外道魔術師の一目惚れ   作:シークレット/K

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第六話

────グレン=レーダスとの和解から数日。

 

数日おきにルミアの遊び相手として娘……システィーナを連れてくるレナードが、今日もやって来た。

 

「ご苦労だな、レナード」

「フン、いつ見ても滑稽な姿だな、シュバルゴ」

 

会う度に軽口を叩き合う二人を、ジト目で見るシスティーナ。

初対面こそシュバルゴの強面に怯んだりしていた彼女だが、今では慣れたらしい。

 

いつものようにルミアが居るであろう部屋に向かうシスティーナを見送り、シュバルゴとレナードが向かい合う。

 

「……そういえば最近、宮廷魔導師団が魔術テロ組織を制圧したらしいが、お前は何か情報を掴んでいるか?」

「いや、何も知らんが。……【愚者】がここの所忙しそうにしているのはそういうことだったか。その程度で直接的に特務分室が出動するとは思えんが、オレの監視と兼任して外でも"仕事"とは、ご苦労な事だ」

「【愚者】?ああ、セリカ=アルフォネアの養子だったか?帝国宮廷魔導師団についてはあまり知らんから実力は分からんが、特務分室ならさぞ凄腕なのだろうな」

 

世間話をしていると、システィーナがルミアを連れて戻って来た。

どうやら、ルミアをフィーベル邸に招待したいらしい。

ルミアも一緒にシュバルゴの顔色を伺ってくるあたり、乗り気ではあるのだろう。

ようやく明るくなってきたルミアの表情を曇らせるようなことが言えないシュバルゴの答えは決まっていた。

 

「ああ、特に問題はないが。いや、だが、そうだな……ルミア、これを持っていけ」

 

シュバルゴはルミアに、自身が持つ二つの石型の魔道具の片割れを手渡す。

落としさえしなければ魔道具同士が引き合い、もう片割れのある方角が分かるようになっている。

ないとは思いたいが、これでルミアに何かがあっても居場所を特定出来る。

 

「絶対に落とすな。何かがあったと分かったら、すぐに駆けつける」

「は、はい」

「……よし、理解したなら、行くがいい」

 

シュバルゴが許可を出すと、システィーナがルミアの手を引いて駆け出していく。

帰りも送っていくことを約束したレナードがそれを追いかける。

 

「……テロ組織、か。調べておく必要があるか?」

 

顎に手を当てて考えるも、既に壊滅した組織を調べても意味はないと思い至り、邸内の掃除を続けるのだった。

 

 

 

時間が経ち、昼食後の運動がてら庭の掃除をしていると、キィン、と通信の魔導具が鳴り響いた。

相手は、レナードだ。

 

「……どうした?」

『……すまん、ルミアが連れ去られてしまった』

「────何?貴様が居て、そのザマか?」

『く、うぅぅ、システィも一緒になァ!ふざけおって……!私の可愛いシスティをよくもぉッ!』

「チッ、直ぐに出発する。貴様は今何処にいる!」

 

女王にも連絡したらしいレナードを回収して、魔導具の情報とレナードが持つ手紙を頼りにルミアの居場所を特定していく。

 

「それで、貴様程の男がまんまとしてやられた理由を聞いていないんだが」

「何故かは分からんが、二人で家の外に出て行ってな。庭で遊んでるのを見て、大丈夫だろうとちょっと目を離した隙に……いつの間にか居なくなっていた」

「………………、馬鹿か貴様?」

「そして、二人が居なくなった庭の真ん中に、テロ組織からのこの手紙があってな。『返して欲しくば、金を用意しろ』、と」

「身代金目当てとなれば、国外逃亡を画策するテロ組織の残党か。チッ、やはり調べておくべきだったか」

 

朝の自分を殴りたい衝動に駆られるシュバルゴだが、誘拐された事実は変わらない。

────と、二人の足が止まる。

 

「……随分と、おあつらえ向きな場所があったものだな」

「これが終わったら、全部伐採してやろうか……?」

 

フェジテ郊外に広がる樹海。

手紙が示し、魔導具が指し示すルミア達の居場所は、その更に奥で間違いないようだった。

 

#

 

「はは、上手くいったな、ゲイル?」

「ああ、どっちがフィーベル家の令嬢か分からなかったから二人とも攫ってきたが、大正解だった!一人は金と交換だし、もう一人も商人に売ればまた金が手に入る!」

 

「商人に売り飛ばす暇なんてないよ、馬鹿共」

「あ、カリッサの姉御!じゃあ、俺たちで楽しんじまっていいですか!」

「ちょっと待ちな。フィーベル家の令嬢と一緒に居た娘……金に関してはフィーベルの娘と引き換えての身代金で充分だが、どうにも気になるねェ?」

 

下劣な会話が耳に入り、意識が覚醒する。

朦朧としながらも、今の状況を確認しようと辺りを見回す。

両手が縛られて口も塞がれており、隣には同じ状態のシスティーナが転がされている。

 

