ファンタジア!~異世界転移した私は勇者を目指します~   作:ヤマタ

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第22話 戦慄のイービルゴースト

 イルヒの捕獲には失敗したものの、結界の破壊に成功した詩織とアイラはリリィ達の元へと戻る。勿論、イルヒが破棄した黄金の杖と結晶も回収していた。真っ二つに折れてはいるが何かの役に立つかもしれない。

 

「シオリ!良かったわ、無事で」

 

「心配した?」

 

「当然でしょ!」

 

 安堵の表情を浮かべながらも怒るように言うという器用なリリィの頭を撫でつつ、拾った杖をミリシャに手渡す。

 

「この杖と先端に付いていた青い結晶を壊したら結界が無くなったんだけど、どんな魔具か分かる?」

 

「見たこともない杖ですわね」

 

 珍しそうに杖を凝視するがミリシャの知識にはない物だ。

 

「しかもね、この杖から放たれた魔弾は弾道が曲がったんだよ」

 

「直線攻撃しかできないのが魔弾ですが、その常識を覆しますわね。それが杖の能力なのか、はたまた敵の能力かは判断がつきませんが・・・」

 

 同じく杖を主力に使うミリシャからしてみれば興味深い話である。この謎を解明できれば自分の魔弾も強化できるかもしれないからだ。

 

「その敵は逃がしちゃってさ、今から皆で追おうってアイラさんが」

 

 詩織が振り返った先、部下の無事を確かめたアイラは次の指示を出す。

 

「皆動けるようでなによりだわ。さっそく追撃任務よ」

 

「馬車の見張りについた二人は置いて行っていいんですか?」

 

「あそこまで戻る時間が惜しいから、仕方ないけどお留守番よ。ここはこの場にいる我々で事にあたる」

 

 部下の一人の質問に応じ、アイラはイルヒの逃亡した方角を指さした。

 

「向こうには古代遺跡のジッタ・ベルフェンがある。恐らく、敵が逃げ込んだのはそこだと考えられるわ」

 

 明確な確信はないが、可能性があるなら行ってみるべきだろう。これ以上に被害を増やさないためにも敵をなるべく早く倒す必要があるのだから。

 

 

 

 

「大変です!緊急事態です!」

 

 慌てた様子で帰ってきたイルヒを見てイヤな予感がしたクイーン・イービルゴーストだが、とりあえず事情を聞いてみることにした。

 

「一体何があった?」

 

「簡単に説明しますと、主から頂いた杖とイービル・ゴースト達を失いました」

 

「・・・あれだけの戦力を一瞬でか?」

 

「はい」

 

 深いため息をつきつつ、クイーンは思ったよりも敵が強いことを認識する。

 

「杖を失ったということは結界も消えたということだな?」

 

「そうです。ここまで敵が来るかもしれません」

 

「なら早急に防衛線を築くしかない。ここまで復活したのに討たれるわけにはいかん」

 

「ですが、どうするのです?」

 

 クイーンは遺跡の奥へと向かい、崩れかけた石碑を見下ろす。

 

「このジッタ・ベルフェンはただの遺跡ではない。愚かしい人間共には分からぬことだろうが、我の力を使えば本来の機能を発揮できる」

 

「そんなことが?」

 

「我に任せておけ。敵をここまでおびき寄せ、形勢逆転といこうではないか」

 

 残るイービル・ゴーストの数は少なく、このまま敵と交戦しても勝ち目は薄いだろう。だが、クイーンにはそれを覆せる策があった。

 

 不安そうなイルヒとは対照的にクイーンの青白い顔には余裕さを感じとれる。

 

 

 

 

「ここまでは順調ね。後はこの先の遺跡に突入するだけ」

 

 アイラ率いる適合者達はジッタ・ベルフェンの近くまで侵攻し、その様子を窺う。

 

「あそこに敵がいるのかしら。全然気配はないけれど」

 

 リリィは魔力で強化した視力を用いて偵察するも、敵影は捉えられない。遺跡は拠点ではなかったのかという落胆を感じる。

 

「まぁイービルゴーストは姿を消せるから実体化するまで見えないし、あの杖を持っていた適合者は物陰に隠れているのかもね」

 

