ファンタジア!~異世界転移した私は勇者を目指します~   作:ヤマタ

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第21話 悪霊を統べし女王

 ベルフェンに張られた結界によって集落へ閉じ込められてしまった詩織達。今のところ打つ手もないので宿へと向かい、そこで対策を考えることにした。

 そんな詩織達一行を結界の外から観察する者がいる。

 

「楽に倒せる相手ではありませんね。いい獲物ですが・・・」

 

 薄汚れた衣服を着るその人物は、何か考える素振りをした後でゆっくりと立ち上がった。自分の判断だけではなく、自らが仕える主にお伺いを立てるべきだと思ってのことだ。

 

 

 

 

「我が主よ、新たな獲物を捕らえました。しかし相手が悪く、私の力だけでは対処しきれません」

 

 ベルフェンから少し離れた場所にある古代の遺跡。そこの一角で先ほど詩織達を監視していた人物が膝をついて事を報告する。

 

「ふむ、どのような相手なのだ?」

 

「あれは王族の者達です。複数の適合者を従えています。恐らくは、このベルフェンでの異常を聞きつけて調べに来たのでしょう」

 

「なるほど。それは逃せない相手だな」

 

 玉座とも思える古くも豪華さを感じさせる椅子の上に出現したのは、詩織達が遭遇したイービルゴーストを巨大化したような魔物だ。人間の三倍は大きいその悪霊こそ、指揮官のクイーン・イービルゴーストである。

 

「それだけでなく、一人気になる適合者がいるのです。その者はこれまでに感じたことのない魔力を使い、私の結界を破壊しようとしたのです。まぁなんとか持ちこたえることができましたが」

 

「ほう?それは興味深い。特殊な力といえば勇者だが、まさかそれに類する者なのだろうか」

 

「分かりかねます。しかし、我が主に是非献上したいですね」

 

「そのためにも完全に捕らえなければな」

 

 クイーンが指を鳴らすと十数体のイービルゴーストが姿を現す。

 

「我の部下を貴様に預けよう。こやつらと共に敵の魔力を吸い出し、配下に加えるのだ。分かったな、イルヒ?」

 

「はい。我が主の真の復活のために」

 

 そう言ってイービルゴーストを引き連れて集落へと戻るイルヒ。見送るクイーンは本当なら自らが先陣を切って敵を襲撃したいのだが、まだ本来の力を取り戻せてはおらず戦闘に充分に耐えられる体ではないのだ。

 

「永い、永い時間が過ぎた。もうすぐこの我が世界に戻る時が来る・・・」

 

 討伐されても尚生きながらえていたが、もはや魔物としてのパワーは無かった。だが、異質な魔力とイルヒによって不完全ながらも力を取り戻し、人間から魔力と生気を吸い取ることで完全復活を目論んでいる。

 

「面白くなってきたな・・・」

 

 

 

 

「さて、会議を始めるわよ」

 

 ベルフェンの宿の食堂に集まった七人の適合者達はそれぞれ椅子に座る。

 

「状況はいたって最悪よ。何者かが展開した魔力結界によって外には出られない。イービルゴーストがいつ襲ってくるとも分からない場所に閉じ込められたのだからね。これを何とか打破したいのだけど、案がある人はいる?」

 

 しかし誰も手を上げない。それはそうだろう。詩織の一撃すら防ぐほどの結界をどうやって破壊するかなんて分かるはずもない。

 

「困ったわね・・・」

 

 アイラ自身にも妙案はない。戦闘は得意なほうだが、このような事態に遭遇することなどないので解決策を教えてほしい側なのだから。

 

「とりあえずは体力を温存することを考えて。食料はこの宿にいくらか貯蔵されているとはいえ、長期戦ともなれば絶対的に足りない。イービルゴーストの襲撃もあるだろうけど、最小限の戦闘で切り抜けるように」

 

