外道魔術師の一目惚れ   作:シークレット/K

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第四話

「シュバルゴ!掃除終わったら買い出し行ってこい!」

「承知した」

 

「シュバルゴ!私とホークの弁当は!」

「出来ている」

 

「シュバルゴ!ちょっと付き合え!!」

「いくらでも」

 

────セリカの小間使いになって数日。

事ある毎に名を呼ぶ主人の命令に対応すべく、シュバルゴは邸内を奔走する日々を送っていた。

そんなある日、気になって弟子に講師の合間を縫って調べさせていたことについて、進捗があったと報告が上がった。

 

「それで、イヴ=イグナイトはどうなった?」

 

シュバルゴの懸念はイヴの処遇だった。

本来なら他人、それも敵だった彼女など気にすることなど無いはずのシュバルゴが、それでもホークに調べさせたのは、共に行動をして知った彼女の状況を哀れんだから、という訳ではない。

もちろん、全く無かったかと言われればそれは嘘になるが、それが全てではなかった。

 

シュバルゴは、自分の過去をイヴと重ねていた。

シュバルゴの手によって滅ぼされたが、モータナス家は代々王室親衛隊に所属するエリート騎士として王家に仕えてきた家系だった。

 

目指す目標はゼーロスのような超一級の剣技を扱う騎士であり、魔術に関してはそれなりに扱う事が出来ればそれで良しとした家系。

事実、モータナスの姓を持つ騎士はゼーロス程ではないにしろ、他と比べると圧倒的に強い猛者ばかりだった。

 

だが、シュバルゴは魔術の才能はあれど、剣技の才能は平凡そのものだった。

どれだけ努力しようと、後から産まれてきた弟や、女である妹にまで、少しの鍛錬で実力を抜かれていった。

 

明確に家内で差別を受け始めたのは、一般兵士との決闘で大敗北を喫した時からだろうか。

モータナス家最弱のシュバルゴが、警邏兵の一人と一対一の決闘を行い、完膚なきまでに叩きのめされた一件。

 

弟達には劣るも、努力をし続けてそれなりに剣を扱えるようになって、少しばかりの自信を持ち始めた────そんな時に父親から言い渡された兵士との決闘。

一方的に攻められて防戦一方だったシュバルゴに、最後まで勝利の女神が垣間見えることも無く。

 

大敗を喫したシュバルゴに、家族はもはや言葉を交わすことも無くなった。

 

────ああ、そうだった。

 

強い結婚願望からか忘れかけていた外道魔術師となったきっかけを、シュバルゴはイヴの様相を見て思い出したのだ。

だから、家族に蔑ろにされているイヴに対して他人のような気がしなかった。

放ってはおけないと、そう思ったのだ。

 

「どうやら、本当に《魔術師》の任を解かれそうになったらしいっす」

「解かれそうに、という事は、実際には?」

「はい、お察しの通り、解任にまでは至らなかったようっすね。特務分室の連中が女王様にまで直談判して事なきを得たみたいっすよ」

 

そんな弟子の報告聞いたシュバルゴはフンと鼻を鳴らし、ソファに座り込む。

 

「やはり、居るのではないか。俺とは違って、頼れる仲間が」

 

シュバルゴが外道に堕ちることを決めた時、彼女のように自分の事で怒ってくれるような頼れる仲間がいたのなら……一体今、どうしていたのだろう。

 

考えても詮無きことだが、イヴが仲間の尽力で家族の脅威を乗り切った今、考えずには居られなかった。

 

#

 

「……で、だ。わざわざこんな時間になって話すことって何だ、シュバルゴ?」

 

明くる日の夜、シュバルゴは学院から帰ってきた主……セリカと話をすべく、用意した夕食を持ってセリカの部屋へとやって来ていた。

 

「天の智慧研究会の情報を共有しておこうと思ってな。俺の権限で得た情報なぞたかが知れているが、それでも公になれば不味いことのオンパレードになるが、聞く気はあるか?」

「そうだな〜、んむ……まあ、聞いておく。あ〜、んぐんぐ、アリスの娘……いや、ルミアを狙う理由とかは知りたいしな」

 

食べながら答えたセリカに、シュバルゴは口を一度つむぐ。

研究会の情報を漏らすということは、一時の迷いという言い訳が出来ない程の明確な裏切り行為だ。

話せばもう、後戻りは出来なくなる。

 

────セリカが帰ってくる前、起きた出来事を思い出す。

 

