限式であり、特定の時間を過ぎると自動で法陣上の存在を指定座標へと転移させるもの。

では、下手人の下の魔法陣は?

 

「貴様、学院もろとも自爆するつもりか」

「それが分かるということは、貴方も天の智慧研究会の関係者ですか」

「ふん、残念だが、かの研究会からオレの名は除名されているだろう」

 

白魔儀【サクリファイス】――――換魂の儀式。

おそらく下手人の魂は魔術的に調整されており、学院が吹き飛ぶほどの爆発を起こして自分も死ぬつもりなのだろう。

 

要人が現れた際の人間爆弾として主要施設に派遣される、第一団【門】(ポータルス・オーダー)の捨て駒がいると聞いたことがあったシュバルゴは、魔法陣の正体とともに下手人がやろうとしていることまで読み切った。

 

「貴方は、研究会を裏切ったのですか。私には出来ないことを、平然とやってのけるのですね」

「ヒューイ、先生……」

 

下手人の落ち込むような言葉に、ルミアが反応する。

下手人の正体が、失踪した魔術講師ヒューイ=ルイセンであることが確定した。

 

「フン、長年生徒と接して、情でも湧いたか?」

「はは、そうですね。少なくとも、悪い時間ではありませんでした」

 

シュバルゴはルミアの床の法陣……転送法陣に向き合い、親指の皮を噛みちぎる。

 

【サクリファイス】は転送法陣と連動している。

つまり、転送法陣を解除すれば【サクリファイス】も無効化される。

 

「《原初の力よ・我が血潮に通いて・道を為せ》」

 

黒魔【ブラッド・キャタライズ】を唱え、嚙みちぎった親指から滴る血を魔力処理し、簡易的な魔術触媒としたシュバルゴは、解呪術式を転送法陣上へと書き込んでいく。

魔力に余裕があれば、魔力そのものを用いて文字を書くこともできたが、生憎今はマナ欠乏症を発症している。

シュバルゴの魔力が尽きるか、法陣すべてを解呪するかの勝負……法陣起動まではまだ十分な時間はあるが、一度気を失えば間に合わないだろう。

 

「《終えよ天鎖・静寂の基底・理の頸木は此処に開放すべし》」

 

黒魔儀【イレイズ】……解呪の魔術を起動し、法陣の最外郭を破壊する。

全五層のうちの一つ目の解呪が完了した。

 

続けて第二層に取り掛かる。

だが、ここでシュバルゴの動きが目に見えて遅くなる。

そして、とうとう――――

 

「シュバルゴさん、顔色が……」

「ここに来るまでに魔力を使いすぎたようですね」

 

ここにきて、不調がルミアとヒューイにばれた。

それからはルミアが事あるごとに無理はしないでとシュバルゴに訴えかけるが、そんなこと出来る訳もなく。

 

「《終えよ天鎖・――》、《――静寂の基底・――》、《――――理の頸木は此処に開放すべし》……!」

 

意識を失いそうになりながらも、ギリギリで解呪を成功させ――――

 

 

「……、ごふ」

 

 

三層目へと取り掛かろうとしたシュバルゴは、とうとう限界を迎えた。

大量の血を吐き、その場に倒れこむ。

 

「いやぁあ、シュバルゴさん!」

 

ルミアが悲鳴を上げて、手を伸ばす。

だが、その手は拘束に阻まれて届かない。

 

「ぐ、……くそ、ここが、限界……だとでも……?」

 

体から抜けていく力、失っていく感覚、遠のいていく意識。

マナ欠乏症の状況下で魔力を酷使し続けたシュバルゴの体は限界を迎えていた。

このまま放っておけば死んでしまうだろう程に。

 

「いやだ、そんなの、認めない……!絶対に死なせない!もう、一人で生きていくなんてできない。シュバルゴさん無しの生活になんて戻れない!だから……!」

 

(実際には違うが)母親にすら捨てられて、信じられる人がいなかったルミアが唯一全幅の信頼を置く相手。

再びその相手を失うことは、ルミアには耐えられなかった。

 

シュバルゴがいるから頑張れる。

シュバルゴがいるなら、何も怖くない。

 

本来(正史)であれば無条件に強かったはずのルミアの精神は、依存先であるシュバルゴの存在で強弱が変わるものへと弱体化してしまった。

シュバルゴが死に、この世から去れば、ルミアは塞ぎ込んで何もしなくなるだろう。

あるいは、後を追って死ぬかもしれないほどに、ルミアの精神性は危うい状況だった。

 

