外道魔術師の一目惚れ   作:シークレット/K

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難産すぎて遅筆。
でもちょっとずつ進めてはいるからユルシテ


第十五話

祭りで賑わう魔術競技場の中で、一際異彩を放つ二人組が居た。

帝国宮廷魔導師団、特務分室に所属する男女……アルベルト=フレイザーとリィエル=レイフォードである。

 

二人は気配遮断の魔術を使用しており、魔術戦用のローブなどその場にそぐわない格好をしているのにもかかわらず、競技場内の人々には気にされていない。

そんな二人が見据える方向には、着実に自身のクラスが優勝に近づいていることに笑みを浮かべるグレンの姿。

 

「……グレン?」

「……ああ、そうだな。俺たちの前から姿を消したと思ったら、こんなところにいたとはな」

 

グレンの元同僚。

【女帝】セラの殉職をきっかけに、何も言わずに特務分室を脱退していったグレンの元気な姿を見てなんとも言えない表情を浮かべるアルベルトと、無表情のまま剣を錬成するリィエル。

 

「待て、リィエル。何処へ行く気だ?」

「痛い……グレンと決着をつけに行く」

「駄目だ、俺達は任務でここにいることを忘れたか?」

「……むぅ。アルベルトはグレンに会いたくないの?」

 

リィエルの疑問を鼻で笑ったアルベルトは、尚もグレンの下へと進もうとするリィエルの後ろ髪を引っ張りながら反対方向へと歩いていく。

 

「見てわかるだろう?奴にはあの場所が────」

「待って、アルベルト。グレンの隣に居るやつって……」

「……何?」

 

歩みを止めたアルベルトが振り返り、リィエルの言葉通りグレンの隣に居る人物を見ると。

 

「シュバルゴ……モータナス、だと?」

 

天の智慧研究会、第二団【地位】に属する魔術師の存在。

顔を隠すことも無く、堂々と競技祭を観戦する外道魔術師がそこに居た。

 

否、王室親衛隊を密かに監視するために気を張っていたアルベルトが堂々と居座るシュバルゴを見落とすはずがない。

シュバルゴは気配関係の魔術においては第一級の実力を持つ。

それ関係の魔術を使用して、アルベルトの目を欺いていたのだろう。

 

「ここで出てくるか、天の智慧研究会」

 

今の所、シュバルゴが動く気配は無い。

というか、グレンもシュバルゴの正体は分かっているはずだが、何事もないように親しげに話してすらいる。

 

となれば、グレンは特務分室を去った訳ではなく、シュバルゴをマークするために潜入調査をしている……?

 

「アルベルト?」

「……ッ、今は放っておこう。俺たちの任務は王室親衛隊の調査だ。シュバルゴ=モータナスについてはグレンに任せておけば大丈夫だろう」

「……ん。分かった。じゃあ、私はグレンと決着を……」

「ダメだと言っただろう」

 

結局、アルベルトはリィエルを引きずってその場を後にした。

 

補足しておくと、これがアルベルトの深読みであることは言うまでもなく。

シュバルゴは外から見て存在を気付かれにくい程度に薄くする隠蔽魔術を使用してはいたが、グレンを注視するリィエルに見つかってしまったことでこのような誤解が起きてしまった。

それがどのような結果を起こすのか……その答えはすぐに現れることになる。

 

#

 

競技祭も午前の部が終了し、昼休憩の時間となった。

 

午前の部が終わったすぐ後、目を輝かせながらシュバルゴの手を引くルミアに連れられてやってきたのは競技場の外、庭園のような場所。

 

「どうした、ルミア?昼食はいいのか?」

「えっと……シュバルゴさん。一緒に、食べませんか……?」

「ッごはァ!?」

 

上目遣い+涙目(グレンの入れ知恵)で、作ってきたらしい弁当を見せてくるルミアのお願いを聞いて、シュバルゴの心は撃ち抜かれた。

血を吐いて倒れ伏すシュバルゴを見てオロオロするルミアと、その様子すら可愛くてさらに吐血するシュバルゴ。

 

二人が無事昼食にありつけたのは十数分後だった。

 

なお、原因を作ったグレンは原作通りリンに白魔【セルフ・イリュージョン】の講義をし、シュバルゴとルミアを見送った後にグレンを探してやって来たシスティーナが作って持ってきたサンドイッチという久方振りのまともな食事にありつけたことはここに記しておく。

