鹿狩りの料理人   作:ガチャ敗者

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一応気を付けてはいるものの、公式と矛盾があったらサーセン。


アンバー

 鹿狩りはレストランだ。客は食欲を満たすために来るし、従業員はその要望に応えるため働かなければならない。そしてその要望と労働には、頻繁な時間帯というものがある。

 

 何が言いたいのかと言うと、昼の注文ラッシュを捌ききったミラーは現在、とても疲れていた。

 

「ふぅ……今日の昼はかなり忙しかったな」

 

 時計に目をやれば、文字盤の針は昼休憩の時間を無慈悲にも置き去り、知らん顔でカチコチと進み続ける。しかしこのまま働き続けるというのは無理がある、時計が休み知らずなのは結構だが、人間には適度な休息が必要なのだ。

 

「サラに相談して少し休むかね」

 

 その旨をキッチンからサラに伝えると、快く了承して貰えた為、ミラーは自分の昼食作りに取り掛かる事にした。従業員の休憩用であれば、店の食料庫からある程度の食材を使っても問題無い。

 

 頭の中で食材の残りを整理しつつ、メニューを組み立てるミラー。だがその思考は、軽いノックの音で一旦打ち止めとなる。小窓越しに見えるのは『赤いリボンがトレードマークの見知った少女』、誰が来たかはすぐに分かった。

 

「ほいほい、ようアンバー。昼飯か?」

 

「こんにちはミラー!うん、でも今大丈夫?ちょっと遅くなっちゃって……」

 

「ああ。ただ俺も今から飯にしようと思っててさ、一緒に作ってもいいか?急いでるなら先に渡すけど」

 

「そうなんだ!全然急いでないよ!」

 

 顔の前でわたわた手を振り、全力で「急いでいない」とアピールするアンバーにミラーは「それなら」と切り出す。

 

「なら、そのまま同席しても?久々に少し話そうぜ、アンバー」

 

 西風騎士団で唯一となった偵察騎士であるアンバーは、前までよく足を運んでくれていたが、最近は旅人と行動を共にする事が多かったようで顔を出してくれる事が少なかった為、ミラーとしても嬉しい来店だった。

 

 アンバーはそんなミラーの提案にコクコクと頷き、『にんじんとお肉のハニーソテー』をオーダーする。

 

「よし任せろ、席は……あー」

 

 ミラーは店内を見回し、ふとある事を思い出した。アンバーは鹿狩りに来た時、いつも店先のテーブルで食べていたな、と。

 

 先程小窓を開けた時に入ってきた風に湿り気は無く、高く青い空は雲ひとつない快晴。今日がオフならピクニックにでも行きたくなる程、絶好の外出日和と言えた。

 

「いつも外で食べてたよな、俺もそれに倣うかね。先に席で待っててくれ」

 

「分かった、じゃあよろしくね!」

 

 上機嫌で席の方へ歩くアンバーをあまり待たせないよう、ミラーは早速調理に取り掛かる。オーダーはにんじんとお肉のハニーソテーのみだが、それだけというのも少し寂しいかと思い、独断でもう一品ミラーの食料庫であまり日が持たず余っている食材を使わせてもらうことにした。

 

 

 

「お待たせいたしました、っと」

 

 少しして、二人分の『にんじんとお肉のハニーソテー』を店先のテーブルに並べる。ミラーがアンバーの対面の席に着くと、彼女が「待ってました」と言わんばかりに目を輝かせているのが分かった。

 

「ありがとうミラー!それじゃあ、いただきます!」

 

「あいよ。さていただきますと……」

 

 まずは一口、食べたタイミングは同時でも、その反応は対極的。アンバーは「ん〜〜〜っ、美味しい!」と感動を露わにする一方で、ミラーは「うん……うん」と頷くのみ。

 

「あれ、どうしたの?出来上がりに納得いかない?」

 

「ん……いや、作った通りの味だと思って。まぁ当然だわな」

 

「えぇー?それって何だかこう……寂しい気がする」

 

 ミラーが自分の料理に対して淡白な事に、アンバーはどうにも納得がいかないようで、若干肩を落としてしまう。だが、同席している人間が浮かない顔をしているのを放っておくミラーではない。

 

「そうかね?まぁ俺は客が美味いって言ってくれたらそれで満足だから、そんな顔しないでくれよ」

 

「ミラー……」

 

 これはミラーにとって紛れもない本心だった。今までにない食材の使い道を思いついたり、新たなメニューを開発したり、楽しさや達成感を得られる瞬間は幾つかある。

 

 だが料理人として一番満たされるのは、やはり自分の料理を「美味しい」と言ってくれる事。それ故に、これ以上アンバーが気に病むのは望むところでは無かった。

 

「……うん、分かった。ならミラーが自分を褒めない分、私が倍褒めてあげる!」

 

