10年越しの再始動〈リビギンズ〉   作:ヘイドラ

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バトル漫画展開が続きますが、元々の構想通りだったりします。


13 最上階

エレベーターの階数表示が刻々と数字を増していく。そのスピードはごく標準的なはずだったが、元太にとっては異様に長く感じられた。はたして目的の13階で何が待っているのか。歓迎のうな重やケーキでないことだけは確かだった。

 

『いいかおめーら。奴らは間違いなくオレたちが来ていることをわかっている。とりあえずエレベーターの監視カメラは乗ってすぐに壊しちまったけど、まあ行先はバレバレだからな』

 

元太は先程のコナンの言葉を思い出す。

 

『オレが奴らの立場ならこうする。エレベーターホールの前に人を並べて、到着と同時に一斉射撃だ。蜂の巣が出来上がってハイおしまいってわけさ』

 

「そのわりに落ち着いてやがんな」と元太。

 

『だからこそ……そこを突破できれば一気に奥まで突入できる。それが最大のチャンスってわけさ』

 

コナンは脇に抱えている()()()を撫で、それを持つ手に力を込めた。

 

『頼んだぜ、相棒』

 

 

 

13階。

エレベーター扉上のランプが点灯し、到着を知らせる。

それを手ぐすね引いて待ち構えていたのは4人の黒服たちだった。全員が銃を構えており、扉が開くとともに侵入者を風穴だらけにする準備は万端だった。

だがその扉が開いた時、黒服たちが目にしたのは予想外の光景だった。

 

「空っぽ……?」

 

ほんの一瞬、彼らは呆気にとられた。その中はもぬけの殻だった――いや、そうではなかった。

よくよく見れば安直な隠れ方にすぎなかったのに一瞬だけそう見えたのは、想定していた場所にはいなかったからだ。そして彼らに、よくよく見るような隙は与えられなかった。

 

ドン!!!

 

突然、横からの轟音。黒服たちが気づいた時には、何者かが一瞬で距離を詰めてきていた。信じられないようなスピードで何かが突入してきたのだ。

銃を構え直すよりも早く、その何者か――コナンはその勢いのまま集団の真っ只中に突っ込んできた。その衝撃はバイクに跳ねられたも同然で、たまらず男たちは跳ね飛ばされてしまう。

コナンは一気に囲いを突破し、後方に突き抜けた。

 

「なんだあれは、スケボー!?」

 

「非常階段を昇って来たってのか!?」

 

4人の黒服達のうち、少なくとも2人は跳ね飛ばされた勢いで銃を落としていた。狙い通りの最高の好機。

 

「今だ、おめーら!!!」

 

立ち上がって後ろを振り返ったコナンが叫ぶ。

 

「おうっ!!!」

 

誰もいないはずのエレベーターの中から応答の声がする。

エレベーター内の天井に掴まって張り付いていた歩美と、外から見ると死角となる階数パネルの陰に座り込んで身を隠していた元太が姿を現し、一斉に駆け出す。

いわばそれは、猛牛と豹による同時突撃。

 

歩美は走りながら斜めに跳躍して壁を蹴り、反動で更に高く跳んで上から襲いかかった。同時に元太は正面から突進しショルダータックルで一度に2人を弾き飛ばす。

密着戦となった今、銃よりも彼らの方が速かった。

一発の銃声が鳴り響くが、その弾は天井に穴を空けただけだった。銃口を向けたと同時に歩美の蹴りによって腕を跳ね上げられたのだ。

 

その直後に歩美の飛び蹴りと元太の肘打ちを同時に浴びた長髪の男は、一瞬で意識が虚空に飛び去った。

更にコナンも背後から体当たり攻撃を加え、エレベーターホールは混沌と化す。

そこからわずか十数秒でその場は制圧され、つかの間の静寂が訪れた。

 

「ふ~、うまくいったみてーだな」

 

コナンは胸をなでおろす。

 

「久しぶりのわりには馴染んでるじゃねーかコナン」

 

「ああ……。光彦のヤローには感謝しとかねーとな」

 

コナンは足元の下にあるものに視線を落とす。あまりにも懐かしい、ターボエンジン付きスケートボード。大きさも今のコナンの体格に見事にフィットしていた。

このスケボーがあるだけで百人力になったような気さえする。

 

