旭日
ネロは成人した。
そして、クラウディウスが死んだ。
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真夜中のローマ。
ざんざんと宮中の廊下を進む一団。
彼らは何者なのか。
誰もが黙って何も言わない。
血の匂いが微かに臭った。
彼らは宮殿の皇帝の寝室の前で足を止めると音もなく扉を開ける。
次の日、玉座には誰も座ることがなかった。
「皇帝陛下は体調不良のために籠られた」
成人の儀を終えたネロはそう短く元老院の老獪な御歴々に告げると玉座の真横にまで移動した。
「これより公務を開始しよう。」
誰も何もいうことはなかった。
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クラウディウスは過労死であった。
成人の儀のために奔走した挙句、休む間も無く政務に追われること成人の儀までの三日間。
あの夜のことである。
皇帝の眠る寝室のに忍び込んだ集団が目にしたのは物言わぬ皇帝であった。
クラウディウスは成人の儀の当日の深夜頃に眠るようにしてこの世を去った。
彼はネロが三日の間に組織したシュルカヌスを慕う元近衛隊の兵士の中から編成した刺客の凶刃に斃れる前に息を引き取っていた。
が、ネロはそれを公表しつつも直ぐには帝位に着こうとはしなかった。
彼女は知っている。
この想定外が元老院との対立を生むことになると。
そして、このまま帝位につけば必ず自身の身に刃が向けられる恐れがあることを。
故に、彼女は皇帝代理という職務につき早急にシュルカヌスを近衛隊長官として復職させ、決して自身の側から離さなかった。
最低でも二人で行動を共にし、四六時中自身のそばにおいて護衛任務のみならず政務に関する相談もするといった具合に重く用いた。
ネロはとても臆病に見えたが、彼女は断じて臆病ではなかった。
彼女は冷徹に、そして冷酷に機会を待ったのだ。
手を汚さずに済めば最上。
しかし、障害を排する為ならば今の彼女に与えられた手段に際限はなかった。
クラウディウスの死から1ヶ月が経とうというときにネロはひと月でかき集めた汚職と贈賄、そして冤罪を含む近親相姦の罪で元老院の執政官の多くを失脚に追い込んだ。
彼らは恥を感じたとして当日中に毒杯を呷り死んだことになっているが、実際は暗部によって名誉と家族の安全を守ることを条件にした裏の取引による自殺の教唆であった。
が、それを知るものはなく、鈍感なシュルカヌスが無論知ることはなく、母親であるアグリッピナは勘づいていたものの、それを公にすることは終生無かった。
シュルカヌスはどこまでも献身的にネロを支えた。
以前にもまして彼はネロとの時間を大切にした。
四六時中彼女の苦悩を受け止め、移動の際は部下に率先して先頭に立ち彼女の盾となった。
ネロはクラウディウスの死から二月後に皇帝位を継承した。
最高神祇官は勿論シュルカヌスだ。
もはや元老院にも敵なしとなった彼女の推薦という名の指名はすんなりと通された。
そして……
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大いなる伝説を前にしたような全能感が身を包む。
俺の隣に立つのは他ならぬ彼女だ。
彼女に向き直り、俺は声を高らかにする。
今日この日。
彼女は夢を一つ叶えるんだ。
きっと彼女は思ってもいないだろうけど、俺は知ってるんだぞ。
俺にまで隠れて色々としてたってことぐらい。
悲しいことや辛いことをしてるんだってことくらい。
そんくらいわかってたよ。
だから、今日は目一杯華やかに、誰よりも俺が喜んでやるんだ。
今日ばかりは笑顔でいたってバチは当たらないよ。なぁ?
「ネロ。」
「う、うむっ。」
「汝、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス……(いいや!俺が好きなのはゲルマニクスじゃない!クラウディウスでもない!カエサルなんかでもないんだよっ!!)………」
「?どうしたのだ…シュルカヌス?」
俺は息を吸い込んだ。
もう迷わない。
「父祖の信託に則りッ………ネロ!!皇女ネロを偉大なるローマの先人と!善良なる市民の第一人者として!汝をローマの第5代皇帝とする!!千年の繁栄が在らんことを!」
ネロ!皇帝は君だ!
君が、君のままに皆んなを導くんだ!
先祖なんて死んでるヤツの柵や影で腐ってはいけない!
君がッ君しか持っていない素晴らしい想いを!
爛漫な君を!君自身が信じてくれ!
俺はいつだって隣にいるから。
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ローマ市民は狂喜し、新皇帝誕生と人々の喜びは貴賤に隔てなく帝国全土に広がった。
この時、シュルカヌスの計いで初めてキリスト教をはじめとした他宗教の代表者からの祝いの言葉がネロに贈られた。
このことは元老院や反一神教主義者たちから大きな反感を買うこととなったが、一方で平和と融和の証であるとしてそれまで汚濁を嫌い政界から遠のいていた名士からの支持を受けることに繋がり、志ある優秀な人材の獲得に貢献することとなった。
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私の隣に立つ者は他ならぬ彼だ。
彼に向き直り、私は声を高らかにする。
「ケルクヌブス・シュルカヌス!余の最高の友にして!最大の忠臣!其方を帝都ローマの第一人者として、執政官(コンスル)に親任する!!余の…余と!ローマのためにその力を尽くすのだ!」
私が言い切ると同時に人々の喝采が包んだ。
彼は照れ臭そうに頭をかいていた。
日頃は飾らないのに、いざと言うときにキリリと格好がつく、そう言う所が市民から好かれる理由の一つなのだろう。
長い長い時間がかかったが、私は遂にここまで上り詰めた。
余は皇帝ネロである。
ねぇシュルカヌス。
どうか私の側にいて欲しい。
貴方さえ居てくれれば、私は私でいられるから。
慈悲深く聡明な、素晴らしい為政者になってみせるから。
だからどうか私から目を逸らさないでね。
私は誰よりも素敵な皇帝でいるから。
…いつか。
………いつか貴方と結ばれるその日まで。
結ばれたその時こそは、また子供の頃のように甘えさせて欲しい…かな。
進撃の世紀もそのうち並行で書こうと思う。
やっぱり一番飽きないで描き進められるのは歴史人物に焦点を当てられるFateなんだよな。