ファンタジア!~異世界転移した私は勇者を目指します~   作:ヤマタ

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第48話 この時よ、永遠に

「ご苦労であったな、リリィよ」

 

「いろいろとご迷惑をおかけしましたが、お許しをいただければと・・・・・・」

 

「此度のソレイユクリスタル損壊の件は不問としよう。これからは王家の自覚を持って励むようにな」

 

 チェーロ・シュタットでの出来事と、ソレイユクリスタル修復の目途が立ったことを国王である父に報告したリリィは労いの言葉をかけてもらって安堵の息をつく。

 

「はい。そしてシエラルとの婚姻の件なのですが、この話は無かったこととなりました」

 

 しかしこの事も伝えておかねばならない。

 

「そうか」

 

「怒らないのですか?」

 

「お前の意思でそう決めたのだろう?確かに政治的な面で言えばメタゼオスとの交流のためにも望ましいことであった。だが父親としての私の本意はお前が望む人生を、本当の幸せを掴むことなのだ。だからこそ怒ることなどない。リリィの意思を、その決断を支持するだけだ」

 

「ありがとうございます」

 

 リリィの予想していなかった国王の返答であったが、それが嬉しくて緊張していた頬が緩む。

 

「クリスもアイラも、そしてリリィもこの国を継ぐに相応しく育ってくれた。私は親としての役割を果たせていたとは思えないが・・・・・・特にリリィのことをちゃんと見てやることができなかったことは反省してもしきれないものだ。父親として失格を承知の上で謝りたい。本当に申し訳なかった」

 

「お父様・・・・・・」

 

「今のリリィには良き理解者達がついておる。その者達と共に、お前の思うように生きなさい」

 

「はい、お父様」

 

 リリィは一礼して謁見室を後にする。国王に認められた誇らしさと父親としての本当の気持ちを聞けた喜びを胸にしまいながら。

 

 

 

 

 

「皇帝陛下、タイタニア城に忍び込ませているあの者から至急の連絡がありました」

 

「なんだ?」

 

 メタゼオス皇帝のナイトロは魔龍と共に世界の覇権を握った後のことを考えつつ直轄の秘密部隊に所属する部下に耳を傾ける。

 

「ソレイユクリスタルが数日中には修復が完了するとのことで、これをどうするかと・・・・・・」

 

「勿論強奪するに決まっている。ヴォーロクリスタルと共にドラゴ・プライマスの治療に使えるはずだ。ついでに王家の人間を殺すなり連れ去るなりしてタイタニアの政治機能を麻痺させるんだ。ワタシの邪魔をされるわけにはいかないからな」

 

「はい。ではそのようにお伝えします」

 

 もう少しで野望が叶う瞬間が来る。そう思うと子供のようなある意味で純粋な高揚感にナイトロは包まれていた。

 

「ですが、シエラル様はいかがなされるのです?きっと陛下に反対なされるでしょう」

 

「あの出来損ないのカスはワタシが始末する。世界を握るためのピースはもう間もなく揃うのだから、そこに合わない不要なものは捨て去るだけだ」

 

 もはや子供など必要ではない。ナイトロという絶対皇帝さえ存在すればそれでいいのだ。

 

「ゼオン家による世界統治千年の夢も現実となる。代々受け継がれてきた志はこのワタシが成就させよう」

 

 親であることなど最初から放棄していたナイトロ・ゼオンだからこその非情な決断と言える。そんな彼が目指す未来には果たして何が産まれるのだろうか・・・・・・

 

 

 

 

 

「こういういい天気だもの、街にデートにでも行きたいわね」

 

「あの隠し扉を使って行っちゃう?」

 

「そうしたいトコロだけど、ソレイユクリスタルがちゃんと直るまではせめて大人しくしていないとね」

 

 城の敷地内で散歩する詩織とリリィ。二人は再びの出撃の前にあるひと時の平和を満喫していた。

 

「クリスお姉様もアイラお姉様も魔物討伐から間もなく帰還されるそうなの。そしたらソレイユクリスタルの事とか教えてさしあげないといけないしね」

 