だが、しかし。

シュバルゴがまだ生きていて、現在進行形で危機に瀕している状況であれば話は別である。

 

「う、あああ……ああああああああああっっっ!!」

 

手を伸ばす。

魔術的な拘束を無理やり振り切るが如く、懸命に。

 

ルミアが王家を追放されるきっかけになった異能。

一般的に見れば感応増幅者と呼ばれる異能者であるルミアの異能は、現状では人に触れることで発動する。

 

その力は、触れた相手の魔力や魔術を何十倍にも増幅するもの。

マナ欠乏症である今のシュバルゴにとっては、これ以上にない薬である。

 

指先だけでも触れられれば、助けられる。

それだけの力が、ルミアの異能にはある。

なればこそ。

 

「とど、いて────!」

 

拘束によって身体が引き裂かれそうな痛みに見舞われようが、関係ない。

シュバルゴが居なくなる方がずっと怖いし、ずっと心が痛いから。

 

絶対に届かせる。

 

ただその一点のみの激情が功を奏したのかもしれない。

ルミアの手の指先が、シュバルゴの倒れた身体を捉えた。

 

瞬間、ルミアの身体が発光した。

同時に、シュバルゴに魔力が補填されていく。

 

「……ッ!ルミア?」

「シュバルゴ、さん!!」

 

本来(正史)よりも法陣一層分離れた場所に、限界を超えて手を届かせたルミアの身体は血が出るような傷は無いものの、脱臼や筋断裂といった外傷はあるようだった。

 

「……待っていろ。すぐに解呪して治療する」

「はい!」

 

そこからは手早く事は運んだ。

増幅した魔力を用いて残りの三層を解呪し、ルミアを拘束から解放して応急措置を済ませ、特に抵抗しないヒューイを捕縛したシュバルゴは、痛みで気を失ったルミアを背負って三人で転送塔の階段を下っていく。

 

「僕は、どうすればよかったのでしょうか?組織のために死ぬか、組織に逆らって死ぬか……今でも、僕にはわからないんです」

「フン、俺がその答えを持つとでも?」

「ええ、ルミアさんという個人を救うために、かの組織を裏切った貴方ならば……」

 

シュバルゴとヒューイの状況は、恋愛と師弟愛という感情の差はあれど、大切な人を見出した点ではある意味似ていた。

シュバルゴは衝動的にその場の想いで研究会を裏切る決断をしたが、少しでも研究会側に対する未練があれば立場は今と全く違うものになっていたかもしれない。

ヒューイについても、長年の生徒との交流で沸いた友愛の感情のままに組織に逆らう行動を起こす世界線もありえなくはなかっただろう。

 

二人の現在の立場を決定づけた要因は数あれど、一番は――――

 

「未来の自分がどうありたいか」

「未来……?」

「行動を起こした先の未来の自分を思い浮かべて、どうするべきかを秤にかける。オレの場合はルミアを救った先に彼女を愛でて、彼女から好かれる自分が、研究会に残った先にある真理を得る自分よりも魅力的に思えたから裏切った」

「なりたい、自分……ですか」

「貴様にもあるんじゃないのか?講師として働いた時間を経て、なりたい……なりたかった自分が」

 

言外に犯罪者となった今では取り返しがつかない現実を突き付けるが、ヒューイはどこかすっきりとした表情をしていた。

 

「もっと早く会いたかったですよ」

「生憎、男からの好意は受け付けていない」

「はは、これは手厳しい」

 

その後、ガーディアン・ゴーレムとの戦闘音から場所を割り出した休息後のグレン達と合流し、ヒューイの身柄とルミアの治療を任せた後、限界を迎えたシュバルゴは倒れるように気絶した。

 

 

 

 

アルザーノ帝国魔術学院自爆テロ未遂事件。

非常勤講師と新米警備員の二人の活躍で収束した前代未聞のこの事件は、敵組織の大きさと社会的な不安の影響を考慮して内密に処理された。

この事件を知るものは軍や帝国の重鎮たち以外では、当事者となった生徒たちとごく一部の講師・教授陣のみである。

 

ルミアはしばらく休学したがすぐに復学したため、身分が疑われるような噂が出てきても一か月もすれば自然と消えていった。

なんてことのない平和な学院生活が戻ってきたのである。

 

そして。

 

 

(しかし、なぁ。ルミアの正体がとうとう天の智慧研究会に割れてしまったか)

 

