ファンタジア!~異世界転移した私は勇者を目指します~   作:ヤマタ

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第54話 月明りの下で

 フェアラトにダークオーブを埋め込まれて操られたリリィと対峙する詩織。どうにかしてリリィを助けたいのだが動揺と焦りに思考と動きが鈍っていた。

 

「リリィ・・・!」

 

 剣による斬撃を聖剣で防御してリリィの潤んだ瞳を凝視する。悲しさと絶望に支配されたリリィの感情がその瞳に現れており、自分の意思に反して体が動いてしまうことへの恐怖も映し出されていた。

 

「お願い・・・早くわたしを殺して・・・」

 

「できない、そんな・・・」

 

 しかし何か手を打たないことには詩織は殺されてしまう。そして操られたリリィはアイリアやターシャにも襲いかかるだろうし、そうなればリリィの心はより強い絶望に塗りつぶされてただの傀儡に堕ちることは想像に難くない。それならばいっそこの手で・・・・・・

 

「いや、何を考えているんだ私は・・・リリィを助けにきたんじゃないか!」

 

 一瞬とはいえリリィを手にかけようという考えがよぎったことに自分で憤慨する。リリィを生きて奪還する、それこそが絶対的な目的なのだ。

 

「絶対に助けるから!」

 

「できるかな、貴様に」

 

 高みの見物をきめこむフェアラトは詩織の苦戦を見て余裕そうに腕を組んで壁に寄りかかっている。そんなフェアラトへの怒りも強く感じていたが、彼女自身が手を出してこない現状ならばリリィを救う手立てもあるはずだ。

 

「このままじゃ・・・・・・」

 

 リリィの攻撃は途切れることなく続き、ついには詩織の左腕を裂いて鮮血が散る。傷は浅いがリリィの動揺は強い。

 

「シオリ!!」

 

「大丈夫だよ、このくらい」

 

「こんな、こんなことって・・・」

 

 この手で詩織を傷つけてしまったことでもうリリィの心は限界に近づいていた。

 

「ダークオーブなら、イチかバチかやってみるか・・・・・・」

 

 解決策を探していた詩織は一つの案を考えていた。それはリリィのダークオーブを引き抜くというものである。ダークオーブに干渉できるのは魔女と勇者だけであり、詩織もダークオーブに触れることができるわけだ。実際にルーアル配下のオーネスコルピオのダークオーブを回収して魔法陣に収容したこともあるし、その時と同じことをすればいい。

 

「いけるか?」

 

 勿論リスクだってあるだろう。ダークオーブを破壊されると埋め込まれた生物は機能不全を起こして絶命する可能性がある。つまりリリィから無理にダークオーブを引き抜いて無事に元に戻るかは不明なのだ。

 

「やってみるか!」

 

 とはいえ手をこまねいている場合ではない。

 

「このっ!」

 

 リリィの剣を弾き飛ばし、詩織は聖剣を放り捨てる。

 

「リリィ!」

 

「シオリ・・・?」

 

 詩織はリリィの腕を引っ張って抱き寄せた。そしてリリィの腹部に手を当て、魔力を流す。

 

「あうっ・・・!」

 

「少し我慢してね!」

 

 理屈ではなくやるべきことが感性で分かる。ダークオーブの邪悪な力を掌で感じつつ、脳内で自らに引き寄せるイメージを浮かばせる。これでいけるか分からないが、シオリリウムロッドを使う時の要領を応用したのだ。

 

「なにっ!?」

 

 珍しくフェアラトの顔に驚きの表情が浮かぶ。それはそうだろう。リリィから霊体状態のダークオーブが引き抜かれ、それを詩織が実体化させて叩き割ったのだから。

 

「やった!!」

 

 リリィの下腹部にあった紋章は消え失せ、すっかり元通りになった。どうやら成功し、リリィをフェアラトの支配から解き放てたようだ。

 

「シオリ、ありがとう・・・ここまでしてくれて、どう恩を返せばいいのか・・・」

 

