変遷信仰 / Everlasting_Blanc   作:宇宮 祐樹

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中篇

 

 純白の道が、永遠に続いていた。

 

「……さむ」

「ネプテューヌちゃん、大丈夫?」

「これはちょっと……ダメかも」

「じゃあ、手! 繋いであげる! はい!」

「あー……ありがとね」

 

 差し出された小さな手を、ネプテューヌが握る。

 必死にカイロで温めた手よりも、彼女の手のほうが温かいのはどういう理論なのだろう。

 

「だいぶ歩いたけど、まだ付かないの?」

『降雪のせいで教会までの道が変わってますから。時間がかかるのも仕方ありません』

「でも、だんだん近づいてきたよ! ほら!」

 

 指で示したその先には、ひっそりと佇む大樹の影が、先程よりも大きく見えた。

 

「にしても、ブランはなんでこんなことになっちゃったんだろうね」

「わかんない。でも……」

「……でも?」

「あのおっきな木、ちょっとだけお姉ちゃんに似てるかも」

 

 どこが、という言葉を、ネプテューヌはすんでのところで飲み込んだ。

 巨大なその存在に似つかない、ひっそりとした佇まい。しっかりとその像が見えなくとも、永遠にこちらを見下ろしてくるような、そんな雰囲気。確かに、似ていると言われればそうかもしれなかった。

 

「不変を望んでる、って」

 

 ミナの残した言葉が頭の中で繰り返される。

 

「だからって、木になっちゃうなんてね」

 

 つくづく変なセンスだと思う。それこそ、彼女が書いている小説のような。

 

「……あれだけ大きくなったら、あとは枯れちゃうしかないのに」

「ネプテューヌちゃん?」

「なんでもない」

 

 行こうか、と声をかけながら、ネプテューヌとラムが進んでいく。

 足跡は、眩い吹雪によってかき消されていった。

 

 

『そろそろ、教会の付近だと思いますが』

 

 通信機から、様子を窺うようなイストワールの声が聞こえてくる。

 

「……吹雪で何も見えないよ」

『それを確認するのがあなたの仕事です』

「はいはい」

「ネプテューヌちゃん、こっちこっち!」

 

 そうやってラムに腕を引かれながら、ネプテューヌが都市の内部へと足を踏み入れる。

 何度も来たことのある、ルウィーの中央都市であった。教会が位置してあるところであり、ネプテューヌにとっては見知ったルウィーの風景でもあった。尤も、今はその面影もないが。

 だが、ある程度その輪郭は残っているようだった。降雪は建物を全て覆いつくしているが、道路などはなんとか区別できる程度になっている。それでも、惨状ということに変わりはない。

 

「ここにロムちゃんがいるの?」

「うん、多分……」

 

 心配そうに顔を落とすラムの横で、ネプテューヌがあることに気づく。

 

「心配なら、聞いてみればいいじゃん」

「え?」

「だって、ほら。あそこに人、いるし」

 

 顎で指した先には、吹雪のせいでおぼろげではあるが、確かに人影があった。

 

「ち、ちがうのネプテューヌちゃん! あれは」

「敵でも大丈夫だよ。私がなんとかするから」

 

 どうしてか慌て始めた彼女を後目に、ネプテューヌはフードを目深に被って、

 

「おーい! ちょっと、そこの人ー! 聞きたいことがあるんだけどー!」

 

 ずぶずぶと雪の中を歩きながら、ネプテューヌがその人影に近づいていく。

 反応はなかった。人影はひっそりと、彼女が見つけた位置に立ちすくむだけ。そこでネプテューヌが後ろに手をまわして、その中から木刀を取り出した。視線は人影へ向けたまま。気づけば、眼光が鋭くなっていた。

 

「あのー? ねえちょっと、聞こえてるー?」

 

 彼我の距離はおよそ五歩。いくら吹雪が強いからといって、声が聞こえないはずがない。

 それでも人影が動く様子もなかった。不信に思ったネプテューヌがゆっくりと前に進み、その影へ近づいてゆく。

 一歩。その姿は、小さな少女のものだった。

 一歩。年相応の白く細い腕を伸ばしていた。

 一歩。靡く黒髪が、宙で固まっていた。

 一歩。表情が酷く歪んでいた。

 そして、最後の一歩で――

 

