「おーい、ウェンティー。いるかぁ~?」
モンド城のすぐ目の前にそびえ立つ、かつてヴァネッサが天に上った場所に生えているオークの木。そんな伝説がある木に向かって声を掛けると、葉っぱと枝の隙間でヒラヒラと振られる手が見えた。
「んー?アレンだね、どうしたんだい?」
フワリとリンゴ酒を片手に飛び降りてくるウェンティ。見た目は緑色の服装が目立つ吟遊詩人の少年だが、その正体はモンドの民が崇拝する七神の風神バルバトス、その化身だ。旧モンドの神だったデカラビアンを暴政に耐えられなくなって滅ぼし、流浪の民となったモンド人の為に現在の新モンドを建国した七神の1柱である。……まぁ、自由を愛してやまない性格から暴君にならないようモンドから消えたり、民からの信仰を受け取らずにテイワットを巡ってるせいでモンドは「神が去った地」とも言われてるが。しかも神は人々の信仰心=強さみたいである為、自身を「七神最弱」と度々口にしてるし。
「トワリンの事についてだ。あいつの毒はまだ消えそうにないのか?」
「うん、そうだね……君が毒の塊をいくつか壊してくれたおかげでどうにか会話が出来る程度には正気に戻せたけど、完全に払うにはまだ無理そうだ。何かあったのかい?」
トワリン。風魔龍の本当の名前であり、かつて四風守護の「
1つ目は500年前にモンドを襲った毒龍ドゥリン退治の引き換えに奴の毒血を飲み込んでしまい、その毒がトワリンの体を蝕んでいる事。それにより正気でいられなくなってしまった。
2つ目はバルバトスが毒を払う方法を探る為に側を離れた事を「見捨てられた」と思い込み、加えてモンドの民が傷を癒す為に眠りについた自身を忘れ去ってしまった事への怒り。
そして3つ目が本当に迷惑な事をしてくれたなと言いたい事だが、アビス教団が毒で正気を失ったトワリンに“バルバドスとモンドにお前は見捨てられた“、“お前の味方は我々だけ“などと言って憎悪を深めさせ、モンドを襲うよう仕立て上げたらしい。
要は毒龍ドゥリンの毒を浄化できれば正気に戻して誤解も解けるんだが風神の力でもそれは難しいとのこと。長い年月で腐り、体外に出現した血の塊を砕いて体内を巡ってる毒血の速度を遅らせるのが今出来る手段だが、解決には程遠いのが現状だ。
トワリンのモンド襲撃の真実を知っているのは俺とウェンティのみ。騎士団にも話して情報を共有したい所だが間違いなくその情報の発信元を怪しまれ、最悪ウェンティの正体がバルバトスだとバレる可能性がある。人々の自由の為に信仰される事を嫌うウェンティからその可能性を無くす為に誰にも伝えないよう釘を刺されたのだ。
まぁ、風神でも解決策がまだ見つかってないのに「俺達はどうすればいいんだ!」なんて騒ぎになられても困るしな。伝えるにしても秘密が守れる少人数だ。
「ジンから聞いたんだが……ファデュイがトワリンの引き起こす
「……トワリンの力を狙っているんだね?」
「だろうなぁ。『テイワットを守護してる』な~んて言ってるけどやってる事はほとんど口に出せない事ばっかだろ。絶対ろくでもねぇ事考えてるぜ?」
全員ではないが、人体実験を躊躇いなく行えるような狂人ばかりである以上トワリンを奴らに任せればどうなるかなんて目に見えている。まっ、そもそも奴らに任せる気なんて最初からないが。
「ただ奴らには作るはずだった借りがねぇ。悩みの種のトワリンを殺して恩を売る事も兼ねてるんだろうが、問題を起こせばモンドから叩き出されるって分かってるみたいだな。ジンがきっぱり断ったら逃げていったらしい」
「借りがあったとしてもあの信仰深い彼女がファデュイの力を借りるなんて想像出来ないけどね。でもそれならファデュイの介入は心配ないんじゃない?」
「でも時間は掛けらんないだろ。モンドのあちこちでみんな龍災に怯えてるし、騎士団も結果を出せてない。俺が被害を抑えてはいるけど、このままだとファデュイに頼ろうとする奴が出てこないとも限らない」
ファデュイのやり方はともかく、先遺隊やデッドエージェントなどは神の目所有者である
「これ以上の苦しみは彼にとって危険だよ。何かされれば憎しみと怒りに囚われて二度と元に戻れなくなってしまうかもしれない」
「トワリンにも時間はあまり時間は残されてないって事か」
「…………うん。僕に1つ、考えがあるんだ。その為にはもう一度トワリンと会って話をしてみる必要があるんだけど」
「ならまた風龍廃墟に向かうか?」
前に一度、俺とウェンティはトワリンが巣にしている風龍廃墟に正面から突入した事がある。しかしその頃はまだトワリンとろくに話も出来ず、撤退するしかなかった。しかもその後、アビスの魔術師共が暴風の障壁を張り巡らせ、中に入る事が出来なくなってしまった。山嵐で吹き飛ばしてもすぐに元通りに戻ってしまう辺り、力技では突破できない特殊な障壁だろうなぁ。
「それならまずアビスの魔術師を捕まえてあの障壁を突破する方法を聞き出さなきゃいけないか」
「いや、それじゃダメだ。トワリンに僕らには敵意がない事を示さなきゃならない。その為には準備が必要なんだ」
「準備って?」
「
天空のライアー……あ~、風神バルバトスがトワリンを呼び出すのに使っていたモンドの至宝か。
現在は西風教会が管理しており、大聖堂の地下室にて西風騎士団が厳重警戒で保管してるはず。唯一バドルドー祭の期間中だけ外に持ち出されるが団長、主教、民衆の代表者の同意とサインされた書類が必要という徹底ぶりだ。