帰るのが遅くなるセリカのものとは別に、早く帰ってきたホークや一日中邸内に居るルミアの為に夕食を作ったり、風呂の湯を沸かしたりと、一通りの家事を終えてから作った料理を食べようと食堂へ向かうと、ルミアとホークが席に着いてシュバルゴを待っていた。

 

「先に食べていても良かったものを」

「いや〜、ルミアちゃんが心細そうにしてたから、俺が師匠を待って一緒に食べようって提案したんっすよ!」

 

言われてみれば、初めて会った時からルミアが笑ったところなど見たことがなかった。

それもそのはず、出会い方からして恐怖を覚えた相手二人と、母親に連れられて数回会った程度のセリカと一緒に暮らしているのだ。

歳の近い子も居ないこの場所に対して、不安にならないはずが無かった。

 

「……それは盲点だったな。オレとした事が、好きな相手の気持ちを汲んでやることも出来んとは……」

「いや、何言ってんすか師匠。正直キモイっす」

「ホーク貴様ァ!」

 

弟子にキモイ呼ばわりされたシュバルゴがキレて掴みかかる。

抵抗するホークだが、近接での勝負では勝てる訳もなく、ほぼされるがままになっている。

 

「痛い!痛いっすよ師匠!!」

「フン、当たり前だろう、痛くしているのだから。……というか貴様、一度痛い目にあった方がいいぞ。事ある毎にオレに恋愛の自慢話を聞かせよってからに!!」

「それ今言うっすか!?っていうか良い機会だし俺も言わせてもらうっすけどね、その偉そうな物言いやめた方がいいっすよ!せっかくセッティングした合コンも全部その威圧感で台無しにしてるのわかってるんすか!?」

「これは癖みたいなものだ。そも、そのような瑣末事で離れていく女なぞこちらから願い下げだ!!」

「師匠は理想が高すぎるんっすよ!自分の方も妥協して癖を治すとかしないから三十路近くなっても売れ残ってるんっすよ、分かってんすか恋愛弱者!!」

「なんだと三股野郎!!」

「ここに来てからもう会えてないっすよバカ師匠!!」

 

もはや罵詈雑言の嵐で、何を言っているのかも自分で分かっていない中、二人の息が続かず口喧嘩が途切れた、その時────

 

「っ、ふふ、あはは……」

 

可愛らしい笑い声が、二人の耳に入ってきた。

 

思わず声の主……ルミアを見てしまう二人。

そんな二人を見て、ようやく笑ってしまったことに気づいたルミアが頬を赤くして顔を両手で覆う。

 

「────、」

「え、師匠?師匠!?白目剥いてるっすよ!?」

「────天使か……」

「師匠!!ちょ、本気で逝くつもりっすか!?」

 

ルミアのあまりの可愛さに、本気で昇天しそうになるシュバルゴをどうにか留まらせるホーク。

結局夕食を食べたのはそれから数十分後になり、冷めた料理を食べる羽目になった。

 

それでもルミアの表情は幾分か良くなり、久方振りに他人と一緒に食べる料理は、どことなく美味しかった。

 

────そんな、天使のような笑顔を護りたい。

29歳になって初めて、誰かを守りたいという思いを手にしたシュバルゴは、研究会に対する未練などありはしないことを再確認し、目の前のセリカに向けて口を開いた。

 

「オレが話せるのは、直属の上司だった第三団(ヘヴンス)()天位(オーダー)】の一人の名、今後の計画の最重要の()()()、そして……()()()()()()()()()()()()についての三つだ」

「異能か……ルミアが王家を追放された原因だったか?」

「ああ、と言っても、オレが知るのは彼女のソレがレナード達が聞かされていた"()()()()()"()()()()()()()だということぐらいだがな」

「なに?」

 

感応増幅者、というだけだったならルミアが研究会に狙われることは無かっただろう。

他にも存在する異能であるというのに、王族を狙うのはリスクが高すぎる。

だが、肝心のルミアの異能の正体はシュバルゴにも上司に聞かされていないため分からない。

 

「【天の智慧研究会】にとってルミアの異能……というよりは、()()()()()が重要であるように思える。確実ではないがな」

「そうか……」

「次に、オレの上司についてだが……(あるじ)、貴様ともおそらく知己だろう」

「私の知己?学院にでも潜んでるのか?」

「いや……」

 

一拍を置いて、その名を出す。

 

「二百年前、主と共に『魔導大戦』で活躍した『六英雄』の一人────【鋼の聖騎士】ラザール=アスティールだ」

 

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