登場人物紹介
フアキ
本作主人公。冷静で、よく考えて行動するタイプの人間。小さい頃から一緒に暮らしてきたゴウトのことは無二の親友だと思っている。
拾ってくれたアンドリュー、育てて世話をしてくれたベルさんについてはともに慕っており、いつか恩を返したいと願っている。
ゴウト
フアキとともにアンドリューに拾われた少年。フアキのことはこの世で一番大切な友だと考えている。
アンドリューに対しての感謝の気持ちは人一倍強い。後先考えずに行動するところがあり、そこを閻王に気に入られた模様。
アンドリュー
フアキ、ゴウトを拾った男で、
全国有数の商会、アンドリュー商会の会長。
伴侶がおらず子どもがいないため、フアキ、ゴウトのことは実の子供のように可愛がっている。
アンナさん
フアキ、ゴウトを世話してくれた女性で、アンドリュー商会の一員。全国を回っていたアンドリューに街で会い、意気投合して商会に加わった。アンドリューがフアキ、ゴウトを拾ったときにその場にいた唯一の人間。二人のことを実の子供のように思っている。
閻王
伝説の特級業物「5宝剣」の一つ。鞘に特徴的な保のの模様が描かれている。刀身は薄い赤に染まっており、地獄の炎を表していると言われている。ゴウトを主と定めており、フアキのことを何故か「正宗」とよんでいる。
飛王
伝説の特級業物「5宝剣」の一つ。鞘に特徴的な羽の模様が描かれている。刀身の色は薄い黄色と伝えられているが、実際のところは不明。今代の主はまだ決まっていない。
海王
伝説の特級業物「5宝剣」の一つ。刀身の色は薄い青と伝えられている。鞘に特徴的な波の絵が描かれており、5宝剣の中で最強と言われている。
村正
伝説の特級業物「5宝剣」の一つ。刀身の色は漆黒。かつて妖刀と呼ばれていたこともあるように持ち主との相性によっては持ち主を豹変させてしまう恐ろしい剣。持ち主との相性がいい場合海王をも圧倒する。
村雨
伝説の特級業物「5宝剣」の一つ。刀身の色は白。村正との兄妹刀で、村正を抑えるために生み出されたと言われている。村正との戦いの際に一際力を発揮する。
瑪瑙
ヴェルディに仕える謎の少女。年はフアキたちと同じくらいな様子。
「お前たちは本当に仲がいいな」
俺らが二人で遊んでいる姿を見てアンドリュー、俺らの育ての親がそう言った。
特に深い意味はないのだろう。俺らの様子を見てそう言わない人はいなかったから。
急に来たアンドリューを見てアンナさん、アンドリューの使用人で俺らの世話をいつもしてくれてる人が驚いている。
アンドリューはたくさんの人をやとってるけど、ほとんどを商会の仕事に回してる。館にいるのはほんの数名で、アンナさんはその中でもアンドリューが気に入ってる人だ。俺らも小さい頃から世話してもらってるしもちろんなついている。
「そうだな」
答えたのは俺の横にいたゴウト。
俺とゴウトは物心つく前にアンドリューに拾われた。
全国を回って商売してる途中に見つけたんだとか。それが大成功してアンドリュー商会は誰もが知ってる有数の商会にまで成長したんだけど、まぁそれは別の話だから置いといて。
アンドリューが言うところによると、俺とゴウトは同じ場所で拾われたらしい。ここらへんのことはあまりよくわからない。基本俺らに隠し事はしないアンドリューだが、拾われた場所の話だけは聞いても絶対に答えてくれないからだ。
「フアキ、いつものあれ、やろうぜ。」
ゴウトから呼ばれた。
珍しくアンドリューが館にいるんだからもうちょっと話せばいいのに。気恥ずかしくなったのだろうか。
あれ、か…正直もうちょっと暗くなってからのほうが気配察知とか鍛えられるんだけど…うん。まぁいいでしょ。
「わかった。じゃあ行こう。」
アンドリューに後でな、と言って俺は先に歩いていったゴウトを、走って追いかけた。
ベルさんが早く帰って来い、とか言ってるから右手を振って返しておく。
