前略
『呪術は非術師を守るためにある』て傑が言ったこと、前は理解できなかったけど今は少しだけ分かるよ。
呪術師は古くから存在している職業である。
奈良時代、日本仏教の広がりと共に呪術は広まり呪術師が誕生した。
人間の恐怖や怒り、憎しみといった負の感情は呪いへと転じて物の怪つまり
男にしては長めのくすんだピンク色の髪に、真ん中に分けた前髪は紫色の大きな丸い目にかかっている。前髪から覗く瞳からは甘さだけでなく刀のような鋭さもあり、マネキンの様に細身な体型を黒い詰襟とストレートパンツで隠している。
覚の朝は椅子に座ることから始まる。
テレビを点けてニュース番組を見るように、起床してから24時間先までの未来を2時間かけて視る。その間、覚は人形の様にただ宙を眺めて座っている。
昔は布団の上で寝ながら視ていたのだが、非常識にも早朝から遊びに来る幼馴染、
ドサリ、と椅子からずり落ちて覚は目が醒めた。顔を顰めて眉間を揉みほぐし、椅子にしがみつき這い上がる。
映写機の様に開きっぱなしだった瞳に目薬を差すが、目がしょぼくれて瞼が開けられない。覚はおしぼりを温めながら眼球も入れ歯のように取り外せて浸漬できればいいのにと溜め息を吐いた。
情報を詰め込んだ重たい頭に冷却シートを貼り、温めたおしぼりで目を覆う。じんわりと溶け出す眼球を味わいながら、今日の未来をまとめていく。
今日は五穀豊穣祈願の舞を収めた後に追加任務が入る。五条、夏油、
爆発的な館の破壊は後日間違いなくニュースに取り上げられるだろうが、修正しなければならないほど深刻な問題ではない。
呪術師をサポートする補助監督が仕事をするだろうと問題を彼らに投げる。他人の仕事を増やすことになるが、未来を視たからといって聖人君子の様に問題点を全て修正しなければならないとは思わない。
時計を見て、覚は学校の時間が迫っていることに気づいた。額に手を当て、重たい頭と格闘しながらのろのろと椅子から体を離す。
瞬間、闇に襲われた。世界から隔絶された闇の中に、覚は居た。
突如、バンッと目が眩むほどの強烈な光と共に、五条が黒髪の男に背後から刺される映像が脳を焼く。すぐさま暗転し、またバンッとフラッシュを浴びる。今度は三つ編みの少女が覚と夏油の目の前で頭を撃ち抜かれる。
また暗転しフラッシュする。五条を刺した男が夏油を一閃し、暗転する。
フラッシュする。男は覚の目玉を抉り取り、暗転する。
フラッシュする。ぼろぼろになった五条が死んだ少女を抱きかかえ、異常なほど笑顔を浮かべた大人達に拍手されている。
フラッシュする。顔色の悪いやつれた夏油が髪の長い女と話している。
フラッシュする。目を包帯で巻いた覚と五条、担任の
──傑が集落の人間を皆殺しにし、行方をくらませた。
体が床へ崩れ落ち、頭が割れる程の頭痛に襲われる。目の奥はちかちかと点滅し、ひどく吐き気を催す。
どくどくどくどくどくと、気づけば嫌に自分の心臓の音が響いている。痛いくらいの速さで鼓動を刻み、今が現実だと教えてくる。
何だ、これは。何なんだこれはと自問していると「前にもあったやん」と背後から落ち着いた自分の声がした。
そこで気づく。これは、そう遠くない未来に起こることだと。
とめどなく零れる涙に、覚は暫くの間床を濡らした。
三条河原覚は父方が呪術師の家系であるが、父親は呪術師ではない。父親は、三条河原家の術式と呪力を受け継がずに生まれた。
呪術師に非ずんば人に非ず。呪術師の家系において、呪力を持たずに生まれた人間への扱いは想像を絶する。父親は家の処遇に耐えきれず縁を切り、一般女性と結婚して幸せな暮らしを享受した。
だが不運なことに二人の子供は、呪力と三条河原家の術式、そして未来の情報を視覚的に捉える眼、
成長するにつれて見えないものが視える、未来が視えると言う息子に、父親は家族以外の前では言ってはならないと泣きながら抱きしめた。
