元モンド最強騎士はそろそろ彼女を作りたい   作:白琳

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ゲームでは主人公は「旅人」と呼ばれてますが、ここでは大体「蛍」と呼ばれます。


第10話

時間は少し遡る…………

 

 

 

「じゃーん!これが“風の翼“だよ!」

 

アンバーが背中に衣服の上から着けてくれた小さな装置を起動させれば、その装置からはどこに入ってたのかと言いたくなるような大きな翼が姿を現した。振り返っただけでは全貌は見えないものの、私の背丈と同じ位はあると思う。

 

「なぁなぁ、オイラにもよく見せてくれよ!」

「うん」

 

その場でクルッと回り、パイモンにも風の翼を見せてあげる。アンバーに案内されてやって来た風神の像がある広場は途中通った噴水広場より広く、誰かにぶつかる心配もない。

 

「偵察騎士はこれで空を駆け抜けるの!モンドに住む人達も、みんなこれを愛用してるんだよ」

「駆け抜ける……滑空するってこと?」

「そうだよ!空を駆け抜けるのって、とっても気持ちいいんだから!蛍にも、これの良さを知ってほしくてここまで連れてきたんだ」

 

風の翼、か……お兄ちゃんと旅してた頃が懐かしいなぁ。

 

「……ん?」

「パイモン、どうしたの?」

「気のせいか?風が強くなってきたような……」

 

……確かに。パイモンの気のせいなんかじゃなく、風車が勢いよく回り始めてる。それにモンド城の周囲が霧で覆われていっており、これが普通ではない事はすぐに察した。

 

「うそ……アレンさんが城内にいないのに……」

「お、おい!一体何が……うわっ!?」

 

突然吹き荒れる突風が私達を……いや、モンド城の人々を襲う。そして上空からゴウッ!という大きな音が鳴り響き、それと共に巨大な影が地面を動いていった。

顔を上げ、音を追いかけると目に入ったのは森で遭遇したあの龍。モンド城の周囲をその巨体で飛び回り、その姿を見た住民達が悲鳴を上げながら次々に逃げ出していく。

 

「そんなっ……風魔龍がモンド城に!」

 

アンバーの叫び声からあの龍がモンドに脅威をもたらしている風魔龍だと断定できた。しばらくして上空に留まった風魔龍が甲高い大声を上げる。その声に呼応するように、巨大な黒い竜巻が広場に出現し始めた。しかもここだけではなく、モンド城の様々な場所に竜巻が現れている。

 

「オ、オイラ達も早く逃げようぜ!」

「蛍っ!ここから逃げよう!」

「う、うん」

 

パイモンはすぐ傍で小さな星座を残して消え、私はアンバーに手を引かれて逃げ出す。だが後ろで猛威を振るう竜巻は、周囲の物を巻き上げながらこちらへと迫ってきている。このままじゃ追い付かれて──────

 

「……えっ?」

 

そこでふと気付いた。他の場所で発生していた竜巻が下から巻き上がってきた別の竜巻に呑み込まれ、抑え込まれるように消失していってるのだ。一体何が?と考えていると、足がフワリと勝手に地面から浮く感覚がした。

 

「────あっ」

「蛍!」

 

アンバーが手を伸ばすものの掴もうとした手は空振りに終わり…………私は竜巻に吸い込まれて空高くへと放り出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()(うず)!」

 

西風大剣を薙ぎ払い、生まれた竜巻“山嵐“はトワリンが生み出した黒い竜巻を下から上へと呑み込んでいく。()()に辿り着くまでの間に他の場所で発生した竜巻は全て山嵐で呑み込み、互いに打ち消すように消失させてきた。残る竜巻はここ、風神の像がある広場だけだ。

 

「アレンさん!!」

 

一気に駆け抜けてきた足を止め、地面に長い黒い跡を残してると突然声を掛けられる。声がした方を見れば、そこには今日“ヒルチャールの巣の偵察及び破壊“の任務で城外に出てるはずのアンバーがいた。

 

「大変なんです!蛍……旅人さんがあの竜巻に巻き込まれて!」

「なにっ?」

「風の翼を広げて空高く飛ばされたまでは見えたんですけど、そこから姿が見えなくなっちゃって……」

 

