元モンド最強騎士はそろそろ彼女を作りたい   作:白琳

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職場やプライベートで色々と暗い事があり、モチベーションが下がってしまいなかなか書く意欲が出なかったのですが、約2か月ぶりに投稿できました!
まだバタバタしてますが、ちょっとずつ執筆はしてますのでこれからもよろしくお願いします。

今回はほぼ蛍回です。

※前回のアレンとディルックとの会話に変更があります(8/31日以降)。まだ読んでないという方は確認をオススメします!


第18話

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ僕が話すは古の話

 

ㅤㅤㅤ神々がまだ大地を歩く時代の物語

 

ㅤㅤㅤㅤㅤ天空の龍が空から降り立ち

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤ世界の(よろず)に好意を抱く

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤ龍は自ら答えを探し

ㅤㅤㅤㅤㅤ雑然とした世に目を回す

 

ㅤㅤㅤㅤㅤ風の歌い手が琴をつま弾き

ㅤㅤㅤㅤ天空のライアーがそれに答えた

 

ㅤㅤㅤㅤㅤ龍は好奇に駆られし幼子で

ㅤㅤ過去の苦悩を忘却せしと飛翔しただけ

 

ㅤㅤㅤそれは詩に耳を傾け、歌を諳んずる

ㅤㅤㅤ万物に己が心を理解させるために

 

ㅤㅤㅤㅤㅤ歌い手と龍は伝説となり

 

ㅤㅤ暗黒の時代がやがて始まる────

 

 

 

 

 

「おや?君達は……」

 

アレンさんと別れた後、私達はアレンさんからの助言通りウェンティという吟遊詩人を探すべく行動に出ようとした。だがその時丁度、私達の傍を1人の少年が走っていったのである。

 

その少年とは、緑色の服装が特徴的な吟遊詩人。最初はパイモンと一緒に見過ごしてしまっていたが、よくよく考えればアレンさんが言っていた特徴と一致し、尚且つ私達がモンド城に辿り着く前に森で出会った少年と同一人物だという事に気が付いた。

私達は急いで彼を追い掛け、最終的に追い付いた広場で詩を歌っていた彼に話しかける事が出来たのである。

 

「あっ!森でトワリンを驚かせた人達だ!」

「トワリン?それって確か……」

「風魔龍の名前だよ、パイモン。アレンさん達がさっき言ってたじゃない」

「おおっ、そういえば言ってたな!」

 

教えてもらったわけではないが、あの本を読み進める中でアレンさん達は風魔龍を『トワリン』とも口にしていた。おそらくはそれがあの龍の本当の名前なんだろう。

 

「へぇ、アレンと知り合いなんだ。でも彼って今はトワリンが襲撃してきたせいで忙しいはずだけど」

「……そのアレンさんから言われたの。自分が知らない事を貴方なら知ってると思うって。貴方の名前はウェンティ……だよね?私は蛍、こっちはパイモン」

「そうだよ。僕が吟遊詩人、ウェンティさ。でも……ふ~ん。彼も七国を旅したり色々あって博識だけど、知らない事もあるんだね」

 

……確かに。アレンさんはトワリンが風魔龍になった理由やトワリンが流した涙、それに含まれる毒の事などジンさんやリサさんが知らない色々な事を知っていた。そのアレンさんでも答えられなかった事を知ってるかもしれない彼は、何者なんだろう?アレンさんは吟遊詩人としか言ってなかったけど……。

 

「いいよ。ボクに何を聞きたいのかな?」

「まずはこれを見てもらいたいんだけど……」

 

そう言って私は浄化された涙の結晶をウェンティに見せた。あの森で手に入れ、団長室で見せるまでは濁った色をしていたにも関わらずいつの間にか浄化されていた、トワリンが流した涙の結晶。

この結晶にウェンティは見覚えはあるようで、目を見開き驚いていた。

 

「これは……トワリンが苦しんで流した涙だ。でも……おかしい、本来ならこんな色は……っ、もしかして浄化されてる……?」

「あぁ、そうだぞ。こいつが持ってる間にいつの間にか浄化されてたんだ」

 

結晶に指先で触れ、信じられないという表情で見つめるウェンティだったが、何かを思い出したのか慌てて服を両手で探る。そして出てきたのは─────

 

