KAMEN RIDER ERUPT / 仮面ライダーイレプト 作:YAMA_Tokusatsu
薄暗く静かな教室に駆け込んだ壮介は、一目散にロッカーへ向かった。
(他のものはどうでもいい・・・・・・これだけは持って逃げないと・・・・・・!)
ドライバーとメモリを鞄から取り出し、急いで教室から出ようとした壮介は、姉からの手紙のことを思い出し、足を止めた。
(『壮介に危機が迫った時、これを使えば道が開けるはずです』・・・・・・危機ってまさに今だろ・・・・・・。でもこれどうやって使うんだ?)
色々と試行錯誤してみるものの、何かが起こる様子もなく、ガチャガチャと動かす鈍い音だけが虚しく教室に響いた。
「姉さん・・・・・・説明書くらい入れといてくれよ・・・・・・っと、やべっ!」
思わず手を滑らせ、ドライバーを落としてしまう。床への落下を防ごうと、屈み込んで受け止めると、腰に触れたドライバーからベルトが出現し、壮介に巻き付いた。
「お、おぉ・・・・・・こうやって使うものなのか・・・・・・。で、メモリを穴に挿す・・・・・・?」
壮介がメモリをドライバーのスロットに挿すと、それは赤く発光し、不思議な音を発し始めた。その音が繰り返されると共に、壮介の身体は熱くなっていく。不思議と不快感は無く、身体の熱が上がると共に、燃え上がるような闘志が湧き上がっていった。壮介はその闘志に導かれるように、スロットを右に倒してドライバーを展開した。
《イラプション!》
電子音声が響くと共に、教室の床からマグマが噴き上がる。壮介の身体を包むように冷え固まったそれが、真っ赤な光と共に砕け散ると、そこには真っ黒い異形の姿となった壮介が立っていた。
「姿が変わった・・・・・・!? どうなってんだ、これ!? ・・・・・・でも、これならあの怪物を倒せるんじゃ・・・・・・?」
変化した自分の身体を見て困惑する壮介だったが、なんとか気持ちを切り替え、外へと向かった。
壮介が到着した時、既に校庭は凄惨な様であった。いたる所に爆発の跡があり、巻き込まれた生徒達の死体が無残な姿で転がっていた。肌が焼け爛れているもの。肉が吹き飛び骨が露わになっているもの。かろうじて臓物だけが飛び散って残り、もはや人とは呼べないようなもの。そして、それを見て絶望の表情を浮かべている生き延びた者達。そこはまさに地獄絵図であった。
「なんだよこれ・・・・・・何でみんなこんなことになってんだよ!?」
死臭と加薬の臭いの混じった、鼻を突き刺すような悪臭に吐き気を催しながら、校庭の中央に佇む怪人に目をやった。怪人は壮介に気がつくと、不敵に笑って壮介に語りかけた。
「その姿・・・・・・やはりお前がメモリを持っていたか、檜山壮介」
「・・・・・・! 何で俺の名前を!?」
「大人しくメモリとドライバーをこちらに渡せ。さもなくば、残りの連中もこいつのようにしてやろう」
怪人はそう言って、足下に転がる死体を拾い上げ、壮介のほうへ投げやった。肌が爛れ、手足は吹き飛んでいたが、壮介にはそれが誰の死体かすぐに分かった。
「・・・・・・仁、なのか・・・・・・? 嘘だろ・・・・・・?」
「親友だったそうだな。守れなくてさぞ悔しかろう。さあ、残りの連中を同じ目に遭わせたくなければ、大人しくメモリを――」
「ふざけるな・・・・・・」
「・・・・・・?」
「ふざけるな! 仁を返せ! 皆を返せ! ふざけるなぁぁ!!!」
仁の死体を見て、怒りが頂点に達した壮介の叫びと共に、校庭のいたる所からマグマが吹き上げ、怪人を襲った。
「貴様・・・・・・! 抵抗するというのか!」
「お前は絶対許さない・・・・・・俺がこの手でお前を倒す・・・・・・」
噴き上げるマグマはだんだんと壮介の方へ近づき、ついには壮介の真下から、その身体を包み込むように噴き上げる。マグマに包まれた黒い身体は、やがて輝きを放つ赤へと変わった。怒りで我を忘れた壮介は、怪人の方へゆっくりと歩いていった。
「・・・・・・力尽くでメモリを奪え、ということだな」
「・・・・・・」
壮介は何も答えず、怪人に素早い拳を打ち込む。激しく迸るマグマを伴った打撃に、怪人は思わず崩れ落ちてしまった。
(何だこの力は!? たかが高校生のガキが、メモリを使いこなしているというのか!?)
地面に崩れ落ちた怪人に、壮介は鋭い蹴りを入れた。怪人が苦しむ間も与えず、壮介は何度も強く踏みつける。怪人は一瞬の隙を突き、逃れて壮介の背後にまわったが、その真下からマグマが噴き上げた。
「クソッ・・・・・・貴様・・・・・・!」
よろけた怪人に、壮介はさらに拳を打ち込み、頭を掴んだ。
「わ、分かった、もういい。悪かった。こいつらの命は見逃す。メモリもいらん。だから見逃してくれ!」
壮介は聞き入れること無く、間髪入れずに何度も拳を打ち込んだ。既に地獄絵図と化した校庭の中央で、怪人の身体が原形を留めないほどに打撃を与える壮介。その姿は、地獄の罪人に罰を与える鬼のようであった。
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「――山さん! 檜山さん! 大丈夫ですか?」
重たい体を揺さぶられ、壮介が目を覚ましたのは担架の上だった。
「・・・・・・あ、あなたは?」
「よかった、意識は大丈夫そうですね。我々は警察の者です。どこか痛いところはありませんか?」
「ま、まぁ、全身痛いですけど・・・・・・。あの、皆はどうなったんですか? 俺はどうなっていたんですか?」
「他の生徒さん達なら大丈夫ですよ。逃げてきたところを、我々で保護しています。あなたは校庭で倒れていたので、我々で保護しました」
「あの怪物は・・・・・・?」
「他の生徒さんの話によれば、別の怪人が現れて倒したそうです。どちらも発見できませんでしたが」
「そ、そうですか・・・・・・」
別の怪人、というのが自分のことであると、壮介はすぐに理解した。だが、警察の話と自分の記憶がどうにも一致しなかった。怪人と戦っている間の記憶は、壮介からすっかり抜け落ちていたのだった。
(怪人はちゃんと倒せたのか? 俺の身体はどうなったんだ? 何であいつは俺の名前を知っていたんだ? そもそも、ガイアメモリって何なんだ?)
様々な疑問で頭がいっぱいになった壮介は、疲れ果ててまた意識を失ってしまった。