「ふふっ、とっても似合ってるよコナンくん! なんだか子どもの頃に戻ったみたい」

 

「う~ん、喜んでいいのかどうなのか……」

 

どうでもいいけど黄色と緑の子どもっぽいカラーリングまで再現しなくてもいいのに、とコナンは思った。

 

とはいえ、コナンがエレベーターに乗ることなく非常階段を使って同時に登ってくることができたのは間違いなくこの"相棒"のおかげだ。

コナンと元太歩美は2つ入手できたカードキーを分け合い、エレベーターと非常階段から同時に突入する作戦を選んだ。

もちろん階段そのものはスケボーでは走れないので手すりの上を走る必要があったが、ぶっつけ本番でそんな曲芸じみたライドができるという自信がコナンにはあった。

何しろこのスケボー一つでこれまで数え切れないほどのハリウッド映画じみた追跡劇や脱出劇を演じてきたのだから。

 

「さて、のんびりしてるわけにはいかねえ……」

 

エレベーターホールの先、奥に進む通路は2本あった。はたしてどちらが正解の道なのか。

 

「オレは右に行く。おめーらは左を頼む!」

 

「うん、わかった! 気をつけてねコナンくん!」

 

コナンはうなずいてスケボーを起動させ走り出す。

歩美と元太もすぐに先にと進んだ。

 

 

 

歩美と元太が2回の曲がり角を経た通路の先には、広々とした大部屋が広がっていた。オフィスルームのはずだが、机や機械のたぐいは何ひとつ置かれていない空っぽの空間。

その大部屋の真ん中に、一人の男が立っていた。

若々しい顔、明るい金髪、白いシャツ……それはコナンから聞いていた通りの姿だった。

 

「元太くん、あの人って多分……」

 

「ああ……灰原をさらったジョナスとかいうクソヤローだな」

 

立ち止まった元太は、10メートル強ほど離れた位置にひとり立っているジョナスに対して奇妙な違和感を覚えていた。

銃も何も持っていない、まったくの素手。それなりに引き締まったたくましい体つきだが、体格が特に大きいというわけでもない。どう見ても普通の人間の範疇だ。

それなのに、元太の本能は大音量で警報を鳴らしていた。冷や汗が頬を垂れ落ち、固く握った拳が震えだす。

 

「残念、彼はこっちには来なかったか……。まあ、君たちを相手に遊ぶのもなかなか楽しそうだ。あのカシワギに殴り勝った腕力にも興味があるしね」

 

ジョナスがシャツの袖をまくって口の端を吊り上げる。

 

「さあ、始めようか」

 

 

 


 

 

 

「開けなさい! 一体何が起きているの!? 誰かいるんでしょ! ここを開けなさい!!」

 

哀はドアを何度も叩いて声を張り上げていた。哀が飛び起きたのは、はっきりと銃声が聞こえたからだ。その銃声の後にフロアは再び静まり返っていたが、落ち着いていられるはずもない。

哀は寝室として与えられた小さな部屋に閉じ込められていた。ちょっとしたホテルのようにベッドやインテリアは整えられていたが、小綺麗なだけの牢獄であることに変わりはなかった。

 

哀の脳裏に嫌な予感がよぎる。もしや彼が、ここに来ているのではないか?

あの銃声はそうとしか考えられなかった。

 

(お願い工藤くん、無茶はしないで……どうか、無事でいて……)

 

 

 

コナンがたどり着いたのは、通路沿いにいくつものドアが並んでいる場所だった。小さな個室が集まっているということだろうか。

だとすれば、この中のどこかに哀がいる可能性は大いに考えられた。

 

「灰原……どこだ……?」

 

コナンはスケボーを小脇に抱えて一番手前のドアをスライドし開く。そこは段ボール箱や大きな荷物がいっぱいの倉庫部屋のようだった。

探偵としては興味のある場所だったが、今はここに関わっている暇はない。

 

次の部屋は会議室のようで、真ん中の大きなテーブルの周りをいくつもの椅子が取り囲んでいた。ここも外れだ。

 

3つ目のドアに手をかけた瞬間、コナンは人の気配を感じ取った。この中に、誰かがいる。

 

(灰原……?)