「涙の結晶……」

「うん、僕も持ってるんだ。君の質問に答えたいけど、その前にこの結晶の浄化もお願いしたいんだ」

「いや、でもこいつもどうやったかは……」

「…………」

 

私はウェンティが差し出す涙の結晶に手を重ねた。どうすれば浄化できるのかは自分でもよく分からない。でも持っている間に浄化されていたという事は、もしかしたら……。

 

「あっ」

 

私が触れた涙の結晶はウェンティの手から浮かび上がり、涙の中で渦巻いていた濁りは消え、空中で綺麗な水色の光を放つ。それは私が持つ浄化された涙の結晶と同じ輝きだった。

 

「えっ!?じょ、浄化できたのか!?」

 

涙の結晶の変化にパイモンが驚いた。しかし驚いてるのは彼女だけでなく、浄化した本人である私も驚いている。出来ると予想して触れたとはいえ、実際にやるとでは違うのだ。

 

「へぇ……君、不思議な力を持ってるんだね」

「これで私の質問に答えてくれるかな?」

「うん、いいよ。ボクが答えられる内容なら何でも!」

 

私から浄化された涙の結晶を受け取ったウェンティは快く私の質問に答えてくれる様子だった。じゃあ、と浄化が成功したからか機嫌のいい彼に私は口を開いた。

 

「私がこの涙の結晶を浄化できた事について、ウェンティは何か分からないかな?」

「うん?それは君の力なんじゃないかい?」

「そうなのかもしれないけど、私には心当たりがなくて……」

 

私の質問を聞いたウェンティはう~ん、と悩み始めた。しかしなかなか返答はなく、しばらくするとウェンティは申し訳なさそうに答えてきた。

 

「すまないけど、ボクにも君がどうして涙の結晶を浄化できたのかは分からないかな……ごめんね、浄化をしてくれたのに力になれなくて」

「ううん、大丈夫。ありがとう」

 

アレンさんに紹介されたとはいえ、元々期待はしていなかった。涙の結晶はこの世界の物だけど、私が浄化できたこの力は外の世界由来のものだ。その力がどうして涙の結晶を浄化できたのかを解き明かすにはこの世界の住人では難しい話だ。

 

「……うん、君が浄化してくれたこの龍の涙を見ていると彼女の事を思い出すよ」

「ん?彼女って誰だ?」

「ふふっ、それは秘密かな。それじゃ、ボクはお先に失礼するよ」

 

そう言ってウェンティは歩き出すと、私とパイモンの隣を通り過ぎていってしまった。

 

「お、おい!どこに──────」

 

 

─────モンドの「英雄の象徴」

 

─────そこで待ってるよ

 

 

私達が振り返り、パイモンが声を掛けたその先にウェンティの姿はなく、ただ彼の声だけがまるで頭の中に響き渡るように残っていただけだった。

 

「あ、あれ?あいつどこに行ったんだ……?」

「…………」

 

ウェンティ……気になる事は色々あるけど、そういえば彼の声、どこかで聞いた事があるような……?

 

「うーん……蛍、どう思う?あいつのこと……」

「変わった人、だとは思うけど」

「あいつからしてみればお前も十分変わってると思うけどな!」

 

それはどういう意味かな、パイモン?まぁ、たぶん神の目がなくても元素が使える事や涙の結晶を浄化できた事だとは思うけど。

 

「……それと、もしかしたら声を聞いた事があるかもしれない」

「ウェンティのか?」

「うん。どこでかは思い出せないんだけど……とにかくもう一度彼と会って話がしたいな。もしかしたら風神の事も何か知ってるかもしれないし」

 

そう考えるとアレンさんも風神や他の七神について何か知ってるのかもしれない。さっき、七国を旅してたってウェンティが言ってたし、可能性はあるはず。

 

「でも……英雄の象徴って一体どこの事なんだろう?」

「あっ、それなら分かるぞ!モンド城の目の前に立つ、あのすごーく目立つ木の事だ!」

 

目立つ木……あっ、たぶんあのとても大きな木の事だ。そういえばモンド城に来る途中や南風の獅子(ダンデライオン)の神殿に向かう時とかに見かけていたっけ。

 

