ファンタジア!~異世界転移した私は勇者を目指します~   作:ヤマタ

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第26話 不穏のポラトン

 シャルアによる情報提供でソレイユクリスタルの素材のありかを掴んだリリィ。そこは既に閉鎖された坑道のために確実に手に入るかは不明だが、行ってみるしかない。

 

「そのディグ・ザム坑道はもう長いこと人の出入りがありません。それどころか、隣接している町のシルフも閉鎖にあわせて破棄されているので完全に孤立した場所なのです」

 

「つまり、現在はどのような状態かは分からないということね」

 

「はい。最近数を増やしている魔物が棲みついている可能性もありますから、充分に注意してください」

 

「そうね。そういう場所なら危険度は高そう」

 

 タイタニア国内のことではあるが、王家とはいえ全てを把握しているわけではない。詩織の世界のように電子化が進んでいるわけでもないので、多くを人力に頼らざるを得ず調査も一苦労なのだ。

 

「けれど、わたし達のチームもそれなりに経験を積んでいるから、ある程度の事態ならば対応できる」

 

 詩織をチームに含めてからいくつもの魔物を屠り、強敵を討ち倒してきたのだ。

 

「ミリシャとアイリアにも報告して明日には出撃しましょう」

 

 

 

 

「元の世界か・・・」

 

 その日の夜、詩織は趣味の一環になっている散歩をしながら元の世界への帰還について考えていた。今回の任務でソレイユクリスタルを修復できれば現実となることなのだが、まさかこんな早く実現するとは思わなかったのだ。

 

「私は一体どうすれば」

 

 帰れるのは本来嬉しいことのはずだ。

 

「・・・」

 

 きっと元の世界では家族も心配していることだろう。いや、もしかしたらできの悪い娘がいなくなってホッとしているのかもしれない。それは詩織の想像の及ぶことではないものの、勝手にいなくなった挙句に帰らないというのは親不孝というものだ。だからこそ、善良な心を持つ詩織は悩んでいる。

 

「答えはないものな・・・」

 

 最後に何が正解かを決めるのは自分自身だ。自分や周りのことを総合的に考えて結論を出す。これは大人なら誰しもがしていることだけれど、まだ未成年の詩織には難しいことである。特にこのような重大な決め事には大いなる責任が伴う。

 

「そんな難しい顔をしてどうしました?」

 

「あれ、ターシャさんじゃないですか」

 

 リリィの教育係であるターシャが城の端にある小さな扉を開けて出てくるところに遭遇した。

 

「もしかして道に迷われたのですか?」

 

「いえ、そうではなく散歩中なんです。まぁ、人生の道には絶賛迷ってますけど」

 

 その返答にクスッと笑い、戸を閉める。

 

「ターシャさんはどこかに行くんですか?」

 

「中庭の噴水が私のお気に入りの場所でして、そこに。よければご一緒しませんか?」

 

 ターシャの案内で中庭にある大きな噴水近くのベンチに腰掛ける。夜であるために誰もおらず、貸し切り状態であった。

 

「それで、シオリ様は何を迷っておられるんです?」

 

「元の世界に帰るかどうかということについてです」

 

「帰りたくないんですか?」

 

「それが分からなくなってしまって・・・」

 

 アイラに問われた時に明確な答えが出なかった。ソレイユクリスタルが直るまでに考えておくと言ったものの、それは結局先送りにしたのと同じだ。そう遠くない未来に答えを出さなくてはならないのに。

 

「なら、迷っている理由を挙げてみるのはいかかでしょう。そこから解決策が見つかるかもしれません」

 

「私が帰りたくない理由・・・」

 

 いくつかあるが、明確な理由はただ一つ。

 

「・・・リリィと離れたくない、から」

 

「なるほど」

 

 それはなんとなくターシャも予想していたことだ。詩織とリリィの仲の良さはターシャも知るところであり、まるで古くからの友人のような二人を微笑ましく思っている。

 

「こんなに好きな相手と離れるのがイヤなんです。確かに元の世界での生活はいいものでしたが、そこにリリィはいません。彼女との楽しさを知った今、例え帰れても心にポッカリと穴が開いたような状態になって何も楽しめません」

 

 リリィを連れて帰りたい。だが、その願望はただの我儘だ。

 

「リリィは何にも代えることはできない。私にとって何より大切な存在で・・・」

 

「きっとリリィ様も同じように言うことでしょう。それくらい、リリィ様はシオリ様のことが好きですよ」

 

「でも、元の世界の家族達に迷惑をかけていると思うと、それも申し訳ないなと思っちゃって・・・」

 

「その気持ちも分かります。ですが、肝心なのはシオリ様がどうしたいかです。その結論がどのようなものでも、受け入れてくれる人はいますよ」

 

 ターシャの優しい声音はまるで母親のようだ。

 

「ターシャさんならどうしますか?」

 

「答えは簡単には出せないですね。誰も経験したことの無いような事態への答えですもの」

 

「そうですよね・・・」

 

「ただ一つ言えるとすれば、私はシオリ様の味方であるということです。だから、答えがだせたなら自信を持っていいのです」

 

 この世界で得た人との繋がり、それは詩織がこれまでに得たことのないものであり、どんな財宝よりも尊いものだと実感する。

 

 

 

 詩織の中で、この時には答えは出ていた。口にはしなかったが、ターシャとのこの会話が大きなキッカケとなって。

 

 

 

 

「準備はいい?」

 

「おっけーだよ」

 

 城門前にリリィのチームが集まり、馬車へと搭乗する。いつもの出撃の光景であり、すっかり詩織も慣れていた。

 

「昨日も言った通り、ソレイユクリスタルの素材回収が主な目的よ」

 

「ようやく王家に代々伝わる宝を直せるんだから、リリィも王様に許してもらえるね」

 