父親は妻に最悪の未来を説明し、妻方の親戚付き合いも希薄となった。息子の情報が三条河原家、呪術界の耳に入った場合、息子を確実に取り上げられるからだ。
呪術界は常に保身、世襲、見栄、権力の沼に漬かっている。家同士の権力争いに於いても優秀な術師を輩出する家ほど地位を築き利権を得る。故に、羨望の目で上を見上げては嘲笑の目で下を見下す。そんな世界では、覚は喉から手が出るほど欲しい駒であった。
父親はそれが我慢ならなかった。息子を取り上げられたくなかった。非術師の幸せな温かい家庭を築いて暮らしたかった。ただそれだけだった。
それが崩れたのは覚が7歳になった年だった。その日は父も母も母方の祖母も都合が悪く、覚の面倒を見ることができなかった。近所の人に数時間、覚の面倒を見てもらったのが運の尽きだった。
その人と覚は買い物をした後、宝くじ売り場に入った。そこで7つの数字を塗りつぶすくじを購入し、覚に数字を選ばせた。
その人に悪意はなかった。覚が慧眼を持っていることも知らなかった。ただ、会話の一つとして当たったらいいねという軽い気持ちでくじを購入したに過ぎなかった。
そしてタイミングが悪いことに覚の能力が暴走した。いつもは最大数分先の未来しか視えなかった力が、強烈に点滅する光と共に数日後に発表される今しがた購入したくじの当選番号とその人の悲惨な末路を視せた。
「覚君? 覚君は何番が良いと思う?」
「……なあ、やめよう。……死ぬよ」
「? 数字塗るくらいじゃ人は死なないよ? それにもう買っちゃたし。どうせ当たんないよ」
「……や、でも……あかん」
「大丈夫だって、お姉ちゃんしぶとく生きる自信ある!」
「……う、ん。うん、そう……やんな。数字塗るくらいじゃ死なんよな」
数日後、その人はくじが当選し億単位の金が入った。翌日、その人は数日間行方不明となり、悲惨な遺体となって発見された。翌々日、覚は両親から引き離され、三条河原家の次期当主として迎え入れられた。
両親との最後の記憶は、取られまいと覚を抱きしめる母親と、二人を引き離そうとする三条河原家の人間とそれに抵抗する父親の姿だった。
覚が決意を口にした時、二人は首を横に振り縋りついたが、最後は泣きながら「幸せに生きて」と覚に呪いをかけた。
東京都立呪術高等専門学校──日本に二校しかない呪術教育機関の一校。表向きは私立の宗教系学校とされているが、内実は呪いを祓うために呪いを学ぶ呪術師養成学校である。多くの呪術師が卒業後もここを起点にして活動しており、教育のみならず任務の斡旋、サポートも行っている。
その教室の一室で2年の五条悟、夏油傑、家入硝子、三条河原覚は、一級呪術師、呪術高専教師および4人の担任である
4人の前にあるテレビの画面にはニュース番組が流れている。
「続いて昨日、静岡県浜松市で起きた爆発事故についてです。原因はガス管の経年劣化とみられ──」
夜蛾がテレビの電源を消す。
昨日の任務の際に4人は非術師に結界内の出来事を認識させない結界術の一種、
「この中に『“帳”は自分で降ろすから』と補助監督を置き去りにした奴がいるな。そして帳を降ろし忘れた。誰だ名乗り出ろ」
夜蛾が低い声で4人を睨む。強面で体格の良い夜蛾の静かな怒りは、常人の精神ならばトラウマを植え付ける程の迫力であるが、常軌を逸した精神を持つ4人はその怒りを浴びても何処吹く風と涼しい顔をしている。
「先生!! 犯人捜しはやめませんか⁉」
「悟だな」
夜蛾が拳を握りしめて五条に近づく。夜蛾の鉄拳を一人で受けることを悟った五条は、自分は関係ないと一人傍聴席に座って事の顛末を見ている覚に苛立った。