 難しいことを平然と言うものだ。戦闘は命がけで、簡単にこなせるものではない。

 

「この宿には一つ大部屋があるから、皆でそこで休息を取ることにしましょう。見張りは二人ずつで交代制でやるわよ」

 

 判断の速さはさすが指揮官を長く務めてきたアイラだ。詩織達もそれに頷いて移動を開始する。

 

 

 

「まさかこんな事になるとはねぇ」

 

「確かに単純な魔物討伐になるだろうと油断していたわ」

 

 詩織とリリィはペアを組んで見張りを行っていた。当然というか、リリィから詩織を誘ったのだ。

 

「私はホラーが苦手でね。幽霊とか関わりたくもないよ」

 

「それはわたしも同じよ。怪談話とか昔から避けてきたもの」

 

 イービルゴーストは魔物であるが、その性質は幽霊にほぼ近い。

 

「いつ襲ってくるか分からないってのも本当に怖い」

 

 普段は霊体化しているので目に見えないが、対象を襲う時に実体化してくるのだ。そのため襲われる側からしたら急に現れたように見える。

 

「でも恐れずに倒さないと、こっちがやられるわ」

 

「そうだね。今日はビビっちゃったけど、次はちゃんと戦うよ」

 

「一緒に頑張りましょう。二人とも、そして皆で生きて帰るために」

 

 普段なら二人きりともなればリリィが詩織に甘えに行く場面なのだが、このような緊張感溢れる場所ではそうしている余裕はない。まったく魔物なんかいなければ・・・

 

 

 

「よし、それでは潜入しますよ・・・」

 

 ベルフェンに到着したイルヒは結界の一部を切り取るようにして内部に侵入する。こうしなければ連れてきたイービルゴースト達が結界内に入れないのだ。

 

「これだけの数がいるのですから、怖いものなしです」

 

 イービルゴーストの数は五十を超える。これだけいれば適合者といえども瞬殺だろう。もはや勝利を確信したイルヒは魔力を滾らせ、不気味な笑みと共に宿へと進軍する。

 

 

 

「なんだ、この邪気は・・・」

 

「どうしたの、シオリ?」

 

「もの凄い邪気だよ、これは。多分、敵が近づいてる」

 

 異変を感じ取った詩織は寝ている仲間達を起こす。アイラはすぐに目を覚まして詩織に問う。

 

「どうした?」

 

「アイラさん、敵が来ている感じがするんです」

 

「分かったわ。各員、戦闘準備」

 

 宿の外を見てみると、暗闇の中で人影が近づいてくるのを発見した。

 

「アイツから感じるんだ、この強い気配は」

 

 詩織が感じ取ったのはイルヒの魔力だった。油断せずに奇襲すればいいものを、調子に乗って堂々と近づくからバレたのだ。まるで戦闘の素人である。

 

「あの人間か。とっ捕まえてやりましょう」

 

 七人の適合者が宿から出てイルヒに対する。

 

「アンタは何者なの?」

 

「私は言うならば使者ですかね」

 

「は?」

 

「おとなしく降参してくだされば、さほど恐怖も感じずに逝けますが?」

 

「何言ってるのコイツ。というか、アンタがこの結界を展開した犯人?」

 

「そうですよ。我が主の餌になってもらうために」

 

 アイラは苛立ちを隠す様子もなくイルヒに近づく。捕らえてこの結界を解除させるためだ。

 

「ふざけないで。誰が餌なんかに」

 

「残念です。戦いは免れられないようですね」

 

 イルヒが手を上げると、霊体化していたイービルゴースト達が一斉に実体化して詩織達を取り囲む。

 

「ちっ!こんなにいたのか」

 

「はい。これでアナタ達は終わりです」

 

 イービルゴーストが動き出し、適合者達の魔力や生気を吸い取るべく掴みかかろうとする。

 

「これしきっ!」

 

 アイラは三体のイービルゴーストを薙ぎ払いつつ、イルヒから目を離さない。

 

