ファンタジア!~異世界転移した私は勇者を目指します~   作:ヤマタ

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第35話 舞台上に大輪の百合が咲いた

 いよいよ建国祭の前日となり、城では前夜祭が執り行われていた。参加者のテンションは高く、詩織達もその雰囲気を楽しんでいる。

 

「クリスさんの騎士団の方達もはしゃいでるね」

 

「ここ最近は魔物との戦いが増えているからね、こうした息抜きも必要なのよ」

 

 異質な魔素が拡散されるようになって以来、魔物が増加して適合者達の出動数も右肩上がりだ。そのために城内には緊張感が蔓延しており、いくら手練れの騎士団でもストレスは溜まる。だからこそ、たまには戦を忘れてリフレッシュすることも大切で、この建国祭がいい機会と言えるだろう。

 ちなみに問題の異質な魔素の原因は不明であるが、リリィは魔女ルーアルが何か知っているのではと睨んでいる。

 

「相変わらずアイリアは凄い食欲だ」

 

「こういう時にしか大量には喰えんからな。それに、残したら勿体ないだろう?」

 

 と言いながら詩織の近くでアイリアが大きな肉を頬張る。普段大人しい彼女だが、食事の時は生き生きとしていた。

 そんなアイリアを微笑ましそうに眺めつつ、リリィは詩織に小さく呟く。

 

「実は前夜祭に顔を出すのも初めてなのよ」

 

「そうなんだ。ならいい経験ができたね」

 

「えぇ。舞台も成功させて、一生の思い出にしたいわね」

 

 皆の演技も上達し、後は観客の前で披露するだけとなった。やれるだけの事はしたし、もう本番の成功を祈る他にない。

 

「建国祭は二日間行われるんだよね?」

 

「そうよ。わたし達は初日の明日に劇を披露するけど、明後日はフリーになるわね。お姉様達の演目は明後日だから、それを見学するのもいいかも」

 

「だね。どんなものか観てみたいし」

 

「わたしと一緒に観てくれるのよね?」

 

「勿論」

 

 そもそも最初からリリィと見て回るつもりであった。アイリアやミリシャとも同行できればと思うが、彼女達の予定をまだ訊いていない。

 

「出店なんかもたくさんあるわ。去年までは一人で変装して見て回っていたけど、今年はシオリと行けると思うと楽しみでしょうがないわ」

 

「私もだよ。リリィとのデートほど楽しいものはないから」

 

 詩織のウインクを受けてリリィは満面の笑みを浮かべる。リリィはもう孤独感など感じていなかった。

 

「今日はもう部屋に戻りましょうか。劇は夕方からだけど、朝から調整したいし」

 

「うん。万全な状態で臨みたいもんね」

 

 詩織とリリィが前夜祭の会場を後にし、廊下に出た後で声をかけられる。

 

「やあ。今日はもうお開きかい?」

 

「シエラル、アンタ暇なの?」

 

「建国祭まではやることもないしね。イリアンと共に城下町を散策していたくらいさ」

 

「そう。まだ前夜祭は続いているわ。わたし達は明日に備えてもう寝るけどね」

 

「キミ達の劇を楽しみにしているよ。最前席をターシャさんに用意してもらったから、そこで応援している」

 

 シエラルは部下のイリアンと共に前夜祭の会場へと足を運んで行った。そもそもタイタニアの国民でない彼女が何故前夜祭にまで出るのかという疑問をリリィは抱いたが、

 

「・・・プライドにかけて失敗は許されないわ」

 

 それよりも闘志に燃えており、詩織は苦笑いしながらリリィの背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

「皆、集まったわね」

 

 翌日の朝、舞台セット前に関係者全員を招集したリリィ。この日のために各々が努力を重ねてきたわけで、それを労いつつ、最後の鼓舞を行おうとしていた。

 

「今日、ついにこの本番の時がやってきた。時間も少ない中で皆の協力もあってここまで漕ぎ着けることができて、そのことには感謝しかないわ。本当にありがとう」

 

 リリィは舞台上で一礼し、それに対して拍手が起こる。

 