「お姉さん達もきっと褒めてくれるよ」

 

「だといいけど」

 

 そもそもリリィのせいで壊れたわけで、それを直したからといって褒められるのはお門違いといわれればそれまでである。

 

「ちゃんとシオリの功績だってことも伝えないと」

 

「私のことはいいよ。リリィが頑張った結果でしょ?」

 

「違うわよ。わたしはなにも・・・・・・」

 

 詩織だけではない。アイリアやミリシャ、シエラルや他の色んな人達の協力のおかげで達成できたのだ。リリィだけでは絶対に不可能だったことで、自分だけの功績などでは決してないとリリィは首を振る。

 

「でも、リリィの人徳あってこそだよ」

 

「あなたは優しいから・・・・・・」

 

「それしか取柄の無い人間だからね」

 

「そんなこと!シオリは、わたしにとって・・・・・・」

 

 切羽詰まったようなリリィが詩織の前に回り込んで両腕をギュっと掴む。どうしたのかと詩織は立ち止まり、リリィの顔を覗きこもうとした。

 

「ねぇシオリ、あなたはわたしの・・・・・・」

 

 とリリィが上目遣いで何かを言いかけたのだが、二人の足元に飛びついてきた小さな影によって遮られた。

 

「どこに行くんだ、タエ・・・って、リリィ様!?」

 

 草むらからひょこっと現れて素っ頓狂な声で驚いているのはアイリアだ。小さな子猫を抱えており、その猫はアイリアとシンクロするように目を見開いている。

 

「アイリア?どうしたのよ」

 

「いえ、その・・・・・・」

 

 アイリアの視線が詩織の足元に向いていることに気がついたリリィは同じようにそちらを見てみる。

 

「あら、子猫じゃない。このコを追っていたの?」

 

「はい、そうなんです・・・・・・」

 

 詩織は自分の元に駆け寄って来たその子猫に見覚えがあった。以前アイリアがこっそり餌をあげていた子猫だ。

 

「ふふ、まだこのコに餌をあげていたんだね」

 

「まぁな」

 

 詩織は子猫を抱え、アイリアへと渡す。

 

「シオリ、どういうこと?」

 

「迷い猫らしくてさ、アイリアが餌をあげているんだよ。前はこのコ一匹だったんだけど、いつの間にか二匹に増えてるね」

 

「そうなの?わたしにも教えてくれればよかったのに」

 

「アイリアが恥ずかしがってたから」

 

 現にアイリアは顔を真っ赤にしている。自分がそういうことをしているのを見られるのはよほど恥ずかしいらしい。

 

「てか名前つけたんだね?」

 

「ああ。この前から餌をあげていたコがタエで、最近やってきたコにはミハルと名前を付けたんだ」

 

「なんで和風な名前を・・・?」

 

「わふー?」

 

 なんのことかよく分かっていないように首をかしげるアイリア。

 

「この二匹はとても仲が良くてな。いつも一緒にじゃれているんだ」

 

 そっと地面に二匹を降ろしアイリアは微笑ましそうに様子を見ている。よほど愛情が湧いているのだろう。

 

「あら、皆さんこんな所にいらっしゃったのですか?」

 

「ミリシャ、どうかしたの?」

 

「いえ、わたくしは散歩を」

 

「私達も同じだよ。で、たまたま会ったってわけだ」

 

「奇遇ですわね。いえ、むしろわたくし達の縁の強さ故でしょうか」

 

 個性も性格もバラバラな四人だが、彼女達の絆や信頼感は強い。後からメンバーに加わった詩織もすでに長い間戦友だったように受け入れられている。

 

「そうだ、せっかくだし皆でお茶会をしましょうよ。四人揃ったことだしね」

 

 チェーロ・シュタットに向かう前にもお茶会を開こうとしたリリィだったが、詩織は昼寝していたし、アイリアは見当たらなかったのでミリシャと二人でしていたのだ。

 詩織達は頷いて了承し、リリィの自室へと向かった。

 

