ファンタジア!~異世界転移した私は勇者を目指します~   作:ヤマタ

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第24話 断末魔は虚空に消えた

 ジッタ・ベルフェン遺跡の地下へと突入し、罠に落ちて連れ去られた詩織を発見したリリィ。意識の無い詩織を背負いながら脱出を図るも、敵の猛追を受けていた。

 

「ちっ、しつこいのよ!」

 

 いくら適合者でも人を背負っていれば機動力は下がるし、そもそも戦える状態ではないのだ。アイリア達の援護を受けているとはいえ、出口までの道のりは厳しい。

 

「虫けらめがっ!その小娘をよこせ!」

 

 せっかくの獲物を奪い返されたクイーン・イービルゴーストは怒りの感情と共に斬撃を放つ。しかしアイラによって弾かれ、リリィには当たらない。

 

「アンタの相手はアタシよ」

 

「貴様に用などない。雑魚は引っ込んでいろ!」

 

 イービルゴーストの長所は浮遊できるという点だ。それは人間には不可能なことで、アイラの妨害に遭いながらもリリィを追えるのは浮遊能力があるからである。

 アイラとひとしきり刃を交えた後、クイーンは障害物を簡単に乗り越えてリリィに迫っていく。

 

「さあ、もう逃げられんぞ」

 

「邪魔すんな!」

 

 正面に降り立ったクイーンを睨みながらも、手の打ちようがないリリィは少し後ずさる。すぐにアイラが助けに現れるだろうが、こうも回り込まれていてはいずれジリ貧になるだろう。

 

「シオリは絶対に渡さない。大切な人だもの!」

 

 それでもリリィが懸命に逃げるのは詩織を助けたい一心からであり、諦めるという選択肢はない。

 

「その心意気は褒めてやる。だが、我に盾突いた愚行は許されない」

 

 詩織をリリィもろとも捕まえようと右腕を変化させた触手を伸ばすが、駆け付けたアイラによって斬りおとされた。

 

「そういう隙を見せるからっ!」

 

「ぬぅ・・・!」

 

 攻撃に失敗したクイーンは一歩下がる。すぐに右腕は再生されるが、そのために魔力を消費しているわけで余裕がなくなる。イービルゴーストの弱点は自力で魔力を精製できない点であり、人間から吸い取るしか方法はない。だからこそ普段は霊体化して大人しくすることで魔力の消費を抑え、人間を襲う時に実体化するのだ。

 

「出口はもう近いはずだ。行けっ、リリィ!」

 

「はい、お姉様!」

 

 頼もしい姉を背に再び駆け出すリリィは一目散に出口を目指す。このままなら間もなく到達できる。

 

「まったく不愉快だ」

 

「大人しく討伐されなさい。デカいだけで見掛け倒しなアンタには勝ち目はないわ」

 

 クイーンにとっては人間など栄養源でしかないのに、そうも上から目線で言われればプライドが傷つく。だが完全に復活しきれていないクイーンが不利であることは事実であり、ここは引き下がるのも手だと自分に言い聞かせる。

 

「フン・・・後で必ず痛めつけてやるからな」

 

 それだけ言い残してクイーンは退却していく。飛翔していく相手をさすがに追うことはできないので、アイラはリリィの元へと走っていった。

 

 

 

 

「ここまで来れば・・・」

 

 詩織やアイリアが落下した落とし穴の地点まで到達したリリィは一息つく。もう後ろからクイーンは追ってきてはおらず、うまく逃れることができたという安心感からだ。

 

「ここは?」

 

「シオリ!」

 

 クイーンの魔法陣から解放されて意識を取り戻した詩織は周りを見渡して状況を確認し、自分がリリィによって助けられたことを把握した。

 

「ゴメン、迷惑ばかりかけて・・・最近こんなことばっかりだ」

 

 ラドロの風との戦闘でも気絶させられたことを思い出してしょんぼりする。

 

「気にすることは無いわ。シオリは充分頑張っているし、そもそも戦いに巻き込んだわたしが悪いんだもの。むしろ謝るのはわたしのほうなのよ」

 

