破界僧〜Fateの世紀〜   作:ヤン・デ・レェ

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待たせたな。
真打登場だ!(活躍するとは言ってない)


良き運命をFateとは呼ばない

良き運命をFateとは呼ばない

 

 

 

金色の鐘は祝福の調べを奏でる。

 

朝日は高く人々に 彼女 の誕生を教えるようだ。

 

「おぎゃぁ おぎゃあ おぎゃぁ」

 

必死に息を吸おうとする新しい命。

 

望まれて生まれた命だ。

 

「アグリッピナ様!おめでとうございます!健康な女子でいらっしゃいますよ!」

 

側の助産婦が喜びの声をあげる。

 

泣くような、苦しいような、そんな声にどんな意味が含まれているのか考えるのは哲学者の仕事だ。

 

この子は、彼女は今、確かに生きていることを精一杯主張していた。

 

それ以上に何があろうか。

 

 

 

 

 

 

 

ローマの美は全て宮殿に施されている。

 

荘厳美麗なるこの宮殿である。

 

対して神々と先祖への尊敬を溢れんばかりに表現するのはここ神殿であろう。

 

皇帝カリグラの専任神祇官。

 

それが今の俺の仕事だ。

 

真面目に皇帝の健康について考えてみたらこの仕事を任されたと言うわけだ。

 

そんなことを考えていた俺の今の立ち位置は神殿の長い階段の遥か上、まさに祈りと祝福を捧げるための聖域。

 

そこで重苦しい神祇官の装飾品諸々を身に纏い今日の主役を待っている。

 

金で飾られたやたらと目に痛い空っぽの聖なる道具は手荷物でしかない。

 

扉が観音開きに開かれたのがわかる。

 

扉が開いたことで差し込んだ光は人影を揺らがせる。

 

不安、歓喜、決意、自信、期待。

 

そんな感情が人々の間を通るユリアさんを苛むように見えた気がする。

 

階段にたどり着いた彼女はゆっくりと歩いて俺のところを目指す。

 

 

 

 

 

 

 

俺は自分から飾り物と供物で埋め尽くされた豪奢な卓を挟んで、1メートルの所まで来ていた1組の親子に目を奪われていた。

 

ユリアさんのいつになく慈愛に満ちた微笑が向けられるのは新しい小さな宝物だ。

 

ユリアさんに子供が生まれた。

 

可愛い女の子だった。

 

温かい気持ちに包まれるのは本当に久しぶりだった。

 

感慨に耽っているともう目の前にまで来ていた。

 

俺は神祇官として、次代を担う彼女へと祝福を施さねばならない。

 

でも、何故だろうか体も口も動かない。

 

ユリアさんの腕の中に眠る穏やかなまんまるに心が縛り付けられてしまったようだ。

 

クスリと口元を緩めたユリアさんが私に赤ちゃんを抱かせてくれた。

 

温もりと…何ともいえない命の重さが俺の身体に染みた。

 

どうしてだろう。

 

涙が滲むせいで赤ちゃんの顔がはっきり見えない。

 

でも、言葉では表現できないような愛しさを感じてしまう。

 

何でだろう。

 

…よもやこんな気持ちになるなんてね。

 

この面倒くさくて情けない世界は、まだ眠ったままの貴女には些か厳しいことだろう。

 

だが、決して見限っては欲しくない。

 

俺なんてこの通り大層不思議な境遇にあることだがそれでもなぁなぁと生きている。

 

腐っても何とやらだ。

 

貴女にとって辛いことがないとは言い切れるほど俺は賢くない。

 

でも、どうか少しでも沢山の幸せが貴女に降り注ぎますように。

 

「汝、皇女ネロ。未来永劫に偉大なる父祖と太陽の温もりが貴女のもとに届かんことを。」

 

付け加えるように太陽を祝福の言葉に忍ばせた。

 

父祖の御利益なんて高が知れている。

 

どうかお天道様よ、この子がどんな道を歩もうとも陰ってくれるな。

 

棺の中とも灰塵に宿るとも知れぬ父祖よりは期待できる。

 

