ファンタジア!~異世界転移した私は勇者を目指します~   作:ヤマタ

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第42話 ルーアルの奇襲

 チェーロ・シュタットに保管されていたガーベラシールドを受け取っている最中に発生した敵襲。リリィ達は現場に急行し、突如現れた魔物を視界に入れる。

 

「あれは、一体どんな敵なの?」

 

 敵は魔龍を人間サイズに小型化したような魔物で、真っ黒の体は不気味そのものだ。

 

「来るっ!」

 

 チェーロ・シュタットの兵を蹴り飛ばしつつ、リリィ達を発見した魔物が滑空してきた。前腕の鋭い爪が日光を反射して鈍く光り、人間を引き裂こうという確固たる殺意を感じる。

 

「当たるもんか!」

 

 素早い魔物の一撃を回避しつつ、剣で逆に相手の腕部を斬りおとす。

 

「シオリっ!」

 

「任せて」

 

 よろけた魔物は痛みなど感じていないようにリリィを追撃しようとしたが、背後から詩織に切り伏せられて真っ二つになって落下した。

 

「魔龍に似た姿だけど、たいしたことはないわね。このまま殲滅するわよ」

 

 炎上する建物から飛び出してきた魔物をシエラル達も排除し、このままなら周囲一帯で暴れまわる魔物をそう時間もかからず倒しきれると思ったのだが、

 

「アレは・・・」

 

 詩織は妙なプレッシャーを感じて視線を上げる。すると三階建ての建物の向こう、スッと黒い巨影が姿を現した。まるで王都で交戦した魔龍そのもので、詩織は目を見開く。

 

「魔龍・・・?いや、でも違うのか・・・?」

 

 しかしあの魔龍ほどの脅威は感じない。ダークオーブを有してはいるだろうが、圧倒的にパワーが違うと直感したのだ。その不思議な感性は、特殊な魔力を持つ詩織だからこそと言える。

 

「シオリ、あのデカブツをやれる?」

 

「うん、ケリをつけるよ」

 

 聖剣で夢幻斬りを放とうと構えた。しかし、それを察知したのか小型の魔龍タイプ数体が詩織を急襲し、大技を妨害してくる。

 

「くっ・・・邪魔をするな!」

 

 一体を撃破し、次に迫るもう一体に向き合う。個体の強さはそれほどでもないが、数がいるので苦戦してしまうのだ。

 

「コイツらを倒しきれれば・・・!」

 

 詩織が技を放てるチャンスさえ作れれば勝てるのだが、

 

「なんとっ・・・!」

 

 リリィがフと巨大な魔龍タイプを見ると、信じられない光景が目に飛び込んできた。頑強そうな口を大きく開け、なんとその中から小型の魔龍タイプが何体も吐き出されたのだ。

 

「新しく魔物を産み出しているというの?」

 

 その吐き出された魔物達が翼を広げ、詩織達めがけて飛んでくる。産みだされて間もなく成体と同じように行動できることに驚きつつも、リリィは迎撃の姿勢をとった。

 

「チィ・・・これほどの戦力とは・・・」

 

「リリィ様、お任せを!」

 

 リリィの後方で魔物と交戦していたシュベルク隊が合流する。

 

「敵の数は多いけど、やれる?」

 

「はい。これでも魔物討伐任務に従事していた部隊ですから、見たことない敵であってもやってやります」

 

「よし。じゃあいくわよ!」

 

 アイリアとミリシャも加わり、七人の適合者が戦列をなして敵に対する。物量差では負けているが総合的な実力は上回っており、一人とて臆する者はいない。

 

「あのデカいのを倒して決着をつけるわよ!」

 

 リリィの指示で全員が駆け出し、すれ違いざまに魔物を討ち倒していく。

 

「シオリ、あの敵のゼロ距離まで行くのよ。わたし達が援護するから」

 

「了解!」

 

 運動性能の低い巨大な敵の場合、至近距離まで迫ったほうが逆に妨害は受けにくい。そこから大技を叩きこめれば勝利できるだろう。

 

「コレでっ!」

 

 詩織は受け取ったばかりのガーベラシールドを敵に向け、魔力を流しながらグリップに取り付けられたトリガーを引く。するとシールド中央部の拡散魔道砲がパッと明るく発光し、散弾のような小さい魔弾が数発照射され、目の前に迫っていた三体の小型の魔龍タイプを撃ち落とすことに成功した。

 