「……なに、これ?」

 

 目の前の人影が、凍り付いた少女のものであることに、ネプテューヌはようやく気が付いた。

 正確には、静止しているといえばいいか。霜が垂れていたり、氷が張り付いているところがあるとはいえ、肉体が凍っているわけではないようだった。しかし、逆にそれが奇妙でもあった。

 であれば、なぜ彼女はここで静止したまま動かないのか。思考が混流していく。伸ばした手が震えているのが分かった。それは決して、寒さによるものではないということも、理解していた。

 恐る恐る、ラムのほうへと視線を向ける。

 

「……みんな、こうなっちゃったの」

「みんな、って」

「この街のみんな」

 

 呟きながら彼女が、続く道の先へと視線を送る。

 そこに広がっていたのは、全てが静止したルウィーの街並みだった。道を行き交う人々や、屋根の上で羽を休める鳥たちに、舞い落ちる木の葉の一つ一つまで。

 その光景は明らかに異常であったが、唯一正しかったのは、それが間違いなくネプテューヌの知るルウィーの街並みであることだった。

 少女の腕へと手を添える。不思議と冷たくはない。しかし、生気を感じられることもなかった。

 

「……生きてるの?」

「死んでもないよ」

 

 曖昧な問答に、しかしその真意をネプテューヌは掴んでいた。

 

「時間が止まってる?」

 

 首肯が返ってくる。

 

「だんだん広がってるの。奥の方から」

「広がるって……どこまで」

「わかんない」

 

 その返答に、ネプテューヌが息を呑んだ。

 

『この世界の全てが今のルウィーと同じようになる可能性がある、ということですね?』

「そんなにすぐじゃないよ。でもたぶん、そう」

『……すぐにプラネテューヌにも警戒令を』

「お願い」

 

 切羽詰まった彼女の声に、ネプテューヌが返す。

 

「……にしてもまた、寒くなった気がするよ」

『おそらく、教会に近づいているからでしょう。シェアエネルギーの発生源もおそらくあの樹です。ネプテューヌさんまで凍らないように注意してください』

「そんな怖い事言わないでよ……あーよかった、予備のカイロもってきて」

 

 なんて会話を交わしていると、ラムがひとりでに歩き始めて、

 

「早く、ロムちゃんを探さないと……!」

「ちょっと」

「ネプテューヌちゃん、早く! そうじゃないと、ロムちゃんが凍っちゃう!」

 

 ざぶざぶと雪をかき分けながら、彼女が前へ前へと進んでいく。

 

「どこにいるか分かってるの!?」

「わかんないよ! でも、ロムちゃんなら教会に行くはず!」

「行くはず、ってそんな曖昧な……ああ、もう!」

 

 振り切ったように叫びながら、ネプテューヌがラムの後を追っていく。

 ポケットから零れ落ちた冷たいカイロは、地面に落ちる直前で制止した。

 

 

 進行は予想以上に早かった。

 まず、頬に氷の膜が張り始めた。それは手で撫でればすぐ落ちるくらいの弱いものであったが、ネプテューヌも凍り初めていることは確かであった。

  次に髪が固まり始めた。元より、そこまで靡くような髪でもなかったが、触れた時に霜が張り付いていたのを見ると、背筋がぞっとした。けれどこれも、霜を落としていれば何とかなった。

 指先が凍り始めた。動きはする。しかし、感覚がほとんど消え去っていた。こればっかりはどうやっても戻りそうになかった。けれど、もう寒さを感じなくなったと考えれば僥倖だった。ラムとつないだ手の暖かさは、もう感じられることはないが。

 一時間ほど歩いてこれである。聞くところによると、ロムが消えたのは二時間ほど前のことらしい。希望はなかった。彼女を探すより、一刻も早くブランのことを止めなければならない。そうでなければ、世界の全てが凍り付いてしまうのだから。

 そして。

 

「……着いた」

 