ちなみに、涙を流しながら壊れたかのように「美味い」と連呼して食べ進めるグレンを見て、システィーナは若干引きつつも満面の笑みでそれを見守った。

 

そして、シュバルゴ達が昼食を食べ終えた頃。

 

「あの……少し、よろしいですか?」

「うん……?なんだ、ご婦人。道にでもまよ────貴女は……!?」

 

女性に声をかけられた方を見ると、シュバルゴは思わず驚愕する。

 

「アリシア、女王陛下」

 

アルザーノ帝国女王、アリシア七世がそこにいたから。

 

「ふふ、貴方がシュバルゴさんですね?セリカから話は聞いています。エルミアナに一目惚れして、かの組織を裏切ったと。あの子の親代わりとして支えていただいたことも、本当に感謝しています」

「貴女程の方が、そう易々と頭を下げるべきでは無い。ましてや、オレは元犯罪者。主から隠蔽魔術をかけられてはいるようだが、こんな所を誰かに見られたらマズイだろう」

「いいんです。私個人としてはとても感謝してはいるのですが、未だに貴方の手配書は有効のままで迷惑をかけていますし……今日の私は帝国女王アリシア七世ではなく、ただの一市民のアリシアですから」

 

いつもは傲岸不遜なシュバルゴですら、多少は言葉を選んでいる。

帝国における最高権力者であることは勿論だが、想い人の母親に相対して緊張しないわけがなかった。

 

「それで、要件は────やはり、ルミアか」

「ええ……お久しぶりですね、エルミアナ」

 

その名を呼ばれた瞬間、アリシアが現れてからシュバルゴの背に隠れていたルミアがビクッと反応する。

ルミアはアリシアの首元を確認し、そこに収まるのが金細工のネックレスであることに気づいて目を伏せる。

 

「しばらく見ないうちに、こんなに大きくなって……。先程の競技もお見事でした。白魔【マインド・ブラスト】を、あんなに危なげなく精神防御できるなんて……もう白魔術の腕は私以上かもしれませんね?」

「………ぁ……そ、その……」

 

嬉しそうにルミアに話しかけるアリシアだが、対するルミアはシュバルゴの影から出てくることはなく、言葉もまともに発せていない。

 

「こうしてまた、貴女と言葉を交わすことが出来るなんて……本当に、夢みたい……」

 

アリシアが感極まって、ルミアに触れようと手を伸ばす────が。

 

 

「────お言葉ですが、陛下」

 

 

そこでようやく硬直から脱したルミアが、片膝をついて平伏した。

そして次に、自分はエルミアナではなくルミアであり、アリシアが人違いをしていると進言し、その言葉でアリシアの手は凍りついたかのように止まった。

 

残念そうに、心底悲しそうに手を下ろすアリシア。

 

「そう、ですね。エルミアナは三年前……流行病で亡くなったのでしたね」

 

場を、沈黙が支配する。

ここまで重苦しい雰囲気になってしまっては、流石のシュバルゴも何も言えなかった。

 

そうしてしばらくして。

 

「そろそろ、時間ですね」

 

未練を振り切るように、アリシアはシュバルゴに向き直る。

 

「シュバルゴさん。エル───……ルミアを、よろしくお願いしますね?」

「……勿論、言われるまでもない」

 

何とも言えない表情でシュバルゴが見送る中、アリシアは静かに去っていった。

 

そしてこの後、アリシアは自身の護衛であるはずの親衛隊に拘束されることとなる。

さらに、その場面を観察している者が居た。

 

「……信じられんな」

「どうしたの、アルベルト?遠見の魔術で、何か見たの?」

 

アルベルトとリィエルは、建物の屋上に立っていた。

 

「王室親衛隊が、動いた。女王陛下を本格的に自分らの監視下に置いた」

「そう」

 

それを聞いたリィエルが早速、迷わず歩き始める。

そんなリィエルの後ろ髪を引っ張って足を止めさせるアルベルト。

 

「待て、何処へ行く気だ」

「決まってる。敵は全員、斬る」

「相手が多すぎる。加えて、シュバルゴ=モータナスの存在も忘れてはならない。女王陛下と先程何やら話していたようだが、油断は出来ん」

「敵の戦力が上だと言うなら、こちらがそれを上回ればいいだけ」

「援軍でも呼ぶ気か?」

「ううん、気合い」

「…………………」

 