「つってもあれを持ち出すにはなかなか骨が折れるぞ?教会なんてトワリンを“東風を裏切った
「その点は心配ないよ、僕に考えがあるからね!」
「考えってどうするつもりだよ」
風神バルバトスである事を隠している以上、ウェンティは風とリンゴと酒が好きでチーズパンケーキがクドイからって苦手、酒代を稼ぐのにライアーを引きながらコップで酒を飲むなんてパフォーマンスをするちょっと変わった猫アレルギー持ちの吟遊詩人でしかない。
「えへへっ、それはヒ・ミ・ツ、だよ!」
……正直不安しかねぇんだが。酔っぱらったら使い物にならないこいつを初め、七神はどいつもどこかポンコツな所がある。隣国の璃月にいる
「じゃあ……ライアーは頼むぞ?俺はそろそろジンとディルックに龍災の真実を伝えてこようと思う。トワリンと決着を付けるんなら人手は多少あった方がいいだろ?」
モンドで実力があり、秘密を守り、なおかつ
「よろしく頼むよ。でも僕の正体は伝えないでおくれよ?」
「おー、分かってる分かってる」
つっても勘の鋭いジン達にはすぐバレそうだけど。俺もウェンティと初めて会った時、感じられる気配が人々とまったく違うからって問い詰めたら風神バルバトスってすぐ白状したし。
「それじゃあお互いそれぞれで動くって事で話は終わりでいいかな?なら~……エンジェルズシェアに一緒にお酒を飲みに行こうよ!あっ、キャッツテールの特製カクテルもいいなぁ~」
「昼間っから飲むつもりかよ」
「いいじゃないか、僕はお酒が大好きなんだよ」
それは知ってるし、知りたくなかった。俺の奢りだからって48杯もアカツキワイナリーの酒を飲みやがったこいつの所業は絶対に許さない。1杯だけでもクソ高い酒を水のように飲みやがったんだぞ。
「ただ最近はパフォーマンスがあんまりウケなくてモラが少ないんだ。だからさぁ……」
「奢らねぇぞ」
「え~、アレンはケチだなぁ。前は飲み過ぎたって自分でも反省してるんだよ?」
……絶対してねぇな。ただ確かにウェンティのパフォーマンスが最近客にウケてないのは事実だ。というよりも大体酒絡みだから似たような感じになる事が多いんだよなぁ。つまりウェンティのネタ切れがウケない原因だろう。
「まっ、酒代はコツコツと稼ぐしかねぇな」
「うぅ~……なら君の冒険の話をまたしてよ!それを僕が詩にすれば酒代が稼げるからさ。君の冒険譚は評判がいいからきっとすぐだよ」
「それくらいならいいけどよ」
ウェンティの言う通り、俺の「自由の旅」は評判がいいらしい。前にエンジェルズシェアで詩を披露していた時、大量のモラを帽子に投げ込まれてるのを見た事があるからな。確か前に話したのはナタでの旅の事か。
「なら木に登って話そうよ!上は風が気持ち良くて、僕のお気に入りなんだ」
「へぇ~……んじゃ失礼するぜ、ヴァネッサ」
伝説が残る大木に登るとかヴァネッサ大好きなマージョリーに見つかったら怒られるかもだが、友人であるウェンティに誘われたんだから別にいいだろう。躊躇なく地面を蹴り、幹を蹴り、枝の間を縫うように進んでいった俺は大して時間も掛からず大木の頂上へと顔を出した。
……うん。ウェンティの言った通り、風が気持ちいい。こんなに大きな木、モンド中探してもなかなか見つからねぇからな。風で葉が揺れる音も心地よくて最高と言っても過言ではない。
「どうだい?ここは気持ちいいだろう?」
風元素を利用してフワリと浮かび上がってきたウェンティが俺の隣に降り立つ。尋ねてくる彼に「そうだなぁ」と返しつつ、遥か遠くに見える天空の島を見た。この大樹など足下にも及ばず、璃月の
神の目を持つ原神はあの島に登る資格を持ち、辿り着いた者は神となって世界の守護を任される。実際モンドにはヴァネッサがあの島へと登っていったという伝説があるし、似たような言い伝えはテイワットのあちこちに残されている。
そういえば神になれる話が本当なのかどうかウェンティにも聞いた事があるが、うまくはぐらかされたな。まぁ、俺は神になる気はねぇから別にいいんだけど。
「それで?今回は君のどんな旅の話を聞かせてくれるんだい?」
「そうだなぁ、じゃあ今回は前話したナタでの続きを話すか。俺はあの国で──────」
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤアレン・グンヒルド
ㅤㅤㅤㅤ彼の物語は一度終わりを告げた
ㅤ再び始動した物語もいずれは終止符が打たれる
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤそれが
ㅤ
ㅤㅤㅤㅤㅤ彼の“全て“の物語の終わり
「ぶぇ~くしょんっ!!」
「えっと、大丈夫?」
「おう!ありがとな、助けてくれて!お前が溺れてるオイラを釣り上げてくれなかったら……ううっ、考えるだけでも怖いぞ……」
本来はご飯の為に魚を釣ろうとしたのだが、実際に釣れたのはまったく違うものだった。
「オイラはパイモン!なぁ、お前はなんて言うんだ?」
「
「最高の仲間」との出会い。それはモンドで兄の手掛かりを知る彼と出会う数週間前の事だった。
この話にて一旦物語を区切ります!
次回からはゲームのモンド編に入ります。つまり蛍とパイモンが登場してきます!オリ主紹介を追加しながら執筆していくので投稿日が伸びるかもですが……なるべく早く投稿できるよう頑張ります!