 雪原のような場所だった。建物も人々も全て、降り積もった雪の下に埋まっているのだろう。

 ただ見えるのは、壁と見紛うほどに巨大な、一本の大樹のみ。最早それは影のみでなく、輪郭や色彩、表面に走る筋のひとつひとつまでしっかりと見ることができる。しかしながら、そのひっそりとした佇まいは変わることはなかった。今にも枯れてしまいそうなほどの、ある種の儚さを感じさせる大樹であった。

 

「この先に、ロムちゃんが……」

「…………」

 

 ネプテューヌは何も答えない。ただ、無言で歩みを進めていく。

 声が聞こえたのは、進み始めてしばらく経ってからのことだった。

 

「とまって」

 

 唐突に聞こえたその言葉に、二人が空を仰ぐ。

 そこに浮かんでいたのは、こちらを見下ろす女神化したロムの姿だった。

 

「ロムちゃん!」

「…………」

 

 返答はなかった。視線には明確ではないが、微かな敵意が込められている。

 

「よかった、無事だったのね!」

「ラムちゃん」

「ほら、早くかえろ? ミナちゃんもフィナンシェも心配してるよ?」

「……ごめんね」

 

 呟きと同時に、彼女の握る杖から光が迸る。

 一瞬の出来事だった。ネプテューヌがラムの体を突き飛ばした瞬間、二人の間を光線が駆ける。地面に着弾したそれは急速に結晶を始め、一瞬にして巨大な氷の塊を作り出した。

 驚きのまま座り込むラムに対し、ネプテューヌが白い息を吐きながら、一言。

 

「なるほど」

 

 手の内に取り出した木刀を地面に突き立てて、再びロムへと視線を向ける。

 

「顔見知りと戦うつもりは、なかったんだけどな」

「……とおさないよ、ぜったい」

「ふーん」

 

 引き抜いた木刀が、紫の太刀へと姿を変える。

 

「私、強いよ?」

 

 薄い笑みと共に、そんな言葉が放たれた。

 かつて女神が争いを続けていた時代、ネプテューヌは他の三人に敗北を喫し、下界へと落とされた。それは確かな事実である。

 しかし裏を返せば、そうでもしないとネプテューヌを倒せなかった、という話でもあった。

 それは四人の中でも分かり切っている事実であるし、当然ながらその妹である候補生も知り得ていることである。だが、ロムの瞳に宿った眼光が衰えることはなかった。

 

「……それでも、お姉ちゃんのためなら!」

「そう」

 

 ネプテューヌの浮かべていた笑顔が、消える。

 

「脅しなんて、慣れないことするもんじゃないね」

 

 面倒くさそうに呟きながら、太刀が構えられた。

 衝突はすぐだった。迸る閃光を、ネプテューヌが太刀の刀身で流す。すぐ隣で結晶を始めた氷を足場にして、上空へ跳躍。振りかぶった刀身を受け止めると、対の腕が首元へと伸ばされた。

 体勢が崩れ、二人が密着したまま落下を始めていく。その中でロムが三度目の光を放つが、それをネプテューヌが首を傾けて回避。そのまま彼女は剣の柄を、杖を握る手へと叩きつけた。

 白い杖が地面へ突き立てられる。その直後に、二人が雪の上へと着地した。

 

「……ほら、やっぱり」

「っ、あ……」

「通してくれる?」

 

 返答はなかった。ネプテューヌのことを睨みつけながら、ロムが両の掌を地面へ付ける。

 その直後、地面から幾重もの氷槍が現象し、ネプテューヌの頬を掠めた。二激目は太刀で受け流し、三と四は宙に翻りながら回避。着地と同時、ひゅぅ、と軽く息を吐いてから、ネプテューヌが頬を拭う。手の甲には赤い痕が残っていた。

 

「……へんしん、しないの?」

「まさか」

 

 いつもの調子でネプテューヌが笑う。

 

「そこまで()()()()()つもりはないよ」

「……っ!」

 

