元モンド最強騎士はそろそろ彼女を作りたい   作:白琳

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第1話

元西風騎士である雷鳴騎士・アレンが()()()()()()()()()()()()()()()事はモンドの民にとって周知の事実であり、同時にモンド七不思議に入っている話の一つだ。

 

……何故その話が不思議なのか?

 

ディルックが騎士団を抜けてから約1年後。本人は嫌々ながらもアレンが次期副団長候補に選ばれた頃。

 

ある日の、大雨だった夜。大聖堂へ突然右腕を肩からまるで斬り落とされたかのように失い、気絶しているアレンが担ぎ込まれた。彼を運んできたのは義妹のジンであり、まだ副団長ではなかったとはいえ彼女もずぶ濡れで、相当取り乱していたとシスター・ヴィクトリアは語った。

 

今も、そして当時も既に親子関係はなく血も繋がってないが、大切な息子の危機に西風教会の主教、「払焼の枢機卿」サイモン・ペッチともう一人の義妹にして牧師バーバラも駆け付けた。彼らを中心とした治療者の懸命な努力により、アレンは一命を取り留めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジン……教えてくれないか?あの日、一体アレンに何があったんだ?」

「…………」

「……はぁ。今日も駄目か」

 

サイモンは閉じられた娘の部屋のドアに問いかけるが、中から答えは返ってこない。この日は三度目の問い掛けを最後に彼は諦め、元妻であるフレデリカに声を掛けて大聖堂へと帰っていった。

 

あの日からジンは自室に閉じ籠ってしまい、両親や妹からの問い掛けにすら答えなくなってしまった。食事はドアの前に置いておけばいつの間にか食べ終わった状態で戻ってきているのだが、姿を見せてくれない事には誰も安心できなかった。

 

 

 

 

「…………」

 

ベットの上でジンは体育座りをして膝に顔を埋めていた。かつて綺麗だった部屋は彼女が暴れた事によって散らかり放題であり、着ている服も変えてない事から少し臭い、ほどいた髪によって彼女の表情は周りからは見えない。

 

「何で……兄さんは……っ」

 

アレンを一番近くで見ていたのはジンだった。英雄ヴァネッサと兄アレンに憧れ、西風騎士見習いとなった彼女は早く兄の隣に並び立とうと、そして人々の為に強くなりたいと人一倍、いや、三倍は頑張った。

そして彼女はその頑張りと強さを大団長に認められ、短期間で西風騎士へと昇格できた。

 

騎士団を率いる大団長ファルカ、モンド最強を誇る雷鳴騎士アレン、最年少の騎兵隊長ディルック──────西風騎士となっても目指すべき目標は多く、ジンはもっと強くなりたい、兄さんやヴァネッサ様のようになりたいと願い、様々な任務へと赴いた。

もちろん優秀な兄と比べられなかった訳ではない。アビス教団によるモンド襲撃を阻止し、ヒルチャールの軍勢を討伐するなどを成し遂げてきた兄と比べ、妹はグンヒルド家の血を引いてるにも関わらず平凡な力量しか持ち合わせていない。

 

彼女は怖かった。いずれ兄からダメな妹と言われてしまうのではないかと。お前はヴァネッサにも俺みたいにもなれないと言われてしまうのではないかと。

そんな実際はありもしない事を考えている時だった──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

何故こんな事になってしまったんだろう?私はそう思わずにはいられなかった。

 

「Ya!Ya!」

「Geba!Sisiba!」

「Da!Da!!」

 

私と他の西風騎士達を取り囲む大勢のヒルチャール達はもう何十体と倒したのに減る様子が見られない。それどころか、最初よりも増えているようにも感じられた。

 

 

 

 

騎士団本部に偵察騎士からある報告が入った。モンド城から離れてはいるものの、規模が大きいヒルチャールの集落が発見されたと。それを聞いた大団長はすぐにディルック隊長に指示を出し、その集落を破壊する為の部隊が編成された。

ディルック隊長を始め、優秀な西風騎士数十名に加えて私や同期であるガイアもその部隊に選ばれた。兄さんも選ばれるはずだったが、タイミングが悪く他の任務へ出向いていた為に選ばれる事はなかった。

 

私はこの戦いでさらに強くなってみせると決意していた。周りに実力を認めさせ、兄さんに一歩でも近付きたいと思っていたのだ。

 

しかし──────

 

「何だ、この数は!?」

「ヒルチャールが何故こんなに……?」

 

私やディルック隊長、他の西風騎士達もヒルチャールの集落の異常な大きさに驚愕した。確かに偵察騎士からの報告通り、規模は大きいがおそらく過去最大と言ってもいいだろう。ただのヒルチャールだけでも50体以上、暴徒さえも約20体はいる。しかもシャーマン達により岩の柱や茨の壁が築かれ、侵入は困難を極めると思われる。