「リリィ様、緊急連絡です!ティエル様から」

 

 詩織が開いた血路めがけ、今まさに突撃を敢行しようとしていたリリィだが、チェーロ・シュタットの兵に呼び止められてハタと立ち止まって振り返る。

 

「何かあったのかしら?」

 

「機関部がある地下に敵が侵入しました。魔女と思しき敵影もあり、現在ティエル様麾下の部隊が交戦しています。これを排除できなければ大きな損害を被ることになり、支援をお願いしたいのですが・・・」

 

「魔女か・・・こっちのデカいのは陽動で、そっちが本命の攻撃だったということね」

 

 魔女の目的は分からないが、あの魔龍タイプを囮に注意を引き付けて何かを企んでいることには違いない。そんな相手を放っておくわけにもいかないし、どうにか倒すべきだが、目の前の敵にも対処しなければならないのだ。

 

「ここはボク達に任せて、キミ達は魔女のもとへ」

 

「シエラル、頼める?」

 

「あぁ、ボクと部隊のメンバーで抑えられる」

 

 戦闘力ならこの場でシエラルがトップクラスだし、彼女の率いる部隊も充分に戦果を挙げられる適合者の集まりだ。ならばここはシエラル達に託し、魔女討伐の支援を行うことを優先しても問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 

「フッ、上手くいっているな」

 

 ルーアルは小型の魔龍タイプと共にチェーロ・シュタットの適合者を牽制しつつ、地下の最深部を目指す。

 

「さすがルーアル様です。見事な作戦ですね」

 

「当然だ」

 

 配下のリガーナがゴマをするようにルーアルを褒め称える。皇帝ナイトロから派遣された彼女は人間だが魔女を崇拝しており、ルーアルの成し遂げることの手伝いができることに悦びを感じていた。

 

「しかし、あの魔物は何なんです?魔龍の親戚みたいなアレは」

 

「ドラゴ・ティラトーレの残骸の一部を回収し、それを適当な魔物に取り込ませたうえでダークオーブで強化した魔物だ。魔龍のような姿だが、パワー自体はそんなに高くない。むしろ、何故か体内で魔物を量産する機能が付加され、それが今回の作戦で有効に作用している」

 

 あの大型魔龍タイプはルーアル製で、以前のヴァラッジに近い人工魔物だ。その特性は空気中の魔素を取り込み、それを素材に体内で自身に似た魔物を生産できる点である。生物の概念を覆すような増殖方法はルーアルも予期していないものだったが、敵の気を引くための作戦では効果的だった。

 

「なるほど。しかし、この先には一体なにがあるんです?こんな薄暗いところは早く出たいのですが」

 

 前回の襲撃には参加しなかったリガーナがルーアルの目的を問う。

 

「チェーロ・シュタットを浮遊させている特殊な魔結晶のヴォーロクリスタルがあるから、それを奪取するんだ。今後の活動で使えるかもしれないからな」

 

 ティラトーレが倒されたとはいえ、それで終わりではない。まだルーアルには策があり、そのためにできることをしておきたいのだ。

 

「ルーアル様、また敵です」

 

「邪魔だてする者は排除するだけだ」

 

 ルーアルは杖を手にし、適合者が迫ってくる方角へと向きを変えて魔弾を発射した。その強力な一撃は簡単に防げるものではなく、一人の適合者が倒れる。

 

「雑魚どもが。この私に勝てると思うな」

 

「しかしこの狭い場所では囲まれたら不利になりますよ」

 

「そうだな・・・あの部屋に向かおう」

 

 通路を抜けた先、広い資材置き場にて人間と本格的な戦闘に入る。魔族と人間が入り乱れる地獄のような激しい戦いが繰り広げられ、もはや誰が死んでもおかしくない状況だ。

 

 

 

「こうもたやすく再びの侵入を許すとは・・・我らも平和ボケしたものだな」

 

 かつての魔龍との激戦以来、チェーロ・シュタットは平和を謳歌していた。そのため血で血を洗う戦は伝承のようになっており、充分に敵に対応できるうる危機感がなく、襲撃されても楽観的な考えを持つ者が多かった。

 

「しかし、これで負けるわけにはいかん」

 

 高齢のティエルがこうして前線に出てきたのも、実戦経験のある彼女が指揮を執らねば勝てそうにもないからだ。国家首脳部の一員である副総帥が出撃など本来あり得ないことで、チェーロ・シュタットがいかにレベルが落ちたかが分かる。