「おお?これから酷い目に遭う方のかわい子ちゃんが目を覚ましたようだぞ!」

「ひっ」

 

気持ちの悪い笑みを浮かべながら近づいてくる男たちを恐れて後ずさりするルミアだが、背後は壁で背中をぶつける。

その弾みで懐にあった物が床へと飛び出した。

 

カラン、とかわいた音を鳴らしたそれは、シュバルゴに貰った魔道具。

純粋な好意をぶつけてくる、父親が居ればこんな感じなのかと幻視する男から初めて貰ったもの。

大事にしまっていたはずのソレを取り戻そうとして────

 

「あ?なんだ、コレ?」

 

ルミアの指が触れる前に、男の一人に奪われる。

少しでも魔術の心得を持つものならばすぐに魔道具だとわかるソレを、ルミアの表情から大事なものだと察した男が、ニヤリと笑みを浮かべて。

 

「《雷帝よ・鋭き針雷以て・刺し貫け》」

 

威力半減・鋭利化の即興改変をした【ライトニング・ピアス】が、魔道具を貫き砕いた。

砕かれた魔道具は、ルミアの目の前でパラパラと崩れ去る。

 

「あ、あああ……」

 

唯一の、"ルミアを必要としてくれる人から貰ったもの"───心の拠り所になり得たものが、喪失した。

 

「あああああああああああああ!!」

 

じわりと、涙を浮かべて絶叫するルミアを見て、男たちは笑う。

唯一、女の魔術師はため息を吐いて「趣味が悪い」とつぶやくが、止める気配はない。

 

そしてその騒がしさからか、システィーナの意識が覚醒する。

 

起きてすぐ、ルミアの悲嘆の声とそれを笑う男たちがシスティーナの目に飛び込んできた。

 

「何を笑っているのよ!ルミアを泣かせて、許さない!」

 

仮にシスティーナだけが誘拐されていたならば、幼いシスティーナの精神では怯えて動けなかっただろう。

だが、既に絶望して取り乱すルミアの存在が、システィーナの頭に血を昇らせたのが不味かった。

 

啖呵をきったシスティーナの言動は、男たちの癇に障ったらしい。

明らかにキレている男の一人の蹴りが、システィーナの鳩尾に入った。

 

「ゴブッ!?ゲホッ、オエッ」

「何をやってんだい。そっちは金と交換するんだから、あまりやり過ぎるんじゃないよ!」

「あーー、つい勢いでやっちまったっす、すいません姉御。まあ、金髪ちゃん……ルミアって言ったっけ?犯して機嫌を戻していいですか?」

「フン……ダメ元で天の智慧研究会に引き渡すから、殺しはなしだよ」

 

「こいつ、そんなビッグネームが欲しがる奴なんですか!?」

「確定じゃないが、その可能性があるってだけだよ。下手したらかの組織に仲間入り出来るチャンスになりうるからね……死なせたらあんたの命もないと思いな」

「了解っす、姉御」

 

そうして、ゲイルと呼ばれた男がルミアに近づいていって────

 

「うるっせぇなッ!!イライラするから黙れよ」

 

未だに大声で泣いていたルミアの顔を蹴り飛ばす。

廃墟に存在する放置されていた木箱に激突するが、湿気で脆くなっていたのか、硬い木材にぶつかるよりは大した傷は無い。

 

「あぐっ、うぅ……」

「さ〜てと……楽しませてもらおうかなぁ〜?」

 

ゲイルの手が、ルミアの胸元に伸びていき────しかし。

慌てた様子で部屋に入ってきた別の男の言葉で、その手が止まる。

 

「大変だ、カリッサの姉御!帝国宮廷魔導士団が……それも、あの『特務分室』が動いてる!」

「なんだって!?」

 

一気にその場の緊張が高まる。

話によれば、コードネーム【星】と【女帝】の二名によって潜伏していた別働隊が全滅。

さらに、【愚者】がこちらに向かっているという情報。

 

あまりにも突然の出来事に混乱する一同だが、逆にルミアの正体を察したカリッサは口角を上げる。

確かにこの状況は不味い。

だが、向かってきているのは【愚者】一人であり、対するこちらは百戦錬磨の魔術師が多数存在する。

 

つまり、【愚者】一人の猛攻を防ぎきれば、天の智慧研究会での地位が確立されるのだ。

 

「あんたらはこの娘を見張っておきな。絶対に逃がすんじゃないよ!いいね!!」

「了解です、姉御!」

 

だが、カリッサはこの判断が間違いだったと思い知ることになる。

敵は【愚者】に加え、娘であるシスティーナを取り戻す為に修羅の表情で迫る魔導省のエリートと、想い人であるルミアを救い出す為に鬼の表情で疾駆する元・天の智慧研究会第二団【地位】の、二人の超一流の魔術師が存在しているのだから。

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