「アンタ、後悔することになるわよ!」

 

「それはこっちのセリフです」

 

 イルヒが魔法陣から取り出したのは黄金の杖だ。柄の先端には水色の結晶体が装着されており、僅かに発光していた。

 

「これで!」

 

 杖の向けられた先のアイラが咄嗟に回避運動をとり、そこに魔弾が着弾する。地面は抉れて土埃が周囲に拡散された。

 

「威力がある一撃だわね」

 

「まだ撃てますよ」

 

「だとしても!」

 

 攻撃の動作を見てからでも回避は可能だ。ましてやアイラほどの戦闘経験者ならば造作もない。

 

「これは直撃させます」

 

 再び魔弾が放たれ、それを横にステップを踏んで避けようとしたのだが・・・

 

「なんとっ!?」

 

 通常、魔弾は直線軌道をとる。つまり杖の向けられた射線上から退避すれば攻撃を受けることはない。しかし、イルヒが放った二発目の魔弾は違う。アイラを追尾するように曲がってきたのだ。

 

「魔弾が曲がってくるのか!?」

 

 まるでホーミングミサイルのように対象を追う魔弾を剣で切り裂いて被弾は免れた。しかし、それによって生じた爆発で吹き飛ばされて地面に転がる。

 

「ちっ・・・」

 

 致命傷ではない。だが、倒れたアイラに数体のイービルゴーストが襲いかかろうとしていた。体の痛みで満足に動けない今、イービルゴーストに組みつかれれば死に直結する。

 

「やらせはせん!」

 

 痛みをこらえて懸命に剣を振る。一体のイービルゴーストを撃破したが、他の個体はもう目の前だ。

 

「ダメか・・・」

 

 アイラの顔にイービルゴーストの手が迫る。が、それが触れる前にそのイービルゴーストは霧散した。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「シオリ・・・」

 

 駆け付けた詩織が聖剣で残りのイービルゴーストを薙ぎ払いつつ、アイラを抱き起した。

 

「怪我はありませんか?」

 

「問題ないわ。ありがとう」

 

「いえいえ」

 

 立ち上がったアイラはイルヒを睨みつけ、反撃の準備を整える。

 

「さて、もうアンタの魔物達も数が少ないわね。おとなしく降参なさい」

 

「困りましたね・・・」

 

 思ったよりも王族一行の適合者が強く、あれだけいたイービルゴーストは全滅しかけていた。数で押せる算段だったのだが、イービルゴーストの個々の戦闘力はさほど高くないうえ、適合者達の連携によって覆されてしまったのだ。

 

「仕方ありません」

 

 魔弾を撃ち、イルヒはその場から急いで逃走する。こういう場合は逃げるが勝ちだと考えたのだ。

 

「逃がすものかよ!」

 

 アイラが追い、詩織も付いていく。

 

「ちょっと!シオリ!」

 

 少し離れた場所からそれを見ていたリリィが慌てて詩織を追いかけようとしたのだが、飛びかかって来たイービルゴーストに行く手を阻まれてしまった。

 

「邪魔なのよ、アンタ!」

 

 

 

 

「しつこいですね・・・」

 

 もうすぐでベルフェンの端に辿り着く。この集落を覆う結界の外へと出てしまえば逃げきれたも同然なのだが、その前にどうにも追いつかれそうだ。

 

「いい加減に諦めなさい」

 

「それは無理ですね」

 

 振り返り、魔弾を発射する。

 

「もう驚かないわ」

 

 ホーミング性の魔弾だが、一度見てしまえば対応は可能だ。追尾するといっても急激な弾道変化は不可能であり、攻撃対象に向けてせいぜい斜めに軌道を変える程度だ。それならば魔弾が直撃する寸前で斜め前にでも回避すればよい。

 

「見切った!」

 