「そうね。あの日にめっちゃ怒られたのを時々思い出してヘコむのよ・・・それから解放される日も近いということね」

 

 王家の宝であるソレイユクリスタルを直せばリリィの肩の荷も下りるだろうし、それが詩織の願うことだ。

 

「今回も目的地までの道のりは長いから、ゆったりと行きましょう」

 

 前回の任務のように他のチームが同行するわけではないので、自分達のペースで進むことができる。期限付きでもないので急ぐ必要もない。

 

「そういえば、坑道の近くには人のいる町はないらしいけど、寝泊りはどうするの?」

 

「ディグ・ザムから少し離れた場所にあるポラトンという町に宿を借りて拠点とするわ。調査前はそこで寝泊りしつつ、坑道の調査中はこの馬車の後ろに積んであるテントを使って野宿ね」

 

 アウトドア派ではない詩織にとって野宿はそう経験するものではない。楽しそうだとは思うが、反面、いきなり敵に襲われたらどうしようという怖さもある。

 

「ベルフェンの時のように交代で見張りがいたほうがいいわね。とりあえず二人一組で」

 

 そう提案するリリィだが、実際には詩織との時間を作りたいというエゴもある。

 

「そうですが、リリィ様に見張りをさせるのは気が引けますわね」

 

「いいのよ、ミリシャ。王族ではあるけれど、戦場に出る以上わたしも戦士の一人なわけだし、部下だけに負担させるなんてことはできないもの」

 

「リリィ様のそういうお心の広さを全国のダメ上司に見せたいものですわ」

 

 ブラックな職場では、部下に仕事を押し付けて自分はサボる上司という存在が平気に存在するもので、そういう輩はタイタニアにもいるらしい。まったくけしからんと思うのだが、そういう人間は自覚がないのだ。

 

「わたしも褒められたものではないわ。いつも馬車の手綱を引いてるのがアイリアなんだけど、アイリアばかりにやらせるのも悪いなと思って練習したけど上手くいかないのよ・・・」

 

 馬のコントロールは思ったよりも難しく、リリィは今まで上手く操れたことがない。

 

「誰にでも不得意なことはあるよ」

 

「けれどお姉様達はできるわけで、わたしだけが姉妹の中でできないというのも悲しいのよ」

 

 二人の優秀な姉を持つリリィはなんとしても追いつきたいという気持ちが強い。だが、詩織にしてみればリリィにはリリィの良さがあるわけで、無理に同じようにする必要はないのではと思っている。

 

 

 

 

 そうして長い移動の末、ポラトンへと到着し、いつものように住人達から歓迎を受ける。しかし、どこか町の雰囲気が暗いような気がした。

 

「ようこそ、リリィ様。大した歓迎もできませんで申し訳ありません」

 

「いえ、わたし達こそ突然お邪魔してしまって申し訳ない。どうぞ、いつも通りにしていてください」

 

 町で一番大きな宿へと案内され、その客室の一つへと通される。今回は四人合同の部屋でそれはそれで楽しいのだが、詩織に甘える時間が無いなと少々残念がるリリィであった。

 到着が夕方だったのですぐに食事の時間となり、いくつもの料理が運ばれてくる。

 

「移動中はろくな食べ物を口にしてなかったから、こうしてキチンとした料理を食べられるのは嬉しいわね」

 

 歳相応の女の子の無邪気さがリリィを王族だと感じさせない要因の一つである。しかし、それが人を惹きつけることもあるのだ。

 

「リリィ様、今回の訪問は何かの視察ですか?」

 

 料理を運んできた高齢の女性従業員がリリィに問う。

 

「ここから少し離れた所にあるディグ・ザム坑道の調査なんです。もう昔に閉鎖されたのですが、貴重な鉱石が残っている可能性があるので」

 

 普段は天真爛漫なリリィもさすがに礼儀は弁えており、初対面の従業員には敬語を使う。

 

「あの坑道ですか。できれば近づかない方がよろしいかと思いますが・・・」

 

「?」

 

 その従業員は険しい表情でそう警告する。何かその坑道に起因する問題があるのだろうか。

 

「実はあの坑道に隣接した町、シルフに邪教徒が集まっているので・・・」

 

「どういうヤツらなんですか?」

 

「ゴゥラグナという魔物を崇拝する者達です。最近になってシルフを乗っ取り、付近の町から人を攫うのです」

 

 町に来た時の暗い雰囲気はそれが理由かと詩織は得心する。

 

「人さらい・・・」

 

 それが事実なら厄介な相手と対峙しなければならないようだ。もしかしたら以前戦ったラドロの風より危険な敵かもしれない。

 

「このポラトンからも何人か連れ去られたらしく、皆警戒を強めております」

 

「ふむ・・・それは王都には伝わっていない事柄ね。でも放ってはおけないし、対処しなければディグ・ザム坑道の調査もできないわ」

 

 国民の困りごとを解決するのが王家の仕事だ。これを見過ごすことはできない。

 

「しかし、人を攫ってどうするつもりなのかな?」

 

「恐らく、魔物への貢ぎ物としているのでしょう。そういう事をする集団は前にも存在したの」

 

「そんなヤバいヤツらがいるのか・・・」

 

 詩織の世界にも悪魔崇拝などはあるが、まさにそういう類の人間が暴走すれば人を生贄にするのだろうと思う。

 

「明日、役所と衛兵待機所に行って話を聞きましょう。で、わたし達で解決するのよ」

 

 それに異論はない。詩織は特段正義感の強い人間というわけではないが、人道を踏み外して下劣な行為をする相手を許せるような人間でもない。

 

 どんな敵かはしらないが、王家に仕える適合者として気合を入れる詩織であった。

 

              -続く-

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