ファンタジア!~異世界転移した私は勇者を目指します~   作:ヤマタ

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第7話 You can light my heart

 夜の散歩も終わり、ほどよい疲れと共に詩織は自室へと向かう。特別待遇であるため大きな部屋と豪華な家具を用意してもらっているので生活に苦はあまりなかった。唯一不便なことを挙げるならインターネットが使えないことだが、詩織は電子機器をあまり使わないタイプの人間なので大きな影響はない。

 部屋に辿り着き、扉を開くとランタンの光が廊下に漏れてきた。

 

「あれっ?」

 

 自分でつけたわけではないのにどうして灯りがついているのか疑問に思って慎重に部屋の中に入っていく。すると人の気配を感じたので物越しに様子を窺う。

 

「あっ!やっと帰ってきたのね!」

 

「なんだ、リリィか。驚かせないでよ」

 

 その人物がリリィだったのでホっとして胸をなでおろす。これが別の人だったら聖剣で斬りかかっていたところだ。

 

「待ってたんだから」

 

 ベッドに座っていたリリィが詩織に抱き着いてきた。柔らかな感触が心地いい。

 

「どうして私の部屋に?」

 

「シオリと一緒に寝ようかなと思って」

 

「私と?」

 

「うん。シオリと寝ると凄いリラックスできるのよ」

 

 詩織も一人でいるより、リリィと一緒にいたほうが心が安らぐのでむしろ嬉しいことではある。

 

「というより、どこ行ってたの?まさか城の誰かのもとに夜伽に!?」

 

「そ、そんなんじゃないよ!」

 

「その慌てようが怪しいわ」

 

「本当に!ほら、私から別の人の匂いとかしないでしょ?」

 

 ジト目で疑うリリィはシオリの胸の谷間に顔をうずめて匂いを嗅ぐ。

 

「そうね。シオリの匂いだけ・・・今回は信じてあげましょう」

 

 あらぬ疑いをかけられて焦ったが、どうやら誤解は解けたようだ。

 

「よかったわ、シオリが淫らな娘じゃなくて」

 

「そんな想像をするリリィのほうが・・・」

 

「そ、それくらいの知識はこの歳の人間なら誰でも知ってるわよ」

 

「ふ~ん?」

 

「ともかく早く寝ましょ!」

 

 リリィが詩織を押してベッドに誘導する。先ほどまで感じていた眠気はもう無かったが、不思議と安心感で満たされていた。

 

 

 

「本当はどこに行ってたの?」

 

 ベッドの中で寄り添い、薄暗い中で視線を合わせる。リリィはまだ気になっているようで再び訊いてきた。

 

「ただ散歩してたの。こんな大きな城に行く機会なんて今までなかったし」

 

 散歩してたというのは事実だが、途中で会ったアイリアが子猫に餌をあげていたことは伏せる。言うなと頼まれたことを告げ口する趣味はない。

 

「せっかくならわたしを誘ってくれたらよかったのに」

 

「たまには一人で落ち着きたい時ってあるでしょ?そんな気分だったんだ」

 

「そっか」

 

 少し悲し気なリリィの表情を見て詩織は頭を撫でてあげる。リリィは詩織の心情を理解しつつも、もっと一緒にいたいという気持ちがあるのだ。だからこそこうして詩織の部屋に来たのだろう。

 

「今度は一緒に行こうね」

 

「うん!」

 

 抱き着いてきたリリィの背中に手をまわして密着する。

 こうも好意を示してくれる相手に今まで会ったことが無かったから、詩織はそれが嬉しいのと同時に怖くもあった。いずれは離れ離れになるわけで、この温もりと別れなければならないことへの恐怖だ。この短期間の間にそう思えるほどリリィのことが大切になっている。

 

「ねぇ、どうしてリリィはそんなに私に懐いてくれたの?」

 

 訊いてみたくなったのは詩織がセンチメンタルになったためだ。

 

「うーん・・・理由なんてないわ。ただ、シオリはこれまでわたしが出会った人達とは違うと思ったし、最初に会った時から・・・言うなら運命のようなものを感じたの」

 

「私の特殊な魔力がそう思わせたのかな」

 

「違うわ。それは違う」

 

 なぜだか強くリリィは否定し、詩織の腕の中からするりと抜け出して顔を近づけた。この暗さの中でもこれだけ近ければハッキリと輪郭がわかる。

 

「魔力とかは関係ないの。シオリという人間そのものに惹かれたのよ。これは間違いないと自信を持って言える。シオリはわたしと出会ってどう感じた?」

 

「私も同じだよ。この出会いは定められた運命というか・・・とにかく、リリィのことは好きだよ」

 

「それなら良かった」

 

 ニコッと笑顔を浮かべて、また詩織の腕の中に納まる。リリィはこうして詩織に包まれている時が何より安らげるのだ。

 