「それに、あの遺跡から何か感じる」

 

 詩織は遺跡に近づくにつれて異様な気配を感じていた。

 

「シオリ、それが何か分かる?あの適合者とか?」

 

「違うと思う。その集落で感じたものより・・・不快感が強いかな」

 

「ふむ・・・」

 

 詩織がそう言うのだから何かしらがあるのは間違いないだろう。

 

「そういえば、あの適合者は自分を使者だと言っていたな。主がどうとかとも口にしていた」

 

 アイラはイルヒの言葉を思い出し、その主とやらを詩織が探知したのではという考えに至る。

 

「ともかく確認しないとね。皆、行くわよ」

 

 

 

 

 慎重に遺跡の中へと足を踏み入れた一行は周りを索敵しながら奥へと進んでいく。まだ敵襲はない。

 

「この先、気配があるのはこの先だよ」

 

「シオリのカンはアテになります。アイラお姉様、戦闘の時は近いかもしれません」

 

 リリィへと頷き、アイラは全員に魔具の装備を指示した。一層の緊張感が詩織達を包む。

 

「・・・来るっ!ミリシャ、後ろっ!」

 

 詩織の叫びと共に姿を表したのはクイーン・イービルゴーストだ。

 

「ほう、よく我の接近に気がついたな」

 

「普通のイービルゴーストじゃない!?」

 

 クイーンは詩織に感心しつつ、その大きな腕を剣に変形させてミリシャへと斬りかかった。

 

「危なかったですわ」

 

「奇襲は失敗か」

 

 通常のイービルゴーストは詩織でも探知できない。だが、クイーンクラスの異質さを兼ね備えた魔物であれば霊体化していても気配を感じ取れる。

 

「お前がイルヒの言っていた適合者か」

 

 逆にクイーンからしても詩織が他の人間とは違うことが分かった。そしてその力が恐らく勇者タイプであることも。

 

「貴様を吸収できれば、我も真の復活を果たせるやもしれんな」

 

 部下のイービルゴースト達を招集し、遺跡は戦場へと変化する。

 

 

 

「今度こそ負けません」

 

 イルヒも隠れていた大きな岩陰から出て来て予備の杖をかまえて魔弾を発射した。高熱を纏いながら飛翔する魔弾はアイリアの近くに着弾し、爆煙がその周囲を覆う。

 

「あいつ・・・」

 

 被弾を免れたアイリアはイルヒをロックオンし、コンバットナイフを両手に握って突撃。素早い斬撃がイルヒを襲う。

 

「ひぃ~」

 

「その程度の実力で!」

 

 避けるしかできないイルヒだが、今はこれでいい。

 

「覚悟するんだな!いつまでも避けられんぞ」

 

「それはどうでしょう」

 

 近接戦は得意でないイルヒはクイーンに指定されたポイントへの撤退を開始する。

 

 

 

「さぁ、我の養分となるのだ」

 

「いやです」

 

 詩織は聖剣グランツソードでクイーンの攻撃をいなしつつカウンター攻撃を行う。

 

「この魔力、是非欲しいものだ。なら・・・」

 

 このまま交戦しても埒が明かない。それどころか、まだ完全体ではないクイーンのほうが不利なわけで討伐される可能性が高いのだ。

 攻撃を回避しながら徐々に後退し、イルヒとの事前の打ち合わせ通りに敵を誘い込む。だが、それに詩織は気がついていない。むしろ自分が優勢であると勘違いしていた。

 

「まずいな、コレは」

 

 追い込まれている感を醸し出すべく下手な演技を織り交ぜた。それに詩織はまんまと騙される。

 

「もう終わりだよ!」

 

「困ったな」

 

 全然困ってなさそうにそう言って石碑に手をかけた。

 

「アイリア、一緒に突っ込もう」

 

「あぁ。まとめて倒す」

 

 イルヒを追撃していたアイリアと合流し、敵を仕留めるべく魔力を滾らせた。

 

「我が主よ」

 

「準備はできたさ」

 

 クイーンが石碑を起動して魔力を注ぎ込んだ。すると地面が大きく振動し、詩織達がいた場所に大穴が開く。

 

「アイリアっ・・・!!」

 

「くっ・・・」

 

