鹿狩りの料理人 作:ガチャ敗者
七つの『元素』が絡み合う広大な幻想世界『テイワット大陸』、その北東部に位置する七国の内の1つ『モンド』は、風神を奉り常に緩やかな風に包まれたのどかな国だった。
そんなモンドの中心にある『モンド城』は、城とは言うものの城主は居らず、自由の都として人々の穏やかな賑わいだけがある。
草花を柔らかく撫でる風、静かに澄み渡る湖、遮る物のない高い空。そんなモンドはしばしば牧歌的と評され、住民達もそれを大いに肯定している。国の特産や有名なものとしてまず酒と詩が挙げられるモンド、否定する要素はどこにもなかった。
──以上は大陸から知られるモンドであり、当然これだけでモンドの全てを語りきった訳では無い。
大陸に知れ渡る、という程では無いがモンドの人間ならば誰もが知っている、所謂「地元の常識」の一つにとある『レストラン』がある。
モンド城正門から入り、中央通りを通って噴水のある広場まで歩く。そこの左手側にあるのが、住民から冒険者、教会のシスターに西風騎士団もお世話になるレストラン『鹿狩り』だ。
毎日日替わりのおすすめメニューが張り出され、店内での食事は勿論、外のカウンターに立つ受付のサラに注文すればテイクアウトも可能。
店先のテーブルで空の下、風を感じながら料理を頂く事もでき、鹿狩りへのオーダーが無くとも腕に自信があれば、誰でも利用していい調理スペースも用意されている。
大量の在庫という程はないが食材の販売も行っており、モンドの人々の食を多角的に支える鹿狩り。
──そんな地域密着型の愛され料理店には、知る人ぞ知る別の名物もあった。
それは、受付の横にある小窓を軽くノックするか、もしくはこの店に来店する事で話せる、とある人物。
「……ん?この声」
外のカウンターから聞こえる話し声に反応し、髪留めを外し小窓を開けて顔を覗かせる男。城の中を流れる風に少し長めの黒い前髪を揺らされながら、黒の瞳を受付へと向ける。
そして、丁度注文を終えたらしい最近常連になった異国の装いの少女と、その傍で漂うマスコットに声を掛けた。
「や、おはよう。旅人にパイモン。遠出の準備か?危険な旅路なら無事祈願でリクエストの一品付けるぜ?」
「ミラー、ホントか!おい旅人、何にする!?オイラは『漁師トースト』の気分だ!」
「悪いねミラー、うーん……じゃあ『満足サラダ』で」
「あちょっと、また勝手に!」
「はは、別にいいだろ?いつも通り俺の持ってる食材から使うだけだからさ。漁師トーストと満足サラダな、了解ちょい待ってな」
サラのお叱りを受ける前に小窓を閉め、髪留めを付け直して、店の物とは別の『個人食料庫』から食材を取るミラーと呼ばれた男。
この男が、鹿狩りの料理人にして話好き、勝手にオマケを付けてよくサラから小言を貰っている『お節介のミラー』だ。
「よう、お待たせ。こっちがオーダーのテイクアウトで、こっちがリクエストな」
来客の注文を受けた際、テイクアウト品をスムーズに受け渡す為に、外のカウンターと店内のキッチンはその場で物をやり取りできる小さな受け取り口がある。
だからミラーが直接品物を持って外へ出て来る必要は無いのだが、そこは話好きのミラー。さほど忙しくない時は自ら料理を手渡していた。
「おおー!サンキューミラー!いい匂い……うぅ、もう食べたくなってきたぞ」
「さっき朝ごはん食べたばっかりだよ……ありがとう」
「モンドを救ってくれた英雄達にはこれくらい何でもないって。んで、今日はどこに?」
「望風山地かな。何回かに分けて探索するつもり」
上機嫌でふよふよと飛び回るパイモンと、ミラーの渡した料理をバッグに収める旅人。そんな二人に対して、ミラーは少し考え込むような素振りを見せる。
「望風山地か……確か中々に険しい地形だったな。ああー、だったらスタミナ付くモンの方が良かったか……」
若干後悔の念を滲ませ、惜しそうに零すミラー。望風山地は標高が高い上に切り立った崖などの地形が多く、登攀や
それ故に、動き回れる体力の付くような物を渡せばその助けになると思ったのだが、流石に今から用意すると少し時間が掛かるし、何よりサラの視線が今なお痛いくらいに刺さっていた。
「まぁなんだ、そういう事ならまた向かう時に声を掛けてくれ」
「うん。……あ、そうだ!確かここに……」
そこで、何か思い出したように旅人は先程閉じたばかりのバッグをまた漁り出す。その様子にパイモンもつられて「ああ!いっけね、忘れるところだったな!」と旅人と一緒に何かを探し始めた。
ミラーが疑問符を浮かべる中で2人が取り出したのは、魚肉やカニなどの海鮮食材。それを旅人とパイモンは流れ作業で続々とミラーに手渡す。
「いつも貰ってばかりは気が引けるし、他の人の依頼の時に捕りすぎた食材だからよければ使って?鮮度は問題ないはずだよ」
「へへ、オイラも集めるのを手伝ったぞ!」
「二人とも……そっか、なら遠慮なく受け取らせてもらうわ!丁度俺の食料庫の底が見え始めてたから、ありがとな!」
鹿狩りは清泉町の猟師と業務提携を結んでいる為、普通に店で出す分には何の問題も無い。だがミラーのオマケとなると、ミラー自身が集めた食材を使うので定期的に採りに行く必要があった。
これくらいは当然と言わんばかりに涼しい顔をしている旅人と、胸を張って誇らしげなパイモン。そんな二人の善意に屈託の無い笑みで返し、ミラーは正門の方へ向かう背中を見送る。
「それじゃあね」
「またな、ミラー!」
「おう、気ぃ付けてな!」
これはそんな『お節介のミラー』と、モンドの人達との些細な一幕。
小窓うんぬんはオリ設定です。よろしこ。
書いてる人間は料理まっっったくできないけどな!
ガハハ!
ところで旅人の名前は蛍ちゃん表記の方がいい?