ファンタジア!~異世界転移した私は勇者を目指します~   作:ヤマタ

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第34話 Stay with you

 建国祭で披露する演劇の準備を進めるリリィ達。舞台装置は完成し、後は劇そのもののレベルを上げるだけだ。

 

「アンタ達も頑張ってるようね」

 

「アイラお姉様、どうしてここに?」

 

「様子を見に来たのよ。今年はアンタもやる気のようだし、どんなものかと思って」

 

 第二王女のアイラは舞台セット前に仁王立ちで現れ、どうやらリリィ達の練習を見学するつもりのようだ。

 

「いい?我ら王家の演目として国民だけでなく国外の者達にも見られるのよ。そのつもりで」

 

「はい。スローン家の名に恥じない劇にします」

 

 各員が位置について、本番さながらの緊張感の中で通しの練習が始まる。セリフを動きながら言うのは案外難しく、詩織は大粒の汗を流しながら懸命に役をこなす。

 そうして一通りの流れが終わり、アイラの元にリリィが感想を伺いに行く。

 

「どうでしたか?」

 

「悪くはないわ。でもまだ完成度を上げられるはずよ。例えば、戦闘シーンでもっと声を張ることができれば、より迫真の演技になると思うわ」

 

「確かに、実戦さながらの緊迫感には届いていないと私も思います」

 

「そうした細かい点を一つづつ改善していけば、きっとより盛り上がる劇になるわ。時間はあまり残されていないけど、できることをしっかりね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 アイラはリリィの感謝の言葉を受け取ってその場を後にする。彼女が去る時の表情に優しい笑みがあったことを詩織は見逃さず、きっとリリィの成長が嬉しいんだろうなと解釈した。

 

「さぁ、もう一回よ。反省点を踏まえつつ、もっと上達してやりましょう」

 

 リリィの鼓舞に詩織達は頷き、再び位置につく。慣れないことをする疲れがあるものの、元の世界では体感したことのないような充実感が詩織の心を満たしていた。

 

 

 

 

「ふぅ・・・いい感じになってきたね」

 

 三回目の通し練習が終了し、詩織は地面に寝ころびながら呟く。隣に座るリリィも劇が徐々に完成されていくのを実感していた。

 

「そういえば、あの魔女の手がかりは掴めた?」

 

 建国祭を楽しみにする詩織であるが、一つ気がかりなのは魔女ルーアルのことだ。ディグ・ザム坑道で逃がして以来、魔女の居場所はつかめずにいた。討つべき敵であるのに、野放しになっている現状を憂いている。

 

「それがまだなのよ。多数の調査チームを各地に派遣しているのだけど、全然手がかりがないの。もしかしたらタイタニアの領土外に潜んでいるのかもしれないし、そうなったら手の打ちようがない」

 

 周辺の国家にも協力要請を出しているが、魔女による被害を受けていない他国はいまいち危機感に欠けており、真剣に捜索していないのが現状だ。

 

「アイツがまた悪さをすれば、被害を被る人達が出てくる。そうなる前に決着を付けたいけど、どうにも動けないものね・・・歯がゆい気分だわ」

 

 王家のリリィは詩織以上に悔しい気持ちである。

 

「それに、建国祭という伝統行事をないがしろにするわけにもいかないしね。調査チームからの連絡を待つしかないわ」

 

「だね」

 

 気を揉んでも仕方がない。魔女追撃が不可能な以上、目の前の建国祭に集中するべきなのだ。

 

「こんな時でも敵のことを忘れないとは、シオリも立派な戦士に成長したわね」

 

「そうかな?」

 

 詩織自身はそう思っていない。適合者としても、人間としてもまだ中途半端だと自負している。

 

「リリィの隣で戦うに相応しい人間になろうとは必死だけどね。でも、まだまだだよ」

 

「シオリで相応しくなかったら、誰が相応しいと言うの?」

 

 リリィがかがんで詩織に顔を近づける。

 

「そもそもね、相応しいもなにも、わたしが傍にいて欲しいと望んでいるのだから何も問題はないのよ」

 

「そうか・・・」

 

 リリィとの身分さを気にしていたのは詩織だけのようだ。

 

「想い合う二人が一緒にいるために相応しさや理由が必要?」

 

「そんなことはないか」

 

 例え詩織が適合者として弱くたってリリィは非難したりはしないだろう。どんなことがあっても詩織を庇うのがリリィなのだ。

 

「お取り込み中のところ申し訳ありません」

 

「ん?どうしたの、フェアラト」

 

 メイドのフェアラトが言葉とは裏腹に、申し訳ないという気持ちの籠ってない口調で声をかけてきた。

 

「デイトナ国王がシオリ様をお呼びです。謁見の間にてお待ちになっておられます」

 

「私をですか?」

 

 リリィの間違いではないのかと詩織は不思議に思う。最初にこの世界に召喚された時以来国王自身が詩織を呼び出したことはなく、リリィ伝いに任務の依頼などがされていたからだ。

 

「はい」

 

 だがフェアラトの落ち着きようからして聞き間違いなどではないと思った詩織は起き上がって服に付いた草を手で払う。

 

「わたしも行くわ」

 

「いえ、シオリ様お一人でとのことでしたので」

 

「えぇ・・・なんで・・・」

 

 リリィは不満そうに口をとがらせる。

 

「すぐ戻ってくるから待ってて」

 

「うん・・・」

 

 詩織はリリィにウインクを飛ばしつつ、フェアラトと共に謁見の間へと足を向ける。普段会わない、しかも国のトップと謁見するという緊張はあったが、この世界に来たばかりの時よりはしっかりとした歩調であった。

 

 

 

 

 

「し、失礼します」

 

