やはり俺の青春ラブコメはデートからしてまちがっている。   作:現役千葉市民

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第9話 やはり、めんどくさくない女の子なんていない

 見て回る場所もなくなり、ミュージアムショップも俺に金がないのでぐるりと見るだけで済ませて『花の美術館』を出ると、時間は昼下がりと呼ぶには遅く、夕方と呼ぶにはまだ早い時間になっていた。

 春とはいえ日が暮れれば急速に冷え込む。凍える前に帰ろうと今日の一色とのデートの練習はこれにて終了となった。まあ、それ以前に俺の財布に金がなさ過ぎて、どこかに寄るもなにもないというのもあったが。

 俺は一色を駅まで送るため自転車を押して歩く。

 

「後ろに乗せてはくれないんですか?」

「学校の前も通るのに、生徒会長を二ケツする訳にはいかんだろ……」

 

 ぶーっと不満気に言うが、もうちょっと自分の立場とか考えてくれんかな一色さんや。駅前とか人多いし、いくら私服とはいえ知ってる人が見てないとも限らんし。それにあなた生徒会長で顔も広いんだから、写真撮られて噂になっちゃたら大変でしょ? 『スクープ! 生徒会長一色いろは、白昼堂々男のケツを乗り回す不純異性な道交法違反!』とか新聞部発行の校内新聞にフライデーだか文春砲だかされても知らないよ? うちの学校にそんな学園ラブコメに出てくるような新聞部があるかどうか知らんけど。知らんけどSNSに写真がアップされたらそこそこ派手に燃える気がする。リスクはヘッジするべし。

 

「ところで一色」

「はい?」

「今日は何点だ?」

 

 前回は一色の方から採点結果の告知があったが、今回はまだ聞いていなかった。一応デートの練習という名目なので結果は知っておきたいところである。とはいえスタート時点でポイントがマイナス割り込んでいたから、ロクな結果じゃないのは想像できる。俺はボロカスに言われる覚悟で敢えて自分から聞いてみたのだが――、

 

「何がですか?」

 

 一色はぽかんとした顔でそうほざいた。ちょっといろはすさーん?

 俺が「こいつ……」という顔をすると、一色はそこで「ああ」とわざとらしく「はいはいアレねー、今思い出しましたー」という感じに顔を上に向けて人差し指を振った。

 

「相変わらず言動がアレなのもありますけど、そもそも彼女がいるのに他の女子と二人きりで出歩いている時点で評価不能です。採点とかおこがましいです」

「最初から詰みゲーじゃん……」

 

 ボロカスを通り過ぎて焼却炉にぶち込まれる生ごみレベルの評価である。おこがましいって……デートの練習とか言い出したのそっちじゃないの……理不尽……。

 

「デートの相談を他の女子にしてる時点で罪深いですからね。大いに反省して下さい」

 

 眉根を寄せた厳しい顔で、そう俺に指を突き付ける一色。そうか初手から詰みであり罪であったか……とかうまいこと言っちゃったら口に座布団十枚くらい詰め込まれそうだな。黙っておこう。

 そこで一色はタッと一歩だけ俺の先に進んで振り返ると、からかうような笑みを浮かべながら指をピッと立てて言った。

 

「まあ、先輩の恥ずかしい話を色々と聞けたんで、おまけで10点ということにしておきます」

「デートの採点じゃないんだなぁ……」

 

 まあ、それでも前回と同じ点数か――と思ったところで、一色がもう片方の手の指も立てて、二本並べて俺に見せた。

 

「あと、先輩なりの努力は認められたので、さらにおまけでプラス1点して11点にしといてあげます」

「そりゃどうも……」

 

 前回よりプラス1点か。これが進歩と呼べるかは疑問に思えるところだが、一色先生がそう評価したのだからそう考えていいんだろう。

 

「おおいに参考にしてくださいね」

「ああ……頑張るわ」

 

 そう胸を張る一色に俺は苦笑しながらうなずき返す。それに一色も笑い返すと、今度は俺の後ろに回り込んでいきなり背中をポーンと叩いた。

 

「なんだよ突然」

「女の子に背中を叩かれて頑張れない男の子はいないでしょう?」

 

 きゃるんと星でも散らしてそうなウインクで言う一色。男の子ってキミ……しかし悔しいながらそれは事実であるらしく、叩かれた背中のあたりに身体を前に向かわせるような、そんな熱っぽい何かがあるのを感じるのだった。

