ネロの初恋 (sideネロ)
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「俺は自分のパパ的な存在だったんだろうな!!」
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「…なぞと思っておったんだろうな!」
「えぇぇ……。」
立花は困惑している。
その訳を説明するためにしばし時間を遡る。
10分くらい前…
その日もカルデアでは特に代わり映えのない日々が送られていた。
一般的にはノーマルとは言い難い、中々にハードな戦いの日常である事には違いない。
今日も今日とて探索やら会敵やらでトラブルが幾つも起きた。
カルデアのマスターとサーヴァントは日夜人類のために戦っている。
ましてやそのマスターはそれに足してサーヴァントとの関係性を、良好に保つことが重要になる。
いざと言うときに連携が成立しなければ傷つくのは自分達だ。
英霊とて完全であるわけがない。
好き嫌いもあるし性格や信念諸々、英霊故に孤高故に清濁の両側面において統一性は望めない。
話しているだけで疲れる奴もいるし、何処となく好きになれない奴もいるし、天才すぎて何を言っているのか理解できない人もいるしで、実情としてマスターはカルデアにいても休めるとは限らないのだ。
何が言いたいかと言うと…最近の立花はスゴく疲れていた。
そんな時、ついつい現実逃避気味に声をかけてしまったのは例の謎の男シュルカヌスの話題で仲良くなったローマ皇帝のネロであった。
「ねぇ〜ネロ〜〜…」
「…ふむ。お疲れのようだな!」
「そうなのぉ〜…うぅぅ…最近何もうまくいかない…。」
「よし!ではこの余が!マスターのためにカウンセリングとやらを買って出ようではないか。さぁ!このネロの胸を思う存分借りるがよいぞ!」
「うわーんっ!ヤッター!よっ!さすがは皇帝!懐が深いっ!」
「うむ!もっと褒めるが良いぞ!」
「って、これじゃダメではないか!さぁ、立花よ話してみるのだ。」
「あっ、そうだった……えーと、じゃぁ…。…。」
「…まさか、忘れた、のか?」
「あははー。そ、そうみたい!」
「ふーん。しかし…それでは余の胸は誰に貸せば…。」
「あ、いゃそれは!私が借りるよ!勿体ないし!」
「?まぁ良い!さあ立花。何でも良いから言ってみよ!」
「何でもかぁ…うーん。じゃあ!ネロの初恋が知りたいかな〜?なんてっ!」
「な!初恋⁉︎よ、よ、よ、余のか⁉︎」
「うんうん!知りたいよ〜皇帝の初恋とやらを、ね!」
「…聞いてもそこまで面白い話ではないぞ?」
「是非是非!」
「う、そこまで言うなら…話しても良いぞ?」
「おぉ!やったっ!」
「うっ!ウェッホン!では、これより余の、ローマ皇帝ネロの初恋の話をマスターにお話ししよう!」
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まず相手についてだが…もう最初に言ってしまうぞ。
余の初恋は言わずもがな例のシュルカヌスである。
余とシュルカヌスは長い時間をともに過ごしてきた。
生まれた時、最初に余に祝福を施したのは彼だ。
同時に、物心がつく前からずっと、それこそ母と父の判別すらしていない頃から側にいたのはシュルカヌスだった。
本当にずっと…何時でもシュルカヌスは余の側にいてくれた。
だから、彼に恋をするのもまた必然だったのかもしれぬな。
最初に切なさと胸の苦しさを覚えたのは成人する遥か前、五つか六つの頃でな。
よくわからないこの気持ちをどうすることもできず、それこそシュルカヌスに何と伝えれば良いのかわからなくてな。
結局十に届くかという時まで温めることになってしまった。
その間、余の周りは目紛しく変化を遂げていった。
伯父上は母上と仲は悪くなかったから良かったものの、ある日から余は勉学をキケロから教わる事になってな。
余は嫌がったのだ!だが…母上が強情にもシュルカヌスは勉学が苦手だとかと知ったかぶるように言いおってな!
