やはり俺の青春ラブコメはデートからしてまちがっている。   作:現役千葉市民

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突然いろはすが書きたくなったので、連載再開して八色デート回を書き始めました。


2章 やはり、俺のデートは練習からしてまちがっている
第1話 やはり、俺のデートは練習からしてまちがっている


「はーい、みなさんおつかれさまでしたー。こちらでジュースを配りますんで、一人ずつ受け取ってくださーい!」

 

 艶やかな亜麻色の髪を揺らしながらパンパンと手を叩いて声を張る女子――総武高校生徒会長こと一色いろはの呼び掛けに、そこはかとない疲労感を引きずって音に反応するゾンビよろしくぞろぞろと集まるのは、清掃ボランティアと呼ばれる強制労働に駆り出された生徒会及び内申点稼ぎに集まった一般生徒のみなさん――と俺。

 奉仕部という奉仕を目的とした部活に所属しながら、およそ奉仕精神とは無縁な人格を有するこの俺である。それが奉仕部への依頼を受けた訳でもないのに、平塚先生の後任で生徒会指導担当になった教師の「新任なのだからなにか新しいことをしなければ!」という無能の働き者にありがちな無用な使命感によって企画された稲毛海浜公園の清掃ボランティアなどというしょうもない事情のイベントに参加しているのは、俺が人間関係という名の不自由な鎖に縛られた翼の折れたエンジェルだからであった。

 

「少しずつため息を覚えたエイティーン……」

「なにをぼそぼそと……はい、先輩もおひとつ」

 

 その鎖の人間関係の属性のひとつ『後輩』の一色いろはが、キモい客への嫌悪感をマニュアル接客対応で押し殺す女性店員のような態度で、ボランティア参加賞の紙パックリンゴジュースを俺に手渡す。Ohhh……翼の折れたエンジェル。

 

「あんがとさん。まあ、これで義理は果たしたな」

 

 なぜ俺がここにいるかといえば、つい先週雪ノ下とのデートについて一色に相談したところ、何故か千葉市動物公園に奉仕部全員と一色を加えたメンバーで行くことになり、その結果として俺と雪ノ下に対する由比ヶ浜との関係性のわだかまった部分について整理することになるという、一色がどこまで狙っていたかはわからないが結果として大きな借りを作ってしまい、その対価として要求されたのがこの清掃ボランティアであったからである。

 それも今しがた果たした。まだ時間は正午前。適当にそこらで昼飯でも食って帰って、家で昼寝でもすっべかなぁーと思ったところで――である。

 

「わたしへの義理って、そんなに安いものでしたっけ?」

 

 と、一色が帰ろうとする俺の服の袖を掴み、

 

「ここに前からちょっと入ってみたかったレストランがあるんですよねー」

 

 そうニッコリと微笑んだ彼女の小悪魔感といえば、マジでプリティでキュートなリトルのデビルのアレが過ぎて、俺の心は秒も掛からぬ瞬殺で膝を折って屈服したのである。

 Ohhh……翼の折れたエンジェル……。

 

 

   *****

 

 

「まあ、これも雪乃先輩とのデートの練習だと思って。相談の続きですよ、続き」

 

 ニコニコいろはすに連れられて、やってきたのは海浜公園内にある植物園『花の美術館』に併設されたイタリアンレストランである。この前、合同プロムの開催場所探しに雪ノ下と海浜公園に来たときはヨットハーバーの向こうの西側にある検見川の浜の方へと歩いていったが、こちらは反対方向の公園の東側寄りにある施設である。

 

「相談ねぇ……」

「ここはとりあえずのデート先の候補としては悪くないところだと思いますけどね。近いですし」

 

 近いというのがどの程度の距離かというと、我らが母校である総武高校からマンションと道路を挟んで徒歩5分で行ける場所にある驚きの近さの最近隣公共施設である。なるほど男女交際道初級の俺と雪ノ下が、レベル上げにとりあえずお試しに行ってみるにはちょうどいい場所ではあった。つまりRPGでいうところのチュートリアルに出てくる最初のダンジョンだ。

 

「で、お前と行くの? マジで?」

「あ、女の子の前でそんな露骨に嫌そうな顔をするのはNGです。マイナス50点。あとお前呼びは何様なのでマイナス50点です」

「なんか採点始まってるし……減点でかいし……」

 

 げんなり顔の俺に一色が冷たい目で凍てつく波動を放つ。前に一色と出かけたときも採点されて100点満点中10点という結果だったが、今回は始まる前にもう持ち点を失ってしまった。ゲームオーバーである。チュートリアルに凍てつく波動を使う魔王クラスのボスが出てくるとか難易度高くない? デートとはかくもハードなゲームであるものか。

 

「まあ、相談を受けたこともありますし、言葉だけのアドバイスじゃない具体的な女の子のデートでの扱い方を先輩に教えてあげましょう。どうですか、この親切心? 後輩的にポイント高くないですか?」

「自分で言うのは減点なんだなぁ……」

 

 頬に人差し指を当てて「えへ♡」っとあざとく微笑む一色に正直な感想を述べると、肩に無言でグーパンを喰らい黙らされました。やはり暴力……! 暴力はすべてを解決する……!

 

「という訳で、今日はわたしが彼女だと思って彼氏(づら)してみてください。なんか前に言ってたじゃないですか、なんとか立ち彼氏面とか。そんな感じで……」

 

 強引に話を進める一色の発言に、俺は目を見開いて驚愕に打ち震える。

 

「一色……お前まさかベガ様の彼女面する気か!? 畏れ多過ぎてベガ様のサイコパワーでクラッシャーされちまうぞ!?」

「ごめんなさい。ちょっとなに言ってるか全然まったくわからなくてキモいのでマイナス10点です」

「ポイント0点割り込んじゃったよ……」

 

 なんか春休みに幕張のフェスへいつもの面々で行ったときに、ライブの楽しみ方としてベガ立ち彼氏面について熱く語った記憶があるが、よく覚えていたな。俺には「無理」とか「きつい」とか「キモい」とか精神を削り取る言われない口撃を受けた挙句に、雪ノ下から手遅れの病人を看取るような憐れみに満ちた眼差しで見られた心の傷しかないがな! ベガ立ち彼氏面、あんなにエモいのに……。

 

「あー、もうベガとかギガとかよくわからないのはいいんで、ランチにしませんか? 午前中のボランティアでお腹も空きましたし、とりあえず入りましょうよ」

「お、おう……」

 

 袖をぐいぐいされて一色に店へと引きずり込まれる。昼飯に付き合うことは了承したが、デートの練習といわれると抵抗感というか罪悪感というか――……雪ノ下を怒らせて生ゴミでも見るような目で見下される自分の土下座した姿が脳裏に浮かんでくる。想像してごらん? イマジンオンザピ-ポー――……あ、ヤバイ。ちょっとゾクゾクときて意外と悪くないかも……。

 かくして比企谷八幡、一色いろはとの2回目のデート(仮)(かっこかり)の始まりである。


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