アルベルトは険しい表情を崩すことなく押黙る。

二人の間に沈黙が訪れた。

 

「……最も女王陛下に忠義の厚い親衛隊が、陛下に直接的な危害を加えるとは思えん。俺達はこの行動に潜む何かしらの意図を探り、事態の収拾を図るべきだ」

「そう。私にはよく分からないけど」

「だろうな」

 

再びの沈黙。

外から見れば異様な光景だが、この二人にとってはいつものことだった。

 

#

 

午後の部が始まり、競技場内にルミアがいないことに気づいたシュバルゴが探しに出ると、学園敷地の南西端、等間隔に植えられた木々の陰でもたれかかっているルミアを見つけた。

 

「随分と探したぞ」

「……シュバルゴ、さん」

 

ルミアの手には、何の写真も入っていないロケットがあった。

 

「中身は、無くしたか?」

「……はい。いつの間にか、無くなっちゃってました」

「……」

 

いつ、失ったのか。

それすら分からない以上、大切だったはずの写真はもう見つからないだろう。

沈黙するシュバルゴの前で、ルミアはロケットを閉じて服の下へと落とし込む。

 

「私は、どうするべきだったんでしょうか?」

 

その言葉は、ついさっきアリシアに会った時のことか、アリシアに捨てられてからこれまでの人生のことか。

或いはその両方か。

 

「陛下が私を捨てたのは、王室……国の為に必要なことだったからだって、頭では理解はしてるんです。でも、私は……心の中では陛下を許せなかった……」

「まあ、それはそうだろうな」

「それでも、私はあの人をもう一度母と呼びたい……抱きしめてもらいたいっていう思いもあるんです」

「……ああ」

「ふたつの感情が絡まって、どうしたらいいか分からなくなってしまったんです」

 

相反する感情。

どちらかの感情を割り切って即座に行動に移せる人であれば、このように悩む必要などない。

だが、そのような人物は少数であり、どちらの感情も切り捨てられずに迷うことがほとんどだろう。

 

シュバルゴもまた、迷いの多い人生を送ってきた。

 

「少し、オレの話でも聞いてもらおうか」

「え……?」

「参考になるかどうか、と聞かれたらならないだろうが、反面教師という意味ではオレの人生経験も役立つだろう」

 

そうしてシュバルゴは話し始める。

 

 

 

帝国有数の剣術一家の長男として生まれたシュバルゴは、これまでのモータナス家の活躍から当然のように将来王室親衛隊の実力者になることを期待されていた。

当時のシュバルゴもそのつもりで鍛錬していたし、そんなシュバルゴを家族もこぞって応援した。

 

雲行きが怪しくなってきたのは、鍛錬を始めて三年後辺りの事だった。

剣の実力が一向に伸びない。

いや、伸びてはいるのだが、上達速度が遅すぎた。

 

後から鍛錬し始めた弟や妹にすら手も足も出ず敗北するシュバルゴに、家族の態度はだんだん冷たくなっていった。

 

そうして、決定的な出来事が起きる。

 

同年代の一般兵士……警邏兵との決闘。

それなりの訓練をして、それなりの実力を持つ相手との決闘に、シュバルゴは完膚なきまでに叩きのめされた。

 

その日から両親から侮蔑の目で見られ始め、弟からは使い勝手の良い奴隷のような扱いをされるようになった。

唯一、妹だけは何もしてこなかったが、シュバルゴを助けることも無かった。

 

虐げられる毎日。

だが、シュバルゴはその現状を変える努力はしなかった。

 

剣の鍛錬は続けた。

いつか、自分の役に立つ事を信じて。

教養も自力で身につけた。

自立した時に、恥ずかしくないように。

 

自分を変える努力はしても、家族に対して何かを求めることは……終ぞ無かった。

 

 

 

「オレは親族と対話をしようとせず、和解の道を自ら拒絶していた。魔術の道を歩んだのは、たまたま出会った二流魔術師に才能があると言われて学んだに過ぎない」

 

