彼は史実では妻とその不倫相手(コイツがセイヤヌス)に殺されると言う悲しい最期を迎えているので、今作では快い役どころになっていただきましょう。
あ、遅ればせながら。
この話はフィクションと歪みない性癖、作者の歴史の残酷への辟易と、情熱的愛によって彩られた二次創作となっております。
言わずと知れたネロ帝の実母である。
彼女はシュルカヌスに最も古くから関わった人物の一人である。
彼女は自身の幸福とは言い難い青年期までを後の幸運のための試練と称し、シュルカヌスとの出会いから幸運に満ちた時代と称している。
彼女は譲位後すぐにネロがシュルカヌスとの婚姻の儀を二人だけで密かに執り行ったのを見届けるとともに政治の舞台から去った。
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夫ゲルマニクスはティベリウスに謀殺された。
私の母はそう言って憚らなかった。
私は大アグリッピナの娘、ユリア・アグリッピナ。
偉大なるローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスの血を継ぐものだ。
だが、私の身を栄光が避けて通る。
ティベリウスが皇帝位につくと、自らの支持を揺るがせる恐れがあるとして、私の母大アグリッピナは島に流された。
私も身分こそ高くとも、不遇には変わりなかった。
英雄ゲルマニクスの子としての誇りを重んじる私の身にはしかし、その誇りもまた重く感じられた。
ティベリウスの息子ドルルスに仕えているものが投獄された、と聞いても初めは何の関心も抱かなかった。
だが、ある日耳にした噂が私ののちの人生を大きく帰ることになろうとは考えていなかった。
私の耳に飛び込んできたのは、一月飲まず食わずでも死なない男の話だった。
なんでも小ドルルスの給仕を辞めたのちに、ドルルス本人に呼び出され好条件を突きつけられるもこれを断り、掃除の仕事を選んだものの掃除が下手で仕事を奪われたとか。
しかし仕事を奪われた背景にはドルルスが彼が自身へ仕えるように仕向けるための偽装工作があったらしい。
だが、何故投獄されたのかと思えば。
ティベリウスの親衛隊長官であるセイヤヌスがその男に逆恨みがあるらしく、正真正銘の冤罪だったらしい。
セイヤヌスとドルルスは勢力同士の仲が良くない。
ドルルスなど最近、妻のリウィッアと離婚したらしい。
ティベリウスは息子のドルススが相当に可愛いらしく御咎めなしだった。
何かが起こっている。
私はそう感じ、例の男がいる独房へと足を運んだ。
何と美しい黒だろうか。
容貌は輝かしいとも、派手とも捉えられない。
だが、決して目を離すことができない。
そんな容姿だった。
漆黒の髪の色は、どこか神秘的な彼の存在感を際立たせている。
私はいわば権力者だ。
そして、優れた容姿を持ち合わせているとの自負がある。
男などいくらでもいるし、今までそれが当たり前だった。
だが…目の前のこの男からは私のことを惹きつけて離さない魅力を感じだのだ。
私は彼に自身への仕官を持ちかけた。
彼は穏やかに微笑むと、私に向かってはいと答えた。
それだけだった。
私はすぐさま彼を牢から出させ、自らの邸宅の給仕として働かせた。
女性が多いこの職場において、どこか平生の男とは違う独特の雰囲気を放つ彼は注目を浴びていた。
給仕たちはこぞって言う。
彼は留守の間に食事を作ってくれるのだと。
しなくても良い掃除までやってくれるのだと。
私は彼女たちの声を受けて、一度彼を試すことにした。
夜伽に呼ぶことにしたのだ。
化けの皮が剥がれるかもしれないし、はたまた大物かもしれん。
安易に私はそう思っていた。
まだ若く、最初の夫を亡くしどこか自暴自棄だったのだと思う。
衣ひとつ纏わないで抱きつく。
私の裸体の誘惑を前に、シュルカヌスは穏やかに一息吐いたかと思うと、私を横抱きにした。
私の反応が追いつく前に脱ぎ捨てた服を拾うと、私に着せなおし、流れるように寝床へと潜り込まされた。
あまりの事態に脳がかたまり、言葉が出てこなかった。
私を馬鹿にするのか!