 

勢いよくドアをスライドしたコナン。

 

だがそこにいたのは待ち人ではなかった。

赤髪の女。平気で何人も殺してきたかのような、恐ろしく冷酷な目。

 

全身に寒気が走ったその瞬間、コナンは後ろに飛び退いていた。その本能的な退避はまったくの正解だった。鼻先ほんの数センチ前を何かがかすめたのだ。

 

「ぐっ!」

 

後ろの壁にぶつかったコナンは、そこで女の全身を目の当たりにする。

燃えるような赤髪に氷のような冷たい目、黒づくめの衣装。そしてその右手には、刃渡り60センチほどの刀剣が握られていた。反りのない直刀。その鈍い輝きは、それが美術品などではない人斬りの刃物であることをひと目でわからせていた。

 

(間違いない……こいつはあの時オレを監視していたジョナスの右腕……!)

 

他の黒服たちとは異次元の存在感を放っていたあの女――マチルダが今、コナンの前で殺気を放っていた。

コナンは頭を下げて横に飛び、かろうじてマチルダの斬撃をかわす。そして思いきり走って距離を取ってから再び向き合った。

 

(オイオイ、壁が切れてるぞ……)

 

コナンがさっきいた場所の壁には、きれいな太刀筋が残っていた。もちろんマチルダの剣はまったくの無傷だ。

マチルダは構えらしい構えを取ることさえなく、剣先をだらりと垂れ下げたまま普通にまっすぐ歩いてコナンに向かってくる。戦闘というより、まるで散歩でもしているかのような警戒感のなさだ。

 

(冗談じゃねえ、こんなのまともに相手してられるかってんだ……!)

 

コナンはすぐさま奥の手を使うことにした。

左手に着けている時計型麻酔銃。これなら戦闘力などなんの関係もない。実際に使うのは数年ぶりだが、狙いの腕は鈍ってはいないはずだ。

コナンは一度深呼吸してから一気に腕を眼前に上げ、麻酔銃のスイッチを押す。

長さ2センチにも満たない極細の針が、目にも映らないほど高速でマチルダの顔面に向かって飛び出した。

 

ビュンッ

 

マチルダが無造作に剣を振るう。

麻酔針は――どこにも刺さっていなかった。それはどこかに消えてしまっていた。

 

「……今のは、なに?」

 

マチルダが刀身を眺めながら無表情で言い捨てる。

 

(オイオイオイオイ、まさかあのスピードの麻酔針を剣で払い飛ばしたってのかよ!?)

 

「とっとと死になさい」

 

マチルダが再びコナンに迫る。

 

(ちきしょう、剣との戦い方もハワイで父さんに教わっとくんだったぜ……)

 

 

 


 

 

 

元太は警戒心を振り払い、指の骨を鳴らしながらゆっくりとジョナスに近づいていく。

 

「歩美、おめーは下がってろ」

 

「ジョーダンきついよ元太くん!」

 

歩美は元太の横を駆け抜け、ジョナスの周囲を走って後ろに回り込む。ジョナスは歩美を目で追う素振りさえ見せずただ立っている。奇妙ではあったが、彼の狙いなどどうでも良かった。

元太は正面から、歩美は斜め後方から、同時に攻撃を仕掛ける。元太の豪腕が唸りをあげてジョナスの顔面を襲う。

次の瞬間、拳が空を切ったと同時に元太のみぞおちに肘鉄が刺さっていた。

 

「ぐふっ!」

 

歩美は元太に肘を刺したジョナスの背中に狙いを定め、中段蹴りを繰り出す。真後ろからの攻撃、かわせるはずもない――だがジョナスは瞬間的に腰を沈め、蹴りの軌道の真下をくぐった。こちらを向いてさえいないジョナスが後ろ足を蹴り出し、歩美は軸足を崩される。

そこからジョナスは跳ねるように立ち上がって手刀で元太の喉をえぐり、追撃の右ストレートで巨体を弾き飛ばした。

ようやく体勢を立て直した歩美がもう一度背後から今度はかかと落としを仕掛けたが、ジョナスはくるりと身をひるがえしあっさりとそれをかわした。

直後の下から突き上げるような上段蹴りはかろうじてガードが間に合ったが、歩美は蹴りの勢いだけで数メートル吹き飛ぶことになった。

 

「……ッ!!」

 