 詩織をこの世界に召喚し、その特異な力を貸してもらっていることは申し訳ないと思っている。だが、その詩織の力が戦況を変えていることは事実であり、もはや戦いに欠かせない存在となっていると言っていい。

 

「お二人とも!ご無事ですか!?」

 

 落とし穴の上から声をかけてきたのはミリシャだ。すでに地上にいたイービルゴースト達を殲滅しており、今まさに地下へと突入しようとしていたらしい。

 

「今ロープを!」

 

 ミリシャが太いロープを垂らし、リリィと詩織はそれに掴まって地上へとようやく帰還することができた。

 

 そのすぐ後にアイラとアイリアも現れ、地下に降りた四人は無事に合流する。

 

「あの適合者を逃がしてしまいました。デカいイービルゴーストの位置も不明です」

 

「敵を倒さないことには解決したことにはならない。もう一度この場にいる適合者で突入するしかないわね」

 

 詩織とアイリアの救出は果たせたわけで、もう憂いることなく敵を強襲できるのだ。

 

 

 

 

「どうしますか?こっちの戦力はもう多くありません。次攻め込まれたら勝てなさそうですよ?」

 

 クイーンの元へと戻ったイルヒは焦っているように早口で今後の対応を聞く。

 

「もはや手段は選ばん。このジッタ・ベルフェンの力を開放して敵を叩く」

 

 詩織を捕らえていた祭壇の奥の扉を開き、その部屋の中心に置かれた大きな結晶体に触れる。

 

「しかしな、このままではパワーが足りない。生贄が必要なんだ」

 

「生贄ですか?」

 

「ここにいるのは我とお前だけだ。つまり・・・分かるな?」

 

「えっ・・・?」

 

 まさか自分がクイーンによって命を絶たれるとは夢にも思っていなかったイルヒは驚愕の表情で抵抗する。

 

「死にたくありません!」

 

「我の役に立てるのだから感謝してもらおう」

 

 イルヒを触手で締め上げ魔力も生気も吸い取り、搾りかすのような体を結晶体の中に放り込む。

 

「我が負けるなど、もうあり得ん!」

 

 

 

 

「何、この揺れは!?」

 

 いざ地下へというタイミングで強い揺れが発生し、リリィは手をついて身を屈める。

 

「ただ事ではなさそうね」

 

 周囲の石碑などが崩れて土埃が舞うが、その揺れもすぐに収まる。普段ならば単なる地震くらいにしか思わないだろうが、この状況下では楽観視できない。

 

「どういうんだ・・・?」

 

 詩織は強い力を感じ取り、イヤな予感がして身震いする。何かしらの事象が地下で起こっているのは間違いなさそうだ。

 

「今度はなんなのっ!?」

 

 静けさは一瞬で消え、轟音と共に地中から巨大なゴーレムが姿を現す。まるで岩石が人型になったような外見で、歪さはあれど屈強さを感じさせる。

 

「ふははは!このフェルス・ゴーレムで貴様達を葬ってやる」

 

 クイーン・イービルゴーストがそのフェルス・ゴーレムの中にいるらしく、高笑いが内部から聞こえてきた。

 

「あんなデカブツを準備していたなんて」

 

 ミリシャはその巨体に驚きながらも、冷静になって杖をかまえる。そして魔弾をゴーレムの中心に向かって発射した。

 

「なんて硬い・・・」

 

 その魔弾が直撃してもダメージを受けている様子はなく、表面の岩石が少し崩れただけだ。

 

「その程度の威力でっ!このフェルス・ゴーレムを破壊できるものかよ!」

 

 攻撃を防げたことでより強気になったクイーンはゴーレムに指示を与え、王家の適合者一行に体を向けさせる。

 

「ヤバいのが来るっ・・・!」

 

 強い魔力を察知し、適合者達は一斉に散開。ゴーレムから距離をとろうとしたが、

 

「消えろ!」

 

 ゴーレムの腰付近に備え付けられた二門の魔道砲から魔弾が放たれ、まるでビームのように放射される。

 

「パワーがダンチだ・・・」

 

 魔弾の直撃は免れたが、近くに着弾したために詩織は吹き飛ばされてしまう。運よく体に傷はないが、あの攻撃をもろに受ければ命はないことが実感できた。

 