「おやすみ」

 

 それだけ告げてリリィは目を閉じる。

 部屋には静寂が訪れ、二人は眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

「シエラルよ。準備はできたのか?」

 

「はい。父上」

 

 メタゼオス宮殿の謁見の間にて、シエラルは膝をついて皇帝ナイトロの質問に簡潔に答える。冷え切った親子仲の二人の間には微妙な空気が漂っており、シエラルは一刻も早く立ち去りたい気持ちでいっぱいだ。

 

「では明日、予定通りにタイタニアへと向かえ。そこでのお前の役割は理解しておるな?」

 

「タイタニアが召喚した勇者と言われる適合者、シオリの調査ですね?」

 

「そうだ。その者がどんな人間なのかをもっと詳しく知る必要がある。そして、上手く我々の方へと抱き込めれば有用な駒とすることができるだろうからな」

 

「・・・」

 

 ナイトロは詩織が自分にとっての障害とならないかという心配と、自分の物として利用したいという気持ちから調査させるわけで他者を道具程度にしか考えていないのだ。シエラル自身も詩織への興味は大いにあるが、それは彼女の不思議な魔力への純粋な関心からくるもので、決して利用するためなどではない。

 

 

 

「シエラル様、何かあったのですか?難しいお顔をされてますが・・・」

 

「ン・・・いや、そういうわけではないが・・・」

 

「なら、もしかして体調が優れないのですか?だとしたら休憩を・・・」

 

「大丈夫だよ。部下を不安にさせるとは、ボクはまだまだ未熟だな」

 

 イリアンの心配にシエラルは頭を振って表情を引き締める。タイタニア王国への移動中、父親の言葉を思い返して自然と顔が強張っていたようだ。

 

「いえ、そんなことはありません。シエラル様は立派な指揮官です。私だけでなく、皆もそう思っていますよ」

 

「キミは優しいな。イリアンのような部下がいてくれて、とても心強いよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 頬を真っ赤に染めながらイリアンは俯く。彼女にとってはシエラルに褒められたり必要とされることが幸福なのだ。だがそれを鈍感なシエラルは分かっていない。

 

 

 

 

「はぁ・・・まったく憂鬱だわ」

 

 王家用のメイクルームにて、普段は着用しないような装飾品をぶら下げながらため息をついているのはリリィだ。

 

「そう気を落とさずに。来客を笑顔でもてなすのも王族の役目ですよ」

 

「分かってるけれどもね・・・」

 

 タイタニア城ではメタゼオスから来るシエラル達一行を迎える準備が進んでいた。が、当然と言うべきかリリィは歓迎する気などなれずにむくれている。この機会に婚姻の話が進んでしまったらどうしようという懸念が頭から離れないのだ。

 

「ターシャはわたしに望まぬ結婚をしてほしいの?」

 

「そんなことはありません。リリィ様が本当の幸せを掴むことが私の望みであるのですから」

 

「なら、お父様にそう言ってよ」

 

「無茶を仰る・・・」

 

 一介の教育係に国王に提言できるほどの権限などない。

 

「わたしは今から魔物討伐に出ることにするわ。そうすれば会わなくても済むし」

 

「国王様の許可もなしに行けませんよ。ここは大人の社交を学ぶべく、我慢してください」

 

「むぅ・・・」

 

 好まぬ相手に会うというのはかなりのストレスだ。こんな時には心を明るく照らしてくれる詩織に会いたくなるが、彼女はこの場にいない。

 

「早く帰ってくれればいいんだけど・・・」

 

「最近増加している魔物を討伐するための増援として派遣されるわけで、暫くはこちらに滞在するそうですよ」

 

「えぇ・・・」

 

 自分と詩織の時間だけはどうか邪魔されませんようにと、両手を合わせて祈るしか今のリリィにはできなかった。

 

 

 

 

「やぁ、また会ったね」

 

 タイタニアへと到着して国王達への挨拶を済ませたシエラルが詩織を呼び出す。

 

「シオリに何の用なのよ」

 

 不機嫌さを隠さないリリィも同伴しており、怪訝な眼差しと共に尋ねる。ここには国王はいないので遠慮がない。

 

「彼女の適合者としての実力が知りたくてね。魔物討伐に同行してほしいと思って」

 

「それならわたしも行くわ!」

 

「勿論歓迎さ」

 

「勘違いしないでね。アンタと一緒に行きたいんじゃなくて、シオリを任せるのが不安だからよ」

 

「分かってる」

 

 シエラルはリリィに歩み寄ろうとする気持ちがあるが、肝心のリリィ自身にそんな気はないようだ。婚姻の話さえなければこんな事にはならなかったろうが。

 

「キミのその魔力を存分に見せてくれよ」

 

 ウインクを詩織にとばすが、それを気に入らない様子で眉をひそめたリリィがシエラルに更に問いかける。

 