 

 

 

 

「今後のわたし達の活動だけれども・・・」

 

 リリィの部屋に備え付けられたテラスにて大きなテーブルを囲んで座る詩織達は、お菓子を用意するというミリシャを待ちながら今後の目標について考えていた。

 

「私達はただリリィ様に付いていくだけです」

 

 リリィの活躍も認められてきたとはいえ部下は三人だけだ。追加配備の話もないし、当面はこのメンバーで任務にあたっていくことになるだろう。

 

「ありがとうアイリア。ソレイユクリスタルの修復のための素材集めは完了したから、当面の目標は魔女の討伐ということになるわね」

 

 魔女ルーアルという難敵とは数度に渡り交戦したが決着は付いていない。このままでは更なる被害をもたらす可能性があり、その前に討つ必要がある。

 

「そうだね。あの魔女は危険だよ。居場所さえ掴めればいいんだけど・・・・・・」

 

 詩織が魔女討伐に積極的なことにリリィは安堵する。ソレイユクリスタルが直ったら詩織は元の世界に帰れるわけだし、本来なら彼女はもう戦いに関わらなくてもいいのだ。だが詩織には戦う意思があり、それはつまり魔女を倒すまでは一緒にいられるというリリィの安心であった。

 

「アイツが姿を見せる時というのは企みがある時よ。先手を打てるなら上出来だけど、現状はヤツが出現してからの後手の対応しかできないのがネックね」

 

「しかもどこに現れるか分からないってのが困るところだよね。魔女の真の目的が判明すれば対処できるかもなのに」

 

 今のところ具体的な対抗策も思いつかずうーむと唸るリリィだったが甘い匂いが漂ってきてテラスの入口へと首を捻る。

 

「お待たせいたしましたわ。テナー家特性のスペシャルクッキーですわ」

 

 トレイの上の大きな皿には大盛りのクッキーが乗せられており、その見た目は詩織の世界の菓子店の物よりも美味しそうだ。

 

「待っていたぞ、この時をな・・・・・・」

 

「落ち着いてくださいアイリアさん」

 

 餌をせがむ飼い犬のようなアイリアをなだめつつ、アイリアはテーブルの上に皿を置く。

 

「さぁ召し上がってくださいな」

 

 ようやく許可が出てアイリアはリリィに先んじて複数のクッキーを口に頬張る。普段はリリィへの敬意を忘れず何においてもリリィを優先するアイリアなのだが、食事に関することだけは抑えが効かないようだ。それをリリィは咎めることもなく微笑ましそうに眺めている。

 

「難しいことは後で考えましょうか」

 

「そうだね。今は平和なひと時だしね」

 

 詩織もミリシャのお手製クッキーを口にし、その美味に驚いた。

 

「凄いよ、これ。めっちゃ美味しい」

 

「お褒め頂けて嬉しいですわ。わたくしは昔からお菓子作りが好きでして、今もたまに食堂の厨房をお借りして作っているんですの」

 

「こりゃあ商売にもなるレベルだよ。ミリシャのお菓子店としてさ」

 

「ふむ・・・出店するのもいいですわね。幼少期にそんな夢を見ていたこともありましたし」

 

 お菓子の美味しさは勿論だが、ミリシャの美貌も相まって繁盛間違いなしだなと詩織は思う。

 

「ミリシャの夢ならわたしは全力で応援するわよ。なんなら王家公認として出店するのもアリね」

 

「ありがとうございます。ですがわたくしはリリィ様と共に戦う使命を全うしたいのです。もし魔物との戦が終わり、平和な時代が来たら考えてみますわ」

 

 そんな会話をよそに食べることに集中しているアイリア。彼女の食い意地だけは誰も止めることはできない程だ。

 

「こんな時が長く続けばいいのにな・・・・・・」

 

 リリィは少し渋いお茶の入ったカップを両手で持ち上げ、詩織、アイリア、ミリシャの楽しむ様子をその目に焼き付けていた。

 

        

          -続く-

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