鹿狩りの料理人   作:ガチャ敗者

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案の定めちゃ時間掛かった……。




銀鏡と刻晴③

 出会ってからの生活を振り返る2人は、自由の都の開け放たれた正門を抜けて、一度足を止める。

 

「さて到着っと……刻晴はモンド城初めてか?」

 

「いいえ、ここにはさっき来たわ」

 

「え、マジで」

 

「実を言うと、鹿狩りにも行ったのよ」

 

「鹿狩り!?そ、そこまで俺の事知ってるのな……」

 

 モンド城に着いた2人は思い出話を切り上げ、中央の通りを歩きながら現在の認識をすり合わせていく。そもそもなぜ刻晴はミラーがモンドに居ると突き止めたのか、その彼がモンド城のレストランに勤めている事まで知っているのか。

 

 それらの疑問に、刻晴は「確証があった訳では無いけど」と前置きをしてから答え始めた。

 

「まず銀鏡……あっ、ここではミラーかしら」

 

「そう、だな。それで頼むよ」

 

「うん、えっとじゃあミラーね。ミラーが消えてからの一年、正直に言うと手掛かりはまったく掴めなかったわ。許す限りの時間と手段を使って璃月を探し回ったけど、本当に何も無かった」

 

「───そっか」

 

「貴方がモンドに居るかもと思ったのは、一週間前にたまたま立ち寄った望舒旅館で旅行客から気になった話を聞いたからよ」

 

「気になった話?」

 

 

 

 

 

『ここの料理もいいけど、一年くらい前からモンド城のレストランがめちゃくちゃ美味くてさ』

 

『鹿狩りだろ?知ってるよ、味付けが最適解っていうか』

 

『そう!随分若いシェフだから、正直最初は大丈夫かコイツって思ったよ』

 

 

 

 

 

「あぁ、なるほど……」

 

 刻晴の話を聞き終え、ミラーは何から何まで腑に落ちた。彼は()()()()()()()()()()()と、ある女性の顔を思い浮かべる。『璃月七星の天権ともあろう人間』が、まさか簡単に契約を反故にしたりはしないだろうと思っていたが、そういうカラクリであれば納得だ。

 

 璃月に銀鏡という人間の痕跡を残さない。それが彼女と結んだ契約なのだから。

 

「急いで仕事を片付けてようやく今日、馬車でモンドまで来れたの。でも肝心の鹿狩りに貴方は居ないし、スタッフが教えてくれた奔狼領の地名だけを頼りに探し回るはめになったわ」

 

 腕を組んでジト目で不満を露わにする刻晴に、ミラーは自分のタイミングの悪さを呪った。彼女が本気で怒っているわけでは無いのは分かるが、朝から鹿狩りに居ればもっと早くに再会できていたはず。

 

 であれば、彼の割と本気の謝罪とまぁまぁガチな凹みにも頷けるだろう。

 

「それはほんとにすまん……随分走らせたみたいだ。俺がググプラム切らしてなかったらなぁ……」

 

 自分の想定以上のダメージを受けたミラーに、刻晴は慌ててフォローを入れる。

 

「そ、そんなに落ち込ませる気は無いけど!?大丈夫、見つけるのにあまり時間は掛からなかったから!」

 

「おう……なんにせよ悪かった。えっと、じゃあ次は刻晴の番か」

 

「コホン。そうね、覚悟はできてる?」

 

 ミラーの疑問はひとまず解消された、ならば次は刻晴の疑問を晴らすべきだ。それはつまり、『なぜ別れも告げず消えたのか』。

 

 覚悟を問われたミラーはと言うと、腹はとっくに括っており回答に支障はない。どうしても若干苦い顔はしてしまうが、それでも記憶の引き出しに手を掛けて1年前の出来事を思い出す。

 

 ミラーが刻晴に黙って璃月を去った理由、「あまり使いたくない人脈」まで使って姿を消したのは、そうする必要があると思ったから。

 

 広場に着いた2人はどちらが言い出すわけでもなく、噴水の縁に腰を落ち着けた。

 

「先に言っとくけど、別に面白い話でもないからな。それと話し終わってから怒んないでくれよ?」

 

「私は何があったかを聞ければそれでいいわ。後者は……正直確約しかねるから、まぁ善処しましょう」

 

「うっ……分かったよ」

 