「後は夕方の本番を残すだけ。その一回が全てであり、成果となる。緊張もあるとは思うけど、自分を信じて最高のクライマックスを迎えましょう!」

 

 やや大げさに手を振り、再び拍手の嵐がリリィへ向けられた。この場の一体感で詩織の心が熱くなる。

 

「軽く練習をしつつ、本番に備えるわ」

 

 舞台から降りたリリィが演者となる者達を呼び出し、最後の打ち合わせを行う。もう話し合うこともないが、念のために立ち位置やセリフの履修をするのだ。

 そうしている内に太陽の光が頭上へと昇りつめ、残された時間は少しづつ少なくなっていった。

 

 

 

 

 

「えらく人が集まっているな」

 

 夕刻、陽も落ち始めた頃にシエラルはリリィ達の劇が開催される演習場の特設セットへと足を運んだ。本当ならもっと早く来る予定だったのだが、あまりの人の多さで思うようにたどり着けなかったのだ。

 

「リリィ様の演劇目当ての人達ですね」

 

「らしいね。まぁ国王の部下達が宣伝して回っていたから、こうもなるか」

 

 国王にとっても詩織の勇者の力を喧伝し、タイタニアの国力をも見せつける場であるからこそ、そうしたのだろう。だが、それが全てではない。娘の成功を祈る父親としての面も強く、むしろそれが大きな理由となっていた。

 

「シエラル様にイリアン様、こちらへどうぞ」

 

「これはどうも」

 

 シエラルを見つけたターシャが最前席へと誘導する。

 

「しかしよいのですか?ボク達を優遇してもらって」

 

「隣国の皇帝一族の方を優遇しないなんてあり得ませんよ。それに、私にしてもリリィ様の成長を見て頂きたいですから」

 

「なるほど。では、お言葉に甘えさせてもらいましょう」

 

 シエラルとイリアンは最前席のど真ん中に設置された簡易的な椅子へと腰を下ろす。王族にこの椅子はどうかと思えるが、シエラルはそれを気にする様子もなく、ただじっと幕の降りている舞台を見つめていた。

 

「見せてもらおうか。キミの努力の成果とやらを」

 

 シエラルにとってリリィは戦友である。彼女からはあまり良い待遇を受けているわけではないが、度量の大きいシエラルにそれは関係ない。

 

 

 

 

 

「さぁ・・・行くわよ!」

 

 リリィが舞台袖から歩み出す。

 

 今、舞台の幕が上がる。

 

 

 

 

 

 舞台の進行はまさに順調そのものであった。

 タイタニア王国の王女リリィによって召喚された、異世界より来たりし勇者シオリとの出会いから物語はスタートし、王都に攻め入る魔物を蹴散らすという展開であった。シオリは持ち前の魔力で聖剣を起動、あっという間に魔物は粉砕されていく。

 

「リリィ様、国境沿いの山岳地帯から大型の魔物が侵攻中とのことです」

 

 あれほど演技が苦手だったアイリアがスムーズにセリフを言い終えた。彼女のセリフ数は少ないが、とはいえ舞台では一人一人が目立つわけで失敗はできない。不安もあったが、リリィのために死力を尽くすと誓った彼女の根性がここで発揮されたのだ。

 

「リリィ様は聡明なお方ですわ。アナタがこの戦闘の指揮を執れば、必ず窮地を乗り越えることができると信じております」

 

 ミリシャもまた練習通りに流れるようなセリフ回しをする。最初の謎のミュージカル風だった頃の名残もなく、皆と歩調を合わせていた。

 

「リリィ様、私の力を活用してください。必ずや戦果を挙げてご覧に入れます」

 

 詩織は緊張しつつも、噛むことなく大きな声で堂々と舞台上に立つ。普段の勇者用戦闘服ではなく、舞台用に用意された装飾のある衣服に身を包んだ詩織は態度も合わさって威厳すら感じられた。

 

「そうね。全軍の指揮はわたしが執る。このタイタニアを守護し、一人でも多くの民を守ってみせるわ!」

 