いくら傍若無人の五条とて、自分の不手際で高専関係者に迷惑をかけたことは理解している。ほんの少しでも悪いと思ってるからこそ、術式で防げる夜蛾の鉄拳を甘んじて受けるつもりである。甘んじて受けるつもりではあるが、今この説教が自分には全く関係ないとしている覚を見てしまっては、一人で素直に怒られるわけにはいかなかった。未来を視て知っていたにも関わらず修正しなかった覚も同罪だと五条は心の中で舌を出す。
「ってか覚、お前
「はあ?! 勝手にワンマンプレーしたんは悟やろ。帳を降ろし忘れた悟が悪いんやし責任転嫁やめろや」
「んだとこの野郎!!」
「絡むなド阿呆」
「二人共悪い」
ゴツンと、夜蛾から愛のある
教室に戻った4人は、五条の席に集まっていた。
覚は殴られた頭をさすりながら持ち主の机を遠慮なく蹴る。
「一人で殴られたないからって人巻き込むなや。ホンマ最低やな」
「うっせえよ。自分は関係ありませーんって顔してる覚が
「なんでお前のために動かなあかんねん」
「俺だけじゃねえよっ! ニュース沙汰になってんじゃねえかよ!」
「二人共やめろ」
ヒートアップし始めた二人を止めたのは夏油だった。五条はむすっと不貞腐れ、覚はわざとらしくうへーっと顔を顰める。家入はそんな三人を面白おかしく観察しながら五条のサングラスで遊び始める。
「そもそもさあ、帳ってそこまで必要? 別に
「見えへんから不安になるし不安になるから怖いんやろ。不安になられてパニックとか最悪やん。呪霊発生したらお前一人で祓えよ」
「お前がそれを言う?!」
五条は顔を歪めて覚を睨みつける。柄悪く、ガンを飛ばす五条の目の前に手刀が下され、対象が覚から掌に変わる。
夏油は燃料を投下する覚を目で諫め、手刀を外して五条を説く。
「覚の言う通り駄目に決まってるだろ。呪霊の発生を抑制するのは何より人々の心の平穏だ。そのためにも目に見えない脅威は極力秘匿しなければならない」
「分かった分かった。弱い奴らに気を遣うのは疲れるよホント」
「悟に振り回される方が疲れるけどな」
「テメエ」
夏油に宥められながらも拳を握る五条に、覚は冷たく息を吐いた。
いくら強大な力を持っていても、いつの時代も異端を弾き出すのが人間の社会であり、歴史がそれを証明している。五条がどんなに実力があり大人ぶっていても『自分が合わせてあげている』と認識している時点ではまだ子供だ。そして理想を本気で唱えている夏油には青さしかない。
「『弱者生存』それがあるべき社会の姿さ。弱きを助け、強気を挫く。いいかい、二人とも。呪術は非術師を守るためにある」
「それ正論? 俺、正論嫌いなんだよね」
「ホンマ、自分それ本気で思うてるん?」
「……何?」
二人の馬鹿にした言い方に緊張が走る。
肌を刺激する空気を察知した家入は、遊んでいた五条のサングラスを机の上に置いて席を立った。
家入にとって話の終着点に興味はなく、三人の喧嘩に巻き込まれるのは御免である。事態が大きくなる前に離脱する方が賢明だと損得勘定が働く。
五条は机の上に置かれた丸いサングラスをかけて嗤った。
「
「ホンマそれ。自分の行動指針に他人入れんなや。何のために命を張んのか、そこの理由に自分のエゴ以外入れたらあかんやろ。顔も知らん他人のために自分が犠牲になって
おえっと、覚もえずく真似をして夏油を煽る。
「悟、覚、外で話そうか」
理想を否定された夏油は、怒りを凝縮した声で二人を威圧する。夏油の背後には、彼が従える呪霊が顔を出して殴り合う準備をしている。
「寂しんぼか? 一人で行けよ」
「図星ちゃう? 自分ないんか。偽善しかないから理想入れたがるんやろ」
いつ爆発してもおかしくない一触即発の空気が教室に充満する。
呪霊を使役し操る呪霊操術の夏油傑。
慧眼を持つ
三人とも規格外の能力を持つ存在である。特級呪術師三人の喧嘩は校舎を吹き飛ばすなど容易い。
最初に動いたのは覚だった。夏油に向かって「サトリます」と両手の親指と人差し指を合わせて顔の前で長方形をつくる。慧眼を発動させるための掌印であり、未来を視たことを相手に知らせる縛りである。