 引き寄せた杖を振るうと、ロムの周囲へいくつもの光が収束していく。

 対するネプテューヌも、太刀を正面に構えた。

 沈黙が続く。それは枯れ葉が落ちれば崩れてしまいそうなほどに、儚いもので。

 そして。

 

「ちょっと待ったーっ!」

 

 唐突に聞こえたラムの叫び声に、ネプテューヌが目を丸くしながら彼女の方へと振り向いた。無理もなかった。油断というよりも、驚きの方が勝ってしまった。しかしそれはロムも同じようで、奇妙な沈黙はしかし再び彼女の言葉によって崩される。

 

「どうして二人が戦ってるのよ!?」

「いや、明らかにそういう流れだったじゃん……」

「だからって流されちゃダメでしょ!」

 

 するとラムはまた、同じくぽかんと呆れているロムの方へと視線を向けて、

 

「ロムちゃんもロムちゃんよ! なんでいきなり私のこと襲ってきたのよ!」

「そ、それはだって、ラムちゃんたちがお姉ちゃんのところに行こうとしたから……」

「意味わかんない……わかんないよ!」

 

 そうやって座り込んだ彼女を、ネプテューヌはただじっと見つめていた。

 未熟とは言わない。むしろ、同じような幼さであれだけの覚悟を決めていたロムの方が異常なだけだ。そしてそれは、ネプテューヌにとっても以外なことであった。普段ならばラムの影に隠れているような性格の彼女が、一人でここまで行動するなど。

 しばらくの思考。そして。

 

「やーめた」

 

 ネプテューヌが、構えを解いた。

 

「……ネプテューヌちゃん?」

「私だって知り合いと戦いたくないし。それにこれ以上やると、あとでブランになんて言われるか分かんないし。なんたって、今日の私はオフだからね」

 

 剣を再び地面へ突き立てて、ネプテューヌがうん、と伸びをする。

 服に着いた氷の膜が剥がれ落ちた。髪に纏わる霜を払い、ラムの肩へと手を伸ばす。

 

「教えてくれない? 何があったのか、どうしてロムちゃんがそっち側についてるのか」

「……わたしが、はなすとおもう?」

「ラムちゃんのためなら、話してくれるよね?」

 

 どうかな、と笑みを浮かべながら、ネプテューヌが首を傾げる。しばらくして、光を放つと共にロムがいつもの姿へ戻った。

 

「わたしも、よく分かんない。おきたらこうなってたの。それで、みんなが凍っちゃったから、ラムちゃんとミナちゃんと、フィナンシェと逃げたの」

「でも、ロムちゃんは戻ったんだよね?」

「だって、お姉ちゃんがひとりになっちゃうから」

「……なるほど」

 

 納得のいく理由であった。普段からブランの後についていくロムの性格も含めて。

 

「……お姉ちゃんが、ルウィーをこんなふうにしたんだよね? ミナちゃんが言ってた」

「らしいね」

「だったら、わたしはお姉ちゃんのことおうえんするよ? お姉ちゃんの力になりたい、っておもう。それがきっと、私たちのやるべきこと」

「……ブランが間違ってるとは思わないの?」

「そうだとしても、わたしはお姉ちゃんのいもうとだから……お姉ちゃんの、願いを……」

「ロムちゃん」

 

 言葉を遮ったラムが、ロムの目の前に立って、

 

「ロムちゃんのおばか!」

「えっ」

 

 ばちん、と。

 その頬を、思いっきり引っ叩いた。

 

「ちょ、ちょっと……ラムちゃん?」

「いい、ロムちゃん!? 私たちはお姉ちゃんの妹じゃなくて、ルウィーの女神候補生なの! これがどういう意味かわかってる!?」

「それ、って……?」

「私たちは、みんなを守らないといけないの!」

 

 叫ぶ声の中には、どこか悔しさが残っているようでもあった。

 

「私だってお姉ちゃんのことは心配だよ! 私だってロムちゃんといっしょに行きたかった! でも、そうしたら誰がみんなを守ってくれるの? みんな凍っちゃうかもしれないんだよ!? ロムちゃんはそれでいいの!? いつも私たちを信じてくれる人たちが、あんな風になっても!」

