暴風が収まったモンド城では未だにトワリン襲撃の影響が残っていたものの、大きな建物の損傷や死者などが出たわけではない為、必要最低限の西風騎士を残して他は周囲の警備への増員などに回ってるらしい。
レストラン“鹿狩り“や雑貨屋“モンドショップ“などのお店もしばらくは閉めるものの、片付けが終わり次第再開するらしくあと数時間もすれば再び開けられる様子だった。
「一時はどうなるかと思ったけど、よくこれだけで済んだよな~」
「うん、全部アレンさんのお陰だね」
「おいおい、褒めても何も出ねぇぞ?」
というか俺はあの巨大な竜巻に対処し、トワリンを撃退したが怪我人だけで済んだのは西風騎士団による避難誘導や救助などがあった事が大きい。流石はジンだな、指示が的確かつ素早い。
「ん?あそこにいるのってジン団長じゃないか?」
「あん?……おっ、本当だな」
噴水広場まで辿り着いた俺達はその隅っこにいるジンを見つけた。落ち着いてきた城内の様子を見て回ってるのかと思ったが……どうやら違うらしい。ジンの正面に立って話をしている人物がその証拠だ。
「……もう一度忠告しよう。モンドの防衛を我々ファデュイに渡した方が賢明な判断だとは思わないのか?」
「思わない。貴方達貴国の使節団の力を借りずとも、龍災を止める事は出来るからな」
その人物とはスネージナヤから来たファデュイの女外交官である。顔の上半分を隠してる仮面と特徴的な服装のお陰で凄い分かりやすい。どうやらまたトワリンを狙って交渉しに来たみたいだが……ホント諦めがわりーな。
「ほぅ?城内を襲われる事態になるまで風魔龍を滅ぼさずに放って置いたのにか?」
「っ……それは」
「それにかの有名なアレン・グンヒルドでさえ手こずってると聞いてるが……?」
痛い所を突くなぁ、あいつ。確かに手こずってはいるが、その手こずってる理由はファデュイが考えてるものとは全然別だ。滅ぼせないのではなく、滅ぼさないのだ。風魔龍として暴れ回ってるのは事実だが、それは毒龍ドゥリンの毒血とアビス教団が唆したからだ。かつてモンドを守ってくれた東風の龍を苦しめられた末に滅ぼすなんて酷いにも程があんだろ。
それに……ウェンティが“友達を助けたい“ってんならあいつの友達である俺も助けてやんなきゃな。
「おいお~い?誰が、いつ、手こずってるなんて言ったぁ?」
「?誰だ、我々の“誠実で建設的な意見の交わし合い“を邪魔するのは……っ!?ア……ア、アレン・グンヒルド!?」
おいおい、そんなびっくりしなくてもいいだろ。しかも見つけた瞬間からどんどん後ずさってるし。ま、ファデュイからすりゃ執行官や精鋭のデットエージェントでもなきゃ“特級危険対象“の俺と会うなんて状況によっちゃ地獄みてぇなもんか。ただの外交官が俺に敵うわけねぇし。
「兄さん!それに君達も帰ってきたか」
「おう、帰って来たぜ~。……んで?誠実で建設的な意見の交わし合いってのはどういう……」
「きょ!今日はこの辺りで終えるとしよう!代理団長殿!で、ではこれで!」
「あ、おい!」
そう言って走り去ってく女外交官を俺達は見送る。いやはや、思ってたよりも随分と怯えられたな。同じファデュイのアヤックスなら俺を見つけた瞬間、笑顔で勝負を挑んでくるってのに。アレはアレで戦闘好き過ぎるけど。
「……行ってしまったな」
「わりぃな、困ってたから助太刀のつもりだったんだが。いらなかったか?」
「いや、助かったよ。彼らにモンドの防衛を任せるつもりはないが……城内の人々を危機に晒してしまった事は事実だからな……」
人々への申し訳なさから耳が痛くなるような言葉を言うジン。しかも口に出した事でその現実が重くのし掛かってきたのか目線を下に落としてしまった。