 短い呻きを零しつつも刻晴の言葉に了解の意を示したミラーは、静かに一息を吐いてから語り出す。今でも鮮明に浮かんでくるあの日の情景、何の変哲もない一日のはずだった。いつも通りに刻晴を見送って、自分は万民堂の手伝いへ。

 

 来客にも顔馴染みが何人かできて、たまに雑談を挟みながらも卯さんに言われて注文の品を作り上げる。そんな何てことない日常の一コマは、ある人物の来店で捻じ曲げられた。

 

 

 

 

 

『いやぁ、最近噂になってたけど本当に美味かった……来てよかったよ。まさかナイフとフォークも用意してくれるなんて、君は気が利くね。これは故郷(スネージナヤ)の慣習に従って“チップ”を渡さないと』

 

 そう言って握らされたのは、()()()()()()()()()()()()()()。不意をつかれ、動揺のあまり一瞬固まったのをよそに、目の前の客(タルタリヤ)は淡々と言葉を続ける。

 

『ふと見かけたときに歩き方が気になってね、実力者だっていうのはすぐ分かったんだ。個人的に色々と調べさせてもらったよ、宝盗団の銀鏡君……いや、今は璃月七星の側仕えかな?』

 

『……俺に何の用だ』

 

『あはは!まぁそう殺気立たないでよ。言葉にすれば大した話じゃないんだけど……俺は君を勧誘しに来た。ファデュイの仕事に興味は無いかい?』

 

 

 

〜数分後〜

 

 

 

「──と、まぁ大体はこんな感じだな」

 

 ミラーは事の顛末をおおまかに話して、知らない内に入ってしまっていた肩の力を抜いた。

 

 ざっくりと言ってしまえば、ミラーはファデュイの執行官『公子』に目を付けられ、面倒事が刻晴へ飛び火する前に銀鏡という存在を消したのだ。

 

 ここで彼女に話したのは「公子に身元がバレて勧誘された」ということと、「色々あってその彼にいたく気に入られてしまったから逃げた」ということ。

 

 これで質問の答えにはなるはずだ、と恐る恐る反応を窺うミラーは、まるで刑の執行を待つ死刑囚のような気分だった。

 

「なるほど、そんな事があったのね」

 

「……怒ってない?」

 

 存外穏やかな刻晴の声色に、ミラーは僅かな希望の光を見出す。目を閉じてミラーの話を咀嚼する彼女は、少しして困ったようにため息をひとつ。

 

「はぁ……思うところが無い訳じゃないけど、今は納得しておくわ」

 

「おぉ!」

 

「それにしても公子ね」

 

「ちょ待って不穏」

 

刻晴が怒っているかいないかと言えば、ブチ切れだった。露骨に態度に出さないにしても、真っ直ぐな瞳の奥には怒りの熱がチラチラと見え隠れしており、ミラーは安心から一転して彼女をなだめにかかる。

 

だがいくら声を掛けても、危うく見惚れそうになる晴れやかな笑顔で「事情は分かったわ」「嫌な事を思い出させたわね」と優しい言葉が出るばかり。

 

「お、俺は大丈夫だぞ?な?くれぐれも変な気起こさないでくれよ?」

 

「ふふふふふ……勿論。ただちょっとオハナシするだけだから、貴方が心配することは何もないのよ」

 

「目が怖い!」

 

 不穏な空気を纏う刻晴の隣で段々肌が痺れてきたミラーは、彼女の怒りを誤魔化すべく頭を回し、ある一つの提案を持ち掛けた。

 

「そ、そうだ!折角だし、今から俺がこのモンド城を案内しよう!」

 

「案内?」

 

「おう、どうだ?あんまり興味ないか?」

 

「ふむ……いいわね、お願いできる?貴方が過ごした場所を私に教えて」

 

「お任せあれ!」

 

 刻晴を怒りから逸らすというその試みは功を奏し、彼女は立ち上がるとスカートをはたいて塵を払う。それに倣いミラーも腰を上げ、脳内で案内先を順序立ててピックアップした。

 

 まず挙げたのは、目線の先にある『鹿狩り』だ。

 

「よし、それじゃあ行こうぜ」

 

 

 

 

 

 店先に来店している客は見えないので、受付の前でサラも含めて簡単に紹介するミラー。

 

「改めてになるけど、ここがモンドのレストラン鹿狩り。俺の勤め先でもあるな」

 

「スタッフのあなたにはお礼を言わないとね、さっきは奔狼領の事を教えてくれてありがとう。名前は?」

 