 詩織とアイリアはその穴へと落下していった。そこまで深い穴ではないが、無事では済まされなさそうだ。

 

「ふははは!!作戦通りだな」

 

「さすが我が主です」

 

 クイーンは勝利を確信し、気味の悪い笑いを浮かべながらその穴の中へとゆっくりと降りていく。まるで幽霊のようであるためか空中浮遊が可能で落下はしないのだ。

 

「私はどう行けばいいのでしょう・・・」

 

 連れていってくれればと思うイルヒであったが、浮遊できない彼女は仕方なく崖を降りるようにして穴の底を目指した。

 

 

 

「シオリとアイリアがっ!」

 

 クイーンの策略に嵌る詩織達をイービルゴーストと戦いながら見ていたリリィは穴の前まで駆ける。

 

「そんな・・・」

 

 大穴の中に詩織達の姿を確認できない。が、端のほうでイルヒが壁に掴まっているのを見つけた。

 

「アンタ!待ちなさい!」

 

「マズい・・・」

 

 リリィはイルヒを追うようにして自分も足場を見つけながら降りていく。イルヒを捕まえて詩織達をどうしたのか聞き出す必要がある。

 

「リリィ!無茶よ!」

 

「わたしの大切な友人二人が落ちたんです。待ってなんかいられません!」

 

「一人で無茶するなって言ってるの。アタシも行くわ」

 

「アイラお姉様・・・」

 

 アイラもリリィと共に穴へと入っていく。

 

「二人を助けるわよ、リリィ」

 

「勿論です。絶対に!」

 

 

 

 

「いててて・・・」

 

 意識を失っていた詩織は目を覚まし、周囲を見回した。一緒に落ちたアイリアは見当たらず、クイーン・イービルゴーストの気配だけがする。

 

「お目覚めか?」

 

「敵・・・」

 

 戦うために起き上がろうとしたが、体に力が入らない。

 

「どうして・・・」

 

 怪我はあるが骨折などはなさそうだ。それなのに立ち上がれない。

 

「ふふふ、貴様はもう動けんよ」

 

「何をしたの?」

 

「地面を見れば分かる」

 

 かろうじて動く首を回し、視線を床に落とす。

 

「これは?」

 

「我が作った魔法陣を張ってあるのだ。この魔法陣は捕らえられた者を拘束する力がある。貴様は動的パワーを封印され、魔法陣から出ることはできない」

 

「そんなことをして、私をどうするつもり?」

 

「簡単なことさ。貴様から魔力を貰うためだ。その魔力を使ってこのクイーン・イービルゴーストは再びこの世界に再臨する」

 

 クイーンは指先を枝分かれさせ、まるで触手のようにくねらせながら詩織に近づける。

 

「やめて・・・」

 

「それは無理だ。せっかくの獲物なのだから」

 

 触手は詩織の全身にまとわりついて先端を体の各部に突き刺した。ほとんど霊体化しているためか衣服を貫通し、体に刺さっても痛みも怪我もない。

 

「や、やめっ・・・」

 

 数本の触手によって体内の魔力を吸い出され、それがクイーンの体内へと送られる。

 

「これは凄い魔力だな。これまで味わったことのない感覚だ」

 

 力がみなぎる感覚を得たクイーンは上機嫌になって詩織から触手を引き抜いた。ぐったりとした詩織は体を痙攣させながらクイーンの意図を探る。 

 

「どうして・・・」

 

「なんだ?もっと続けてほしかったのか?」

 

「そうじゃない・・・」

 

「このまま魔力と生気を吸い続ければ貴様は死んでイービルゴーストになるだろう。そうしたらこの魔力を得る手立てがなくなるからな。ギリギリの状態で生かしておこうと思ったのさ」

 

 つまり今後も詩織は魔力が回復するたびに吸われることになる。魔力の生産装置として飼われるということだ。

 

「我が完全に再生する時は近い。貴様の力はありがたく使わせてもらうからな」

 

「・・・」

 

 これからもクイーンに弄ばれるのかという絶望から詩織は再び意識を失った。願わくばリリィ達が助けてくれることを期待するが、それが叶うかは分からない。

 詩織が囚われた部屋にクイーンの高笑いだけが響いていた・・・

 

              -続く-

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