そう言ってやろうと口を開くと、彼は私の額に優しく手を置いた。
またもや言葉を失った私の気を知らずに、彼はゆっくりと扉へと向かう。
退出するのかと思えば彼は椅子を手に戻ってくると、私に
「風邪をお召しになると悪いですから御身体を大事になさってください。」
「貴女が社交に無理に出席する必要は有りません。」
「少し休まれた方が宜しいですよ」
そう言い放った。
私は其れ迄彼を試そうと考えていた自分の考えを恥じた。
彼は、ティベリウスの治世においての私の不遇を深く理解しているのだ。
体の疲れや、心が擦り切れるような思い。
他の貴族連中が私に向ける視線。
英雄ゲルマニクスの子とはいえ、皇帝はティベリウスである。
私は苦痛に歪む顔も、流す涙も仮面の奥深くに隠してきた。
気丈に振る舞ってきた。
だが、そうか。
そうなのだ。
美辞麗句などいくらでも聞いた。
貴賤問わず上っ面ばかりの男どもは好き好んで私を称える。
私の美貌か、権力か、血か、どうでもいい。
彼は、シュルカヌスは給仕だ。
しかも、仕えてから日もまだ浅い。
だが、今思えば簡単なことだ。
彼からは何一つとして私を疎む視線を感じなかった。
私は彼のそんなところに惹かれたのだろう。
権力者に罪科を負わせられた身にも関わらず、私を真剣に思いやり、私にその心を大事にし、体を休めるように言うのか。
彼は私に言葉を伝え終わると、今度は寝具の上から私の腹あたりをトントンと優しく労り始めた。
私は母に会いたいと思っている。
だが、それを誰かに伝えることなどできなかった。
そんなことを思いながら、何を言う気もなくなってしまった。
彼の口から優しい音色が紡がれ始めた。
子守唄…か。
彼はお見通しのようだ。
彼は安心と慈愛を思い出させてくれる。
私はいつしか快い微睡に全てを委ねた。
どうやら彼は私の元に舞い降りた幸福の化身であるようだ。
今日、こうして母と再会できたことも彼のおかげに他ならない。
私の涙は止まる気配がない。
だが良い、これほど温かい涙が私の頬を伝うなど願ってもあり得なかったのだから。
彼が潮に呑まれた時、あれほど狼狽するとは思わなかった。
もう二度と会えないのではないかと思うと何も手がつかなかった。
だが彼は帰ってきた、もう二度と会うことはないと思っていた母を連れて生きて帰ってきてくれた。
母は皇帝に罪を問われた大罪人だ。
そのしがらみは深く複雑で、関係上などとは賢いもの、利己的なものがするわけが無い。
だが彼は、その皇帝に罪を問われた大罪人を、そのしがらみの全てから逃げることなく救い出してくれた。
夫のいる身でありながら彼への想いは日に日に大きくなるばかりだ。
誠実で、優しく、思いやりがあり、勇気をも持ち合わせている彼は、生まれさえ良ければ必ず立派なコンスルになれたはずだ。
だが、私の元に来てくれたことは私にとって何よりの幸福に違いなかった。
彼は私の想いなどお見通しなんだろう。
だが、彼はどこまでも謙虚だ。
私がどれだけ母を連れて帰ってくれたことに報いたいといっても何も望まなかった。
褒美を望むことも、地位も、名誉も求めなかった。
私は数年後にこの思いを自覚した。
そして、その思いを遂げられないことを悟った。
私は彼への感謝に咽ぶ自身の中から湧き出るソレをはっきりと見据えた。
私は彼から、シュルカヌスから離れることなど我慢できそうにない。
私は…シュルカヌスに強烈な父性を求めている。
恐らく、この感情は消えないだろう。
彼は決して外見が変わらない。
きっと彼も気づいているやもしれないが。
そこに何があるかは分からない。
けれど、彼はその外見と同じように、決して変わることなき慈愛を与えてくれるだろう。
いつか逢えるであろう私の子にも。
まだFGOに登場する英霊は一人も出ていないと言うね…。
ま、私の話は大体こんな感じなので、歴史の雑学がコンマ増えるくらいに序盤は考えていてくださいな。
崇勘の出世コースは間も無く。