早く帰ってこないことを知ってるからか、ちょっとコメカミがピクピクしてる…俺らは走ってさっさと逃げた。
アンドリュー、あとは任せたぞ。
「あれ」っていうのは、俺らがいっつもやってる剣の稽古のことだ。
アンドリューは恩返しなんていいって言ってるけど、やっぱり拾ってもらった恩は返したい。でも俺らは頭が悪いから商会の仕事は難しすぎて手伝えない。そこで俺らが考えたのが、護衛の仕事。
そのために俺らは密かに剣の訓練をしたり、全国の難所とかを頭に叩き込んだりした。
それができるなら商会の仕事も手伝えるんじゃないかって思うかもしれないが、商会の仕事は目が回るほどに難しい。ゴウトなんか教えられて2時間でギブだった。
まぁそんな感じで10歳から6年間、剣の稽古を続けてきたおかげで、そんじょそこらのやつなんか目にならないくらいには成長した。
さて、いつもの場所に来て、俺らはそれぞれ自分の木刀を手に取る。「「ハッ!!」」
強く息を吐く音が同時に聞こえ、ガン!という音とともに俺とゴウトの木刀が交差する。木片がいくつか飛び散った。そろそろこの木刀も変えなきゃな。ゴウトが木刀を引いて右に大きく振りかぶる。
ワンパターン野郎め。俺は左から素早く打ち込む。っと、これは防がれたか。
俺の木刀が弾かれて、あとに続くのは凄まじい突きの連打。ゴウトはとても突きがうまい…わっやば掠った。
俺は左足を軸に回転してゴウトの正面から消えゴウトの突きを下から上へ弾く。そして空いた腹へ一閃!
ゴウトは上に弾かれた木刀を地面に突き刺すような勢いで下ろす。チッ…ギリギリで防がれた。
これをずっとやり続ける。
日が落ちる頃には、俺らは互いに擦り傷だらけになり、服も泥だらけだった。
帰ったらアンナさんに大目玉を食らった。ちくしょう。
体を洗って服を着替えてから、俺らはアンドリューと晩御飯を食べた。鶏肉を甘辛く炊いたやつ。俺らの大好物だ。
それを食べながら、アンドリューは最近の商会について教えてくれた。最近は鉄が多く売れるらしい。ヴェルディ商会が欲しがってるんだって。なんでかは知らないとさ。
食べ終わってから、アンドリューがかくれんぼをしようって提案してきた。俺らが5歳くらいの頃、よくやってたのを覚えててくれたんだろう。今はもうかくれんぼなんてしないけど、俺らとしてもアンドリューと遊ぶ機会なんてあんまりないから、二つ返事で了承した。
「フアキ、二人で別々に隠れるより、一緒に隠れようぜ。アンドリューを見つけるのはお前のほうがうまいから、多分お前といたほうが長く続く。」
ゴウトが言った。
俺らのかくれんぼは、見つけてタッチされるまでが一連の流れだ。たしかに俺のほうが見つけるのはうまいけど…それ、俺にメリットあるか?
「お前にしかいいことないじゃねーか、ゴウト。」
ゴウトは、バレたかって顔してる。それが可笑しかったから、今回は特別に、例外的に、一緒に隠れることにした。アンドリューの館は広いけど、かくれんぼはよくやってたから隠れるのに適してる場所は知っている。
「ヴィーナス像の後ろの空洞でいいか?あそこなら二人一緒に隠れられる」
俺はそのうちの一つを提案した。
「お前に任せた」
ゴウトがそう答えたことで隠れる場所はすぐに決まった。
俺らは緑の廊下とよんでいる緑のカーペットが敷かれた長い廊下を走って、三番目の角を右に曲がる。
少し歩くとヴィーナス像が何個もおいてあるが、そのうちの二番目の後ろに入る。ここが、「ヴィーナス像の後ろの空洞」だ。そろそろアンドリューも探しに来ているだろう。
じっと息を潜めて…
「うわっ!」「何してんだよゴウト!」
いきなりゴウトが叫んだ…。
バレるだろ場所が。
「い、いや、なんか、足がもつれて…」
ゴウトの足を見ると、なにか黒い輪っかのようなものにかかっていた。こんなもの、今まであったか…?