後方に転がりながらなんとか受け身をとってすぐに立ち上がる歩美。

ほんの10秒足らずの攻防、しかしそのわずかな時間でさえ、彼我の戦力差を思い知るには充分だった。

 

「哀ちゃんごめん、ちょっと勝てない……!」

 

スピード、パワー、技術、経験。およそあらゆる面で上を行かれている。

いざとなれば自分か元太が相手のボスを倒せばそれで解決するという甘い目論見は完全に打ち砕かれたと判断するしかなかった。

 

「ふふ……いい目をしているじゃないか、2人とも部下に欲しいぐらいだよ。……どうだ? いくら欲しい?」

 

ジョナスは余裕たっぷりに笑って2人を交互に見やる。

 

「ふざけないで……!」

 

歩美が再び構えを取る。

勝ち筋はまったく見えていない。だが元太と2人で力を合わせれば光明がきっと――

 

「……歩美、おめーは先に行け」

 

元太の突然の言葉に歩美は驚いた。

ジョナスもいぶかしんで元太を見やる。

 

「オレたちがここに来た目的は、こいつと格闘技ごっこをやるためじゃねえ……灰原を助け出すためだ。こいつはオレが食い止めるからおめーは灰原を探すんだ。この調子だとコナンのやつも心配だしな」

 

「はははっ! おかしなことを言う! 君一人で僕を足止めできるとでも?」

 

「ハッ! できるかどうかなんていちいち考えちゃいねーぜ。オレは()()だからな。探偵団全体にとってのベストを選ぶのがオレの役目だっつーの」

 

「元太くん……死なないでね」

 

「バーカ、いい男は死なねーんだよ」

 

元太が笑う。歩美は踵を返し、部屋の出口に向かって走り出した。

だが一瞬にしてジョナスに追いつかれる。

 

「僕から逃げられるとでも?」

 

ジョナスの魔の手が歩美に迫る。だが歩美はそれを防ごうとさえしなかった。

それをやるのは、彼の役目だったから。

 

「!!」

 

元太の渾身のタックルがジョナスに激突する。背中に両腕を回し、がっちりとロックする。体格体重では元太が上だ。いかな力量の持ち主といえども、一瞬で振り払えるものではなかった。

 

「行け!!!」

 

元太が叫ぶ。

歩美はコクンとうなずき、それから一瞥もせず走り去っていった。

 

「ちいっ……うざったい!!」

 

ジョナスの打撃が次々と元太に突き刺さる。一撃一撃が骨をきしませるほどの威力。

 

(あ~ヤッベ。オレまじで死ぬかも……)

 

心の中ではそう思いながらも、元太は決して倒れようとはしなかった。

 

 

 


 

 

 

「ハァ、ハァ……」

 

コナンは広々としたオフィスルームで柱の陰に身を隠しながら呼吸を整えていた。

 

(まいったな……このままじゃどうにもできねえ……!)

 

マチルダには不意打ちができるような隙はどこにもなかった。背後から仕掛けようがどうしようが、間合いに入れば間違いなく斬られるだろう。

コナンは呼吸を整えながら別の方策に頭を巡らせていた。

 

(あんなのに立ち向かおうとしても無駄だ。身を隠して逃げちまってから灰原を探した方がいい。そのためにやるべきことは……)

 

その時だった。どこか遠くの場所から、かすかな悲鳴が聞こえたのは。

遠い音ではあったが、コナンが聞き間違えるはずもない声。

 

(灰原……! さっきの小部屋が並んでいる場所か!)

 

(早くあっちに戻らねえと、そのためにはあの赤髪の女をどうにか振り切って……)

 

「!!!」

 

思考がまとまるよりも早く、マチルダの剣がコナンの頭上をかすめた。たまたま座っていたから命拾いしたコナンは即座に全速力でその場を離脱する。

 

(くそっ、どこに隠れようとも一瞬で見つけ出されちまう……!)

 

「ちょこまかと逃げ回ってばかり。情けない男ね」

 

マチルダはピクリとも表情を変えることなくコナンを見下す。彼女から見れば、コナンは逃げ回るハエのような下等な邪魔ものでしかないのだろう。

 

(出口は、あそこだ……!)