「リリィのためだもの、どうってことはないよ」

 

「あなたって人は・・・」

 

 だがダークオーブに侵されていたリリィの調子は完全に戻ったわけではなく休息が必要だろう。そのためにはフェアラトをどうにかしなければならない。

 

「よくも私の楽しみの邪魔をしたな!」

 

 フェアラトが魔具を装備し、今まさに詩織に襲い掛かろうとしたが、

 

「させん!」

 

「なっ!?」

 

 ナイフが飛び、フェアラトを掠める。

 

「アイリア!」

 

「待たせたな」

 

 アイリアだけではなくターシャまでもが拠点中枢部に突入してきたのだ。

 

「ターシャさん、リリィをお願いします」

 

「わかりました。シオリ様、必ず戻ってくださいね」

 

「はい。リリィの所が私の居場所ですから」

 

 気を失ったリリィをターシャに託し、聖剣を拾ってアイリアと共にフェアラトに対峙する。

 

「これで形勢逆転だね」

 

「そうかな?」

 

「ソレイユクリスタルを返して」

 

「残念だがソレイユクリスタルはここにはもう無い。有りかを言う気も無い」

 

「だったら!」

 

 リリィへの悪行で詩織の怒りは頂点を通り越しており、一周回って冷静さすらあった。地面を蹴ってフェアラトに詰め寄り、聖剣で斬りかかる。

 

「これで勝ったと思うなよ」

 

 クリス達を退けるパワーを持つフェアラトだ。詩織も適合者として確実に成長していたのだが敵わない。

 

「数で押せば・・・・・・」

 

 物量差では勝っており、二人で押し込めば勝機もあるだろうが、

 

「ダークオーブで!」

 

 フェアラトは予備のダークオーブを自らに押し込んで取り込み、暗黒のオーラを纏って強化されてしまった。ただでさえ魔女は強敵なのに、こうして能力が上がってしまっては苦戦必至だ。

 

「特別な力を持つのがお前だけだと思うな」

 

 膨大な魔力で剣を包み、禍禍しい刃を形成して振りかざしてきた。強力なエネルギーが空気を振動させながら迫るが、詩織達は回避に専念してなんとか傷を受けずに済む。

 

「しかしとて!」

 

 詩織とアイリアがフェアラトの間近に迫り、同時に攻撃を繰り出す。

 

「甘いな!」

 

 フェアラトは地面に剣を突き刺し、一気に魔力を開放。すると強烈な衝撃波が周囲に飛び、詩織達は大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「ダンチだ・・・パワーが・・・」

 

「これが魔女の力だ。しかも私はルーアルよりも強い」

 

 体勢を立て直したばかりの詩織に向かって跳躍し、その頭の上から斬りかかろうとした。詩織は聖剣で防御の姿勢をとるが、力負けするのは確実で押しつぶされてしまう。

 

「もらった!!」

 

「くっ・・・・・・」

 

 しかしフェアラトの剣は詩織に届くことはない。流星の如き魔弾が二人の間に介入し、フェアラトの動きを妨害したからだ。

 詩織がその光の来た方向を見ると、そこにはミリシャが立っていた。そして彼女に治療されて戦線復帰したアイラがフェアラトに食って掛かる。

 

「アタシの妹をよくも傷つけてくれたわね!」

 

 詩織並みに怒りを爆発させているアイラの攻撃は重く、フェアラトは鍔迫り合いに負けて後ずさる。

 

「こんな人間が、私を!」

 

「人間の想いの力はこんなものじゃない!」

 

 追撃が脇腹を裂き、フェアラトは後方へジャンプして膝をついた。傷自体はダークオーブによってすぐに修復されたが、人間相手にダメージを受けたことによるプライドの傷までは治らない。

 自分が押し込まれたことへの動揺で力を存分に発揮できておらず、それを見抜いた適合者達はトドメとばかりに一大攻勢をかける。

 

「こんなヤツらにっ」

 