「や、やめんか恥ずかしい!いいよもう言ってくれたから!そうだ、さっき言ってた通り今日はやけに遅い昼飯だけど、まだ忙しいのか?」

 

小っ恥ずかしい褒め殺しを回避すべく、ミラーは苦し紛れに話題の転換を図る。その試みは功を奏し、アンバーは「あ、そうそう!」と思い出したように最近あった出来事なんかを語り出した。

 

 その顔はアンバーらしい、いきいきとした溌剌なもので、ミラーは安堵しつつ暫し彼女の冒険譚を楽しんだ。

 

 

 

「へぇ、そんな事が……っと。もうこんな時間か、早いな」

 

「え?あ、ホントだ!」

 

 時計を見ると、ミラーはそろそろ仕事に戻らねばならない時間になっていた。名残惜しさはあるものの先に席を立つ彼は、同じく腰を上げるアンバーに「待った」をかける。

 

「ちょっと座って待っててくれ、すぐ戻るから」

 

「ミラー?うん、それはいいけど……」

 

「悪いな」

 

 それだけ言ってミラーは一人足早にキッチンへ。そして『用意していたある物』を取り出し、またアンバーの元へと戻ると取ってきた物をテーブルに置いた。

 

「ほい、オマケのプリン。最近メニューに加えようかと思って練習しててさ、舌に自信のあるアンバーの意見が欲しい」

 

「えっ、いいよそんな、貰えないよ!ちゃんと払うから!」

 

「ん〜、面白い話を聞かせてもらった礼を兼ねて……って事で。頼むよ、お前の感想が必要なんだ」

 

 アンバーはミラーと短くない付き合いであり、こういう時に彼が引かないのは重々承知していた。それに意見を欲しているというのも、嘘では無いのが顔を見ればすぐに分かる。

 

「もう……分かった、分かったよー!ありがとう、じゃあいただきます!」

 

 観念してスプーンを手に取るアンバー、「いざ実食」と意識を切り替えてみると途端に目の前のプリンが輝いて見え始める。ジンの淹れたコーヒーの良さが分かるとはいえ、アンバーもお年頃の少女。城内の人々が太鼓判を押す料理人の試作スイーツは、乙女の心を躍らせるには十分な一品だろう。

 

 スライムのように揺れる黄金色に目掛けてスプーンをそっと突き立てると、僅かな弾力感が抵抗として感じ取れた。1口分を掬い、口へと運べば想像以上のなめらかさが舌の上で甘く溶ける。

 

「……お、おいしい〜〜!これは人気メニュー間違い無し、絶対名物になるよ!」

 

「ふぅ、そりゃ良かった。もうちょっと冷やす時間が欲しかったんだけど、中途半端な出来は回避してるみたいだ」

 

「ホントに絶品だよ、ねぇミラーも食べてみて!はい!」

 

 またも反応の温度差を感じたのか、プリンを掬いミラーの方へ向けるアンバー。彼を見上げる双眸はいつにも増して煌めいており、そんな目で見られては断ろうにも断れない。

 

 これがせめて店内であれば周りの目を気にしなくて済むが、今2人が居るのは中央通りに面した屋外席。誰に見られるか分かったものではないだろう。

 

 しかしアンバーの純粋無垢な提案を拒む術を持たない以上、ミラーが出来ることは早いところ頂いてしまうのみだった。少々気恥しくあるが、腰を屈め黙って口を開ける。

 

「はい、あーん……どう?って言っても私が作ったんじゃないけどさ!」

 

「うん……良いんじゃねーの多分」

 

「もう、自分のことになると途端に素直じゃなくなるんだから」

 

「別にそんなこと……いや、うん、まぁいいや」

 

 正直今回ばかりは味に気を回す余裕が無かっただけだったが、アンバーがあまりにも平気に振る舞うのでミラーもささやかな意地を張る。

 

「そろそろ戻るわ、付き合ってくれてサンキュ。アンバーはゆっくりしてってくれよ」

 

 ポケットから髪留めを出しながら、最後にポンとアンバーの頭を撫でさせてもらうミラー。意趣返しにもならないだろうが、自分ばかりペースを乱されるのも少し悔しいので気持ちだけの反撃を残して店に戻る。

 

「さてと……元気も分けてもらった事だし、続きを頑張りますかね」

 

 そんなアンバーとの一幕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……うぅ、何とか勢いに任せて″あーん″なんてしちゃったけど、全然効いてなさそうだったなぁ)

 

(それどころかとんだ反撃を喰らったよ、すぐ行ってくれたから顔を見られなくてよかった……)

 

(ところで、このスプーンは使っていいのかな。いいよね、だってプリンの為に貰ったんだもん!でもでもこれってもしかしなくても間接……!)

 




次回はガイア
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