「い、いえいえ!無事に会えたようでなによりです。私はスタッフのサラと申します……ところで2人はどういったご関係で?」

 

「サラね、私は刻晴よ。関係は……むぅ、言葉にするのは難しいわね」

 

「そうだな、しっくりくる言葉が見つかんねー」

 

「あ、なら大丈夫です、はい!(誰この美人さん!ミラー、明日色々聞かせてよ!?)」

 

 事情の説明を目で訴えかけるサラに、アイコンタクトで了承するミラーは、刻晴を連れて次の目的地である『西風騎士団』へと向かう。

 

 

 

 

 その道中で、全速で路地を駆けるアンバーと遭遇した。

 

「あれ、アンバー?よっす」

 

「わっとと!?あ、ミラー!こんにちは、良い天気だね!」

 

 ミラーに気付いていなかったのか、名前を呼ぶと急ブレーキの後に元気いっぱいの笑みで挨拶を返してくれるアンバー。

 

「そんなに急いでどうしたんだ?」

 

「実は、図書室で借りられてる本が返却されてなくて……リサさんに代わって私が回収に行くことになったの」

 

「あぁ~、使い走りか。手伝えたらよかったんだが……」

 

「ううん気にしないで!お客さんを連れてるんでしょ?」

 

 そう言ってアンバーは刻晴の方を向き、西風騎士団の敬礼を見せる。

 

「初めまして、私は西風騎士団の偵察騎士アンバーだよ。見かけない人だけど、どこから何をしに来たの?」

 

「初めまして、璃月から来た刻晴よ。私は……そうね、旅行客とでも思ってくれればいいわ」

 

「旅行……えーっとこういう時は、そうだ!風神のご加護があらんことを、尊敬できる旅人さん!」

 

 少々ぎこちないアンバーの様子に「騎士団ガイド通りだ……」とミラーは内心で少しだけ苦笑した。

 

「ごめん、そろそろ行くね!ミラーと話してるとこをリサさんに見られたら……雷が落ちちゃうよ~!」

 

「こっちこそ引き留めて悪かった、またなアンバー」

 

「うん、鹿狩りでね!」

 

 そう言って走り去っていくアンバーの後ろ姿に、刻晴は「元気な子だったわね」と眩しそうに微笑む。その言葉に同調しつつ、ミラーは刻晴と一緒に、今度こそ西風騎士団へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 西風騎士団の前に到着し、口頭で簡単な説明をしているところに、示し合わせたようなタイミングでガイアが現れた。

 

 その一瞬でミラーは顔から血の気が引くものの、誰にも気づかれないうちに即座に平静を装う。「この人にだけはネタを提供してはいけない」と自分の中で鳴り響く警鐘。

 

 ガイアに恨みは無い、ただ今だけは興味を持たれないように、最大限つまらない会話で何としても躱しきらねばならないのだ。

 

「あ、ガイアさん。こんにちは」

 

「うん?おぉ、ミラーじゃないか」

 

「えぇ、ミラーですよ。お出掛けですか」

 

「そのつもりだったんだが、少し予定が変わってな」

 

「それはまぁ、大変ですね」

 

「ははは、そうでもないぜ?噴水広場でえらい美人とイチャついてる鹿狩りの料理人を見に行こうとしてただけだからな

 

「耳が早いんだよいつもさぁぁぁ!」

 

 ミラーはやけくそに叫び、全てを諦めた。気恥ずかしさが半分、この人に知られてしまった恐ろしさが半分で、口から魂が出かけたところを、刻晴の心配そうな声色でなんとか踏みとどまる。

 

「ミ、ミラー?どうしたの?」

 

「ごめん、何でもないよ刻晴……ただこの人に隠し事はあんまり意味が無いかもしれない」

 

「おいおい、俺を何だと思ってるんだ?しかしミラー、お前さん中々やるな」

 

「……何がですか」

 

「美人を連れてるとは聞いたが、まさか璃月のお偉いさんと繋がってるとは、流石の俺も驚いたぜ」

 

「もうそこまで知っ……いや、調べましたね?」

 

「さぁ、どうだろうな?」

 

「あら、なら話が早いわ。璃月七星の刻晴よ」

 

「これはこれは。ご丁寧にどうも、西風騎士団のガイアと申します」

 

「敬語は必要ないわ、今日は私用でここを訪れただけだもの」

 

「へぇ、そいつは助かるな。堅苦しいのは苦手なんだ」

 

