やはり俺の青春ラブコメはデートからしてまちがっている。   作:現役千葉市民

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第2話 そして、比企谷八幡の多難な一日が始まる

「……えーと、先輩。これはどういうことでしょうか?」

 

 一色は動物公園駅の改札を出ると、そこに並ぶ俺たち(・・・)を見て開口一番そう言った。

 

「いや、ハロー……」

「今日はよろしくね、一色さん」

 

 申し訳なさそうに手を振る由比ヶ浜結衣とニッコリ笑顔がちょっと怖い雪ノ下雪乃。この二人が俺の横に立っていた。内心に冷や汗を垂らしながら、俺はゴホンとひとつ咳払いをして事情の説明を試みた。

 

「あー、どこからか知らないが小町の耳に入っていてな。なら『みんなで行こうよお兄ちゃん!』という話になってだな――」

「そういうことなんで、よろしくお願いです、お姉さま!」

 

 俺の背中に隠れていた小町が、「ここ!」というタイミングで顔を出す。素晴らしい絶妙なタイミングの煽りだ小町。我が妹ながら泣きたくなるほどほれぼれする。

 

「お米ちゃーん?」

 

 当然に満面の笑みで怒気を発する一色。実に器用な感情表現だ。その笑顔のまま小町の手を掴み、少し離れた場所へと引っ張っていった。

 

「いやいや、わたくし妹の立場といたしましても、誰か一方に肩入れというのは競技上公平性を欠くといいますかね――」

「単純にこっちの方がおもしろいと思っただけだろ、この快楽主義者が」

「いやー、さすがお姉さまー」

 

 なんとなく耳に聞こえてくるやり取りを聞こえないふりでやり過ごし、なぜか手もみをしている小町を従えて戻ってきた一色にとりあえず頭を下げる。

 

「いや、なんかすまんな」

「あー、いいんですいいんです大丈夫です、お米はあとでおいしく炊いてあげますんで大丈夫です」

「炊く……?」

 

 なにそれ? どうするのウチの妹? 炊きたてのお米みたいにふっくらとかしちゃうの? 怖いんですけど。

 俺がちょっと恐怖を覚えていると、一色は一歩近づいて俺の後ろにいる由比ヶ浜と雪ノ下の方を見ながら小声で言った。

 

「まあ、いいんです。結衣先輩の相談の件もありましたし、結果がオーライになれば過程とか気にしないタイプなんで、わたし」

 

 なにそれ。確かにこのメンツで遊びに行くことは由比ヶ浜の相談である「俺や雪ノ下とこれからもずっと仲良くしたい」に対する解答のひとつであるように思う。しかし一色お前……俺はどう返したらいいかわからず、前にも言ったようなセリフで答えるしかなかった。

 

「相変わらずお前、マジでいいヤツだな……」

「前にも言いましたよね? わたし、こう見えて結構都合のいい女なんで」

 

 後ろの二人から見えない角度でバッチリと決めウィンク。俺の後輩は相変わらずかわいくあざとくわざとらしく、そしていい女であった。

 

「こほん!」

 

 仕切り直すように咳払いをした一色は、みんなの注目を集める。

 

「じゃあ、これで全員集まったみたいですねー。今日はよろしくお願いしまーす」

 

 ぺこりと丁寧にお辞儀をしてから顔を上げると、

 

「ほらほら、じゃあみなさん行きましょー」

 

 手を上げて俺たちを先導し、動物公園の入口へと歩き出した。続いて歩く俺の横に雪ノ下が並ぶ。

 

「仲がいいのね」

 

 ちょっと背筋に冷や汗が流れる系の声を出す雪ノ下。いや、俺は悪いことはしていない。少なくとも悪気があってこうなった訳じゃない。しかし、心の中の冷静な俺が「パートナーの女子の前で他の女子とあの距離で会話とか常識的に罪じゃね? ギルティーじゃね? そもそも後輩女子と二人でどっか行く約束しちゃった時点でギロチン落ちるんじゃね?」と囁いている。

 ギギギと錆びついたロボットのように首を動かし、雪ノ下の顔を窺う。それを待っていたように雪ノ下の瞳は俺の視線を捕まえて、

 

「でも負けないつもりよ」

 

 そう笑うと俺の指先にちょっとだけ自分の指を触れさせて離れた。

 熱が指先に残る。

 いや、もう俺の中ではあなたが優勝ですよ。


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