やはり俺の青春ラブコメはデートからしてまちがっている。 作:現役千葉市民
それから鳥類・水系ゾーンでアシカさんやペンギンさんがスイスイ泳ぐのを眺めたり、微動だにしないハシビロコウとにらめっこをしてみたり、フラミンゴって一本足で立ったまま昼寝するんだなと感心したりしながら草原ゾーンへと移動して、シマウマさんにはシマがあり、キリンさんの首は長く、ゾウさんの鼻は長いことを確認して回りました。
「あー」
要するに疲れた。
「普段の運動不足がたたってるんじゃない?」
すっかりウォーキングデッド状態の俺を見て雪ノ下が笑う。こいつも体力ある方じゃないのに、今日はやたら元気だな。
「ゆきのん、ヒッキー、ライオンさんだよ!」
先に行っていた由比ヶ浜が手招きする。ああ、一色が言っていた新しくできたっていうライオン展示か。その一色と小町が並んで展示の看板を見ている。
「京葉学院ライオン校?」
小首を傾げる小町の声が聞こえた。追いつくと確かに看板にそう書いてある。
「なんで進学塾の名前が」
京葉学院といえば千葉市を中心に展開する進学塾だ。千葉市内ならほぼJRの各駅前に存在し、千葉市在住の学生ならば知らぬものはいないというのは過言かもしれないが、とりあえずそのくらい有名な進学塾である。しかし、こんなところにも展開しているとは寡聞にも知らなかった。つか、ライオン校ってなによ? ライオン進学するの? それとも講師がライオン? 出来の悪い塾生を送り込む懲罰房的ななにか?
「スポンサーじゃないですかねー。ZOZOマリンみたいな」
冷静な一色分析。さすが利害に聡い後輩である。命名権とか売ったのかな? 千葉市お金ないからな。お金配りおじさん、千葉市民にもお金配ってくれないかな。
「進学塾……」
「どうした由比ヶ浜?」
見ると由比ヶ浜が少し元気のない表情で看板を見ていた。
「あ、うん……あたしたちももう三年生なんだなって、ちょっと思っちゃって」
「ああ、受験の年だな」
なるほど。京葉学院で受験を連想したのか。確かにそれを思うと由比ヶ浜でなくとも元気を失う。
「ヒッキーとゆきのんは予備校行くの?」
「受験はノウハウあるからなー。必要と思ったら行くだろうな」
「私も同じね。模試の結果を見て、必要と思った教科があれば利用していくつもりよ」
俺と雪ノ下はお互いを見合ってからそう答えた。まあ、さすがに示し合せたように同じ予備校の同じ講座を選んで席を並べ、堂々とラブラブチックにキャッキャウフフと受験に挑むようなこっぱずかしさに耐える精神はお互い持ち合わせていない。
まあ、単純に親の金だし、そんな不純な動機でムダに受講料を増やすのは合理的ではない。川なんとかさんが聞いたらメリケン喰らわされるレベルだ。もちろん偶然にも同じ講座を受けていたらやぶさかではないですけどね!
「うー、二人ともちゃんと考えてる。あたしはどうしよう……」
「まだ先の話だろ。だいたいやってりゃなんとかなるもんだし、奉仕部なんて今までずっとそうだった。心配ばっかしててもしょうがないだろ?」
俺たちの回答に不安を増した様子の由比ヶ浜に、俺はそう言った。本当にこの一年はその連続だった。その結果はまあまあにオーライだ。めちゃくちゃ良かったという訳でもないしもっと上手いルートもあっただろうが、こうして俺たちがここに三人でいることは、やれるだけのことをやってきた結果の成果だったと信じていいくらいには思っている。
「あなたにしてはまっとうなことを言うわね」
非常な上から目線ですが雪ノ下の同意も得られ、微笑む彼女に由比ヶ浜もうなずいた。
「うん……そだね。ありがとう、二人とも」
なんでかちょっと涙目気味の由比ヶ浜。動揺した俺が視線を逸らすと、雪ノ下がフォローするように由比ヶ浜の手を握った。
「おお、ライオンさんだー! お兄ちゃん、ライオンさんだよ!」
そこにバカ明るい小町の声が飛んで来た。渡りに船とばかりにこの場を離れる俺。
「オスライオンだな」
「むこうにもオスライオンがいたよ。オスが二頭でメスはいないみたい」
「マジ? ここ男子校なの? なにこの海老名さんが喜びそうなライオン校」
そう小町の相手をしながら、俺は由比ヶ浜のお願いをどのくらい叶えられたのか考えていた。