魔術師として一流になった後にでも……何か一つ、自信が持てる武器を手に入れてからでも、対話の道を模索していれば、今とは何かが変わっていたかもしれない。

与えられた虐待に対して憎しみを持ち、家族を皆殺しにしたシュバルゴはどうしようもない犯罪者で間違いないのだ。

 

「オレのような血に汚れた男で良ければ、付き添いでも何でもしてやろう。だからルミア。お前はオレのように話す前から諦めるな。一度でもいいから、心の蟠りが消えるまで話して……それから、どうするのかを決めればいい」

「シュバルゴ、さん……」

 

シュバルゴの境遇を聞いてか、それとも別の理由か。

悲しそうな、それでいて何かを決心したかのような力強い目でシュバルゴと目を合わせるルミア。

 

「……よし。それでは、競技場に戻るぞ。システィーナやグレン……クラス全員が待っている」

「……はい!」

 

そうして、皆のもとへと戻ろうと歩き出して。

その歩みは、すぐに止められた。

 

 

道を阻むは王室親衛隊の騎士達。

訝しみながら無視して通り過ぎようとしたシュバルゴたちだったが、ルミアの腕が騎士の一人に掴まれた。

 

「ルミア=ティンジェルだな?」

「……え?」

「ルミア=ティンジェルに相違ないな?」

「は、はい……そうですけど……」

 

そして明かされる、ルミアの罪状────女王陛下の暗殺の企て。

女王陛下の命の下、即刻死刑という重すぎる刑罰。

 

「なんの真似だ、王室親衛隊……!」

「なんだ貴様は。その服装……学院の警備員か?」

 

剣を抜き突きつけてくる騎士たちからルミアを守るように、シュバルゴが前に立つ。

 

「警備員ごときが、女王陛下の忠実なる臣たる我々に歯向かう気か?」

「戯言を。ルミアが暗殺を企てたという証拠を見せろ」

「そのようなことをする義理はないな。部外者には関係の無い事だ」

「何だと……?」

 

一触即発。

ものすごい表情で騎士を睨めつけるシュバルゴに、しかし騎士は動じない。

 

「これ以上我々の邪魔をするならば、ルミア=ティンジェルに加担する者として貴様も刑に処することになるぞ?」

「臨むとこ────」

 

「待ってください!」

 

啖呵を切ろうとしたシュバルゴを制したのは、ルミアだった。

 

「仰せの通りに致します。ですから、この人は……」

「ルミア……!?」

「……物分りがいいな。罪人と言えど、我々に人をいたぶる趣味は無い。痛みも一瞬で終わらせてやろう」

 

このままではシュバルゴまで巻き込んでしまう。

その思いから、ルミアは潔く刑に服すことを選んだ。

だが、それをシュバルゴが黙って見過ごす訳もなく。

 

「………………バレたら居場所を失うが……仕方ない」

「……?」

 

シュバルゴが抵抗しないように剣を突きつけているのが一人。

ルミアの死刑を執行しようとしているのが一人。

周囲を警戒しているのが三人。

 

計五人の騎士が敵。

 

さらに五人全員、鎧に対魔術の処理がされており、基本三属性の魔術はほぼ無効化されるだろう。

ならば、対抗策は一つ。

 

「モータナス流剣術……【破壊(デストロイ)】」

 

魔術で隠し持っていた細剣で突きつけてきていた騎士の剣を砕き、そのまま流れるように剣の腹で鎧ごとその騎士を薙ぎ払う。

詠唱済み(ストック)しておいた【ウェポン・エンチャント】を剣に付与していたおかげで、剣の腹で殴っただけだが鎧越しでも気絶する程度の威力はあった。

 

「ッ、貴様!?」

「邪魔だ……!モータナス流剣術、【流水】」

 

まるで、流れる水のように。

スイスイと三人の騎士をかわしながら、流し斬る。

 

「ルミアはやらせん」

「貴様、まさか……!【堕ちた剣】、シュバルゴ=モータナスか!?」

「驚く暇があるとはな」

「っぐあぁ」

 

隙を晒すルミアの前に立つ騎士を倒したシュバルゴは、ルミアを抱えて走り出す。

 

「どうして、」

「オレがお前を見捨てるわけが無いだろう。たとえ、全世界を敵に回したとしても、オレはルミアの味方だ」

 

こうして。

天の智慧研究会としての自分をさらけ出したシュバルゴは、ルミアと共に追われる身となった。

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