「……ったく」
そんな落ち込む妹の頭をガシガシと撫で回してやれば「ひゃんっ!?」などとあまり聞き慣れない可愛らしい声が飛び出た。
「んな落ち込むなって、らしくねぇなぁ。何もジン、お前1人で背負い込む必要なんかねぇだろ。だからこそみんな、今頑張ってんだ。その結果、暴風は消えて元素循環は元に戻った。一先ずは安心させられただろ」
「そ、そうだな……うん。ありがとう、兄さん」
どうやら気持ちを持ち直せたらしい。しかしま、副団長もとい代理団長という肩書きは、それ相応の『覚悟』が必要となるが同時に大きな『責任』に苦しめられる立場でもある。
真面目過ぎる性格や騎士としての行動力や高潔な意思を人一倍に強く持つジンは間違いなく誰よりもその『責任』を強く受け止めているだろう。正解とも間違いとも言えないが、そのストレスをたまにはちゃんと発散してもらいたいもんだ。
「アレンさんとジンさんって本当に仲がいい
「だな!でもそろそろ話に入っても大丈夫か~?」
「あっ……す、すまない。に、兄さんもそろそろ手を離してくれ」
「へいへい」
蛍とパイモンに見られてる事を忘れてたのか、恥ずかしそうに頬を赤くしたジンからそう言われ、乱れてしまった髪を直しつつ頭から手をどかした。
「なぁ。あいつ、使節団って言ってたけど……あまりいい雰囲気じゃなかったな。どこから来た使節団なんだ?璃月港?それとも稲妻城か?」
パイモンが近隣の国の名前を出して尋ねてくるが、そのどれらとも違う。あいつらはもっと遠くから、しかも色々な国に手出してる使節団だからな~。
「いや……彼女達は氷神を祀る国家、スネージナヤから来た使節団だ。その使節団には名前があってだな、“ファデュイ“という言葉に聞き覚えはないか?」
「あっ、オイラ聞いた事あるぞ!悪いイメージばっかだけど、本当にそうなんだな……」
「えっと、そうなの?」
ファデュイと聞いてピンと来たパイモンに対して、蛍はどうやらファデュイ自体を知らないらしく首を傾げて俺に尋ねてくる。ま、あいつらの悪事を上げようと思えばいくらでも出てくるからな、悪いイメージばかりなのは仕方ない。
「ま、あいつら悪さばっかやってるからな。どの国にとっても頭痛の種でしかねぇんだよ」
「なるほど……」
国を混乱に陥れる他にも、例えばスネージナヤが運営し、主な従業員がファデュイのメンバーである北国銀行。各国に支店を構えてるアレは銀行としてちゃんと活動はしてるがバカ高い利息を支払わされるなど、黒い噂が絶えない事で有名だ。
他にも国民を誘拐したり、開発した邪眼をリスクは説明せずに力を求める人物に渡して人体実験の被験者にするなど決して許されない事だって平気で繰り返す奴らだっているし。人の命を何だと思ってんだあいつら。
「彼らは風魔龍退治という口実を作り、風神眷属の力を手に入れたいだけだ。それだけは絶対に防がなければならない……」
「あっ。力と言えば……」
蛍が何かを思い出したらしく、自身のポケットをまさぐり始める。しかし途中でその動きを止め、ポケットからは何も出さずに俺とジンに向き直った。
「騎士団に見てもらいたい物があるんだけど……ここだとちょっと目立つかも」
「見てもらいたい物……?」
「うしっ、なら団長室に行こうぜ。報告もあるし、丁度いいだろ」
彼女が何を見せたいのかは分からないが、ここだと確かに人目につく。今後の事を考える必要もあるし、一度騎士団本部に戻った方がいいだろうからな。
短いと思いつつも、区切りが良かったので投稿してしまいました。あとは生存確認の為にと……。