城の近くに巣を作っていたヒルチャール達を発見した私達。その巣を私はアンバーと協力して破壊した。
そしてようやく────
「改めて紹介させてもらうわ。風と蒲公英の牧歌の城、自由の都──────西風騎士団に守られてやって来た旅人さん達、モンドへようこそ!」
城を囲む美しいシードル湖に掛けられた橋を渡り、正門を潜った私とパイモン。辺りを見渡せば上の方には平原からもよく見えた風車や風神の像、その奥にある教会……その他にも大きな建物が確認できる。私達が今いる下の方はお店や民家がある事から、どうやら生活区域らしい。どの家も褐色の壁と赤瓦が特徴な2階建てばかりだ。
「オイラ達、やっと野宿しないで済むな!」
「そうだね……」
モンドに辿り着くまでは村や町が見つからず、パイモンと一緒に洞窟で夜を過ごしたり、動物を狩って料理したり、川で洗濯や入浴を済ましてきた。だがその苦労からようやく解放されると思うと……あっ。
「ね、ねぇ、アンバー。モンドの宿屋にお風呂って付いてるかな?」
「えっと……たぶんどこの宿屋でも簡易的な物なら付いてるはずだよ」
「よかったぁ」
冒険してる中ではなるべく意識しないようにしてるが、流石に何週間もまともに入ってないとなると臭いを気にしないというのは難しい。お兄ちゃんなら同じ状況でも気にしないだろうけど、私は女性なのだ。どうしても周囲の反応が気になってしまう。しかもここは人が多い場所だし……。
「それにしても……城内のみんなはあまり元気がなさそうだな」
パイモンに言われ、人々に目を向ければ確かにその通りだった。怯える様子の人もいれば、無理に笑顔を作ってる店の人達もいる。西風騎士と思われる鎧を着た人達もどこか緊張気味だった。
「最近、みんな風魔龍の件で頭を悩ませてるからね」
「風魔龍……」
アンバーから聞いた、最近モンドに出没し始めた巨大な龍。暴風で怪我人を出すだけでなく、キャラバンのルートに影響を与えて本来荒野にいるヒルチャールがモンド城近くに巣を作る原因を作ったりなど様々な被害を起こしるらしい。
もしかして……あの不思議な少年と一緒にいた龍が風魔龍?でも何故だろうか?あの時拾った赤い結晶……それが鞄に入ってるにも関わらず私に“悲しみ“や“苦しみ“といった感情をぶつけてきてる気がしてならないのだ。
「でも大丈夫、モンドにはアレンさんや頼れる人達がいるから!」
「アレンさん?」
突然出てきた名前に私とパイモンは首を傾げる。直接名前を出してる辺り、アンバーにとっては最も頼りになる人物なんだろうけど。
「モンドで一番強い人だよ!昔は西風騎士団にいて、雷鳴騎士って呼ばれてたんだ」
「一番強いって凄いな……ど、どんな奴なんだ?」
「とっても優しい人だよ。小さかった頃、わたしの遊びによく付き合ってくれたりもしたんだ」
そう言うアンバーは他にも、『困ってる人達の相談に乗ってあげたり、助けたりしてる』、『他国から事件の解決や凶暴な元素生物の退治などで感謝状が送られてきた』等々……とにかくアンバーの言うアレンさんとは、“強くて優しくて頼れる凄い人“らしい。それに様々な国を巡ってきたときた。もしかしたら……神の事について何か知ってるかもしれない。
「それにね!アレンさんは────」
「え~っと……アンバー?そろそろいいか?」
「へっ?……あぁっ!ご、ごめん!ずっと喋っちゃってて……」
えへへ、と笑うアンバー。だけどアレンさんの事を話してた時はとても楽しそうだった。きっと、それだけその人の事が好きなんだろう。
「そうだ!さっきヒルチャールの巣を一緒に片付けてくれたお礼に、蛍に渡したいものがあるんだ!」
「え~っ!オイラにはないのかよ!?」
オイラも何か欲しい!と頬を膨らませてアンバーにせがむパイモン。でも戦ってたのは私とアンバーだけで、パイモンは安全な高い場所から応援してただけだったような……。
「えっと……パイモンちゃんには使えない物だからね」
「だってさ、パイモン。諦めなよ」
「いーやーだー!オイラも欲しい!」
「あっ、でも今夜はモンド名物のニンジンとお肉のハニーソテーを2人にご馳走してあげるよ」
アンバーのその言葉にパイモンがキランッと目を輝かせ、ジュルリと口から涎を垂らす。行儀悪いって……でも確かに美味しそうだなぁ。
「ニンジンとお肉のハニーソテー!?おおっ……約束だぞ、アンバー!」
「うん!それじゃあまずは……高い場所に行こうか!」
(アレン、聞こえるかい?)