 

「アビス教団が何かを企んでるのか……?」

 

アビス教団……人類に対して悪意を持つ怪物達であり、ヒルチャール達を指揮している謎の集団。私はあまり遭遇した事がないものの、非常に厄介な敵と認識している。

 

「……エリック。すぐに騎士団本部に戻って大団長にこの状況を報告し、援軍を連れてくるんだ」

「た、隊長達はどうするのですか?」

「僕達はここで奴らの動きを見張っている。この規模だ、おそらくモンド城に総攻撃を仕掛けるつもりなんだろう。その前に何としてでも潰さないと」

 

……確かにディルック隊長の考え通りならモンド城に住む人々に被害が出る可能性は高い。西風騎士団が応戦してもこの数を相手にしながら人々を守るのは無理だろう。

 

「分かりました……必ずこの事を大団長に伝え、戻ってまいります!」

「ああ、頼むぞ。ヒルチャールに気付かれないようにな」

 

ディルック隊長の指示通り、ゆっくりとした動きでこの場を離れていくエリック。しかしここからモンド城まで全力で走っても40分はかかるはず。それまでの間、ヒルチャールに気付かれず、尚且つ奴らを見張らないといけないのか……。

 

「よし……僕らも一旦ここを離れるぞ。高台から見張れば、奴らから気付かれにくいはずだ」

「はっ」

「分かりました」

 

それぞれがゆっくりと動き出し、この場を離れようとする。私も他の騎士達と同様にヒルチャールに気付かれないよう移動を──────

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤパキ。

 

「っ!!?」

 

私……なのか、他の誰かなのかは分からない。しかし誰かの足が不幸にも枝を踏み、しかも折って音を立ててしまったのは紛れもない事実であった。

 

「まずいっ……」

「Ya!Ya!」

「Geba!Babasu!」

 

ディルック隊長がそう呟くのとあの大勢いたヒルチャール達が一斉に襲いかかってくるのは、ほぼ同時の事だった。

 

 

 

 

 

「あがぁっ!?」

「ごふっ……」

「ナルパ先輩!アテーム!くそっ……」

 

私と共に戦っていた西風騎士2人が大型ヒルチャール……通称暴徒の一撃により沈められ、地面を転がる。苦しそうにゲホゲホと咳をしてる事から命を落としていないのは確かだが、あのボロボロの状態で動けるとは思えない。これで残っている動ける騎士は私とディルック隊長、ガイア、そして他に二人の騎士だけだ。

 

「っ、がっ!?」

「ガイア!!」

 

ヒルチャールが放った矢による一斉攻撃を受け、血反吐を吐きながら膝をつくガイア。彼を守る為に二人の騎士が駆け付けるが、この状況で誰かを守りながら戦うのは危険だ。共倒れになりかねない。

 

「ディルック隊長、このままでは……!」

「分かってる……!」

 

本来なら指揮を出さないといけないディルック隊長は暴徒を6体も相手にしつつ、さらには倒れている騎士達を守っている。それに精一杯で私達に指揮を出す隙が作れないのだ。

 

「っ……!!」

 

私に……もっと力があれば。兄さんやヴァネッサ様のような強い力があれば敵を倒し、みんなを守れるというのに!

 

「Gaaaaaa!!」

「っ、しまっ──────」

 

暴徒が持つ炎の斧。それが自身の力の無さを責め、周りから意識を外してしまった私に迫ってくる。避けようにも時既に遅く、防ごうにもあんなのをまともに受け止められるはずがない。

 

ディルック隊長やガイアの私を呼ぶ声が聞こえてくる中、私は体を襲うであろう激痛に耐えようと反射的に目をつぶってしまい──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────相手が前にいるのに目をつぶってどうするんだよ?」

 

しかし痛みはいつまで経っても来ず。聞こえてきた声に目を開ければ、すぐ目の前で暴徒が振り降ろした斧が止まっていた。

 

「っ!?」

「危機一髪だったな、もうちょっとで頭かち割られてたぞ」

 

視線を横に向ければそこにいたのは西風騎士の一人。だがその強さはモンド最強と謳われ、私が目指すべき目標の一人でもある存在。

 

癖っ毛のある銀髪、騎士団の鎧を着ず動きやすさに特化した守りの薄い服、片手に持つ西風大剣、腰にぶら下がる紫色に輝く神の目──────

 

斧の棒部分をなんと片手で掴み、止めてしまってる兄さんの姿がそこにはあった。

 

「に、兄さん……何故ここに?」

「おう、お前の兄ちゃんだぞ~?まぁ、説明は後でな。にしてもよくこんなにヒルチャールが集まったもんだな!」

 

