破界僧〜Fateの世紀〜   作:ヤン・デ・レェ

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小ドルスス…古代ローマ帝国第3代皇帝ティベリウスの息子。シュルカヌスが最初に仕えた主人だとされる。妻と親衛隊長官セイヤヌスにより巧妙に毒殺されかけるも、当時給仕であったシュルカヌスによって命を救われる。シュルカヌスに命を救われて以降はローマ皇帝の位を辞退し、命の恩人であるシュルカヌスを陰ながら応援し続けたという。


小ドルススの独白

「彼は給仕などではなく真の勇者である。」

 

小ドルススとして知られるドルスス・ユリウス・カエサルは毅然として自身の"元"妻であったリウィッラにこう告げたという。

 

彼は本来ならば死ぬはずであった。

 

だが死なずに、しかして父に約束された皇帝位を辞退した。

 

彼は言った。

 

「私は本来死ぬはずであった。だが、一人の勇者が私を救い出した。」

 

「彼の名はシュルカヌス。」

 

「彼こそが真の勇者である。」と。

 

 

ーーーーー

 

私の名はドルルス・ユリウス・カエサル

 

ローマ帝国の一市民であり。

 

現在ローマの元首(プリンケプス)として君臨するティベリウス帝の後継者である。

 

世界を統べるローマをより輝かせる。

 

そんな道が私には与えられて然るべきであった。

 

だが、残酷にも私がその栄光を浴びることはないだろう。

 

父から約束された皇帝位を前にして、私の体は日々何かに蝕まれていく。

 

妻も献身的に私のために薬や医師を探してくれるが、焼け石に水で悪くなるばかりだ。

 

病なのかと疑ってみるが、たとえわかったとしても私には何もできない。

 

体は日に日に青白く、心までもが正気を失うようだ。

 

病なのか?もしや毒なのか?ならば誰が?

 

私は最早この苦しみから逃れるためには祈るほかないと思い始めていた。

 

 

 

 

 

健康はより一層悪くなり、妻の言われるがままに薬を飲み、甘い酒を気を紛らわせるように飲み、ヤケのように食事をしては嘔吐に襲われる。

 

水に映る自分は、もう随分とほおが痩けている。

 

ローマ皇帝になるために。

 

そう思い今日も妻から杯を受け取ろうとした、正にその時。

 

私は生涯決して忘れることのない大恩人と出会った。

 

「申し訳ありません!」

 

「この無礼者が!!よくも杯を落としたな!!」

 

最近見かけるようになった黒髪の若い男の給仕が謝っていた。

 

意識さえ途切れてしまいそうな今日この頃にしては、よくもまぁハッキリと彼の声が届いた。

 

妻の怒号をよそに、私は彼を咎めないことをおぼつかない足で立ち上がって伝えた。

 

1日ぐらい飲んでも飲まなくても問題はない。

 

私は諦めに近い心境でふと思った。

 

その日の午後になってからのことだ。

 

その日は、頗る調子が良かった。

 

午後からは何をするにも護衛や召使の助けを必要としなかった。

 

私がどれだけ神に祈っても与えられなかったそれは、どうしてか例の黒髪の彼が私の給仕に就く時ばかり与えられた。

 

髪の黒さは一つの特別な証ではなかろうか。

 

私はそう思った。

 

いや、願ったのだ。

 

私は堪らず父に上申して、黒髪の彼を私の専任の給仕に任命した。

 

 

 

 

それからは何もかもが上手くいった。

 

何故なら私が求めたものは健康そのものだったからだ。

 

彼が私にそれまで妻がしていたように杯を渡す。

 

私にとってその朝の一幕は正に神秘との交流であった。

 

私の体は蘇った。

 

そして、私は確信したのだ。

 

彼こそが私の苦しみを救うために顕現された神秘の存在であると。

 

神とは神聖不可侵の恵みそのものなのだ。

 

しかし、私は彼に激しい情愛を抱かずにはいられなかった。

 

彼をどうしても我慢できずに一度だけ寝所へ呼ぼうとしたことがある。

 

しかし、声をかけようと心に決めた日の朝。

 

彼が私に与え給うた健やかなる肉体は、常よりも早くに火が灯り、動かずにはいられなかったのだ。

 

私は彼が私を優しく起こし、その恵の杯を授けてくださるのを待たずして寝所を後にした。

 

そして、彼が待機しているであろう部屋の扉を開け放ったのだ。

 

私は決して。

 

決してあの光景を忘れない。

 

苦しそうに顔を歪めながら(*甘すぎて飲むのが辛いだけ)、私の妻から私に渡すように言いつけられていたはずの杯を飲み干す彼の苦悶の顔を。

 

彼の、苦悶に喘ぎながら(*飽きが来て飲みたくなかっただけ)も、決して私に禍を残すまい(*日頃小言を言ってくるリウィッラに対する怒りからくるヤケクソ)と杯を傾け続ける姿を。

 

 

 

 

どれだけ私が妻に彼の酌量を宣おうとも、妻は彼を許さなかった。

 

不敬罪により独房に閉じ込められたのち、彼は妻からの罵倒を素直に受け入れると、健康を取り戻した私を優しく一瞥すると餞別を乞うこともなく、私の元を後にした。

 

 

そして私は理解した。

 

いや、気付かされたと言った方がいいだろう。

 

彼は私が負うべき苦痛を代わりに負ったのだ。

 

私を生かしたのは神ではない。

 

彼が生かしたのは私の肉体に限らない。

 

私の精神までもを彼は救ったのだ。

 

おそらく、あの杯は苦痛を伴う何かが仕込まれていたのだろう。

 

巧妙な仕掛けは、力ばかりあっても何も気付かぬ愚かな私を蝕んだのだ。

 

彼は力を持たぬにもかかわらず、誰に讃えられることも望まずに、その勇気を示してくれた。

 

何の責を負うこともなかったであろうに。

 

私は愚か者であった。

 

私を救ったのは他でもない彼であった。

 

私は何故生かされたのか?

 

私は生かされたこの命を、真の勇者であり、最愛の恩人である彼のために使うことを、一人静かに夜のローマに誓った。




ゴリゴリのフィクションと捏造です。
でも、書きたいことを書かないでおくのは勿体無いよね。
駄作になるか続くか否かはやらないことには分からない。
ひとまず形を持たせることが大切なのかもしれない。
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