引っ張ってみると、少し動く。
どうやら取っ手のようだ。二人で力を合わせて引っ張ると、バガッ!開いた。
下には黒い闇が広がっていた。
持っているランプで照らしてみると、階段がある。
「行ってみようぜ」
こういう積極性は、ゴウトらしいっちゃゴウトらしい。ゆっくりと階段を降りていく。
結構長いな。階段を降りた先には、たくさんの剣がおいてある部屋があった。
…剣を練習してきた身としては、とても興奮する。それはゴウトも同じなようで、隣で目を輝かせていた。
【正宗…?】
「うわァァァ!!」急に低い声が聞こえた!誰かいるのか!?あたりを見回すが、誰もいない。そしてなぜかゴウトから変な視線を向けられた。
「何してんの、お前?」「…………え?……あの声…聞こえなかったのか?」
幻聴だったのか…
【この気配、やはり正宗か】
やっぱり聞こえた。奥の方から響いてくる。
ゴウトはまた聞こえてないみたいだ。
「何も聞こえねぇけど?」
うん。聞こえてない。
「変な声が聞こえたんだ。奥の方から」
ゴウトに言っても、怪訝な顔をするだけで、信じてくれる様子はない。
俺はゴウトの手を引いて、声が聞こえてきた奥へと向かった。
奥に行くにつれて、剣が少なくなっていく。というより、丁寧に飾られている。
そして、部屋の一番奥の壁には…この世の誰もが知っている剣のうちのふた振りがおいてあった。
「…すっげぇ…おい、フアキ、飛王と閻王だぜ!なんでこんなとこにあるんだ!?」
ゴウトが目のすべてが輝いているんじゃないかってくらいに目を輝かせていう。
……そういえば宝剣じゃないか!急に低い声が聞こえてきていたことのショックと伝説の宝剣がその声を発してるってことでおどろきすぎてフリーズしてた…
うーんと…この世の剣はすべて、低級業物、中級業物、上級業物、高級業物、特級業物の5つに分けられる。
もう一つ神級業物っていうのもあるんだけど、それは長らく見つかっていない。
低級業物は何万とあり、中級業物は何百とあると言われているが、上級業物になってくると17振りしかないと言われ、特級業物に至ってはこの世にたった5振りしかない。
海王、村雨、村正、飛王、閻王だ。
そしてこの特級業物を、世に宝剣と呼ぶ。
切れ味、重さともに最高の傑物な上に、とても貴重で見つけられたらとても幸運。
そのはずなんだが…
…宝剣のうちのふた振り、飛王と閻王が、今俺らの目の前にある。
【正宗よ、久しいな】
先程から俺にしか聞こえない声で話しかけてきたのは、閻王の方だった…。
普通剣は持ち主に抜かれないと話さないはずなのだが宝剣は別なのだろうか。
ゴウトが飛王を手にとって抜こうとしているが、一向に抜ける様子はない。
宝剣は人を選ぶからだ。
いい刀匠が作った剣は、使う人間を選ぶ。上級業物も使える人間と使えない人間がいるが、宝剣に至ってはそれぞれ一人ずつしか使えない。
飛王を使える人間は、この世に一人しかいないのだ。
だからゴウトがどんだけ頑張っても、飛王は抜けない。
俺も閻王を手にとって見る。
宝剣や上級業物は、剣を抜ける、すなわち選ばれた人間が抜くと語りかけてくる。
普通に戦いの手伝いとかもしてくれるらしい。
閻王は俺に語りかけてくれたから、もしかしたらって期待したんだが…残念。
抜けなかった。
宝剣くらいになると念が強いから誰にでも語りかけてくれたりするのかもな。
「交換だ。」
飛王を抜くことを諦めたゴウトが、閻王を渡せと催促してくる。
俺も閻王を抜くのを諦めたところだったから、素直に応じる。
飛王のほうが少し軽いな。抜こうとするが、案の定抜けない。
ゴウトに閻王を渡す。その瞬間だった。
いきなり閻王が震えだし、さっき俺に語りかけてきたような低い声で、ゴウトに語りかけた。
【お主が我が今代の主か…まさか正宗と一緒におるとは…】
「「は?」」
二人して声が揃った。
今閻王はなんと言った?
たしかゴウトが今代の主だ、とか…え?