「というか、何故アンタたちにシオリの力を見せなきゃいけないのよ。メタゼオスには関係ないことでしょ」

 

「そうとも言えるが、両国は良き関係を築こうとしているわけで、彼女の情報を共有しておくのは悪いことではないだろう?異世界由来の魔力や技術を共に身に着けることができれば我々は更に繁栄の道を進むことができる」

 

 という取って付けたような論理を口にする。実際は父親の指示のためであるが、まさか真実を言えはしない。シエラル自身、今回の任務を快く思っていないが皇帝であるナイトロの命令を無視はできないのだ。

 

「ふん・・・そうですかい」

 

 プイっとそっぽを向いてリリィはメイクルームへと戻って行った。苛立ちが募り、重たい装飾品をさっさと外したい衝動に駆られてのことだ。

 

「彼女の扱いは難しいね。キミがどうやって信頼を得たのか不思議でならないよ」

 

「リリィは本当は優しいコなんですよ。ただ・・・」

 

「あの態度は例の件のせいだろう?それがリリィにとって望まぬ話であるのは分かる。しかし、時に自分の意思を殺してでも従わなければならないものなのだよ、王族の血を引く者はね」

 

 それは自分の境遇から来る言葉であり、どこか悲しげな感情を見せたシエラルに対して詩織は何も言えなかった。

 

 

 

 

「さて、今回の任務は・・・」

 

 広げられた地図に歩兵を模した小さな像が置かれる。それ以外にも魔物に似た像も用意されている。

 

「このペスカーラ地方に蔓延る魔物を討伐するようリリィのお父上であるデイトナ様から依頼を受けた。凶暴化した魔物の数が増えたせいで、現地の適合者だけでは防戦するのが困難になってきたそうだ。ここにボクらが馳せ参じ、敵を撃滅する」

 

 メタゼオスから派遣された適合者だけでなく、リリィと詩織の他、アイリアとミリシャも作戦会議に参加している。ここでは先ほどのようにリリィがシエラルに突っかかることもなく、素直に話を聞いていた。さすがに時と場所をわきまえたのだろう。

 

「まったく、どうして魔物どもがこうも増えているのかしら。ここ最近は異常だわ」

 

「そうだね。これはタイタニアやメタゼオスだけでなく、この大陸全体で同じような状況だ。研究者の話では普通の魔素とは異なる性質の魔素が空気中に含まれるようになったかららしいが・・・」

 

「空気に含まれるならわたし達人間も吸い込んでるわけだけど問題ないの?」

 

「人間への影響は確認されていない。だが、魔物がこれを多分に吸収すると凶暴性が増すようだ。更に魔物の繁殖にも関わりがあるらしい。だがその発生原因が不明なので、現状では対処できない」

 

 今、適合者達にできることは目の前の魔物を倒すことだけだ。そうして少しでも被害を減らさなければ、国家の存続自体が危ぶまれることになってしまう。

 

「では各自出撃準備を。夕刻に出発する」

 

 

 

 

「まだ時間はあるわね。少し散歩しない?」

 

「いいけど、体を休めておかなくて大丈夫?」

 

「平気よ。どうせ移動時間が長いから、その間に休めるわ」

 

 リリィは詩織の手を引いて城の外に出る。きっと帰るまでは詩織と二人きりになる時間もないので、そんなことを言い出したのだろう。

 

 

 

「シオリはもう戦うことに不安を感じたりはしない?」

 

「不安しかないよ。二回魔物と戦ったけども、全然慣れない」

 

「そうよね。わたしだって未だに恐怖を感じるもの」

 

「生きて帰れる保証はないもんね」

 

 これまでは生還できたが、次の戦闘でも生き残れるとは限らない。些細なミスで死ぬのが戦いだし、そもそも自分より強い相手に襲われたらどうしようもない。

 

「でも、シオリなら大丈夫よ。自分の力を信じるの」

 

「自分の力か・・・」

 

 皆よりも強い魔力を精製できるとはいえ、基礎の戦闘力を上げなければ意味がない。リリィ達から訓練は受けているがまだまだ未熟なのだ。だから自信がもてずにいる。

 

「それに、わたしがシオリを守ってみせるわ。前回の戦闘ではシオリに痛い思いをさせてしまったけど、今度こそはそんな目には遭わせない」

 

「普通は姫様であるリリィが勇者に守られる側では?」

 

「そんな常識は考えなくていいのよ。わたしがそうしたいと思ったんだから」

 

 言いながら照れくさそうに笑うリリィの可愛さは極上のもので、詩織は思わずリリィを抱きしめる。

 

「・・・帰ったらいっぱい甘えさせてね、シオリ」

 

「うん、勿論」

 

 二人を照らす太陽はすでに地平線へと傾きつつあり、出撃の時は迫っていた・・・

 

 

                     -続く-

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