俺は未だかつてない夢心地に飲まれたまま、惜しむようにユリアさんに赤ちゃんを返した。

 

ユリアさんも涙の跡が見える。

 

…たまにはそんな女の涙もいいだろうさ。

 

貴女にも、幸せが届きますように。

 

 

今日ほどカリグラに感謝したことはないな。

 

ありがとうな。

 

俺は今この時だけでも神祇官を任せられたことを忘れないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうであった?」

 

「満足だよ。やはり俺は聖職者でなければな。」

 

「ふっ!貴様の口からかような言葉が出ようとは思わなんだ。」

 

「悪いかな?」

 

「いいや。それでいい。散々仕事を増やすなと文句を言っておったシュルカヌスと言う男のことなどもう忘れた!それくらいの堂々たる度胸がなければな。…やはり貴様はこのローマ皇帝ガイウスの友として申し分ない!」

 

「それは良かった。ところで、カリグラよ、君はもう少し糖を控えたまえ。」

 

「貴様は相変わらずだな!余をカリグラと呼んで許されるのは貴様くらいだぞ!」

 

「はいはい。ところで、先ほどの返答やいかに?有耶無耶にはさせんぞ。」

 

「む、貴様は引っ掛からぬか…しかしだぞ!この前は脂肪?とやらも控えろと言って会食から肉料理を一品引いたではないか!」

 

「だからいつも言っておるだろう!美食は脂肪と糖でできているのだ!故に、暴食の根源も脂肪と糖であると!ただでさえ食っちゃ寝るの生活が貴族連中の主流であるのに、君は皇帝だからとすぐに豪遊しようとするのだから尚更だよ。」

 

「よ、良いではないか食くらい!余は他の貴族連中とは違い性には奔放ではないぞ!貴様の言う草食気味に徹しているではないか!」

 

「…いや、君らの下事情など聞きたくはなかったが…。まぁそれも事実か…だが、君だからな!俺に食事の管理をして欲しいと言い出したのは。」

 

「うむ!それは認めよう。何せドルススの勧めだからな。貴様は健康の源だと。」

 

「…俺が聞くのも何だが、成果はあるのか?胡散臭い。」

 

「貴様の言うとおりにしたからこうして心身ともに壮健である。残念ながらな。」

 

「……俺は何もしとらんぞ。」

 

「そんなこともある!…だが安心しろ。余は理解しておる。重要なのは貴様なのだ。」

 

「俺か?」

 

「あぁ。ドルススの気持ちが余にも悔しいがわかるぞ。」

 

「どんな気持ちかな?」

 

「…寄りかかるのにこの上ない木を見つけた旅人の気分だ。」

 

「なんじゃそりゃ。」

 

「…貴様の今後が楽しみだ。」

 

「俺も君の今後が楽しみだ。」

 

「…余は明君になるぞ…だから…」

 

「それ以上は言わなくてもいい。仕事が増える。」

 

「プッ…ハハハハハハ!!安心するがいい!後にも先にも余の友は貴様一人だ!仕事がなくなることはないぞ!」

 

「悪手だったかぁ〜…。」

 

「貴様はそれで良い!少なくとも、だ。」

 

「?」

 

「…余の何かは貴様が変えてくれたのだ。」

 

「運命とか言い出すんじゃないだろうな?」

 

「また下手を打ったな!正にそれだ!運命というやつだ!」

 

「…運命は運命でも悪いのはごめんだ。」

 

「フハハハハ!さもありなん。となると、どうやら貴様は人一倍運命に恵まれているらしいな!」

 

「そうかぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 




今日はもう一話投稿するかもしれません。
アンケートにご協力いただきありがとうございました。
次の時代は〜19世紀欧州クリミア戦争〜に決定いたしました。
他の時代に関しては、各世紀(ex:鬼滅の世紀、ジブリの世紀)として新しく投稿する予定です。(主人公は変わらず)
Fateの世紀が大分長くなる予定なので、毎日もしくは二日に一度のペースで投稿するよう心がけて、余裕ができ次第投稿したいと思います。
題名は必ず 破界僧〜○○の世紀〜 になる予定です。
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