 

「立ち止まるな!敵がいるのに動きを止めるということは、自殺行為と同じだ!」

 

 味方の動きが鈍いことに気がついたティエルは檄を飛ばしつつ、小型の魔龍タイプ一体を魔弾で粉砕した。いくら体が衰えたとはいえ、まだ魔弾でならば魔物にも対抗できる。

 

「アレは魔女か・・・もう見る事もない敵だと思っていたが・・・」

 

 黒い翼を広げる人間など魔女しかあり得ない。記憶の中にある魔女を想起しながら、これ以上先に進ませないためにも資材の影から集中的に攻撃する。

 

「老いぼれめが。私の行く手を阻むなど!」

 

 ティエルの魔弾をいなし、反撃の魔弾数発を連射して撃ちこむ。魔女特有の高火力の魔弾はティエルに直撃こそしなかったが、床への着弾で爆発に転じ、ティエルは大きく吹き飛ばされて煙の中に転がる。

 

「ルーアル様、もう人間どもは魔物に対応させて我々は目的の場所へ参りましょう」

 

「うむ。あの勇者たちが来ているし、時間をあまりかけたくないからな」

 

 戦況は優位に推移しており、もはやルーアルが手を下すまでもないと判断し、ヴォーロクリスタルがあるはずの最深部へと進んで行く。

 

 

 

 

「これがヴォーロクリスタル・・・」

 

 道中に妨害を受けることなく機関部へと到着し、天井から吊るされた動力源のヴォーロクリスタルを見上げる。前回の襲撃ではここまで近づけたものの、チェーロ・シュタットの適合者による集中砲火を受けて撤退せざるを得なかったが、今回の陽動による敵戦力分散によって遂に辿り着くことができたのだ。

 

「この強大な力は素晴らしい・・・」

 

 ヴォーロクリスタルを降ろし、その力を体感しながら魔法陣の中へと格納した。

 

「貴様、クリスタルは返してもらおう!」

 

「ん?」

 

 機関部の入口に立ちはだかるのはティエルだ。先ほどのルーアルの魔弾で負傷していたが、そうとは思えないほどの睨みをきかせる。

 

「お前一人で何ができる?魔女に勝てると本気で思っているのか?」

 

「そのつもりでここに来たのだ」

 

「そうか。魔女相手にも恐れを抱かぬ気概は称賛に値する。しかし、気力だけでは魔女は倒せん」

 

 ルーアルの魔弾が飛び、ティエルは必死の回避運動で避ける。だが二発目をどうこうできる余裕はなく、再び爆発に巻き込まれて地面に倒れた。

 こうなればもはやティエルは動ける体ではない。先ほどの資材置き場でのダメージも相まって老体は悲鳴をあげており、意識を保つことさえ厳しい。

 

「脆弱な人間めが。その程度で喧嘩を売ってくるとは、まさに無謀」

 

 とどめを刺すべく、ルーアルは杖に大量の魔力を流す。そこまでしなくても殺せるのだが、愚かな人間へ鉄槌を下そうという見下した感情がそうさせたのだ。

 

「ではな。死後の世界で悔いるといい」

 

「くっ・・・」

 

 眩く発光した杖から強力な魔弾が撃ち出され、ティエルは抵抗もできずに咄嗟に目をつぶった。だが、

 

「させないよ・・・」

 

 死は訪れなかった。魔弾はティエルに届くことはなく消えたからだ。

 

「ゆ、勇者さま・・・」

 

「遅れてすみません。ヤツは、私が!」

 

 ティエルの目の前に立つは詩織。ガーベラシールドを構え、全力の防御によって魔弾を完全に防ぎ切る。

 

「そんなバカな・・・あの魔弾が効かないだとォ!?」

 

 ガーベラシールドに着弾したルーアルの魔弾は爆散し、それによって発生した煙の中からいくつもの小さな魔弾が放たれて迫ってきた。シールドに内蔵された拡散魔道砲による砲撃だ。

 

「やるな、勇者め!」

 

 その魔弾を回避しながら距離を取って仕切り直し、煙の中からしっかりとした歩調で姿を現した詩織に対峙する。

 

「さぁ勝負だ、勇者!」

 

「臨むところだよ・・・絶対にここで倒す!」

 

 詩織は聖剣を装備し、ガーベラシールドを突き出しながら魔女に吶喊した。果たして・・・・・・

 

         -続く-

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