未来を視られた夏油がとった行動は『何もしない』であった。過去の経験から、攻撃をしても躱され対策を練られて反撃を食らうまでのセットが待ち受けることを知っている。
夏油は慧眼の力について覚から詳しく聞いたことはない。だが、観察し続けてその能力と反動を把握している。
覚の慧眼は、掌印を結び、印を唱えた瞬間から10秒先までの未来を一瞬にして視ることができる。だが、それに伴う疲労は脳に蓄積され、消費される呪力量は多い。更に、慧眼を発動している間または現実が未来視に追いつくまでは他の術式を併用することはできない。故に視られたと分かった時点で10秒間あえて攻撃しなければ覚の呪力、体力、精神力を削ることができ、10秒後に発動する攻撃を仕込んでいれば勝算は上がる。覚の戦術は無駄となる。
だが覚は夏油を裏切った。
慧眼を発動した直後、覚は祈るように両手を組み全ての指を内にしまう草木呪術の印を結んだ。
夏油が慧眼の発動はブラフだと気づいた時には、床から生えた木が脚に絡みつき身動きが取れない状態になっていた。
「すっかり騙されたよ」
「嘘くさ」
「そうでもないさ」その言葉と共に覚の背後から呪霊が現れ勢いよく殴り掛かる。
覚は間一髪で拳を躱し、呪霊は床に穴をあけた。
覚は呪霊が粉砕した床板を掴み術式を発動する。手中の木片に生長を促しバットへ変え、ボールの芯を捉えるように呪霊の芯を捉えてフルスイングした。
呪霊はバットが折れる程の鋭い打球となり、夏油の元へ飛ぶ。だがそこに彼の姿はなかった。在るのは夏油を拘束していた植物だけだった。
呪霊は時間稼ぎの駒だと気づいた時には遅く、夏油は次の手を打っていた。
死角から覚の頭を蹴り上げ、間髪入れずに重い拳を放つ。
夏油は呪霊操術のみならず、体術や頭の回転の速さも特級品だ。
覚は夏油の拳を受け流し続けるが、フェイントに引っかかり拳が鳩尾に入る。体重が乗った拳は重く、覚の体は教室の壁を突き破り廊下まで吹っ飛んだ。
覚は粉砕した木片とガラスを全身に浴び、ふらつく体を正して激高した目を夏油に向ける。
「ぶん殴ってやるよっ!!」
覚は壁を蹴った。反動をつけて拳を夏油の頭に定める。
だが、それは最小の動きで躱された。夏油は首を傾け、覚の伸びた腕を掴みひねり上げる。
「未来が視えなくても動きを予測し相手を誘うことはできるんだよ、覚」
ほほ笑む夏油とは反対に、覚の鋭い眼光が夏油を刺す。
「未来は常に更新され続けるんやで。あぁ、視えへんから知らんよな」
口の減らない覚に夏油は鼻で笑う。
覚は不敵に睨んだ後、視線を夏油の結い上げている髪へ移した。
覚の視線につられて夏油もまた自身の後ろ髪を気にする。耳の後ろからメキメキメキメキィと奇怪な音がし始めた後、槍の様に鋭利な蔓が夏油の頸動脈に狙いを定めた。
「種を蒔くことが目的だったわけか。騙されたよ、ホントホント」
「ちょいちょい上から目線やな」
「そりゃ私の方が身長高いし」
「おい煽リスト、言うとくけど僕は平均身長ギリあるで」
「シークレットブーツ何センチ?」
「ああ゛?!」
夏油と覚は睨み合い、双方動けず舌戦に入る。そんな二人の言い合いに痺れを切らしたのは五条だった。
「二人共ちんたらやってんじゃねえよ、もっと本気出せよ」
映画を見るようにコーラを飲みながら五条はつまらなそうに二人を囃し立てる。
覚はギロリと五条を睨み、夏油を見た。夏油もまた静かに五条を見据え、覚を見た。二人は目を合わせて頷き合い、五条に向かって構えた。
──テメエに本気出してやるよ。
この瞬間だけ、二人の思考は完全に一致した。
五条、夏油、覚の三人はとある高級ホテルへ向かっていた。
覚は二人の後を歩きながら今日これから起こることと、一昨日視た未来について時系列を整理する。
未来を視た限り、自分達はこの任務を完遂することはできない。三人とも黒髪の男に襲撃されて負けるし、これから護衛する少女、
