聖女神教団司教エメラルダ・セイン。
清く正しく美しい彼女には、裏の顔があった…… 

◆◆◆

小説家になろう、カクヨムにも投稿してます。

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背信者にして研究者の少女

 今日はいい素材が手に入った。

 とても嬉しい。

 このレベルの素材は警戒心も戦闘力も高いので、調達は容易ではないのだが、今回は簡単に薬を盛る事ができた。

 

 とてもやりやすい。やはりこの立場を目指したのは正解だった。

 

 早速、素材の解体に入ろう。

 まずは息の根を止める。

 魂を体から摘出するには、避けて通れない道だ。

 なるべく体に傷が付かないように処理する。

 窒息が最適だろう。

 

「……えっ……? ……あっ……?」

 

 どうやら起きてしまったらしい。

 首を絞めているのだから当たり前だが。

 

「あっ……、な……なんで……? 司……教……さ……ま……」

 

 素材の顔がどんどん青ざめ、土気色に変わり、そして死んだ。

 私は特殊な魔法を発動し、魂の観察を可能とする。

 

 魂が肉体を離れる。

 私はすかさず特殊な魔導具を使って魂を回収した。

 その作業を終わらせた私は、素材の改良計画を考える。

 

 今回の素材は風魔法を得意とする魔法師だ。

 いつも通り、魔力総量や精度を上げる為に、風魔法を使う魔物を合成するべきか? 

 それとも趣向を変えて身体能力を強化して魔法戦士にしてみようか?

 いや、秘蔵の風竜の素材を使えば、天災のような魔法を操る英雄にできるかもしれない。

 

 無限の可能性を考えるこの瞬間はとても楽しい。

 鼻歌を歌いながら素材の山を漁り、私は幸せな気分に浸った。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 私はエメラルダ。

 エメラルダ・セイン。

 聖女神教団で司教をやっている、聖職者だ。

 

 私は教会に捨てられた孤児だった。

 物心ついた時には教会の孤児院に居て、優しい院長とシスター達に囲まれて育った。

 

 幼少期の私には楽しみがなかった。

 他の子達が、将来は冒険者になるとか、英雄になりたいとか、素敵な人と結ばれたいとか言っている中、私は何一つとして興味を持てなかった。

 

 将来は教団に入って、シスター達と同じような人生を送るんだろうな。

 

 そんな冷めた事を考えていた。

 

 

 

 

 

 そんな私に転機が訪れる。

 

 ……誘拐された。

 

 当時の私はまだ十歳。 

 とんだロリコン野郎にさらわれたものだと、諦めの中で自分の運命を呪った。

 

 それが文字通り運命の出会いだった。

 

 私を攫ったのは、どう見ても正気を保てていない研究者風の男。

 そいつは私以外にも結構な数の人を攫っていた。

 そして捕まえた人を一人ずつ殺して、その死体を使って何かをしていた。

 

 その『何か』に私の視線は釘付けだった。

 

 殺された人はよくわからない処理をされた後、死んだ眼をして起き上がる。

 そして魔物の力を使い始めた。

 私と同じ牢屋に入れられた人達は、その光景を見て恐怖の涙を流していた。

 

 何故か男の命令に忠実に従う死体は何処かへと出かけて行った。

 

 

 

 戻ってきた死体兵は新たな生け贄を抱えていた。

 私はその生け贄に見覚えがあった。

 

 院長だった。

 

 彼は高度な回復魔法の使い手。

 昔は冒険者をしていたらしく、そこそこ強かった筈だ。

 

 そんな院長はすぐに新しい実験体にされた。

 死体となって起き上がった院長の性能を確かめる為か、私は牢屋から出されて腕を切り落とされた。

 私は悲鳴を上げながら、死んでしまいそうな痛みの中で、回復魔法を使う院長の姿を目に焼き付けていた。

 

 私の腕は一瞬でくっついた。

 院長の回復魔法を何度か見たことがある私は驚いた。

 目に見えてわかる程強力になっていたのだ。

 