 それからガイアと刻晴は少し立ち話をし、その間ミラーは妙に居心地の悪い時間を過ごすことになる。その原因は、2人がそれぞれ「銀鏡(ミラー)」を話題に据えたからだろう。

 

 構図はまるっきり三者面談のそれだった。

 

(……めちゃくちゃ居づらいんだけど)

 

 それから行く先々で、ミラーは刻晴を紹介する。

 

 

 

 

 

 ガイアと別れたミラーと刻晴は、そのまま西風騎士団に足を踏み入れ図書館の扉を開ける。

 

「ここはモンドで一番の図書館だ。小説は勿論、児童書から専門書まで幅広く揃ってるぞ」

 

「ミラー君?珍しいわね」

 

「リサさん、こんにちは。今日はモンドの案内として寄らせてもらいました」

 

「そう……ゆっくりはしていけそうにないみたいね、残念」

 

「はは、また雨の日には転がり込ませてもらいますよ」

 

 そこでリサと談笑し。

 

 

 

 

 

 西風騎士団を後にした2人は、今度はノエルと遭遇した。

 

「ようノエル、また人助けか?」

 

「ミラーさん、ご無沙汰しております。またと言う程ではありませんよ、少し洗濯のお手伝いをしただけですから」

 

「……へぇ、その前は?」

 

「前、ですか?えっと、逃げてしまった猫の捜索を……」

 

「その前」

 

「さらに前、おつかいの代理を少々……」

 

「やっぱりか、誰かに甘えるのも時には……ぅ、いや何でもない。あんま無理しないようにな」

 

「あっ……その、はい。ありがとうございます」

 

 久しぶりに会ったノエルと立ち話をし。

 

 

 

 

 

 西風教会の中を一周しているところに、バーバラが声を掛けてくれた。

 

「風神バルバトスの信仰が集まる場所、それがこの西風教会だ」

 

「あれ、ミラー!?珍しいね、礼拝に来たの?」

 

「よっすバーバラ、今はモンドの案内をしてるんだ」

 

「なぁ~んだ、そういうこと。って、すごい綺麗なひと……え、誰だれ!?」

 

「……?あ、あぁ私?旅行客の刻晴よ。そういうあなたはとても可愛いわね、ここの牧師さんかしら」

 

「うん、私は祈祷牧師のバーバラ!よろしくね、刻晴さん」

 

「えぇ、よろしく……」

 

(ん、何だ?さっきからやけにこっちを見てくるな)

 

 ミラーは時折刻晴からの視線を感じながら、バーバラと雑談した後に教会を後にする。ふと視線を上にやれば空は段々と茜に染まり、太陽が今日の勤めを終えるべく沈んでいくのが見えた。

 

 その太陽に倣い、外に居た人たちも各々が帰宅する中で、ミラーは刻晴に対してある疑問が浮かんだ。

 

「そういえば、時間は大丈夫なのか?」

 

「私もその話をしようと思ったところよ。そうね、そろそろ帰らないといけないわ」

 

「……そっか」

 

 ミラーは「それもそうだろうな」と思う。仕事に忙殺される日々が常である彼女が、綿密な計画もなく隣国を訪れるなんて、それだけで相当な無茶。長期滞在なんてもってのほかで、寧ろ半日も居られたのが信じられない。

 

「ねぇ、最後に見てみたいところがあるんだけど」

 

「え?あ、あぁ……勿論案内するぞ。どこだ?」

 

 別れを目の前にして、風の冷たさをやけに強く実感するミラー。冷え込む胸の内を悟られないように、刻晴の切り出した願いに乗るかたちで意識を切り替える。

 

 とはいえ、まさか今から城外に出るというのは考えにくい。彼は頭の中でめぼしい場所を数か所浮かべるが、刻晴の言葉はそのどれもを裏切るものだった。

 

「貴方の住んでる場所よ」

 

「──なるほどね、ならこっちだ」

 




書いては消しを繰り返した結果、別れの理由は触れるだけに留めました。タルタリヤ回で色々描写する事にしたので。

公子さんクソかっこよくて好きだから、ヘイトキャラにはしません(鋼の意志)。タルタリヤ兄貴の伝説任務見て、嫌な奴にするとか無理なんだよなぁ。

今回は繋ぎの話的な感じで、次話が刻晴編最終話。そして糖分注意報発令。

次回更新は1週間以内の予定です。
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