「じゃあ、そこに行ってみよっか」

「おうっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ英雄ヴァネッサ

 

モンドに住む者なら誰もが知っている名前であり、風神バルバトスと同じく崇拝され続けているモンドの英雄。

約1000年前に暴君として君臨していたローレンス家を始めとする貴族達を打ち倒し、モンドに自由と平和を取り戻した彼女はその活躍を神に認められ、最期は天空の島“セレスティア“へと昇っていったとされる。

 

彼女が旅立ったとされる場所、それこそが風立ちの地に生える巨大なオークの木であり、モンドの「英雄の象徴」なのだ。

 

 

 

 

 

 

「────来たんだね。そろそろ来る頃だと思ってたよ」

 

モンド城を離れ、目の前に見える巨木を目指して歩いて行くとその幹の足元にウェンティはいた。どうやら私達が真っ直ぐここに来ると分かっていたらしい。

 

「それで?ボクにまだ何か質問でもあるのかい?」

「……風神について、聞きたい事があるの」

「えっ、風神バルバトス?あいつならもうモンドから消えたよ?」

 

ウェンティ曰く……隣の璃月や離れた稲妻にはまだ神がいるものの、モンドは風神が随分と前に立ち去っており、この国の人々は長い年月の間、風神とは会えていないらしい。

 

「どうして風神の事を聞きたいんだい?トワリンのせいで何か困ったことでも?」

「それは……!」

「あの龍の過去を教えてもらったの。私は神について調べてるんだけど、風魔龍はかつて四風守護だと聞いたから」

 

かつてお兄ちゃんを捕らえ、私を封印したあの謎の神……彼女の正体を突き止め、お兄ちゃんを助けて共にこの世界から次の世界へと旅立つ事が私の目的。アレンさんはお兄ちゃんから聞いたのか私達がこの世界出身でないと知っていたが、出会った人達全員に私達の事情を全て説明する必要はない。『貴方の国の神について知りたい』、ただそれだけを伝えればいい。

 

「ふ~ん、一体誰からトワリンの過去を?」

「大体はアレンから聞いたぞ!」

「うん。トワリンが風魔龍になったのはドゥリンの毒、それからアビス教団がモンドを憎むよう仕向けたからって……」

「へぇ、そこまでアレンは君達に話したんだ。ま、彼が言ったんなら問題ないかな」

 

うんうんと納得しているウェンティ。というか、トワリンの過去を聞いても特に驚いてないって事はアレンさんが言ってた事は知ってるみたい。

 

「ところで、何でお前はここに来たんだ?」

「ボクもさっきまでトワリンと同じ毒に蝕まれていたんだよ。でもここは「英雄の象徴」、モンドの全ての源だ」

 

風が吹き、ザアッと大木の葉が一斉に揺れる。その風と共に一緒に流れてくる葉の匂いが鼻をくすぐる。

 

「君と一緒に木陰にいると、龍の涙が浄化された時みたいにボクの中の毒が消えていくんだ」

「そうなのか?でも何でお前は毒を?」

「そりゃあ、前にトワリンと会話しようとした時、誰かさん達に邪魔をされてねー……呪いを払うどころかボクまで毒に蝕まれちゃったんだ」

 

えっと……それって、もしかして……?

 

「わ、私達のせいって事かな……?」

「そうだよ!」

 

だよね……知らなかったとはいえ、ウェンティとトワリンの邪魔をしてしまったのは本当の事だし。ただそのせいでウェンティまで毒に蝕まれてしまっていたなんて。

 

「「ご、ごめんなさい」」

「……ねぇ、ならお詫びにボクのお願いを聞いてくれないかな?」

 

謝る私達に、うーんと悩んだウェンティはそう提案してくる。彼に迷惑をかけてしまってる以上、断るというのは悪いし、聞いてあげたいけど……。

 

「君達が言う風神にもちょっとは近付けるかもよ?」

「……分かった」

「どんなお願いなんだ?」

「ありがとう!それはね──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディルックの屋敷を後にし、一旦俺はモンド城に戻ってきた。とりあえず今出来る事はこんなもんだろう。トワリンが再び動き出せば話は変わってくるが、そうじゃなきゃ明日の作戦会議までは特に何もないか。

 

グ~……ギュルルルッ……。

 

「あ~、腹減ったな。朝食べてから何も食べてなかったし」

 

ファデュイの隠れ家への襲撃、トワリンとの対峙、四風守護の神殿の解放……続けざまに色々あったからなかなか食べる余裕がなかったもんな。時計台を見れば既に昼は過ぎ、もうそろそろしたら夕方に差し掛かる時間であった。

 

「なんかちょっと腹に入れとくか」

 

トワリンの襲撃から時間が経ち、城内の店も少しずつ再開し始めてる。鹿狩りだとしっかりしたもんが殆どだし、他に何かねぇかな~?