「シオリ!アナタの大技ならっ!」

 

「任せて!」

 

 リリィに返答をし、聖剣に魔力を集中させようとした。しかし、それに気づいたクイーンは詩織に向けてゴーレムの魔弾を飛ばす。

 

「これじゃあ、技が撃てない・・・」

 

 夢幻斬りのためにはその場に留まって魔力チャージをする必要があり、少し時間がかかる。こうも妨害されれば大技を撃つ余裕がなくなるのだ。

 

「アタシ達がアンタを援護するから!」

 

 アイラが部下と共に吶喊してクイーンの注意を逸らし、その隙に詩織は再び準備に取り掛かる。

 

「防御はわたくしが!」

 

 ミリシャが詩織の周囲に魔力障壁を発動し、これなら多少の攻撃は防げる。

 

「いきます!夢幻斬りっ!!」

 

 だが、ただ詩織の攻撃を見ているだけのクイーンではない。もはや妨害は無理だと察し、詩織から吸収した特殊な魔力を用いてゴーレムの前方に魔力障壁を展開。

 聖剣から放たれた光の奔流が魔力障壁に激突し、大きな衝撃波が周囲の物を吹き飛ばす。

 

「やったか!?」

 

 障壁は破壊され、ゴーレムの胴体も大きな傷が付いて内部の空洞が露見したものの、活動停止には追い込めなかった。

 

「ダメか・・・」

 

「でも無駄ではないよ!ほら、アレを見てシオリ」

 

 ゴーレム胴体の空洞の奥、そこには輝く結晶体とクイーン・イービルゴーストの姿が見えた。

 

「あのデカブツを完全に撃破するのは難しいだろうけど、あのイービルゴーストを倒せれば道は開けるはず!」

 

「だね。リリィ、一緒にアイツを倒そう」

 

「えぇ!行くわよ!」

 

 

 

「こんなバカな・・・」

 

 クイーンは自分が追い込まれはじめたことを認めることができず、歯ぎしりをする。人間など簡単に潰せたはずなのに、あの詩織とかいうヤツのせいで窮地に陥ってしまった。

 

「まだ我は勝てる!」

 

 諦めの悪いクイーンは反撃に転じようとしたのだが、ゴーレムの魔弾をくぐり抜けて接近してきた詩織とリリィが乗り込んできた。

 

「貴様ごときに!」

 

 ゴーレムの動力源となっている魔結晶から離れ、クイーンは詩織に向けて触手を伸ばす。

 

「当たらないよ!」

 

 触手は遠距離まで届くが、その動きは直線的だ。複雑な軌道をえがけるわけではないようで、詩織はうまく回避しながらクイーンに斬りかかった。

 

「こんな小娘がっ!」

 

 左腕を大剣へと変形させて詩織の斬撃をいなし、逆に組み伏せようとするも、

 

「もうシオリに手出しはさせないから!」

 

 リリィによって脇腹を切り裂かれ、クイーンは怒りの咆哮を上げる。

 

「昔の我なら・・・こんなことには!」

 

「そんな昔の栄光にすがっている時点でアンタの程度が知れるわ」

 

「舐めた口をきくなっ!」

 

 リリィに意識を向けた瞬間、今度は詩織によって腕を斬り落とされた。それを再生させたいところだが、もうクイーンの魔力は少ない。先ほどの夢幻斬りを防いだ時に消費してしまったのだ。

 

「ならばっ!」

 

 魔結晶からゴーレム用の魔力を奪い、それで逃走する算段を立てるクイーンであったが、機動力も低下しているのでそこまで到達する前に追いつかれる。

 

「これで終わりにする!」

 

「ば、化け物がっ・・・」

 

 詩織の魔力を化け物と形容するクイーンだが、どう見てもイービルゴーストの方が不気味な外見であり、まさに化け物だろう。

 最期は聖剣によって頭部を両断され、クイーンの体は霧散して消滅した。魔結晶はリリィによって破壊され、ゴーレムも沈黙する。

 

「これで勝ったわね」

 

 ベルフェンを滅亡させたイービルゴースト達の討伐に成功し、ジッタ・ベルフェン遺跡には元の静寂が戻ってきたのだった。

 

              -続く-

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