 

コナンはマチルダの背後に見える部屋の出口に目線を送る。

なんとかして隙を突けば、少なくともこの部屋から脱出することはできるはずだ。移動のスピードだけならスケボーのある自分の方が速い。

 

その時、マチルダがわずかに膝を曲げて腰を落とした。

次の瞬間、爆発的な踏み込みで一気にコナンとの間合いが詰まる。

驚異的なスピード。刺突の動き。コナンの脳裏に「死」の文字が浮かんだその時、柱の陰から何かがマチルダに飛びかかった。

 

「歩美ちゃん!」

 

歩美は空中でマチルダの顔面を蹴り飛ばし、更に身を捻って二段蹴りを浴びせた。完全な不意打ちを食らったマチルダは勢いよく地面に落ちて転がるが、剣を握るその手はしっかりとホールドされている。

ゆっくりと起き上がり、妖刀の刃のような凍てつく瞳が歩美を睨みつける。

 

「コナンくん、ここはあたしに任せて哀ちゃんを!」

 

歩美は低い姿勢で構え、マチルダから視線を逸らすことなく声を張り上げる。

目の前のこの相手から一瞬でも注意を逸らせば死に直結することを、歩美は直ちに理解していた。

 

「歩美ちゃん、でも……!」

 

「いいから早く!」

 

コナンはうなずき、スケボーに飛び乗る。

 

「歩美ちゃん、死なないで!」

 

歩美がうなずくのを横目で見送り、コナンはスケボーのエンジンを全開にして疾走した。

 

「邪魔をするな、小娘」

 

マチルダはゆらりと剣を垂らしながら乱れた髪を手櫛で後ろに流し、歩美を見下ろす。口の端からはわずかに流血していたが、それを気にするそぶりはない。

 

「べ~っだ! そんな怖い顔したって怖くないよ、おばさん!」

 

「……」

 

(この部屋、柱とか机とか障害物がたくさんある……! ここなら正面からぶつかる必要はない……!)

 

歩美は一番手近にあったデスクの上のPCキーボードを掴み、思い切り投げつけた。当然マチルダはあっさりと剣で払って弾き飛ばす。それと同時に歩美は横に跳び、身をかがめて他のデスクの陰を走っていた。

 

「それで隠れたつもりか? まるでゴキブリだ」

 

マチルダが片眉を吊り上げて嘲笑する。

 

(別にそれでいいもん。あたしはあたしのやり方で戦うんだから……!)

 

 

 


 

 

 

コナンはスケボーという名の相棒によって、狭苦しい通路には不釣り合いなほどのスピードで疾走していた。

 

(さっきの悲鳴、間違いなくこっちの方向だった……!)

 

先程マチルダが出てきた部屋をスルーし、更にその奥へと進む。

そこでコナンは扉が開きっぱなしの部屋を見つけ、スケボーを降りてその部屋の中にと踏み込んだ。

 

「ここにあいつがいたのか……?」

 

窓がないことを除けば、小洒落たホテルのように調度品が整った部屋。しかしそこはもぬけの殻で。

 

「って、なんだこいつ!?」

 

コナンは足元に倒れていた人間に気づいて驚く。ポニーテールの黒服男が、部屋の入口の横で失神していたのだ。男の顔には思い切り殴られた跡があり、その隣にはリッチな見た目の木製椅子が転がっていた。

 

(もしかしたら灰原のやつ、悲鳴でこいつをおびき寄せて死角から椅子でぶん殴ったのか……?)

 

コナンは思わず苦笑してしまう。

 

(そうだよな、おめーにただ助けを待つだけの囚われのお姫様なんざ似合わねーよな……!)

 

事態はなんら良くなってはいないというのに、コナンは無性に嬉しさを感じていた。

もしかしたら、本当にどうにかなるかもしれない。

コナンが初めて本気でそう感じ始めた次の瞬間、足元からうめき声が響く。

 

「うおおおお……!」

 

「!!!」

 

とっさに飛び退き、部屋の奥へと転がるコナン。

さっき倒れていたポニーテール男が、血走った眼でコナンを睨みつけながらふらふらと立ち上がる。

 

(ちぃ……! 目を覚ましたのか!)

 

「ぶっ殺す……!」

 

ポニーテール男がコナンを見下ろし、鼻血まみれの顔をわなわなと震わせた。

 

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