「……よく、ない」

「だったら私たちが守らないとダメなんだよ!」

 

 あるいは、ブランとの決別を表していた。

 彼女の声は震えが混じっていたが、無理もないことだった。普段の彼女たちを考えれば、その決断をすること自体が異常だと思えたが、どうやらそれも違うらしかった。

 いつの間にかこの二人は、ここまで成長ししていたらしい。言葉を交わす二人のことを、ネプテューヌは呆けた顔で眺めるしかできなかった。

 

「ロムちゃん、戻ろう? みんなのところに」

「……でも、お姉ちゃんは? もし、戻ってこなかったら……」

「その時は、私たちでルウィーの女神になろう?」

 

 問いかけるラムが、ロムの手を両手で握って、

 

「変わらないといけないんだよ、私たちも」

 

 額と額を合わせながら、告げた。

 最早、ロムの放っていた敵意はなかった。ただ、彼女の中にあるのは少しの後悔と大きな覚悟のみである。それを確かめたネプテューヌが息を吐きながら、見つめ合う二人の方へと声をかけた。

 

「ブランにも見せてあげたいよ、ほんとに」

「ネプテューヌちゃん……」

 

 突き立てた太刀を引き、ネプテューヌが呟く。

 

「よーし、ロムちゃんも戻って来たし! あとはお姉ちゃんだけね!」

「それなんだけどさ、二人は先に戻っててよ」

「……え?」

 

 呆けた声を上げるロムに、ラムが続く。

 

「なんで? せっかくここまで来たのに!」

「わたしも……きょうりょくする、から……!」

「……気持ちだけ受け取っておこうかな」

 

 曖昧な笑みを浮かべ、ネプテューヌが頬を掻く。

 氷の膜が、地面へ剥がれ落ちていった。

 

「行ったよね。ルウィーのみんなを守る、って」

「それは……そう、だけど」

「だから、帰ってあげなよ。今頃みんな、寒がってるよ? それにミナさんとフィナンシェも心配してる。そうした人たちの心の支えになるのが、二人が今するべきことじゃないかな?」

 

 すると二人は、お互いに顔を合わせて、

 

「それもそうね! ネプテューヌちゃん、たまにはいいこと言うじゃない!」

「ちょっと? たまには、は余計じゃないかな?」

「……でも、もしネプテューヌちゃんが、お姉ちゃんに負けちゃったら……どうするの?」

「大丈夫。さっきも言った通り、私は強いから」

 

 微笑みながら、ネプテューヌが答える。

 

「……わかった。私たち、待ってるから」

「お姉ちゃんをお願いね、ネプテューヌちゃん!」

 

 それが最後の言葉だった。去ってゆく二人の影は、既に吹雪によって見えなくなっている。一瞬だけ道を覚えているか心配になったが、それも杞憂になるだろう。ネプテューヌが思っているほど二人はもう幼くないと、今さっき知ったのだから。

 

『……よろしかったのですか?』

「何が」

『あの二人を行かせても』

「最善だと思ってるよ」

 

 イストワールの問いかけに、ネプテューヌが呆れたように返す。

 

「三人ともやられちゃお話にならないでしょ」

『ですが……』

「いずれにせよ、私も厳しいし」

 

 手のひらへと視線を落とす。既に氷の膜は、手首にまで達していた。

 

「私じゃ間に合わない。でも、あの二人なら、ブランのシェアエネルギーに対してもある程度耐性がある。途中で凍り付くこともなさそうだし。全員を守るなら、これが最善だよ」

『……あなたは、どうなるんですか?』

「さあね。ブランを連れて戻ってくるかもしれないし、途中で凍ったままになるかもしれない。もしそうなったら、ノワールとベールに連絡、お願いね」

『分かりました』

 

 返ってくる彼女の声は、重い。

 

『……ネプテューヌさんの大好きなプリン、用意しておきますから』

「そっか」

『必ず、帰ってきてくださいね』

「うん」

 

 会話はそこで終わる。

 今一度、ネプテューヌは眼前に聳える大樹と向き合い、その頂を仰いだ。

 

 

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