やはり俺の青春ラブコメはデートからしてまちがっている。 作:現役千葉市民
京葉学院ライオン校の奥には、これまた新しく動物公園にやってきたチーターの展示があった。
「スマートビューティー」
「おお、確かにスマートでビューティーだ」
小町の最新スマホにも負けない薄さのペラい感想に、由比ヶ浜が「それだ!」といった感じでうなずいている。
スマートでビューティーなチーターさんは数頭いて、こっちを見るでもなくあくびをしながら日向ぼっこをしている。その様子を雪ノ下が最近買い換えた最新スマホでパシャパシャと撮っていた。
「へー、チーター走らせるのか、ここ」
「ですけど、今日はやってないみたいですね」
近くに立っていた掲示板に貼り出されていた情報ではチーターランなるものが行われているらしい。妙に横に長い展示スペースだなと思ったが、チーターを走らせるためだったらしい。しかし、やるかどうかはチーターのコンディションによるらしく、どうやら今日はやらない日のようだった。
「残念」
「いいじゃないですか。二度目の口実にもなりますし」
含み笑いをしながら「そういうの好きですよね?」という目で見てくる一色。ああ、好きですよ。生来の怠け癖で口実やら大義名分やらがないと身体が動かないもんで、すみませんでしたね。
チーターの横にはこれまた新しくやってきたハイエナの展示があった。ライオンキングによる風評被害が甚だしいあのハイエナさんだ。
「寝てる」
「寝てるな」
ライオンの狩った獲物を横取りする悪いヤツなどというレッテルが貼られているが、実際のハイエナさんは群れでの狩りが上手でむしろライオンの方に獲物を横取りされていることが多いことを俺は知っている。人間であれば忸怩たる気持ちを抱かないではいられない状況だ。しかし目の前のハイエナさんは風評被害などどこ吹く風のご様子で、ナマコのような姿勢で寝そべってお昼寝をしていた。俺は感動した。俺もかくありたい。この感動を誰かに伝えねば。
「――なあ」
「先輩みたいに動かなくて、つまんないですね。次、行きましょー」
俺の感動は一色の感想に一刀両断され、口から出る前に死を迎えた。キミたち、動かない動物を見たらすぐ俺に喩える風評被害、八幡的に辛いんでやめてくれませんかね?
「どうしたの?」
「レッテル貼りってよくないよな……」
何の話という怪訝な顔の雪ノ下。別に理解を求めていた訳でもないので話を切り替え、気になっていたことを訊く。
「それよか、由比ヶ浜どうだった?」
この質問に雪ノ下は、一色の後ろについて小町と歩く由比ヶ浜の背中を見た。小町と笑いながら話す様子を見る限りでは、さっきのライオンのところでのやり取りで見せた動揺の影は見受けられない。
「まだうまく整理できていないんだと思うけれど――」
雪ノ下はそこで一度言葉を区切ると、
「でも、やっている内にどうにかなるものなんでしょ?」
俺を見てそう微笑みながら言った。最高にずるい微笑みだった。
「そう思うしかないってだけだ。消去法だよ」
「あなたのそういうところ好きよ」
俺の照れ隠しをパッパッと剥がしてそういうことを言う。
「不意打ちは反則だろ」
「あなたが言ってくれないから代わりに言ってあげてるの」
そう言って先に歩き出す雪ノ下。揺れる黒髪の合間に見えた彼女の耳の色は赤かった。ちくしょう。自爆攻撃じゃ共倒れするしかねぇじゃないか。
「あ、ゆきのん! レッサーパンダ!」
「そっちね」
由比ヶ浜のこっちを呼ぶ声が聞こえると、雪ノ下は素早くスマホを取り出して走り出した。さっきの耳赤はどこいったという勢いの高速の切り替え。そりゃレッサーでもパンさんはパンさんだからね。かわいいは正義。
「よし!」
俺も顔の火照りを切り替えるように、両手で一度頬を叩いた。