…勉学も、それまではシュルカヌスに教わっておったのだ。
この時には母上も伯父上もシュルカヌスにゾッコンと言う奴でな。
特に母上は余の血筋上の父上が死んでからと言うものそれが加速して、シュルカヌスの虜だったと言う方がいいかもしれぬくらいだ。
放蕩に耽るのもやめ、すっかりシュルカヌス一途になっていてな。
優しくまともな母親である分には嬉しい限りだったが、正直余は…自分のシュルカヌスへの想いを明確に自覚してからは複雑な気分であった。
まぁ、今となってはいい思い出だな!何せ奴の第一夫人の座は余のものになった故な!
……その後であるな、余にとって辛い時期が来たのは。
余の血筋上の父上の評判が良くなかったのもあるとは思うが、伯父上も薄々気づいていたように…余は皇帝の後継者に選ばれるにはまだ幼かったのだ。
伯父上はローマのために、そして姪である余のために素晴らしいローマを遺そうと努力してくれていたが、あまりにも建築や市民への恩赦などに国庫を開きすぎたせいか少しずつ財政に陰りが見えてきたのだ。
…シュルカヌスは伯父上の相談を受けるほど信頼されていて、余はその時もずっと彼と共にあった故よく聞いたのだ。
伯父上は英雄になれなくても、明君であろうとしているのだと。
伯父上も、母上も、そして余の血にもかの英雄ゲルマニクスの血が流れている。
余はその時初めて自分の名前の意味を一つ知ったのだ。
一度として名前に入ったらゲルマニクスの意味を深く教えられることはなかったからな。
英雄の名前が入っていることは、その英雄の栄光を背負うと同時に、常にその栄光の影に身を収めることになるのだと言うことを。
伯父上はそのことでとても悩んでいるのだと、そう教えてくれたのもシュルカヌスだった。
彼は余のことを誰よりも可愛がってくれた。
父上よりも母上よりも伯父上よりも。
誰よりも知ろうとしてくれたのだ。
市民は余の誕生を祝ったが、余が如何に生きていくのかには何の興味もなかったに違いない。
いつの時代も必然であろうが、彼ら市民が歓喜したのは偉大なる無私の強靭な為政者が生まれることに対してであるからな。
余はそこまで強くはないと言うのに。
だからかもしれんな、シュルカヌスだけは余を甘やかしてくれた。
シュルカヌスは余の全てを知っていて、余のことを誰よりも考えてくれて、彼はどんな時も余と一緒にいてくれた。
だから余は彼には、彼にだけは思う存分に甘えられたのだ。
余にとってシュルカヌスは心の父であり、今となっては愛の伴侶となった。
……立花よ、満足してもらえたかな。
「…シュルカヌス、さんはネロの事をどう思ってたんだろうね…?」
あぁ、それなら知っているぞ。
母上が嫌味満杯の笑顔で余に教えてくれたからな!
あれは確か成人して間も無くのことであった。
母上と余はシュルカヌスを巡りローマ史上またとないほどの乙女の戦争を繰り広げておった。
どう着飾るか!どう美しく見せるか!どう胃袋を掴むか!心技体が揃った女子でなければ!…そんなことに熱中しておったな。
…何と言うか懐かしいなっ!少し楽しくなってきたぞ!
話が逸れたな、それで成人の儀を終えて間も無くのこと、その時の余は芸術家として活動していたのだ。
…これも、何かとシュルカヌスのやつが教えてくれてな〜。
…彼は眩しいほどの笑顔で絵とは言えぬ暗黒物質を自信満々に描いていたがの。
余はあの時ほどシュルカヌスに対して驚いたことはないぞ。
…そして、ある日余の創作の場に突然母上が乱入して来てこう言ったのだ。
「シュルカヌスは貴女を娘か何かだと思っているそうよ!良かったわね〜!プププ!」
…いや、母上若いなぁ。
余はそう思った。
余はとっくの昔に知っておったのだ。
シュルカヌスは余にとって父であり、シュルカヌスにとって余は娘。
そんな関係性を築いてしまっていたことには余が一番知るところである。
余の心の弱さゆえにいつまでもシュルカヌスへの想いを遂げずにいたのが何よりの原因であろうな。
だが、余の想いは既にシュルカヌスへの愛を諦めることだけは出来ない所まできていたのだ。
……………
「ネロ?…どうしたの?」
「ん、いや問題ないぞ。余は、少し話疲れた!…立花よ、さぁ早く食堂へ行き何か美味しいものでも貰ってくるが良い!献上することを許すっ!余の恋バナは高くつくぞ〜!」
「あはは…(高いと言っても食堂の定食レベルなのね…)うん!わかったわ。話してくれてありがとう!何だかしんみりしちゃったけど、悩みは忘れられた気がするわ!じゃぁ行ってくる〜!」
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クラウディウスが 余のシュルカヌス の職を奪いおった。
養父はなんたる愚行を犯されたか!