 その後、腹を貫かれたり、足を潰されたり、喉を焼かれたり、目を潰されたりした。

 その全てを治した院長の性能に満足したのか、男は倒れ伏した私を抱えて、牢屋に放り込む。

 

 ……私は、その一瞬の隙をついて男を殺した。

 

 昔院長に教えられた魔法、暗闇を照らす光を産み出す魔法で男の視界を奪い、一瞬だけ動きの止まった男の喉に、私を傷つけるのに使っていたナイフを突き刺したのだ。

  

 

 

 そして私は男の研究を引き継いだ。

 

 

 

 その理解は一つ。

 興味を持ったから。

 生まれて初めて、興味を持てるものに出会えたから。

 ただそれだけだ。

 

 私は男が残した研究の記録を読み漁った。

 当然最初は理解できず、研究室内に残されていた基本の本から始めた。

 そうしている内に院長以外の動く死体が現れた。

 どうやら自動で帰還するように命令されていたらしく、新たな命令をくだせる男がいない以上、道具としては使えない。

 貴重なサンプルとしては使えたが。

 

 

 

 男の研究は優秀な人間の体に魔物の素材を合成する事で、強力なキメラを創り出そうとするものだった。

 素早さが売りの剣士には、ウルフ系の魔物を合成する事でより速く。

 火魔法を使う魔術師には、サラマンダーを合成して、より強い炎魔法に。

 回復魔法を使う神官には、精霊や妖精を合成する事で、より強力に。

 それ以外にも弱点を補うように混ぜる事で万能型を目指すような方法もある。

 私はとても興奮した。

 

 

 

 全ての本を読み終えた私は、何食わぬ顔で孤児院に戻った。

 男に攫われてからそんなに時間が経っていた訳ではないが、三日以上は経っていたので心配された。

 迷子になって、なんとか帰り着いたのだと説明したら納得してくれたので助かった。

 院長が失踪して慌ただしかったから、私にまで構っていられなかったのだろう。

 運が良かった。

 

 

 

 それから私は外に出られる時間にはこっそりと研究室に入り浸った。

 捕まえられた人達のお世話は、男が生前死体に命令していたようで何とかなった。

 何度か死体兵を創ろうとして実験体にしているが、まだ成功はしていない。

 いつかはこの研究室も見つかると考えていたが、せめて自分で死体兵を創れるようになるまでは保ってほしい。

 

 

 

 一方孤児院の方で、私は教団に引き立てられた。

 どうやら私には魔法の才能があるらしい。

 光と回復の才能が。

 教団が特に優遇している属性だ。

 研究の時間が減るのはいただけないが、出世すれば将来的に素材や実験体の回収に役立つかもしれないと考えて納得した。

 

 

 

 それから約一年後。

 私は遂に死体兵の作成に成功した。

 男が溜め込んだ素材も実験体ももう少しで底をつきそうだったので本当にギリギリだったが、なんとかなった。

 それからいくらかの実験を重ね、完全に素材が底をついた時点で画期的な新しい死体兵の作成にも成功した。

 だが同時に研究室も見つかってしまった。

 生き甲斐と出会わせてくれた場所である研究室には愛着がわいていた。

 だがここで行ってきたのは非人道的な研究であり、どう考えても禁忌だ。

 このまま捕まる訳にはいかないので、泣く泣く手放す事にした。

 その際、命令ができない男作の死体兵は廃棄し、私作の死体兵は最新型の一体以外を自然界に放った。

 当然捨てた訳ではない。

 素材回収の為だ。 

 現時点の性能ではろくな成果を挙げられないだろうが、いないよりはマシだ。

 

 

 

 それから暫くは研究のできない日々が続いた。

 どんなに優れた研究者でも、設備が無ければ研究はできない。

 私は最新型から、森の中に作らせた倉庫に溜まる素材の方向を受けながら、実に四年もの年月を過ごした。

 

 

 

 四年後、私は司祭にまで出世していた。

 私の容姿はかなり整っているらしく、上目遣いを意識してみると出世が早かった。

 だが最大の成果は地位ではない。

 