「ゴウトが閻王の選ばれたのか!?」
ゴウトは閻王が最初に語りかけてきた時の俺のようにフリーズしている。
閻王が赤く光りだした。
薄く、ぼんやりとした光だ。
ゴウトはおぼつかない動きで柄に手をかける。恍惚とした表情をしていた。
【さぁ抜け!我が今代の主よ!その手で我の力をつかめ!】
閻王の声を合図に、ゴウトは閻王を鞘から抜くと、鞘から赤い光が漏れて、空気がビリビリと震える。
刀身が完全に抜き放たれたとき、閻王は一際強く輝いた。その光は、館を一瞬赤く染めるほどのものだった。その光を直視した俺は、少しの間目を潰された。
俺の視力が回復するとすぐ、階段を降りてくる音がした。その音は早く、降りてきた人物が慌てていることを示している。
階段を降りてこちらにかけてきた人は…アンドリューだった。アンドリューはゴウトの右手に抜き放たれた閻王が握られているのを見ると、とても驚いた様子だった。
「ゴウト!?閻王を抜いたのか!?」
これは当然の反応だった。閻王を抜ける人間はこの世に一人しかいないのだから。
俺も未だに信じられないが、ゴウトの右手に抜かれた閻王があるのを見ると信じざるを得ない。それについては考えても疑問符しか浮かないので、一旦おいておく。それより、なんで宝剣がここにあったのかのほうが気になる。
「なんでここに宝剣が、しかもふた振りもあるんだ?」
聞くとアンドリューはつかれた顔をして
「少し刀剣に興味があってね。昔集めていたんだよ」
と答えてくれた。そんな簡単に集められるものでもないだろうに…さらに詳しく聞こうとしたが、
「ゴウト、抜いてみた感想はどうだ?重いのか?刀身も噂どうり少し赤く染まっているんだな。」
アンドリューは誤魔化されてほしそうだったのでやめておく。
アンドリューに質問されてゴウトはようやく我に返ったようだ。
「正直、まだよくわかんねぇ…。こんな誰もが知ってる5宝剣の一つが、おれをえらんでくれたなんて信じらんねぇし、実感は湧いてない。でも…普通の剣より自分の手に馴染んでるっていうか、なんか手そのものみたいな気がする。宝剣って呼ばれてるのもわかる。」
アンドリューはその答えを聞いて、ゴウトが宝剣に選ばれた人間だって確信した様子だ。
「その宝剣はお前にやるよ、ゴウト。」
さすがアンドリュー。太っ腹。っていやいや、宝剣だ。普通に高いだろ…いいのか?
「いや…受け取れねぇよこんな貴重なモノ…」
ゴウトもそう思ったらしい。
「いいよ。どうせお前にしか使えない剣だ。」
あぁ、確かに。むぅ…ゴウト、羨ましいな…
「顔に出てるぞ、フアキ。」
アンドリューに言われてしまった。恥ずかしい。
「お前には、ほら。飛王をやるよ」
代わり、ということなのだろうか。
「いや、俺は飛王抜けなかったし、いいよ」
抜けないのにもらうのは、欲張りというものだ。
「抜ける人がいたら渡してくれればいいさ。これは…そうだな。お守りだよ。お守り。」
宝剣もお守り扱いされて困ってるだろう。
俺も困惑した表情を向けるが…アンドリューはもう飛王を差し出している。もらうしかなさそうだ。ここは、ありがたく好意に応じることにした。
「「ありがとよ」」
二人で声が揃った。
「やっぱりお前たちは仲良しだな!」
本当に、そう思うよアンドリュー。
それにしても、閻王が最初俺のことを正宗、と読んでいたのはどういうことだろうか?
閻王に聞いてみたが、俺が自分のことを正宗だと自覚していないと知るとそれきり俺のことを正宗とは呼ばなくなったし、なんで正宗とよんでたかについては答えてくれなかった。
「アンドリュー、なんで俺が閻王を抜いてからそんなすぐに俺らのいる場所に来れたんだ?」
ゴウトが聞いた。確かに俺も気になる。
「あそこは私の集めた刀剣をコレクションしていたところなんだよ。扉は土で埋めておいたし、扉に行くまでの道はヴィーナス像で塞いでおいたんだが…まさかかくれんぼでバレるとは思っていなかったよ…。」
なるほど。道理で走って来れたはずだ。アンドリューが作ったんだから。
俺らは明日もあの刀剣部屋に一緒に行くことをアンドリューと約束して、それぞれもらった宝剣と共にベットに入った。
同時刻〜王都ヴァルサルム〜
ヴェルディ商会会長執務室にて
「瑪瑙。宝剣反応があったというのは本当か…?」
「はい。」
「ほう。では明日回収に行くとしよう。
場所は正確に把握しておるのだろうな?」
「もちろんです。ヴェルディ卿。場所は…アンドリュー商会会長邸…地下にあるようです。」
「よし。では確定だな。ふむ…お前を筆頭にして上級業物兵を数名選び出撃の準備をしておけ。」
「御意に」
瑪瑙、と呼ばれた少女は明日出撃する上級業物兵を誰にしようかと思案しながら執務室をあとにする。その腰に、波の絵が描かれた剣が提げながら。