 

「あっ!やっほ~、アレン」

「おっ、アレン!帰ってきたんだな!」

 

何かその辺に売ってないかなと探してると、突然声を掛けられた。その相手はアビスの使徒共と戦ってる時に頭ん中で話したっきりのウェンティ、それからどうやらウェンティを見つけたらしいパイモン。あと、その2人の後ろから蛍が駆け寄ってくるのが見える。

 

そしてその3人の手には何故か食べかけのアップルパイが握られていた。

 

「よっ、ウェンティ。体は大丈夫なのか?毒に蝕まれたって言ってたが」

「うん、もう大丈夫だよ。彼女にお詫びの1つとして買ってもらったこのアップルパイも美味しいしねー♪いやぁ、リンゴを加工してこんなにも美味しく出来るなんて、素晴らしいな~」

 

お詫び?蛍が何か迷惑でも掛けたんだろうか?俺からしてみれば、ウェンティの方が圧倒的に迷惑かけそうだけど。

 

「結局自分とパイモンの分も買う事になったけどね……」

「へぇ、旨そうだな。どこで買ってきたんだ?」

「城内のパン屋だぞ!あ、でも風魔龍が襲撃したせいで、これで終わりって言ってたっけ」

 

そりゃ残念。城内は被害が少なかったとはいえ、何も影響がないわけじゃないのは分かってる。他に何かないか探してもいいが、最悪夜飯まで我慢すっか。

 

「えっと……じゃあ、私のを半分食べる?」

「ん?いいのか?」

「うん。私、少食だから……はい、どうぞ」

「ありがとな、腹減ってたから助かる。んじゃ、遠慮なく貰うぜ」

 

蛍からアップルパイを半分(勿論まだ食べてない方)貰い、口に入れる。リンゴ大好き吟遊詩人が美味しいと評価してる通り、生地がサクサクしていて中のリンゴも甘くなかなか美味い。

 

「んで?蛍たちは涙の結晶のこと、ウェンティに聞いたんだろ?どうだったんだよ?」

「残念だけど、ボクにも何故彼女が浄化できたのかは分からなかったよ」

「お前でも分からねぇのか」

 

トワリン関連の事なら風神バルバトス本人に尋ねれば少しは何か分かるかもと思ったんだがな。

 

「でも成果はあったよ。彼女にボクが持っていた龍の涙を浄化してもらったんだ。理由は分からないけど、彼女はトワリンを蝕む毒に唯一対抗できる存在だよ」

「だろうなぁ~」

 

ま、分からないなら分からないでしょうがない。とりあえずウェンティに蛍の力なら“黒い血“を浄化できる事を確認してもらった。これで欠けていたトワリンを救う為のピースが揃った事になる。

 

「だから彼女……蛍にお願いしたんだ。トワリンを救う為にボク達に協力してもらいたいって。いいよね?」

「おう。というか、元々そのつもりだったしな」

「あ、やっぱり?君の事だからそうだとは思ってたけど」

 

残っていたアップルパイを口に放り込み、俺は蛍を見る。ウェンティから聞いてるんだったら、話が早い。

 

「蛍、トワリンを止める為にまた協力してもらえるか?」

「うん。ここまで来たら出来る所まで付き合うよ」

「おう!このままじゃ、トワリンが可哀想だからな!」

 

俺とウェンティ、ディルックにジン、そして蛍とパイモンが加わったこのメンバー6人でトワリンを救う。毒を浄化できる蛍がいれば最悪の事態(トワリンの討伐)は避けられるはずだし。

 

「そんじゃ明日の夜、エンジェルズシェアで作戦会議がある。それに蛍とパイモンも参加してくれ。時間は──────」


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