 司祭になる事で念願の自室を手に入れたのだ。

 

 孤児院時代から数えて初めての一人部屋。

 しかも一階。

 私は狂喜乱舞した。

 早速、森の中の死体兵に命じて地下通路を掘らせ、地下深くに新たな研究室を作った。

 性能が低いとはいえ、死体兵の力は普通の人間を上回る。

 それに一体だけ土魔法の使える奴がいたのが幸運だった。

 

 そして第二の研究室で私は当時の最新型を作りまくった。

 四年の間に溜め込んだ素材を大放出し、実験体の調達は貧民街の孤児から独り身の街人、ソロの冒険者と徐々に強い者、つまり高品質なものにしていった。

 最新型ならば、行方不明者として処理される事もない。

 最高である。 

   

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 そして現在。

 

 

 

 トン、トン。

 

「どうぞ」

 

 ドアをノックする音に応えると、私の居る部屋の扉が開き、一人の少年が入ってきた。

 

「失礼します。司教様、サラ見てませんか……、ってここに居たのかよ!」

 

「そうだよ。司教様に悩み相談してたんだ」

 

「そうだったのか。すいません司教様。サラが迷惑かけて」

 

「いえいえ。構いませんよ。迷える少年少女の悩みを聞くのも、私の仕事ですから」

 

 穏やかな笑顔で応えると、少年は顔を赤くした。

 

「そっ、それじゃあ、俺達はもう帰りますから! 本当にありがとうございました! ほら、行くぞサラ!」

 

「あっ。待ってよルーク! ……っと、司教様、悩み聞いてくれてありがとうございました」

 

「ふふ。お大事にね」

 

「はい!」

 

 元気よく返事をしながら、サラと呼ばれた少女は去っていく。

 先程首を絞めて(・・・・・)殺害した(・・・・)のに。

 とても元気に。

 

「うふふ」

 

 一人残された自室で、私は笑う。

 何度見ても素晴らしい。

 これが私の最高傑作。

 自立型死体兵。

 

 死体兵を動かす為の疑似魂の素材に本人の魂を使う事で、生前と全く同じように振る舞う事ができる。

 でも、その正体は私の命令に絶対服従する人形。

 仮面の下には既に意思がない。

 とっくの昔に死んでいるのに、誰一人として気づかない。

 

「ふふふ」

 

 私はさらに笑みを深める。 

 サラはああ見えて、若くしてA級冒険者となった天才だ。

 その天才の身体に、風竜の力を注ぎ込んだ。

 今のあの子ならば、一人でこの国の半分は滅ぼせるだろう。

 

 さすがにあれほどの者は滅多にいないが、似たような死体兵は既に国中、いや世界中に散らばっている。

 私が一声かければ、もしかしたら世界をも滅ぼせるかもしれない。

 

「なんてね」

 

 私にそのつもりはない。

 私はただ、強い死体兵を作りたいだけだ。

 それが生き甲斐だから。

 それ以外には興味がないから。

 だから世界を滅ぼすつもりはない。

 

 ……今のところは(・・・・・・)ね。

 

 

 

 トン、トン。

 

 物思いに耽っていると、扉がノックされた。

 そこからは私の補佐をしている司祭の女性が現れる。

 勿論、彼女も死体兵だ。

 どうやらお仕事の時間らしい。

 煩わしいが今日は支部長が帰ってくる日だ。

 この支部の重役は彼以外全員死体兵になっている。

 彼で最後だ。

 それが終われば面倒な執務からは解放されるだろう。

 

 

 

 私は足取りも軽く支部長室に向かう。

 彼をどんな死体兵にするか悩みながら。

 

 支部長はかなり強い神官だった筈だ。

 その分性能も期待できる。

 

「楽しみだなぁ」

 

 思わず呟いてしまったが、その意味を問いかける者はいない。

 だって、

 

 

 

 ──ここに居るのは皆、私のかわいい人形なのだから。 


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