悟が言っていたように、夏油は心の底で非術者に対して優越感を抱いているだけかもしれない。
理想を抱くのか、優越感を抱くのか、どちらにしろ夏油が抱いている非術者はどこまでもか弱く潔白でなければ成り立たない。
覚は腕を組み、緩く握った拳を唇に当てた。
この任務の未来は絶対に修正しなければならない。強迫観念にも似た想いを抱きながら覚は思考の海に落ちていった。
話しは数時間前に遡る。
喧嘩をしていた三人は、夜蛾から
──任務は二つ。
天元は、結界と不死の術式を持つ結界術の要の存在である。呪術界の拠点となる結界および補助監督の結界術の強度を底上げする死ぬことのない強力な結界維持装置のような人物だ。
だが、不死ではあるが不老ではない。死ぬことはないが老いていく。ただ老いる分には問題はないが、一定以上の老化を終えると術式が肉体を創り変えようと進化し自我が消える。その場合、天元を暴走させて人類を蹂躙することも可能となる。自我がないために敵味方の区別がつかず兵器と化し人類の存続を左右する。
だからこそ、天元は500年に一度、人間と同化し肉体の情報を書き換えなければならない。その選ばれた人間を星漿体という。そして二日後に天元はその星漿体と適合する。
そんな重要な時期に星漿体の所在が外部に漏洩した。星漿体は現在、二つの組織から命を狙われている。
一つは、天元の暴走による現呪術界の転覆を目論む呪詛師集団『Q』
もう一つは、天元を崇拝し、天元が
つまり任務の内容は『星漿体の適合者、天内理子を適合までの二日間護衛し、天元の元へ連れてこい』ということになる。
覚は息を吐き出し、教室の外を見た。空は青く、若葉は茂り、虫や鳥は生を謳歌している。生命は漲っている。それなのに──
──クソみてぇな人生だな。
顔も知らない少女に覚は嫌悪した。自分の知らない間に勝手に星漿体と決められ、自由のない檻のような人生に入れられ、生きるのはここまでと勝手に線を引かれる。そしてそれを当たり前の事と受け入れるように
耳障りのいい人柱じゃねえか。そう思わずにはいられなかった。
──「星漿体の子が同化を拒んだらどうする?」
──「そん時は同化はなし!! 覚もそうだろ? 覚?」
「おい覚!! 飛んでんじゃねえよっ!」
ガシリと、覚は頭を掴まれて思考の海から浮上した。
目の前には眉間に皺を寄せた五条のご尊顔がある。五条のこの
「で、お前はどうなんだよ」
「……本人が選んだ選択なら否定せえへん」
「だよな」
「天元様と戦うことになるかもしれないよ?」
「ビビってんの?」
「なんとかなるやろ。五条家と分家の次期当主が揃ってんやし」
「それに、俺達最強だし。だから天元様も俺達を指名……何?」
「いや……悟、前から言おうと思っていたんだが一人称『俺』はやめた方がいい」
「あ゛?」
「特に目上の人の前ではね。天元様に会うかもしれないわけだし。『私』最低でも『僕』にしな。年下にも怖がられにくい」
「はっ、
「覚からも言ってやってくれ」
「こいつは痛い目みいひんと変わらん」
「うるせえよ」
五条の舌打ちと共にボンッと、目の前のホテルの一室が爆発した。爆発があった部屋からは黒煙が昇っている。
「これでガキンチョ死んでたら俺らのせい?」
「セウトちゃう?」
「どっちだよ」
今朝視た通り、星漿体が宿泊しているホテルの一室が爆破された。彼女が死ぬ未来を視ていれば、任務遂行のために二人から離れて一人暗躍しなければならないが、未来を視た限り彼女はまだ生きていることを覚は知っている。
「おっ」と覚は声をあげた。三つ編みをした少女が煙を吹く部屋からペッと吐き出され落下している。
夏油はすかさず呪霊を呼び出し少女の救助に向かったが、覚は動くことなく降ってくる少女に向かって呟いた。
「シータかよ」
その呟きに五条は吹き出した。