 上手く回避に成功し、魔弾はアイラを掠めるようにして曲がった後、建物に激突して爆散する。

 

「やりますね・・・」

 

 倒せなかったが問題ない。相手の足止めができたのだから。

 

「私もいるよ!」

 

 反転して逃げようとしたイルヒだったが、アイラの後ろから現れたシオリが跳躍してゆく手を阻む。

 

「邪魔ですよ!」

 

 今度は杖を詩織に向けたが、

 

「させない!」

 

 聖剣の一振りが杖へと当たり、真っ二つに折れてしまった。

 

「あぁー!!よくもやってくれましたね!これは主に貰った貴重品なのに!」

 

「投降しないで無駄な抵抗をするから!」

 

「コイツ!」

 

 もう杖に攻撃能力はない。それどころか、落下の衝撃で取り付けられていた水色の結晶体が割れた。

 

「これはっ?」

 

 その結晶体が割れると同時に結界が揺らいで消滅したようだ。どうやら杖自体が結界を生成する道具であり、イルヒ自身の魔術の成果ではないらしい。

 

「くそっ・・・!」

 

 悔しさを滲ませるイルヒだが、詩織に腕を掴まれて大人しくなる。

 

「もう鬼ごっこはお仕舞いだよ」

 

「それはどうでしょう」

 

 詩織の腹部に全力のひじ打ちを行う。近接戦は不得手であるものの、イルヒとて適合者であり、強化された肉体からの攻撃は充分人体にダメージを与えることができる。

 

「うっ・・・」

 

 衝撃でよろめきイルヒから手を離してしまった。

 

「ツメが甘いですね」

 

 イルヒの言えたセリフではないのだが、この時ばかりは詩織に油断があったのも事実である。イルヒを追い詰め、結界も破壊できたことで勝ったと思ってしまったのだ。だからこそ反撃を与える隙を作ってしまったわけで、いつ何時も慎重さを欠かすのは危険だと言える。

 

「さようならです」

 

 魔法陣を展開して手に握ったのは予備の杖だ。先ほどまで使用していた物よりランクが下がるが致し方ない。

 

「これでっ!」

 

 イルヒは自分の周囲の地面に向けて威力を落とした魔弾を数発撃ちこむ。それによって爆煙と大きな土埃が舞い上がり、アイラや詩織の視界を塞ぐ。

 

「待てっ!」

 

 アイラはかまわず土埃に突っ込むが、そこにはイルヒの姿はなかった。代わりに一体のイービルゴーストが実体化してアイラの横に現れるも、簡単に剣で両断された。

 

「逃がしてしまったわね・・・」

 

 視線の先、走り去るイルヒの小さなシルエットが見えた。すでに距離を離されており、ここから追うのも可能ではあるが孤立してしまうリスクも高い。

 

「す、すみません・・・」

 

「謝ることはないわ。シオリには助けられたしね」

 

「でも・・・」

 

「お互いに生きているのだから、それでいいじゃない。生きていれば、チャンスはある」

 

 結界は無くなったわけで、ベルフェンからも出ることができるようになった。これは詩織の功績が大きい。

 

「すぐにでもこの集落を脱出するわ。そして皆で敵を追う」

 

「行き先が分からないですよ?」

 

「心当たりがあるわ。この先にはジッタ・ベルフェンという古代遺跡がある。恐らく敵はそこを拠点にしていると思うの」

 

 ジッタ・ベルフェンはベルフェンの観光資源として期待された遺跡だったのだが、結局はすぐに飽きられて長年に渡って放置されてきた場所だ。考古学的にも見るべき点はないようで、学者ですら近寄らないのだから始末に負えない。そうした誰も立ち寄らない場であるからこそ、闇の者達が棲みつくには丁度いいとも言える。

 

「今度こそはとっちめてやらないとね」

 

 アイラの綺麗なウインクに詩織は頷き、リリィ達の元へと戻っていった。

 

              -続く-

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