 ミリシャの魔弾を剣で弾くが、次の瞬間にはアイリアのナイフによって左腕が切断されていた。

 

「バカなっ・・・こんなバカな!」

 

 焦りながらも迫るアイラへと応戦しようとしたが、

 

「終わりだ!」

 

 詩織の聖剣がフェアラトの背中から胸を刺し貫き、心臓が破壊された。フェアラトはその力を出し切ることもできず、詩織達に敗北したのだ。リリィを操っていた時にフェアラト自身も戦闘に参加していれば結末は変わったろうが、勝てるという慢心が死という結果を引き寄せた。

 

「倒したわね、魔女を」

 

「はい。でも、ソレイユクリスタルの有りかを聞きだすことはできませんでした」

 

「それはまた探せばいいのよ。今はリリィの無事を喜びましょう」

 

 詩織は頷き、ターシャに運ばれたリリィの元へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 気を失っていたリリィだが城に帰還してすぐに目を覚まし、体にももう異常は無いようであった。それは詩織がダークオーブを引き抜いたおかげで、まさに奇蹟の生還である。

 

「あの魔女はソレイユクリスタルでドラゴ・プライマスを復活させると言っていたの。それをどうやってやるのかは知らないけれど、阻止しないとね」

 

「そうだね。でもそれはクリスさん達が方法を検討してくれているから、今は体を休めよ?」

 

 夜、リリィの部屋にて詩織はリリィと二人きりの時間を味わっていた。こうして一緒に居られることがどれほど幸せなことかが分かったし、だからこそ大切にしたかった。

 

「本当に、ありがとう詩織」

 

 ベッドに腰かける二人の間には穏やかな雰囲気が漂う。修羅場と化した戦場での空気とは正反対だ。

 

「気にしないで。リリィが居なくなったらイヤだもの、だから頑張ったんだ」

 

 詩織の笑顔にリリィの心は色々な想いで一杯になる。

 

「シオリ・・・」

 

 リリィは詩織の肩に手を置き、そのままベッドへと押し倒す。詩織は抵抗することもなく受け入れ、リリィの瞳を見つめ返した。

 

「我儘、言っていい?」

 

「いいよ」

 

「シオリに前から言いたかった・・・・・・」

 

 少し言葉に詰まりながらも、リリィは改めて言葉を紡ぐ。

 

「これからもずっとわたしの傍にいてほしい。シオリをこの世界に無理に召喚しておいて何言ってるのって話だけど、わたしはあなたと離れたくないの」

 

 これがリリィの想いの全てだ。王家の人間としての立場だとか関係なく、詩織という個人が大切なのだ。だがその答えを訊くのが怖くて切り出すことができなかった。それでも言うタイミングは今しかないと打ち明けたのである。

 

「・・・いいよ」

 

「えっ・・・?」

 

「私はずっとリリィの傍にいる。このまま永遠に」

 

「いいの・・・?」

 

 詩織は小さく頷き、肯定した。

 

「私も言おうと思っていたんだ。この世界に留まりたい、リリィと一緒に居たいって」

 

「そっか・・・そうだったんだ」

 

 リリィも詩織も思うことは一緒であった。互いに互いと生きていくことを望んでいたのだ。

 そして詩織はおもむろにリリィの手を顔に引き寄せ、手の甲に優しく口づけをする。

 

「リリィ様、あなたに仕えることを誓います。この身も心も捧げ、あなたの勇者として戦います」

 

 これは建国祭で演じた劇のセリフで、勇者が王女に誓いを立てるシーンの再演である。いや、これは正確には再演ではない。なぜなら演技などではないからだ。

 

「シオリ・・・?」

 

「私はリリィの勇者になる。あなたに全てを捧げて戦うと誓うから、私を導いて。そしてあなたの傍に私を置いてください」

 

 それで充分であった。もう言葉などいらないくらいに二人の心は通じ合っている。

 

 窓から差し込む月明かりで浮かび上がった二人の少女のシルエットが、今、一つへと重なっていった。

 

         -続く-

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