 

「……サンキューな」

「いえいえです」

 

 そうこう話ながら歩いている内に駅前に近づいた。夕方前の稲毛海岸駅には駅前ロータリーの横にでかでかと建つマリンピアに夕飯の買い物客が集まっているのか、いつもより人が多いように感じられた。

 その駅前の人の流れに入る前に一色は立ち止り、そこで俺にぺこりと頭を下げた。

 

「とりあえず、デートの採点としてはアレでしたけど今日は楽しかったです。ありがとうございました」

 

 前もそうだったが一色は、こういう意外なところで真面目で礼儀正しいところを見せてくる。このギャップに虚を突かれ前回はへどもどとしてしまったが、二度目となれば俺とてもう少しマシな返しができるようになる。

 

「それはまあ……俺もだ。ありがとな……」

 

 言いながら照れてきてしまい、目線を逸らして頬をぽりぽり掻いてしまった。くぅ……正面から真面目に「俺も楽しかったよ。ありがとう」とか返すハードルって思いの外に高いのな! 羞恥に心が擦り切れちまうよ!

 しかしそんな俺の内心をよそに、一色は「へー……」と感心したような目でこっちを見ていた。

 

「先輩でもリップサービスとかできるんですね……」

 

 なんだよ……むしろお世辞は得意な方で、本心を言うのが苦手な方だよ――とか言う前に一色は可笑しそうにくすっと笑った。

 

「まあ、その調子で雪乃先輩も楽しませてあげてくださいね」

 

 そう言って俺を見る一色のまなざしには、九割の優しさと、一割の厳しさと、そしてそこから溢れた一抹の寂しさがあるように感じられた。

 

「……ああ」

 

 うなずく俺に、一色は何かを見届けるような顔で微笑みながらうなずき返した。

 この表情に一色は何を込めたのか。それがなんであれ、俺はその想いに全力で応えなければならないと思った。

 

「じゃあ、また学校で」

「ああ、気をつけて帰れよ」

 

 別れの挨拶を交わすと、一色は駅の入口の階段を上っていった。階段の上で一度こちらに振り返って小さく手を振る。それに軽く手を上げて応え、駅の中へと消えていく一色の背中を見送った。

 今日、一色は何を思ってデートの練習をしようなどと言い出したのか。

 

「めんどくさくない女の子なんていないか……」

 

 そういつだか聞いた一色の言葉を思い出す。きっとそれはとてもめんどくさい理由で、なによりも彼女自身がとてもめんどくさいと思っているような理由なんだろう。

 だけれどそのめんどくさい理由を他人に――ましてや俺なんかに触れられたら、彼女はたぶん怒り出す。それはきっとめんどくさいからこそ大切で、大事に心の奥底にある宝石箱へと仕舞われた、素敵な何かであるはずだから。

 そしてそれ故に理由を憶測することしか許されない俺には、ただ一色に背中を押されたという事実が残るだけである。

 

「……ふぅ――――……よし!」

 

 長く息を吐いた後、そう声を出して気合いを入れる。そして自転車に乗ろうとサドルを跨いだときだった。ポケットに入れたスマホがぶるっと震えた。

 

『例のプランができたのだけれど、コンペはいつやるの?』

 

 画面の通知には本文を開くまでもなく全文が読める、このメッセージの差出人らしい端的な文章が並んでいた。

 

「本気でコンペするつもりかよ……」

 

 呆れ半分に苦笑しながら、しかしこのめんどくささも彼女らしいと思えば微笑ましくも感じられる。しかし例のプランとか……照れなんだろうが、なんだこのすごい業務連絡的表現は。やはり、めんどくさくない女の子なんていないのだ。

 さて、こちらの例のプランは未だにノープランである。今日は色々と教えられたが、まだ何が正解か方向性も掴めていない。しかし発破は散々に掛けられた。もう前に進むしかない。

 

「やるしかないか――」

 

 俺は自転車のペダルを思いっきりに踏み込んだ。




これにて八色デート回終了です。
いろはすは書いてて楽しいね。八幡と一色のこの距離感が好きです。


このあと例のプランこと八雪デートのネタはありますが、いつ書くかは未定です。
気が向いたら書こうと思うので、しばらく連載(未完)で置いておきます。
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