(トワリンが風龍廃墟から飛び立つ姿が見えたんだ。声を掛けると僕の元に来てくれたんだけど……)
(……酷い姿だったよ。アビス教団が呪いを増幅させたせいで彼は意識すらまともに保ててなかった。ボクに応えてくれたのも声に聞き覚えがあったからだろうね。……何にせよ、彼の為に少しでも毒を浄化できないか試していたんだけど、邪魔が入っちゃって)
(怒ったトワリンに僕も毒に蝕まれちゃったんだ。あ、でも大丈夫だよ。ボクは少し休めば良くなるはずだから……)
(それよりもトワリンだよ!彼は未だ“アビスの毒“による苦しみと“ボクとモンドへの怒り“だけで動いてる。君の話なんてまともに聞いてくれないだろうね)
「つまり、実力行使で、止めろって事だろ!」
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤガン!ギィンッ!!
(そうだけど……君、今何かしてるのかい?)
「ちょっと取り込み中でな!」
「死ね。アビスに仇なす異端者め」
ウェンティからの声に答えつつ、勢いよく振り降ろされる水の刃
「アビスの光を受けよ」
「嫌だよ」
雷元素を操るアビス教団の術師、その名はアビスの
手に持つ本をめくり、不可思議な呪文を唱えるそいつから放たれるのは3つの
「っ!!」
「とっとと消えろ」
再び脚に雷元素を纏い、詠唱者を雷脚で蹴り飛ばす。交差した両腕を構え、踏ん張ろうとしてたもののそれらは無意味だった。一筋の光となって吹き飛んだ詠唱者は丘に直撃してそこを一瞬にして崩壊させる。
「っと」
後ろから迫るいくつもの水の刃に気付き、その数に合わせてこちらも雷刃を連発で複数放つ。その名も
水の刃と雷刃が衝突するが雷刃は勢いを弱める事なく突き進み、その先にいる集団────アビスの
だが詠唱者と同じくアビス教団の実力者である奴らはその程度でやられはしない。雷刃の壁を掻い潜り、3人それぞれが『回転攻撃』、『十字に放つ水の刃』、『乱れ斬り』で襲い掛かってきたのだ。
「おいおい、そろそろ通してくれよ。俺はモンド城に急ぎてぇんだ」
水の刃を西風大剣で叩き斬り、残る2人の攻撃をいなしつつ声を掛ける。まぁ、通してくれるとは微塵も思ってないが。
「……あの龍を完全な手先にする為にはモンド城を壊滅させ、想いを断ち切る必要がある」
「貴様は我々アビスにとって危険極まりない存在だ。邪魔はさせない」
……なるほど。トワリンがモンド城への攻撃を本格的に始めたのはアビス教団が呪いの力を増幅させたからだけじゃない。数多くのモンド人をトワリンに殺させ、唯一の帰れる場所を完全に消すのが奴らの目的なんだろう。そうする事でトワリンの心を壊し、二度とこちら側に戻れなくするのが狙いか。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ「ふざけんなよ?」
一瞬のすれ違いざまに使徒2人を斬り捨てる。首から上が消え去った為に悲鳴を上げる事もなく消滅していき、残る使徒はあと1人。
「な……」
「
驚きの表情で固まる使徒に迫り、攻撃も防御も許さず西風大剣による一刀両断で葬り去る。消滅していく様からモンド城へ視線を向け、すぐさま飛雷脚で向かう。
トワリンがモンド城上空を飛び回り、城内に黒い竜巻をいくつか発生させる姿が見えたのだ。それも一般人はおろか、訓練された西風騎士さえも巻き込まれれば只じゃ済まない大きさだ。場所的に一番大きいのは風神の像近く、次にエンジェルズシェア、一番小さいのは冒険者協会支部の方か。
「……よし」
「あっ!ア、アレ────」
城内を回るルートは決まった。モンド城の正門に着地し、門番の西風騎士達に何か言われる前に間を一気に駆け抜けて城内に入る。あとは……ルート上にある