トワリンの生み出した竜巻……今はもう山嵐に呑まれて無いが、アレに巻き込まれればひとたまりもない。それに(何故持ってるかは置いといて)風の翼を広げたという事はあの強い風圧を受けたということ。空を見上げるが、人らしき姿は見えず今尚も飛んでるトワリンしかいない。雲の上まで飛ばされたか、それかあるいはトワリンに食われたか。

 

「分かった。俺は風魔龍を撃退させながらそいつを探してみる。アンバーはここで逃げ遅れた人や怪我した人がいないか探してみてくれ」

「はいっ!」

 

アンバーに指示を出し、俺はすぐさま()()()()()()()()。上へと巻き上げる風に乗り、俺の体は竜巻の中でどんどん上昇していく。その途中で上を見上げればトワリンが再びこちらへと近付いてきてる。

 

タイミングは……──────ここか。

 

「いくぜ」

 

一気に上昇し、竜巻を飛び出して尚飛び上がる俺の真上にトワリンの巨体が重なる。山嵐による回転の勢いを乗せ、西風大剣を構えた俺は翼と体の隙間を過ぎ去っていく。その僅かな間に。

 

「まず、1つ目」

 

回転を乗せた斬撃を横に薙ぎ払い、左翼の結晶を根元から切断する。その名も“(のぼ)(りゅう)“。空高くにいる相手を攻撃する為に生み出した山嵐から繋がる技だ。

結晶を斬られた痛みにトワリンが吠え、バランスを崩しながら離れていくが俺の仕業と気付いたんだろう。方向転換してこちらへと舞い戻ってきている。

 

「来いよ」

 

雷元素を脚に纏い、空中で真上へと振り上げる。バチバチと雲と俺の間に紫色の稲妻がいくつも走るが、それに臆する事はなくトワリンは迫ってくる。そして確実に俺を仕留めるつもりなのか、僅かに開いた口の中に風元素を溜め込みながら来ている。風のブレスを至近距離で放つつもりか。

 

「やれるもんなら、な」

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ雷脚 雷斧脚(らいぶきゃく)

 

 

すぐ目の前まで迫ってきたトワリンがブレスを放とうと口を開くが、その直前で斧の如く振り降ろされた脚が直撃する。その威力は、上から叩きつける事により爆発的な破壊力を生み出す。現にトワリンの口は凝縮された風元素を溜め込んでいたものの強引に閉じられた挙げ句、その巨体に体勢を崩す程のダメージを受けた。

 

「ガァッ……!」

 

加えて行き場を失い、口内で爆発したブレスによるダメージ。それらにより動きを止めたトワリンだったが、そこは毒龍を退ける力を持った風神の眷属。隙を見せるのは一瞬だろう。

 

「よっと」

 

雷斧脚の反動を利用してトワリンの体に飛び乗り、首に生えた結晶を狙う。西風大剣を構え、腐食した血を絶つ為には結晶を残さず根本から切断するしかない。

 

「うおっ……!?」

 

だがその瞬間、前触れもなく強い風が吹き荒れる。しかしトワリンが動き出した様子はない。なら……俺の動きを止める為にトワリンが風元素を操って突風を引き起こしたか。

 

「だけどそれだけじゃあな」

 

西風大剣を難なく振り払い、大雷刃を放つ。トワリンの体を掠めていった刃は首の結晶を切断し、遥か彼方の雲の中へと消えていった。これで残る結晶はあと3つ。

 

「おっ……と!」

 

突然トワリンが翼を勢いよくはためかせ、その場から飛び出す。おそらく……というか絶対に俺を振り落とそうとしたのだろう。だが俺も落ちるわけにはいかない。すぐさま西風大剣を消し、空いた左手でトワリンの麟を掴む事で落下を阻止する。

俺を落とそうと必死なトワリンは縦横無尽に空を飛び回るが、俺も落ちるわけにはいかない。だが……この状況は厄介だな。飛び回るトワリンの上でも結晶を攻撃する事は出来るが、果たしてうまく切断できるか。トワリンが動きを緩めてくれれば……。

 

「ん?」

 

背後からトワリン目掛けていくつもの風元素の弾が直撃していく。何かと思い、後ろを振り返れば上空に金髪の少女らしき姿を見つけた。モンドでは見ない服装、しかし風の翼を開いてる事からあの子がアンバーの言ってた旅人か?ただ……あの子、滑降っていうよりも飛んでるな。

 

「……ウェンティか」

 