今日に至るまでにどれほどの功を彼が帝国に捧げたのか!それをお忘れになられたか⁉︎
気がふるわれたのか⁉︎
余は、 本当の余 を押さえつけてこの愚鈍に問う。
「義父上!何故彼から法務官の位から追いやられたのですか⁉︎」
聴く耳持たぬ、か…あゝ余の愛しきヒトよどうか未だ権無き我が身を赦して欲しい。
傴僂の醜き形相を歪め、余の愛しき彼に唾を飛ばして叱責する何某の面をどうして忘れようか!
あまりにも不条理極まる裁き…この上なき不快に身を震わさずにはいられない。
心の父よ。愛しいヒトよ。貴方を陥れんとする全てが憎らしいです。
「どうか!義父上!…何故ですか?何故そこまで…シュルカヌスは、シュルカヌスは貴方に治世を許された他ならぬ大恩人であるはず!なのに何故!」
…容貌限りなく醜く歪め、頬を引き攣らせるようにニヤける義父上は余の頬をその恨めしい食指でなぞると余の名を呼ぶ。
外道さえも浅ましき極醜の不快が体を走り抜けるのに耐え、言葉を待てど望むは無し。
…愚かで悍ましき"提案"を持ちかけようと言うのだ。
よもや義父上の恩情霞が如し。霧に濃く死泥に薄く淫辱万宝を腐らせる。
余は許し方さにこの身を震わせて、しかして首を振らなかった…。
ッッ受け入れ飲み下せる要求であるわけがない!!
余は一度心に決めた彼の為に!彼の為だけにこの身を磨いてきた!にも関わらず下郎小僕の貴様が余に美しく育ったな、だと⁉︎
美しきはこの身にあるべき自然である。
余はかの美しき太陽に恋焦がれる身、この身が朽ち萎び枯れるは彼の側に立つ為にそぐわぬ。
…シュルカヌス以外の何人たりとも余の白雪の艶を穢させはせぬ。させられぬのだ!
…余はかの愚帝の提案を蹴り伏せた。
クラウディウスがッ!彼奴がッッ!
余の!
余の!余の!余の!余の!余の!シュルカヌスを、ろ、ろうに…牢に!牢に入れおったッ!!
甚しき怒りに身が焼かれているのがわかる。
喉が異常に乾く。
母上は嘆きと怒りで意識を失われた。
伯父上は皇帝への反抗を責められ謹慎に処された。
余を守るのは何時も側にいたシュルカヌスでは無く、シュルカヌスが残してくれた彼を慕う古参の近衛兵士だ。
余はシュルカヌスを守れなかったと言うのに、彼は余を守ってくれるらしい。
怒りが荒い息と言葉にならぬ呻きに変わる。
悲しみは形を持ち眼から滴り落ちていく。
最早耐え難きを耐えるはここまで。
余は…否!!!!
私 は!決めたぞ!
今こそが…シュルカヌスへの想いを果たす時だ。
覚悟は決まった。
伯父上は、明君としてその治の幕を閉じることでその覚悟と忍耐、そして英雄の矜持を示して見せた。
シュルカヌスはローマ3代の皇帝を支え、栄光へ導き、裏切ることなく、過つことなく平和を市民に与え続けてきた。
彼は英雄、いや傑物だ。
余は、私は彼の"主"ではなく"伴侶"となりたい。
私は今まで散々に遠回りしてきた。
決断もなく、あやふやな平穏を貪ってきたのだ。
だが、もう終わりだ。
私は全てを貴方に捧げよう。
私の身を形作った貴方に全てを捧げさせて見せよう!!
その為には、まずは私が…この余が!
皇帝とならねばな?
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