 謁見の間の大きな扉が衛兵によって開かれ、詩織は室内へと進む。

 

「ン・・・忙しい時に呼び出してしまってすまなかったな」

 

「いえ・・・」

 

 相変わらずの堂々とした態度の国王を目の前にして詩織も姿勢を正した。ヒラヒラとした勇者用の戦闘服では場にそぐわないのではという不安が急にこみ上げてきたが、今さらどうしようもないので気にしないように意識を変える。

 

「リリィの準備は滞りなく進んでいるようだな?」

 

「はい。演劇のセットも完成しまして、後は演技の質を上げるだけです」

 

 受け答えがはっきりとした口調なのは劇の練習の成果だろう。

 

「アイラからも報告を聞いてな。初めての催し物にしてはレベルが高いと褒めていた」

 

 あのアイラが褒めたと聞けばリリィも喜ぶだろうなと詩織の頬が緩む。

 

「それも全てキミのおかげだ。感謝する」

 

「私の、ですか」

 

「そうだ。キミが来て、行動を共にするようになってからリリィは格段と成長したし、前よりも生き生きとしていると思う。今回の建国祭で自ら催し物を企画したのだって、その成長の証と言っていい」

 

 詩織と出会うまでのリリィは王族としてパッとしない特徴のない王女といった感じであった。だが、詩織と共に魔物討伐を行って各地に出向く内に人間として、王家の者としてレベルアップしていったのだ。

 

「父親として情けないことに、リリィの教育に悩んでいたのだ。どうすればリリィをより成長させることができるのか分からなかった。それをキミが解決してくれたのだ」

 

「私はただ、リリィと一緒にいただけです。特別なことは・・・なにも」

 

「それはキミだから出来たこと。リリィはどうやらキミのことを心より信頼し、頼っているらしいからな」

 

 二人の仲の良さは城で知らない者はいないほどだ。それは国王だって知るところであり、だからこそ二人をずっと組ませている。

 

「私としては嬉しい限りではあるが・・・キミはリリィを恨んではいないのか?」

 

「なぜです?」

 

 その問いの意味が分からない。

 

「リリィはキミをこの世界に呼び出した張本人だ。元の世界での生活もあったろうに、それを侵害して無理矢理に。それだのに恨んではいないのか?」

 

「確かに最初は戸惑いました。ですが、リリィと過ごすうちにこの世界に呼ばれて良かったと思えるようになったんです。適合者としては半人前ですがそれでもこの力で人の役に立てますし、なによりリリィとの時間が幸せだと感じるようになったからです」

 

「そうか。キミとリリィは不思議な縁で惹かれ合っているようだな。それほど、互いが互いに大きな影響を与えているようだ」

 

 それは事実だろう。極端に言うならば、詩織とリリィは出会ったことで全てが始まったのだから。

 

「今後ともリリィのことを宜しく頼む。元の世界に帰るまでの間、あの子を・・・」

 

「はい。その点に関して、国王様に相談があるのですが」

 

「どのような?」

 

「ソレイユクリスタルが修復された後もリリィの傍に・・・この世界に居たいという希望を私が持ったとして、それは認められるでしょうか?」

 

 それは詩織の素直な疑問であった。

 

「勿論、それは構わない。我々タイタニアとしても、勇者と呼ばれる力を持ったキミのような適合者は歓迎だし、リリィだって喜ぶことだろうからな。だが、元の世界のことはいいのか?」

 

「帰りたいという気持ちがないわけではありません。ですが、この世界に愛着がありますし、必要としてくれる場所で頑張りたいというのも本音なんです」

 

「なるほどな。すでにキミは適合者として立派な戦果を挙げているし、城の者達もキミの活躍を評価している。全員でなくたとしても、多くの者達がキミを受け入れてくれるのは間違いない」

 

 そう言ってもらえて詩織は心の重りが降りたような気がした。

 

「ふふっ・・・リリィのことがそれほど大切なのだな」

 

「そ、それは・・・」

 

「言葉と態度から伝わってくる。キミの心がリリィに強く向けられていることを。リリィはいい友を持ったな」

 

 友達の範疇を超えているような気がするが、詩織は何も言わなかった。現状で自分のリリィに対する感情に名前を付けることができなかったからだ。

 

 

 

 

 

「遅かったわね」

 

「そう?十分くらいのことだよ」

 

「それでも長く感じたの」

 

 リリィは周囲の目線を気にしつつ、詩織の手を握る。もはや詩織に触れていないと不安になるくらいの詩織中毒になっているのだ。

 

「お父様に何を言われたの?」

 

「早く元の世界に帰れって」

 

「本当に?」

 

「嘘だよ」

 

「もうっ!」

 

 リリィは軽く詩織の横腹を肘でこづく。

 

「本当はね、リリィのことをこれからも宜しくって」

 

「そんなことを?」

 

「うん。国王様直々にお願いされたからね」

 

「お父様も理解があってさすがね」

 

 先程まで不安そうだったリリィは笑みを浮かべてうんうんと頷く。自分の居ないところで詩織が国王に何を言われるのか知りたくて仕方がなかったのだ。

 

「それとね、アイラさんがリリィのことを褒めてたらしいよ」

 

「アイラお姉様が?」

 

「初めての建国祭の演目にしてはレベルが高いって言ってたらしい。良かったね」

 

「うふふ・・・ついにわたしもお姉様達に褒めてもらえたのね・・・」

 

 予想通りに嬉しそうな反応をするリリィ。以前から語っていた、皆に認めてほしいという願いがついに叶うところまできたのだから喜びもするだろう。

 

「ここまで頑張ってきたわけだし、本番も頑張りましょうね」

 

 二人のギュっと握られた手は、しばらく離れることはなかった。

 

              -続く-

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