 そんな彼女達の中でも特に迫真の演技をするのがリリィだ。役どころが王女リリィという自分そのものであるからとも言えるが、普段の強気なリリィ・スローンを演じる彼女だからこその演技力なのだ。

 

「シオリ、わたしと共に!」

 

 いよいよ物語もクライマックス。巨大なハクジャを模した模型を前にリリィと詩織が立ち塞がる。味方の兵達を撤退させ、二人だけが今ここに立っているという設定だ。

 

「この一撃に全てをかけます。リリィ様、見守っていてくださいね」

 

「えぇ。いつでもわたしはあなたを見ているわ」

 

 これまで使っていた聖剣の模造刀ではなく、ここでは本物を使用する。すでに技を放つ先のエリアは封鎖されており誰もいない。

 

「夢幻斬りっ!!」

 

 空まで立ち昇る光が振り下ろされ、ハクジャの模型は塵に消えた。この技を使うのは舞台端ギリギリのところであったが、セットの一部が吹き飛ばされるほどの威力であった。

 

「やった・・・」

 

 そのあまりの迫力に大勢の観客達は圧倒され、皆一様に詩織の勇者の力に驚いていた。シエラルは何度か見た光景なので特段驚くこともなかったが、やはり美しい技だと感激している。

 

「リリィ様、ハクジャを倒したこの力・・・ご覧になって頂けましたか?」

 

「しかと見届けたわ。異界より来たりし貴女は、間違いなく勇者としての力を持ち合わせているようね。聖剣グランツソードから放たれし輝きがその証拠」

 

 何度も練習した最後のシーンだ。

 

「リリィ様、あなたに仕えることを誓います。この身も心も捧げ、あなたの勇者として戦います」

 

 詩織がリリィの前に膝をつき、手を握る。そして優しく口づけを行い、忠誠の誓いが交わされた。

 

「こうして、リリィ王女と勇者シオリは最期の時まで添い遂げるのでした」

 

 ミリシャのナレーションで物語は締めくくられ、観客達からは惜しみない拍手が贈られる。それは舞台の幕が降り、役者達が見えなくなっても続き、皆の興奮が伝わるようであった。

 

 

 

 

 

「終わったのね・・・」

 

 深夜となり、もう観客達が帰った後の演習場にリリィと詩織がいた。満天の星空の元、二人は舞台セットの前で寄り添って座っている。

 

「まるで一瞬の出来事だったように思えるよ。気がついたらラストシーンでさ・・・」

 

「わたしもよ。でも、シオリの唇の柔らかさはしっかりと憶えているわ」

 

「は、恥ずかしいな・・・」

 

「ふふ・・・本当に幸せな時間だった」

 

 演劇は大成功で終わったと言っていいだろう。シエラル達から褒められたのもそうだが、何よりリリィにとっては国王から称賛されたことが嬉しかった。目立ったミスも無く、場の緊張感から生まれる緊迫感も合わさって聴衆を魅了することができたのだ。

 

「なんだか長いこと劇をやってきたような錯覚に陥るわ」 

 

 この日のためにここ最近は頑張っていたから、どうにも気が抜けてしまった。建国祭が終われば再び魔物討伐の任に戻ることになるが、戦っていたのは随分昔のことのように感じる。 

 

「確かにね。またやりたいと思えるくらい、凄く充実していたよ」

 

「そうね。劇団を作るのもいいかもしれないわ」

 

 冗談ではなくそう思っている。だからこそ、目の前の舞台セットを取り壊すことには抵抗があった。しかし、ここは演習場。いつまでも残しておくわけにはいかない。

 

「その時はシオリも加入するのよ」

 

「うん。リリィがやるなら、私は何にでも付き合うよ」

 

「ありがと」

 

 リリィはそのまま詩織を押し倒し、その上に跨る。

 

「だ、誰かに見られちゃうよ」

 

「かまいやしないわ」

 

 やり遂げた疲労がリリィの判断力を低下させており、ただ欲求だけに突き動かされる。

 

「柔らかい・・・」

 

 詩織に抱き着きつつ、その感触を楽しむように目を閉じた。

 

           

             -続く-

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