非常勤ではなくなり、名実共に魔術講師という職を手にしたグレンは、屋上にて一か月前の事件を振り返っていた。

シュバルゴの介入によって最初からルミアがエルミアナ王女だと知っていたグレンは、これまで以上にルミアから目を離さないように通達された。

シュバルゴは引き続きシュルツとして警備員の業務を担当することとなったし、ルミアを守る包囲網が完成しつつある。

 

ルミアを知る一人であるシスティーナは、クラスメイトにその正体を隠すのに一役買ってくれた。

もちろんルミアが狙われた理由に関して引っかかる思いはあるだろうが、二組の生徒たちはあまり詮索しないでくれた。

 

(まあ、なるようになるだろ)

 

全ては元通り。

グレンがそう気楽に考えていたその時、背後から声が掛けられた。

 

「まさか、お前がこうして本当に講師になるなんてな。ちょっと前の様子からじゃあ考えられないぞ?」

「セリカか。いや、別にお前が養ってくれるなら万々歳大歓迎なんですけど?」

「はは、ふざけんなよ、バカ息子」

 

振り返った先には機嫌良さげなセリカが佇んでいた。

 

「まあ、あいつらの行く先を見てみたくなったんだよ。講師をやる理由としては、十分だろ?」

「ふん、システィーナの期待と不安の目に抗えなかった、の間違いでは無いのか?」

「……シュバルゴ」

 

最もらしい理由を話すと、水を差すようにシュバルゴが現れた。

だが、シュバルゴの言葉も間違いではなく、グレンの講師継続の理由の一つではある。

 

非常勤の期間の終わりが近づいてから、システィーナの様子が明らかに変わっていたのである。

それもそのはず、原作(本来)とは違ってグレンの正体をはじめから知っている上に、命の恩人として慕う相手と会う機会が減るかもしれなかったのだ。

続けてくれるかもしれないという期待と、会えない時間が増えるかもしれないという不安の二つの感情が綯い交ぜになってもおかしくは無い。

 

「なまじ正体知られてる分、下手に怠けられねぇんだよな……」

「別に怠けて幻滅されれば関わってくることも無くなると思うが?」

「お前……毎朝アイツに修行つけてやってるのに、気まずくなるような行動取れるわけねぇだろ……」

 

学院襲撃事件を経て力不足を感じたシスティーナが、自らグレンに稽古を頼み込んできたのだ。

システィーナ的には憧れの人にマンツーマンで魔術を教えて貰えるかもしれないという打算的なものもあったのかもしれないが、ルミアを守っていく上で事情を知るシスティーナの戦闘能力の向上が今後を考えれば必須ではあったことと、システィーナの意思がグレンの予想以上に固かったことから二つ返事で了承したのである。

 

「本当に、よくこの短期間であのだらけきった性格がここまで変わったな……。お前を変えたのが私じゃなくて、お義母さん心底悲しいよ」

「いや、お前が非常勤講師の仕事持ってきてなかったら未だにスネかじって生活してる自信あるぞ?お前が俺を変えたんだよ」

「シュバルゴは私の下から離れてくれるなよ?お前は一生私の下僕だからな!」

「ルミアと過ごせるならばオレはそれでいい。逆に、いいんだな主?貴様の家に居座り続けて」

「言うねぇ、元犯罪者!」

 

家族団欒のような話が進む中、屋上の扉が再度開かれる。

 

「……居た!やっと見つけましたよ、先生!」

「シュバルゴさんもいる……!良かった、急に居なくなるから……」

「ルミア、貴女……」

 

現れたのはシスティーナとルミア。

ルミアの束縛感の強い言葉に若干引き気味になりつつ、システィーナはグレンに今日授業で取り扱った内容についての質問を投げかけてきた。

 

「あーー、ここじゃ説明もしにくいし、一旦教室に戻るか」

「……ルミアもオレの腕から離れる気配がないし、共に行こう」

「お前も大変だな。……いや、ルミアをこうさせたのはお前だろうから自業自得なのか?」

 

二人の生徒に手を引かれていく二人に、セリカは笑う。

 

「あっはっは、まあとにかく、お前がちゃんと働いてるのを見て、私は安心したぞ」

「そうかよ。……まあ、根を詰めすぎない程度に頑張るさ」

「ふ、オレもオレの責務を全うするのみ」

 

その場から離れていくグレンとシュバルゴ。

その後ろ姿を見守るセリカは、柔らかく笑うと同時に────

 

 

「本当に嬉しいけど、寂しいなぁ」

 

 

どこか遠い目をして、空を見上げるのだった。

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