力が弱まったなんて言ってるが、それでも七神である事に変わりはない。風元素を操って風の翼を飛ばす事くらいわけないか。

ただこれでトワリンの注意が少女に向き、動きが一瞬鈍った。その瞬間を見逃さず立ち上がった俺は再び西風大剣を手元に呼び出し、背中の結晶へと飛び出す。

 

無双斬(むそうざん)!」

 

一瞬のすれ違いの間、結晶に無数とも言える斬撃を叩き込む。細切れとなり、小さな欠片となって吹き飛ばされていく結晶。その痛みがトワリンに伝わり、大きく吠えた。そして同時に体を捻り、足場を失った俺は空中へと投げ出された。

 

「っ……!」

 

グルリと回り、またもや迫ってくるトワリンは俺を食らうつもりなのか、口を大きく開いてる。それも雷斧脚が届かない位置までにだ。

 

「いいぜ……来いよっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい!風魔龍の背中に、誰かいるぞ!」

 

“千年の龍風に助けてもらった“という謎の声に導かれるまま風魔龍を攻撃してると、背中に誰かがいるのを私に掴まるパイモンが見つけた。探してみると確かに風魔龍の体に掴まってる人がいる。その人は風魔龍の動きが僅かに止まった瞬間、その場から突然消えた。

 

「えっ?」

 

次の瞬間には風魔龍の体に生えてる濁った紫色のような結晶の1つが無数の欠片となって空中へ飛び散っていった。……今、何が起きた?あの人が左手に大剣を出現させた所まではどうにか見えたけど、それ以降は何も見えなかった。

 

「な、なぁ!あいつ今何かしたか!?」

「わ、分からない……あっ!」

 

風魔龍が体を大きく捻り、背中に乗っていた人が空中に投げ飛ばされた。さらには後ろを向いた風魔龍が空中で身動きのとれないあの人に迫り、口を大きく開けていく。あのままじゃ……!

 

「!!パイモンは離れてて!」

「へ?うわっ!?」

 

パイモンを危険に晒さないよう背後に投げ、私は風の翼を操って全速力で風魔龍の元へ飛んでいく。

 

間に合って──────!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?おい──────」

 

トワリンの接近に注意しつつ、こちらに向かってくる少女の事も気にかけていたが、突然横から突進するように抱き着かれたと思えば2人揃って下へと落とされた。状況的にトワリンから助けてくれたんだろうけど、正直1人でどうにか出来た。というかもう一度トワリンに乗り込むチャンスを潰されてしまった。

 

「逃げたか……」

 

少女に抱き着かれたまま空中をゆっくり回転しつつ落ちていく中、見上げればトワリンが去っていく姿が見えた。5つあった腐食した血の結晶を3つも破壊された上に自身の攻撃は通じない。故にこのままでは勝ち目がないと見て逃げ出したんだろう。とりあえずこの体勢で追撃されるのは良くない為、助かったが。

 

「というか、ここから着地までどうするか考えあるのか?」

「っっ……!」

 

俺の腰に抱き着いてる少女に尋ねるものの、落下の風圧に耐えるのが精一杯で目すら開けておらず、俺の声も聞こえてないように見える。そもそも風の翼は1人用だ。俺を抱えて飛ぼうとしても無理だろうから彼女に出来る事はない。つまり俺がどうにかするしかないって事だ。

 

「しっかり掴まっててくれよ?」

 

右手があれば彼女を抱き締められるがない以上、仕方ない。モンド城が真下に迫りつつある中、俺は左手に握る西風大剣を振りかぶる。

 

「よっ」

 

真下に向かって小規模な山嵐を放ち、俺達はそれに包まれる。これに上空へと浮かべる力はないものの風の力で落下速度を弱められる。それにより俺達はゆっくりと俺達はモンド城へと降りていった。

 

「…─?あれ……う、浮いてる……?」

「おう、俺がやったんだ。助けてくれてありがとな、お嬢ちゃん」

 

さてさてさ~て……モンド城に戻ったらまずはこの子と話をしねぇとなぁ。あとまだ予想の域を出ないけど、この子が空の言ってた“妹“か?髪や瞳の色とか見た事ねぇ服装、それに“妹がモンドに現れた時から強大な敵が現れ始める“ならトワリンがいるし。

 

まっ、あとで確認してみればいいか。




動画を見返してて気付いたんですが、トワリン戦の空中シューティングで撃ってた弾って風元素なんですね。旅人の前に風元素の紋章が出てた事に今更気付きました。

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