辺りを見渡しながらそう言う兄さんだが、その間も片手で掴んでいる斧は暴徒がいくら力を込めようとびくともしない。足に力を入れ、地面に微かな亀裂が入ろうとも、だ。

 

「……妹に怖い思いさせやがって。失せろ」

 

低く言う兄さんの神の目が輝き、媒介にした足に雷元素が纏わりつく。私が近くにいる為か放出を最小限にしているらしく、周囲をピリピリとした感覚だけが襲っていた。

 

そしてほんの瞬きの一瞬──────振り上げられた足が斧をへし折り、蹴りを受けた暴徒は稲妻の如き閃光と共に遠くの大木まで吹き飛んでいった。

 

「っ……!」

 

雷極術(らいごくじゅつ)雷脚(らいきゃく)──────兄さんが使う技にして基本技の一つ。兄さんとの任務同行がまだない為にまともに見た事はほとんどないが、噂によればあの技一つでも本気で放てば遺跡守衛や岩兜の王すらも圧倒できると聞く。

 

「ジン、お前は怪我人を集めて下がってな。あと、重傷者の手当ても頼むぜー」

「兄さんは何を……?」

「おいおい、何言ってんだ。お前の兄ちゃんはな──────モンド最強なんだぜ?」

 

西風大剣を構え、弾けるように消える兄さん。そして次の瞬間には遠くにいるヒルチャール達が訳も分からず吹き飛んでいた。

 

「…………」

 

多分、きっと……いや、絶対にそうだ。兄さんは任務を終えて本部に戻り、エリックからの伝言を聞いて駆け付けたんだろう。

 

4()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

……分かってる。大団長やディルック隊長はともかく、兄さんは次元が違う。いくら強くなっても辿り着ける事のない、絶対的な存在。

 

それでも私は、兄さんに──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……んん……?」

 

ここは……?そうだ、確か昨日は色々な依頼が舞い込んできたんだ。24時までにモンド公共施設評議報告書を、1時までに来週の冒険者協会との報告会議で使う書類のまとめ作業を終わらせたはず。それから3時までに風魔龍による被害報告の書類を確認して、それから……?

 

「っ!!?」

 

しまった!自身の体調不良を言い訳にする気はないが、不覚にも眠ってしまったか!まずい、まだ確認する書類が残っている上に、早朝の内に終わらせるはずだった城外での依頼が──────

 

「……?」

 

そこでふと自身に掛けられてる謎の重さに気付き、それに触れる。それは普段、私が仮眠用にと使っている毛布だった。しかし今日、私がそれを使用した記憶はない。ならば一体誰が……?

 

「よっ、おはよーさん。ちゃんと寝れたか?」

「えっ、に、兄さん……?」

 

視線を声の主へと向けると、本棚の近くに置いてある椅子に座って本を読む兄さんの姿があった。私が起きた事を確認すると近くに置いてあったレストラン・鹿狩りの袋を持って近寄ってくる。

 

「ほい、朝飯。漁師トーストと満足サラダでよかったか?」

「あ、ああ。ありがとう……いや、それよりも!早く残ってる仕事を……!」

「ん」

 

慌てる私に兄さんは突然何かを突きつけてきた。それはモンドの民から寄せられた依頼書の束であり、受け取ってみればどれも城外でのものであった。

 

「それは全部片付けてきてやった」

「……えっ、ぜん……えっ?」

「だからお前はゆっくり書類の整理でもやってろ。つかそれ以前にちゃんと寝ろ、その生活リズムだとまた倒れるからな。あんま兄ちゃんに心配させんな」

 

そう言って兄さんは団長室を出ていく。……寝落ちしてしまうまでこの依頼書は私が管理していた。つまり私が寝てしまった後に兄さんはここを訪れ、この依頼を全て終わらせてきたという事だろう。

 

「どうやら……私はまだまだ兄さんに頼りっぱなしみたいだな」

 

実力を認められて蒲公英(ダンデライオン)騎士の称号を授かっても。小隊隊長から副団長、そして代理団長になっても。まだ兄さんには追いつけそうにない。

 

だがそれでいいんだ。私にとって兄さんは目指すべき目標であるが、越えるべき目標ではない。

そして何より……兄さんには誰よりも強く、尊敬できる唯一の兄でいてほしい。

 

「ありがとう、兄さん」

 

私はそう呟き、兄さんが掛けてくれた毛布をギュッと掴んだ。




原神やってて思ったこと。

テイワットにも曜日ってあるのかなーと思いました。もしあるなら、元素も7つありますから何か関係するんですかね。火曜日→炎元素、水曜日→水元素みたいな感じに。
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